記憶の糸
ヘクターからの宣言を受けた家庭は、
余りの衝撃で空気が凍っていた。
「……へ、ヘクター、今なんて言ったんだ?」
「冗談よね、そうよね?」
ヘクターは少し黙ったあと、それを否定した。
「冗談でも嘘でもない。軍に入る」
父は頭を抱え、母は絶句した。
「お金が無かったのは申し訳ないと思っているわ。だけど、そんな、軍に行くだなんて」
「俺は反対だぞヘクター、どういう事か分かっているのか?お前のような……」
言葉に被せ、ヘクターは話をさえぎった。
「試験は通ったし、書類も送った。いい加減束縛するのもガキ扱いするのもやめろ。1人にしてくれ。明日にはもう出ていく」
「お前のような不真面目者が、やって行ける訳ないだろう!」
「そうよ、昔から好きなことばっかり……」
小言の中でヘクターは、無言で立ち上がり
両親へ背中を向け部屋へ戻った。
苛立ちはおよそ、最高潮と言った所だ。
軍に入るのは、1人になるため
高い給料の1部を仕送りに当てるためだった。
「……人の考えも知らずごちゃごちゃと…」
その日、大切なCDと最低限の着替えを持ち
ほぼ身一つでヘクターは深夜家を出た。