店が開くまでまだ少し時間があった。話を聞くと、彼女は船を降りた街である男に誘われこの街に来たらしい。そしてその男にこの店を任されたのだと言った。

「水商売なんて、抵抗はあったのよ。」

そう語る彼女は最後に見た時よりも大人っぽくなって、色気も増していた。

きっと何人もの男を相手にしてきたのだろう。

「でもその時の私にはそんなことどうでも良かった、なんでもいいから何かをしたかったの。」

「怒ってねぇのか、俺のこと。」

困ったように笑う彼女は綺麗なグラスに入った透き通る酒を飲み干すと、首を振った。

「あの時は私が子供だったのよ、バギーにもなにか事情があったのよね、きっと。」

大人になったのは容姿だけではなかった。

「そうね…。怒りというよりかは、寂しかった。私にとってあなたが初めての男性だったから。」

自分を失ったことで、こんなにも成長したのか。それとも、最初から大人だったのか。

名無しさんにとって自分が最初の男だということは知っていた。だからこそ、大切にしてやりたかったのだ。

その結果があれだとはその時は思いもしなかったが。

「おめぇよ、戻ってくる気はねぇのか」

そう言うと彼女の目には一つの輝きが見え、そしてその輝きがほんのり紅くなった頬を伝って、彼女の手の甲に落ちた。

いいの、と微かな声で尋ねる。

「私が、私が悪いのに」

気が付くと彼女の表情は、大人の表情から、かつてのあの表情に戻っていた。

「ここに来て、やっぱり私にはあなたしかいない、あなたじゃないとダメなんだって気付いたのよ…」

だから、と言ったきり彼女は下を向いて黙ってしまい、そして大粒の涙を流した。

「お前のことを忘れた日なんてあると思うか？」

それからは、自分の腕の中で涙を流し続ける彼女を彼女の気が済むまで抱きしめ続けた。

ひとしきり泣いた後、

「もうすぐ開店なのに、メイクがぐちゃぐちゃね、直してくるわ」

と立ち上がった彼女の手を掴み、強引に店を出た。

「バギー！ダメよ！もうすぐお客さんが……」

「戻るんだろ？俺の船に」

その言葉に、彼女の目が輝いた。

また新たな旅が始まる―