日常の中に潜む波乱
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朝日奈家に来てから2週間、ここでの生活に慣れ始めてきた頃の夕食で私はおもむろに口を開いた。
「そうそう、右京さん」
「はい、何でしょう」
「明日から仕事行ってくるので夕食のお手伝い遅くなるかもしれません」
「…は?」
右京兄さん含め、他のキョーダイ達もポカンとした顔で見つめてくる。
「奈菜ちゃん、いつの間に仕事なんか…」
「え、いやまあ仕事と言ってもパートなんですけど」
「どこなの…?」
「あぁ一般企業ですよ、えっと吉祥寺駅から2駅くらいの…そこの事務のパート」
「この前ジャケット着て出掛けたのって、面接だったんだね」
「そうそう」
要さんや琉生くん、祈織くんの質問に答えていると椿さんが頬を膨らませていた。
「じゃあ奈菜とあんまり遊べなくなるなぁー…」
「椿、子供じゃないんだから…」
「はは…」
毎度のことながら拗ね始める椿さんと、それをあやす梓さん。
それを見て苦笑していると、今度は絵麻ちゃんが声をかけてきた。
「よかったですね奈菜さん!でもお体には気をつけてくださいね」
「ありがとう絵麻ちゃん」
体を気遣ってくれるマイエンジェル絵麻ちゃん…あぁ眩しい。
「夕飯の手伝いに関しては了承します、ですがもう少し体を休めた方が…」
「でももう退院して2週間ですよ?ねえ雅臣さん」
「そうだねぇ…傷も塞がってだいぶ経つし、事務仕事なら大丈夫じゃないかな」
「雅臣兄さんがそう言うのであれば…大丈夫ですかね」
「でも、無理は禁物だよ?」
「はぁい」
雅臣さんがいつも小さい子にやるみたいに、めって少し眉毛を上げて言うものだから少し笑いながら返事をした。
「奈菜」
「梓さん、どうかしました?」
夕飯の片付けも終わり、明日の初勤務に向けて準備をしようと自室のドアに手をかけた時、梓さんに声をかけられた。
「無理してない?」
「え?」
「雅臣兄さんはあぁ言ったけど、もう少し甘えてもいいんだよ」
「…」
あんまり表立って見せたつもりないんだけど、朝日奈の血筋なのかね…本当、人の事よく見てますこと。
「してませんよ」
「そう?」
「えぇ、これっぽっちも……私、やられっぱなしって嫌いなの」
「え?」
「恩を百倍返ししてやるつもりだから…よろしく、オニイチャン」
「!」
ニヒルに微笑んで、手をかけたままの自室のドアを引いて入る。
最後に見たのは、驚いた顔した梓さんだった。…ちょっと調子こいたかな。
「……参ったな」
こんな筈じゃなかったのに、廊下に小さく響いた音は少し熱を帯びて消えた。
「今日からお世話になります……えと、朝日奈奈菜です、よろしくお願いします」
言い慣れない苗字に少し戸惑うが、何とか無事に自己紹介を終えて自分の席へと案内される。
棗さんの働いているというゲーム会社は所謂CA○COMで、そこの事務として雇われた。
先輩のおばさまに仕事内容を教わりながら、少し作業をして今日は上がった。
当たり前だが、棗さんとは会う機会は少ないだろうなぁと思いながら会社を出た時…目の前に見知った背中を見つけた。
「琉生くん?」
「…なぁちゃん?」
「こんなところで何やってるの?」
それは朝日奈家の中でほわほわした独特の雰囲気を持つ彼。
今日は確か仕事ではなかっただろうかと、5階のキッチンに設置されていた予定表を思い出す。
「仕事…早く終わったから、来た」
「来たって……もしかして、迎えに?」
「うん…夜、危ない」
何っていい子なのこの子は!!同い年か本当に!!お姉さんじーーーんってきちゃったよぉぉ!!
