新選組中心CPなし
丸い月がちょうど真上にあるくらいの時刻。
「ほりかわ~!」
酔った大和守が堀川の肩を掴み引き寄せる。苦笑いしながらも大和守を引き剥がそうとせず、ただその手に持っている酒の入ったコップだけを奪うようにして取ると、安全な机の上に避難させる。
政府から依頼されていた長期任務が無事終わり、その祝いとして今夜宴が開かれたのである。
酒はいつものように次郎太刀が勝手に万屋に注文し、さまざまな種類の瓶や樽が机の上に鎮座していた。
最初は互いを労うように楽しく料理と酒を摘まんでいたが、そのうち誰かが歌い出し、それに誰かが合わせて躍りだし、てんやわんやの宴会会場と化した。
堀川達は食堂の隅で幕末の刀で集まってちびちびと酒を飲んでいたが、周りの熱に当てられたらしい和泉守と陸奥守が肩を組んで歌い出すと大和守がヤジを飛ばし始めた。
「まだそんなに飲んでないと思うけど……」
机に並べられた瓶を振りながら加州が呆れたように三人を見る。特別彼らが酒に弱いわけではないはずだが、宴会の空気に呑まれたのだろう。肩を竦めると、とくとくと自分の杯に酒をつぐ。
「堀川は次どれ飲む?
って、安定がへばりついてたら飲めないか」
「僕はいいよ。ちょっと休憩」
堀川に抱きつく大和守を引き剥がそうと膝を浮かした加州を堀川は止めると、にこにこと笑いながら肩に額を押し付ける大和守の髪を優しく撫でる。撫でられた髪が気持ちよかったのかむふふと言いながら大和守が嬉しそうに頬を摺り寄せる。
ふやけた大和守を見ながらやはり止められても無理やり引きはがすべきかと苛立ちを覚えるが、堀川がこの肴美味しいよと小皿を差し出されると加州はその場に大人しく座り直した。大和守とは昔から馴染みであるがこうして甘える相手は今も昔も変わらず堀川に対してのみである。まぁ、酔った勢いで加州に抱き着くこともあるが、抱き着いた相手が加州だとわかると顔全体でこいつかと物申してくる。後々の始末を考えると美味しい酒も不味くなる。
「あんまりそいつ甘やかさないでよー。ただでさえ絡み酒で面倒くさいヤツなんだから」
「清光が僕のことを悪く言う~」
「はいはい。清光くん、安定くんは兼さんと一緒に僕が面倒見るから大丈夫だよ。
安定くんは眠くなったら言ってね。部屋まで送ってくから」
「だーかーらー、それが甘やかしてるって言うの」
加州が頬を膨らませると堀川がその頬をつんつんとつつく。堀川もほろ酔いしてるのかそことなく頬が赤い。
「ふふ、いいじゃない。
みんな仕事でいっぱい頑張ってきたんだから今日くらい、ね?
なんなら清光くんも甘える?」
ことりと首を傾げる堀川の右肩はまだ空いている。そう言われると加州も甘えたくなってしまう。主に愛してほしいと口癖のように言うが、身内とも呼べる脇差に甘えていいよと言われればそれはまた別口だ。一瞬悩んだ末にその肩に頭を押し付けるとよしよしとその頭を撫でられる。
「うぅ……堀川大好き……」
「国広、でかい子どもが二人……いや三人いるな」
「曽根さんも仲間に入ります?」
「いや、俺はいい」
向かいの席に座る長曽祢は首を横に振り、ちらりと隣の机の席を見る。その視線の先には真作の虎徹が冷ややかな目で長曽祢の方を見ていた。確かにあの視線で見られたら頷きたくとも頷けまい。ぐいっと杯を呷ると酒瓶からまた酒を注ぐ。
「昔から感心してはいたが、安定も清光も国広には素直に甘えるな」
「まぁ、これでも新選組の中では年長ですからね」
「違いない」
新選組の中でも古株の刀は長曽祢と堀川の二振りだ。それこそ前の主達の仲を思えばこそ、長曽祢の主が亡くなるまでずっと傍にあった。加州と大和守は少し後から入ってきたし、和泉守はさらにその後であるし、本丸の中では最年少に当たる。生きた年数を数えれば、現存する和泉守が一番年上になる可能性もなくはないが。
「俺、堀川に甘やかされんの昔から好きだったよ」
「そう?」
肩に埋めた顔を上げてぽすっと顎を肩に乗せる。さすがにまだ完全に酔ってるわけではないので、恥ずかしいという気持ちはあるけれどなかなかこうして素直に甘える機会はないので、抱き着く手は離さない。
「お団子とかさぁ、いつも俺達に分けてくれてたでしょ。安定と喧嘩したらいつも仲裁してくれたし、悩みも聞いてくれたし、俺のこと可愛いっていつも言ってくれるし。
沖田くんのことが好きなのは勿論だけど、堀川も好きだよ」
