皆さんこんばんは、人生の主人公は自分と信じて疑わない私です。
絶賛ピンチです。えぇ、それはもう。命の危機です。


「一体私が何したってんだよぉおお…！」


後ろから迫りくる男性に聞こえないように、あくまで自然にだけど必死で逃げながら私は小さく叫ぶ。

私は別段美少女でも美女でもない。
むしろ愛想振り向かなきゃ目つき悪くてガン飛ばしてんの？とか友達に言われるくらいの強面だぞ！
胸だって平均かそれよりちょっと上ってぐらいしかないし。
それだってのに、何で私にストーカー？


「他に可愛い子いっぱいいるじゃん…！」


事の発端は一週間と少し前。
親も頼れる親戚もいない私は、貯金と奨学金でどうにか大学に通って、就活もいい職場に恵まれた。
しかし、衣食住は学生時代から自分でどうにかしなければならなかったため、大学が終わるとバイト漬けな日々。
バイトは落ち着いた雰囲気のおしゃれなカフェ。そこでウェイターをこなしていて、今日は久しぶりにそのお店に顔を出した…のだが。

とある雨の強い日にずぶ濡れの男性が一人入ってきて、私は微笑んでタオルを一枚渡した。
営業スマイルよろしく、優しい接客がモットーなんでね。
そうしたらその人はストーカーと化した。チャンチャン☆


「いや…まじで意味わからんわ」


誰にも聞こえないその愚痴は夜の街に消えていく。
安いからと借りた郊外にあるオンボロアパートは、人気のない住宅街にポツンと建っている。そのため家に近づけば近づくほど危険。
どうしたものかと考えながら足だけは動かしていると、前から歩いてきたであろう人とぶつかった。


「あたっ！すみま…」


私は言葉を最後まで言えなかった。顔を上げた瞬間に見える、私の後ろにいたはずのストーカーの悪どい笑み。
同時に襲う悪寒と腹部の痛み。
私は一瞬理解できなかったが、倒れ込んでから見えた鮮明な赤色を見て全てを理解する。


「（刺された…マジかよ…）」


刺された場所が熱を持つのと反比例に、頭は冷静になっていく。
私の人生はこれからだったのになぁと、心の中でぼやいて意識を手放した。













「よっと…」


慣れた手つきで駐車場に車を停めて運転席から顔を出したのは、一見ホストにしか見えない金髪の長身男性。

駐車場から自宅であろうマンションへの入り口まで歩いている途中に、中庭の中央にそびえる樹に目がいった。
いつもはただ素通りするだけなのに、何故だか今日は雰囲気が違う気がして見ると、樹の下に女の子が横たわっている。


「…！！」


酔い潰れているのかと男は思ったが、近づいて見ると彼女の腹部が赤く染まっていることに気づいた。


「もしもし、今女性が倒れているのを見つけたのですが…はい…」


急いで救急車を呼び、状況を説明して、電話を切る。
その後にもう一度電話をかける。


「もしもし、ごめんね仕事中に…実は家の前に女の子が血を出して倒れてて」

「さっき救急車呼んでそっちに行くようにお願いしたからさ」

「もし手が空いていたら、後で様子見に来てくんない？」


自宅であるマンションの半分は賃貸であるが、自分の目の前に横たわる女の子は見たことがない。
長兄の判断もいるだろうと連絡を入れて、電話を切る。

横たわる女の子を改めて見ると、綺麗な顔立ちをしているがその顔は苦痛に歪められている。
よく見ると彼女の服がじわじわと赤く染まっていることに気づいて、自分の首元を覆っていたストールを解いて充てがう。

彼女の顔が更なる苦痛に歪んだが、処置としては間違っていないことを頭の中で再確認しながら、救急車を待った。