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記憶の糸


ー♪ー

両耳に直接流れる、重たい音
叫び、心臓を殴るようなベース。
試聴しているのは、中学生程の少年。
緑色の目をした少年は、
普段耳にすることの無い重い重い音楽に
驚く程惹かれていた。
衝撃を隠せぬ表情のまま、
試聴用ヘッドフォンを静かに外す。
何度も何度も、聴いた曲と手に取ったCDが
間違っていないか確認し、小走りでレジへ。

「……これ、ください」

今日は誕生日なんだ。
これくらいしても良いだろう。
そう思った。


帰宅し、無言で家に上がると母がいた。

「ヘクター、おかえり。何か買ったの?」
「……中古のCD、別にいいだろ」
「そう。お金は大事に使ってね」

まるで「余計な物は買うんじゃない」と
そう言われているように感じた。

「何度も言われなくても分かってる」

そう吐き捨てて、足早に部屋に閉じ籠る。
袋から取り出した買ったばかりのCDは
いくら中古でも輝いて見えた。

「……誕生日なのにオメデトーすら無いよ」

そうボヤいて、CDをプレイヤーにセットした。
流れてくる破壊的な音楽はまるで、
自分の心の不満を砕いていくようだった。

ヘクターの家庭は、貧しかった。
貧しさに苦しくて、夜逃げ同然で
今の場所まで引っ越してきたのだ。
それでも両親共々仕事は順調ではなく
未だに厳しい生活を余儀なくされている。

だから、いつものお小遣いを貯めて
誕生日だけ貰えるいつもより多いお金で
たった1枚のCDを自分のプレゼントにした。

「……こんなふうに、なれたらな」

ジャケットの中の人物は、
長い、長い髪をしていた。
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