「ありがとう琉生くん」
「ううん」
断る理由もないので、そのまま帰路に着くと徐に琉生くんが話し始めた。
「なぁちゃん、何か悩んでる事…ある?」
「え?」
昨日は梓、今日は琉生、続け様に聞かれた同じような質問に私は少し動揺する。
「何も無いけど…何で?」
「…髪、元気ない」
「あー…昨日ヘアオイルサボったからかも?」
「それは…だめ」
「ふふ、ごめんね」
胸の奥底にある悩みとも言えぬどろりとした感情を押し隠すように琉生くんに言うと、雅臣さんと同じ顔でダメ出しされて自然に笑みを浮かべていた。
「…なぁちゃん、家に来てからずっと頑張ってる」
「え?なになに?褒めてくれるの?」
「右京兄さんを手伝って料理もしてるし、それに…お掃除や洗濯も」
「!」
まさか右京さん以外に知られているとは思わなかった。
右京さんが仕事の日は、掃除や洗濯をさせてもらっている。他の人に知られると何人かは邪魔してきそうだし、何人かは自分がやるって言い出しそうだったから。
でも、あまりそういう努力している部分を見せたくなかったから…というのが一番大きい理由かもしれない。
「ありがとう、琉生くんに褒められてすごく元気出た!」
「そう?」
「うん!明日からも頑張れそう!」
「よかった……ねぇ、なぁちゃん」
今度は何だろうと首をかしげて、琉生くんの次の言葉を待つ。
「僕の事、呼び捨てでいいよ…?」
「!」
くん付けが苦手なのがバレたか、と少し気まずそうな顔をしていると琉生くんが言葉を続けた。
「なぁちゃんともっと仲良くなりたい…僕だけじゃなくて、きっと他のみんなも…」
「他のみんなも?」
「うん…だから、なぁちゃんの好きな呼び方でいいと思う」
いくら私が見知った相手でも、彼らからすれば最近知り合ったばかりなわけで。
一気に距離を詰めちゃいけない、というか一生詰めちゃいけないかもとか思ってたんだけど。
そうだよね、私はもうこの世界の住人で彼らの兄妹なんだから。
好きに生きていこうって決めたしね!
「わかったよ、琉生」
「…うん」
さっきまでの笑顔よりも一段と優しそうな笑顔を私に向けてくれる琉生に、私も満面の笑みで返した。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい奈菜さん、琉生」
「おかえりなさい」
「おかえりー」
マンションに着いてすぐリビングへと向かい、帰宅を告げる。
アイドル君以外は揃ったメンバーが料理をしていたり、寛いでいたりしていた。
「ただいま弥~!」
「わぁ!なぁちゃんおかえり~!」
弥を見るなり抱きしめて頬ずりをすると、嬉しそうに弥も抱きしめ返してくる。
その様子を皆がきょとんとした顔で見てくる。
「なぁに昴?私の顔に何かついてる?」
「えっ!?い、いや…」
「何か今日変だぞ、オメー…」
「今オメーって言った?侑介」
「は?お、おう…言ったけど、なんだよ」
疑惑のまなざしで見つめてくる侑介の隣に座って、首を絞める。
「うぐっ!?」
「どうしましたかお姉さま、でしょ~?」
「はぁ!?何だよそれ!…ってギブギブ!」
「しょうがないなぁ、ハーゲンダッツ一個で許してやろう」
「ふざけんなよ!」
「なに?また絞められたいの?」
「すみませんでした!!」
すごい勢いで頭を下げる侑介に爆笑する私に、要さんが近づいてくる。
「でも本当に奈菜ちゃんどうしたの?何か嫌なことでもあった?」
「何言ってるの?その逆だよ、要兄」
「え…」
「私もう猫被るのやめたのよ」
そう言って今日2回目の満面の笑みを見せると、要兄は柔らかく微笑んだ。
「そっか、じゃあ可愛い妹にデートのお誘いでもしようかな」
「いいね!もちろんお金は全部お兄ちゃん持ちでしょ?」
