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「好きですよ、山下さんのこと」
行きつけの静かな雰囲気のバーで突きつけられた告白は、所属事務所の事務員の子からだった。
「…もしかして、酔ってる?」
訝しげに眉を寄せた彼は、そう言って手に持っていたロックグラスを置いた。
「これくらいで酔わないこと、貴方が一番知っているクセに」
悪戯っぽく笑う彼女の手元には、いつもより弱い度数の可愛らしいデザイングラスに入ったカルーアミルク。
「じゃあ、ドッキリとか?」
手持ち無沙汰に、半分ほど中身の入ったロックグラスの淵を指でなぞりながら彼は問う。
「本気ですよ」
もう一度真っ直ぐに見つめて告げられる。
お酒で微かに上気した頬、照明に照らされる濡れた唇、逃れられないと錯覚する視線。
「こんなおじさん、やめときなって」
そうはぐらかす彼の顔は、少し儚げで寂しそうに見える。
目線は交わらず、口元は無理に吊り上げられ、眉尻は自ずと下がる。
「年齢も見た目も立場も、そんなのどうでもいいんですよ」
心に刺さる言葉が容赦なく襲う。ずっと気付かないフリをしていたオレへの罰なのだろうか。
頬が熱くなるのと同時に、背中が冷えるような感覚に陥る。
「…ホント、何も良い事なんてないよ」
ロックグラスがカランと音を立てる。
それと同時に私は、テーブルに力無く置かれた左手を包むと肩が震えたのが見えた。
「良い事か悪い事かは私が決めます、それに貴方とだったら良い事も悪い事も一緒に乗り越えていけるって…信じていますから」
包まれた左手はさっきまで握りすぎて白く冷たかったのに、彼女の手によって解れていく。
左手から全身へと伝わり、鍵を掛けたはずの胸の奥の熱を呼び起こす。
「きっと離してやれない」
顔は見えないけれど、いつも向けられていた愛おしいアメジストの瞳がそこにある事を、私は知っている。
「絶対に離さないで」
顔は見えないのに、目で追うといつもそこにあった愛おしい笑顔が脳裏に浮かんで離れない。
「…最高の殺し文句だね」
視線が絡み合って融け合い、繋がれた手が雫で濡れる。
それはグラスなのか、それとも閉じ込めていた紫水晶なのかは、揺れる真珠だけが知っている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
後書き
山下次郎は、自分を卑下するあまりに恋心をしまう事に慣れてしまっている気がします。
それを見逃さず、逃げるのを許さないヒロインに本気でぶつかられて、やっと決意を固める。それに対して情けないと思いつつも、自分を支え引っ張ってくれるヒロインに愛おしさを感じる。
そういう実は真面目なクセに変に捻くれた面倒くさい性格をしているのではないか、と思って書きました(`・ω・´)
行きつけの静かな雰囲気のバーで突きつけられた告白は、所属事務所の事務員の子からだった。
「…もしかして、酔ってる?」
訝しげに眉を寄せた彼は、そう言って手に持っていたロックグラスを置いた。
「これくらいで酔わないこと、貴方が一番知っているクセに」
悪戯っぽく笑う彼女の手元には、いつもより弱い度数の可愛らしいデザイングラスに入ったカルーアミルク。
「じゃあ、ドッキリとか?」
手持ち無沙汰に、半分ほど中身の入ったロックグラスの淵を指でなぞりながら彼は問う。
「本気ですよ」
もう一度真っ直ぐに見つめて告げられる。
お酒で微かに上気した頬、照明に照らされる濡れた唇、逃れられないと錯覚する視線。
「こんなおじさん、やめときなって」
そうはぐらかす彼の顔は、少し儚げで寂しそうに見える。
目線は交わらず、口元は無理に吊り上げられ、眉尻は自ずと下がる。
「年齢も見た目も立場も、そんなのどうでもいいんですよ」
心に刺さる言葉が容赦なく襲う。ずっと気付かないフリをしていたオレへの罰なのだろうか。
頬が熱くなるのと同時に、背中が冷えるような感覚に陥る。
「…ホント、何も良い事なんてないよ」
ロックグラスがカランと音を立てる。
それと同時に私は、テーブルに力無く置かれた左手を包むと肩が震えたのが見えた。
「良い事か悪い事かは私が決めます、それに貴方とだったら良い事も悪い事も一緒に乗り越えていけるって…信じていますから」
包まれた左手はさっきまで握りすぎて白く冷たかったのに、彼女の手によって解れていく。
左手から全身へと伝わり、鍵を掛けたはずの胸の奥の熱を呼び起こす。
「きっと離してやれない」
顔は見えないけれど、いつも向けられていた愛おしいアメジストの瞳がそこにある事を、私は知っている。
「絶対に離さないで」
顔は見えないのに、目で追うといつもそこにあった愛おしい笑顔が脳裏に浮かんで離れない。
「…最高の殺し文句だね」
視線が絡み合って融け合い、繋がれた手が雫で濡れる。
それはグラスなのか、それとも閉じ込めていた紫水晶なのかは、揺れる真珠だけが知っている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
後書き
山下次郎は、自分を卑下するあまりに恋心をしまう事に慣れてしまっている気がします。
それを見逃さず、逃げるのを許さないヒロインに本気でぶつかられて、やっと決意を固める。それに対して情けないと思いつつも、自分を支え引っ張ってくれるヒロインに愛おしさを感じる。
そういう実は真面目なクセに変に捻くれた面倒くさい性格をしているのではないか、と思って書きました(`・ω・´)
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