あの後、お寝坊さん組の雅臣さんや弥くんに琉生くん達も起きてきて私服を褒められました。
雅臣さん若干顔赤くてカワユスでした、ご馳走様です。

琉生くんからは「アレンジ…上手」とプロからの褒め言葉をもらって、内心ガッツポーズ。
今度アレンジの仕方いろいろ教えてもらおう。

ちなみに侑介や昴は私の対面に座ったもんだから、顔真っ赤にしたままのご飯になってて、笑いを堪えるのに必死でした。
結局大爆笑したんだけどね。悔いはない。


「さーてと、どこから行こうかなぁ」


今日はこの世界をゆっくりと見て回ろうと考えていたため、ほぼノープラン。
とりあえず吉祥寺駅から東京駅方面へと電車に乗る。

乗る電車も駅も人も、すべて自分の居た世界と変わりないように見える。
違うのは、朝日奈家や絵麻ちゃん達が存在しているということ。
この世界に来るにあたって、私の痕跡が都合の悪い部分だけ消えているということ。

自分にとっては、ただの都合の良い夢にしか思えぬ今の状況にため息が出る。
どう考えてもあの時私は死んだし、転生というかトリップした先の世界が自分の好きな作品の世界なのも、納得できない部分が多すぎる。


この世界に来てから何通りもの仮説を立てても、私がこの世界に来た理由も、あの場所にいた理由も、すべての事象への説明が成り立たない。
こんな難しいことは個人的には考えたくもないが、自分だけの問題では無いため、考えざるを得ない。

優しいその手を躊躇う事なく差し伸べた美和さんや、暖かく迎え入れてくれた朝日奈兄弟、絵麻ちゃん。
あの陽だまりのような場所を私の存在が原因で、穢す訳にはいかない。
イレギュラーは早々に退散すべきだと、自分で言っていて悲しい現実に背筋がゾッとする。


「…未知なるが故に恐ろしい、とはこの事だな」


車窓から見える景色は見慣れているはずなのに、異様に見えてしまってどうしようもない悲壮感に包まれた。











電車を降りて、到着した駅の名前は東京。
外に出てみても特に何も変わらない景色が広がっている事に安堵して良いのかわからずに、立ち尽くしていた。

考えても考えても答えは出ない。心当たりもヒントも無い。そんな状態。
落ち着いて考えたって答えが出る気がしない。あぁもう何だかどうでも良いや。


「…悩むのに時間を費やすのはやめよーか」


かの有名な女性が言っていた「神は人間に耐えられない試練はお与えにならない」という言葉。
別に律儀な宗教者でもないけれど、縋りたくもなる様なこの状況で、その言葉がふと浮かんだ。

何かをうだうだ考えるのは嫌いだ。
今までどんな事にぶち当たっても、一人でどうにかしてきた。そうやって生きてきた。
例え朝日奈家の運命を変えてしまったとしても、私はこの世界で生きていく。
もうこの世界で、一人の人間として生きていく事しか出来ない。

一度死んでいようと、パラレルワールドに来ようと、自分は自分。
いつも通り自分の足で、生きていこう。



そう決意して、再度電車に乗ろうと駅へと入る。
あんなに悲壮感に溢れていた背中に羽が生えたように、私の足取りは軽かった。