「もっちろん、お兄ちゃんに任せなさい」
「やったー!」
軽口を叩けるようになったこの関係がどうしようもなく心地よい。
この世界に来てよかったと、しみじみと感じた。
「どうしよう梓…」
「何?椿」
「俺…ああいう妹も好みかも…」
「……は?」
「そうそう、右京さん」
「はい、何でしょう」
「明日から仕事行ってくるので夕食のお手伝い遅くなるかもしれません」
「…は?」
右京兄さん含め、他のキョーダイ達もポカンとした顔で見つめてくる。
「奈菜ちゃん、いつの間に仕事なんか…」
「え、いやまあ仕事と言ってもパートなんですけど」
「どこなの…?」
「あぁ一般企業ですよ、えっと吉祥寺駅から2駅くらいの…そこの事務のパート」
「この前ジャケット着て出掛けたのって、面接だったんだね」
「そうそう」
要さんや琉生くん、祈織くんの質問に答えていると椿さんが頬を膨らませていた。
「じゃあ奈菜とあんまり遊べなくなるなぁー…」
「椿、子供じゃないんだから…」
「はは…」
毎度のことながら拗ね始める椿さんと、それをあやす梓さん。
それを見て苦笑していると、今度は絵麻ちゃんが声をかけてきた。
「よかったですね奈菜さん!でもお体には気をつけてくださいね」
「ありがとう絵麻ちゃん」
体を気遣ってくれるマイエンジェル絵麻ちゃん…あぁ眩しい。
「夕飯の手伝いに関しては了承します、ですがもう少し体を休めた方が…」
「でももう退院して2週間ですよ?ねえ雅臣さん」
「そうだねぇ…傷も塞がってだいぶ経つし、事務仕事なら大丈夫じゃないかな」
「雅臣兄さんがそう言うのであれば…大丈夫ですかね」
「でも、無理は禁物だよ?」
「はぁい」
雅臣さんがいつも小さい子にやるみたいに、めって少し眉毛を上げて言うものだから少し笑いながら返事をした。
「奈菜」
「梓さん、どうかしました?」
夕飯の片付けも終わり、明日の初勤務に向けて準備をしようと自室のドアに手をかけた時、梓さんに声をかけられた。
「無理してない?」
「え?」
「雅臣兄さんはあぁ言ったけど、もう少し甘えてもいいんだよ」
「…」
あんまり表立って見せたつもりないんだけど、朝日奈の血筋なのかね…本当、人の事よく見てますこと。
「してませんよ」
「そう?」
「えぇ、これっぽっちも……私、やられっぱなしって嫌いなの」
「え?」
「恩を百倍返ししてやるつもりだから…よろしく、オニイチャン」
「!」
ニヒルに微笑んで、手をかけたままの自室のドアを引いて入る。
最後に見たのは、驚いた顔した梓さんだった。…ちょっと調子こいたかな。
「……参ったな」
こんな筈じゃなかったのに、廊下に小さく響いた音は少し熱を帯びて消えた。
「今日からお世話になります……えと、朝日奈奈菜です、よろしくお願いします」
言い慣れない苗字に少し戸惑うが、何とか無事に自己紹介を終えて自分の席へと案内される。
棗さんの働いているというゲーム会社は所謂CA○COMで、そこの事務として雇われた。
先輩のおばさまに仕事内容を教わりながら、少し作業をして今日は上がった。
当たり前だが、棗さんとは会う機会は少ないだろうなぁと思いながら会社を出た時…目の前に見知った背中を見つけた。
「琉生くん?」
「…なぁちゃん?」
「こんなところで何やってるの?」
それは朝日奈家の中でほわほわした独特の雰囲気を持つ彼。
今日は確か仕事ではなかっただろうかと、5階のキッチンに設置されていた予定表を思い出す。
「仕事…早く終わったから、来た」
「来たって……もしかして、迎えに?」
「うん…夜、危ない」
何っていい子なのこの子は!!同い年か本当に!!お姉さんじーーーんってきちゃったよぉぉ!!