「ありがとう、清光くん」
相も変わらず堀川は笑顔のままで、加州はどういたしましてと答えながらへらりと笑う。
堀川は前の主の元、新選組の中でも薄暗い役目を見てきたし、主と共にその身を血に濡らしたことも幾度もある。
恨みと憎しみと後悔と苦しみと。
前の主と共にそれを受けたその身でいつもと同じように笑う姿はどこか無理をしているようにも見えて、その度に加州も大和守も脇差に大丈夫だと言うように甘えるように抱きしめた。少しでも彼の気持ちが軽くなるようにと。
「ああ?なんで国広にひっついてんだよ手前ェら」
ひとしきり歌って気が済んだのか、和泉守はどすとすと足音荒くやってくると大和守と加州とべりべり堀川の肩から引き剥がして、堀川の右隣りに陣取ると座る。
引きはがされた大和守はごろんと反対側に転がるが、そのまますぴーといびきをかいて寝ている。加州は眉を寄せながらも本来は和泉守であった席であるからと一つ横にずれて、本来の自分の席へと戻る。
ん!と上機嫌な和泉守が杯を堀川に差し出すと、はいはいと言いながらそれに酒を注ぐ。
「兼さん、お酒の飲み過ぎは体に毒ですからね。
これでもう最後です」
「なんだよ。せっかくノッてきたところだってのによぉ」
「そうじゃき!酒はまだこじゃんと残っとるしのぅ」
にししと笑いながら陸奥守が新たな酒を手に持ってやってくる。恐らく次郎太刀から貰ってきたのだろう。
「おう、わかってんじゃねーか」
「もう兼さんったら!」
和泉守が陸奥守の持つ酒に伸ばす手を堀川が制止しようと立ち上がる。だが、大和守の羽織に足を取られた陸奥守が倒れかかったせいで、酒は和泉守の手をするりと通り抜けて空を飛んだ。
「あっぶな!」
間一髪。酒は加州が掴むことで事なきを得たが、陸奥守は堀川にぶつかり、そのまま勢いで和泉守まで倒れることとなった。
ドシン!とひと際大きく音がなったのに食堂の皆の注目が倒れた陸奥守の方へ向かう。多くの人が心配そうに眺める中で、呆れるような目線も少なくはない。
「ったくよぉ、俺はまだしもこいつが潰れるところだったじゃねぇか」
「すまんのぉ」
「いえ、僕も不注意だったので……」
陸奥守が慌てて起き上がり頭を下げる中、堀川は和泉守の腕に守られながらも謝る。陸奥守にぶつかった際、和泉守がすぐさま堀川を引き寄せて守ったおかげで押しつぶされることなく済んだのだ。
「兼さん、ありがとう」
「おうよ」
「でも、今日はもうこれ以上は酒飲んじゃ駄目だからね?」
念を押すようにそう言うとわぁったよと和泉守が降参したように両手を上げる。堀川が腕から抜け出すと、先ほどのことで酔いが醒めたらしい和泉守がじゃあ寝るとするかと立ち上がる。
「国広も部屋に戻るだろ?」
「僕は安定くんを部屋まで送ってくから、兼さんは先に部屋に戻ってて」
「安定ァ?」
和泉守は眉を寄せながら床に転がるようにして寝ている大和守を一瞥すると、その体を起こして持ち上げる。むにゃりと何か大和守が呟くが和泉守は気にせず堀川の方を見ると行くぞと言う。
「待ってよ兼さん。お布団用意してあげないと。
じゃあ、曽根さん、清光くんお先に失礼するね」
加州が手を振って堀川を見送ると、ばたばたと先を歩く和泉守を追って走って行く。その仲の良さを肴に杯に残っていた酒をぐいっと飲む。
飲んだ酒の味はとても甘かった。
「ほりかわ~!」
酔った大和守が堀川の肩を掴み引き寄せる。苦笑いしながらも大和守を引き剥がそうとせず、ただその手に持っている酒の入ったコップだけを奪うようにして取ると、安全な机の上に避難させる。
政府から依頼されていた長期任務が無事終わり、その祝いとして今夜宴が開かれたのである。
酒はいつものように次郎太刀が勝手に万屋に注文し、さまざまな種類の瓶や樽が机の上に鎮座していた。
最初は互いを労うように楽しく料理と酒を摘まんでいたが、そのうち誰かが歌い出し、それに誰かが合わせて躍りだし、てんやわんやの宴会会場と化した。
堀川達は食堂の隅で幕末の刀で集まってちびちびと酒を飲んでいたが、周りの熱に当てられたらしい和泉守と陸奥守が肩を組んで歌い出すと大和守がヤジを飛ばし始めた。
「まだそんなに飲んでないと思うけど……」
机に並べられた瓶を振りながら加州が呆れたように三人を見る。特別彼らが酒に弱いわけではないはずだが、宴会の空気に呑まれたのだろう。肩を竦めると、とくとくと自分の杯に酒をつぐ。
「堀川は次どれ飲む?
