「（今日は朝比奈家の新しい家族となる、絵麻ちゃんが我が家にくる日だったらしいな…）」


というのも、奈菜は今の今まで自分の仕事以外気にする余裕などないくらい追い込まれていた。
仕事が一段落した頃にはもう絵麻ちゃんの荷物は運び込まれ、本人もリビングにいるらしい。


「第一印象を最高には出来ずとも、最悪にならないよう行かねば…」


徹夜明けで眠たいのをすっかり冷めきったブラックコーヒーで誤魔化して、シャワーを浴びる。
目の下の隈を隠す程度のナチュラルメイクをして、リビングへ向かう。








リビングには雅臣、右京、要、椿、梓、昴、祈織、侑介、弥、そして絵麻であろう人物がソファの真ん中で肩身狭そうに座っている。


「こんにちは、初めまして妹さん…遅れてごめんね」


そう声をかけながら、階段を降りると皆の視線が奈菜に向く。
その光景に少し笑いながら、奈菜は要を押し除けて絵麻の横に座る。


「ちょっ…せっかく妹ちゃんの横座れたのに…なぁちゃんひど〜い」
「お黙り色欲坊主」
「えっ、えっと…」
「絵麻さんが困ってますよ、奈菜…自己紹介くらいまともにしなさい」


要の方を見もせずに悪態を吐き、自分を見つめる奈菜に戸惑う絵麻を見た右京が口を挟む。


「そうだった、自己紹介が遅れてごめんね？私は双子のすぐ上の姉、奈菜…女同士仲良くしよう」
「え、絵麻です！こっちはジュリです…よろしくお願いします、奈菜さん」
「気軽にお姉ちゃんでも何でも呼んで良いよ、女にしか言えない相談もあるだろうし…いつでも部屋へおいでね」
「…！ありがとうございますっ」
「良いねぇその女子会、お兄さんも混ぜてよ」
「男子禁制じゃボケ」
「ちぇー」


思っていたよりもずっと良い子な絵麻に奈菜は、感じていた嫌な予感は杞憂だったのだと、誰にも気付かれないように胸を撫で下ろした。


「…」
「…この部屋寒い？」
「あっ、いえ！そんなことないですっ」
「…？」


視界の端で絵麻が制服の袖を整えたのを見た奈菜は、雅臣の言葉に返事をする絵麻の顔を覗き込んだ。


「あの…奈菜さん？」
「ちょっとごめんね」


断りを入れてから、奈菜は絵麻のおでこに手を添える。
その瞬間奈菜の眉間にしわができる。


「雅にい絵麻ちゃんを診て、祈織は体温計と常備薬の準備お願い、かなにいは絵麻ちゃんを部屋まで運んで、京にいはおかゆの準備して、昴はスポドリ用意して」
「うん」「わかった」「OK」「わかりました」「わかった」


絵麻の体温が平熱では無い事がわかり、奈菜は兄弟たちに指示を出す。
それを瞬時に理解した兄弟たちは、指示の通り行動する。


「どれどれ……本当だ、すごい熱だね」
「よし、俺に体預けてね」
「だ、大丈夫ですよ」
「遠慮はしないで、君はもう家族なんだから」
「そうそう、いつでもお兄ちゃんを頼るんだぞ☆」
「梓さん、椿さん…ありがとうございます」
「お姉ちゃん大丈夫？」
「心配してくれてありがとう弥ちゃん…大丈夫だよ」


心配そうに見つめる弥に精一杯の笑顔を見せる絵麻に好感を持った奈菜は、同じように見つめる侑介に視線を移した。


「あんたが好きな子ってあの子でしょ」
「……はっ！！？？いっいやちげえし！！！！」
「はいはい、良いから絵麻ちゃんの手荷物持ってってやりなさいよ」


侑介にも出番を与えつつ、自分も冷えピタなどを取りに行って絵麻の部屋へと向かう。










新しい家族