「ありがとう琉生くん」
「ううん」
断る理由もないので、そのまま帰路に着くと徐に琉生くんが話し始めた。
「なぁちゃん、何か悩んでる事…ある?」
「え?」
昨日は梓、今日は琉生、続け様に聞かれた同じような質問に私は少し動揺する。
「何も無いけど…何で?」
「…髪、元気ない」
「あー…昨日ヘアオイルサボったからかも?」
「それは…だめ」
「ふふ、ごめんね」
胸の奥底にある悩みとも言えぬどろりとした感情を押し隠すように琉生くんに言うと、雅臣さんと同じ顔でダメ出しされて自然に笑みを浮かべていた。
「…なぁちゃん、家に来てからずっと頑張ってる」
「え?なになに?褒めてくれるの?」
「右京兄さんを手伝って料理もしてるし、それに…お掃除や洗濯も」
「!」
まさか右京さん以外に知られているとは思わなかった。
右京さんが仕事の日は、掃除や洗濯をさせてもらっている。他の人に知られると何人かは邪魔してきそうだし、何人かは自分がやるって言い出しそうだったから。
でも、あまりそういう努力している部分を見せたくなかったから…というのが一番大きい理由かもしれない。
「ありがとう、琉生くんに褒められてすごく元気出た!」
「そう?」
「うん!明日からも頑張れそう!」
「よかった……ねぇ、なぁちゃん」
今度は何だろうと首をかしげて、琉生くんの次の言葉を待つ。
「僕の事、呼び捨てでいいよ…?」
「!」
くん付けが苦手なのがバレたか、と少し気まずそうな顔をしていると琉生くんが言葉を続けた。
「なぁちゃんともっと仲良くなりたい…僕だけじゃなくて、きっと他のみんなも…」
「他のみんなも?」
「うん…だから、なぁちゃんの好きな呼び方でいいと思う」
いくら私が見知った相手でも、彼らからすれば最近知り合ったばかりなわけで。
一気に距離を詰めちゃいけない、というか一生詰めちゃいけないかもとか思ってたんだけど。
そうだよね、私はもうこの世界の住人で彼らの兄妹なんだから。
好きに生きていこうって決めたしね!
「わかったよ、琉生」
「…うん」
さっきまでの笑顔よりも一段と優しそうな笑顔を私に向けてくれる琉生に、私も満面の笑みで返した。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい奈菜さん、琉生」
「おかえりなさい」
「おかえりー」
マンションに着いてすぐリビングへと向かい、帰宅を告げる。
アイドル君以外は揃ったメンバーが料理をしていたり、寛いでいたりしていた。
「ただいま弥~!」
「わぁ!なぁちゃんおかえり~!」
弥を見るなり抱きしめて頬ずりをすると、嬉しそうに弥も抱きしめ返してくる。
その様子を皆がきょとんとした顔で見てくる。
「なぁに昴?私の顔に何かついてる?」
「えっ!?い、いや…」
「何か今日変だぞ、オメー…」
「今オメーって言った?侑介」
「は?お、おう…言ったけど、なんだよ」
疑惑のまなざしで見つめてくる侑介の隣に座って、首を絞める。
「うぐっ!?」
「どうしましたかお姉さま、でしょ~?」
「はぁ!?何だよそれ!…ってギブギブ!」
「しょうがないなぁ、ハーゲンダッツ一個で許してやろう」
「ふざけんなよ!」
「なに?また絞められたいの?」
「すみませんでした!!」
すごい勢いで頭を下げる侑介に爆笑する私に、要さんが近づいてくる。
「でも本当に奈菜ちゃんどうしたの?何か嫌なことでもあった?」
「何言ってるの?その逆だよ、要兄」
「え…」
「私もう猫被るのやめたのよ」
そう言って今日2回目の満面の笑みを見せると、要兄は柔らかく微笑んだ。
「そっか、じゃあ可愛い妹にデートのお誘いでもしようかな」
「いいね!もちろんお金は全部お兄ちゃん持ちでしょ?」
「もっちろん、お兄ちゃんに任せなさい」
「やったー!」
軽口を叩けるようになったこの関係がどうしようもなく心地よい。
この世界に来てよかったと、しみじみと感じた。
「どうしよう梓…」
「何?椿」
「俺…ああいう妹も好みかも…」
「……は?」
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