って、安定がへばりついてたら飲めないか」
「僕はいいよ。ちょっと休憩」
堀川に抱きつく大和守を引き剥がそうと膝を浮かした加州を堀川は止めると、にこにこと笑いながら肩に額を押し付ける大和守の髪を優しく撫でる。撫でられた髪が気持ちよかったのかむふふと言いながら大和守が嬉しそうに頬を摺り寄せる。
ふやけた大和守を見ながらやはり止められても無理やり引きはがすべきかと苛立ちを覚えるが、堀川がこの肴美味しいよと小皿を差し出されると加州はその場に大人しく座り直した。大和守とは昔から馴染みであるがこうして甘える相手は今も昔も変わらず堀川に対してのみである。まぁ、酔った勢いで加州に抱き着くこともあるが、抱き着いた相手が加州だとわかると顔全体でこいつかと物申してくる。後々の始末を考えると美味しい酒も不味くなる。
「あんまりそいつ甘やかさないでよー。ただでさえ絡み酒で面倒くさいヤツなんだから」
「清光が僕のことを悪く言う~」
「はいはい。清光くん、安定くんは兼さんと一緒に僕が面倒見るから大丈夫だよ。
安定くんは眠くなったら言ってね。部屋まで送ってくから」
「だーかーらー、それが甘やかしてるって言うの」
加州が頬を膨らませると堀川がその頬をつんつんとつつく。堀川もほろ酔いしてるのかそことなく頬が赤い。
「ふふ、いいじゃない。
みんな仕事でいっぱい頑張ってきたんだから今日くらい、ね?
なんなら清光くんも甘える?」
ことりと首を傾げる堀川の右肩はまだ空いている。そう言われると加州も甘えたくなってしまう。主に愛してほしいと口癖のように言うが、身内とも呼べる脇差に甘えていいよと言われればそれはまた別口だ。一瞬悩んだ末にその肩に頭を押し付けるとよしよしとその頭を撫でられる。
「うぅ……堀川大好き……」
「国広、でかい子どもが二人……いや三人いるな」
「曽根さんも仲間に入ります?」
「いや、俺はいい」
向かいの席に座る長曽祢は首を横に振り、ちらりと隣の机の席を見る。その視線の先には真作の虎徹が冷ややかな目で長曽祢の方を見ていた。確かにあの視線で見られたら頷きたくとも頷けまい。ぐいっと杯を呷ると酒瓶からまた酒を注ぐ。
「昔から感心してはいたが、安定も清光も国広には素直に甘えるな」
「まぁ、これでも新選組の中では年長ですからね」
「違いない」
新選組の中でも古株の刀は長曽祢と堀川の二振りだ。それこそ前の主達の仲を思えばこそ、長曽祢の主が亡くなるまでずっと傍にあった。加州と大和守は少し後から入ってきたし、和泉守はさらにその後であるし、本丸の中では最年少に当たる。生きた年数を数えれば、現存する和泉守が一番年上になる可能性もなくはないが。
「俺、堀川に甘やかされんの昔から好きだったよ」
「そう?」
肩に埋めた顔を上げてぽすっと顎を肩に乗せる。さすがにまだ完全に酔ってるわけではないので、恥ずかしいという気持ちはあるけれどなかなかこうして素直に甘える機会はないので、抱き着く手は離さない。
「お団子とかさぁ、いつも俺達に分けてくれてたでしょ。安定と喧嘩したらいつも仲裁してくれたし、悩みも聞いてくれたし、俺のこと可愛いっていつも言ってくれるし。
沖田くんのことが好きなのは勿論だけど、堀川も好きだよ」
「ありがとう、清光くん」
相も変わらず堀川は笑顔のままで、加州はどういたしましてと答えながらへらりと笑う。
堀川は前の主の元、新選組の中でも薄暗い役目を見てきたし、主と共にその身を血に濡らしたことも幾度もある。
恨みと憎しみと後悔と苦しみと。
前の主と共にそれを受けたその身でいつもと同じように笑う姿はどこか無理をしているようにも見えて、その度に加州も大和守も脇差に大丈夫だと言うように甘えるように抱きしめた。少しでも彼の気持ちが軽くなるようにと。
「ああ?なんで国広にひっついてんだよ手前ェら」
ひとしきり歌って気が済んだのか、和泉守はどすとすと足音荒くやってくると大和守と加州とべりべり堀川の肩から引き剥がして、堀川の右隣りに陣取ると座る。
引きはがされた大和守はごろんと反対側に転がるが、そのまますぴーといびきをかいて寝ている。加州は眉を寄せながらも本来は和泉守であった席であるからと一つ横にずれて、本来の自分の席へと戻る。
ん!と上機嫌な和泉守が杯を堀川に差し出すと、はいはいと言いながらそれに酒を注ぐ。
「兼さん、お酒の飲み過ぎは体に毒ですからね。
これでもう最後です」
「なんだよ。せっかくノッてきたところだってのによぉ」
「そうじゃき!酒はまだこじゃんと残っとるしのぅ」
にししと笑いながら陸奥守が新たな酒を手に持ってやってくる。恐らく次郎太刀から貰ってきたのだろう。
「おう、わかってんじゃねーか」
「もう兼さんったら!」
和泉守が陸奥守の持つ酒に伸ばす手を堀川が制止しようと立ち上がる。だが、大和守の羽織に足を取られた陸奥守が倒れかかったせいで、酒は和泉守の手をするりと通り抜けて空を飛んだ。
「あっぶな!」
間一髪。酒は加州が掴むことで事なきを得たが、陸奥守は堀川にぶつかり、そのまま勢いで和泉守まで倒れることとなった。
ドシン!とひと際大きく音がなったのに食堂の皆の注目が倒れた陸奥守の方へ向かう。多くの人が心配そうに眺める中で、呆れるような目線も少なくはない。
「ったくよぉ、俺はまだしもこいつが潰れるところだったじゃねぇか」
「すまんのぉ」
「いえ、僕も不注意だったので……」
陸奥守が慌てて起き上がり頭を下げる中、堀川は和泉守の腕に守られながらも謝る。陸奥守にぶつかった際、和泉守がすぐさま堀川を引き寄せて守ったおかげで押しつぶされることなく済んだのだ。
「兼さん、ありがとう」
「おうよ」
「でも、今日はもうこれ以上は酒飲んじゃ駄目だからね?」
念を押すようにそう言うとわぁったよと和泉守が降参したように両手を上げる。堀川が腕から抜け出すと、先ほどのことで酔いが醒めたらしい和泉守がじゃあ寝るとするかと立ち上がる。
「国広も部屋に戻るだろ?」
「僕は安定くんを部屋まで送ってくから、兼さんは先に部屋に戻ってて」
「安定ァ?」
和泉守は眉を寄せながら床に転がるようにして寝ている大和守を一瞥すると、その体を起こして持ち上げる。むにゃりと何か大和守が呟くが和泉守は気にせず堀川の方を見ると行くぞと言う。
「待ってよ兼さん。お布団用意してあげないと。
じゃあ、曽根さん、清光くんお先に失礼するね」
加州が手を振って堀川を見送ると、ばたばたと先を歩く和泉守を追って走って行く。その仲の良さを肴に杯に残っていた酒をぐいっと飲む。
飲んだ酒の味はとても甘かった。
1/3ページ