とある執務室。部屋には二人の男女が書類を睨みつけて仕事をしている。と言っても一人は他の考え事でもしながら仕事をしているのだが。

今日はどこへ散歩(という名のサボり)しに行こうかなぁ…。

そんなことを考えながら時計を見るとすでに12時を回っていた。

「あぁ…、名無しさんちゃん。そろそろお昼食べてきなさいや。」

その声に反応し、ハッと顔を上げる名無しさん。

「え、もうそんな時間…。集中し過ぎて気づきませんでした。」

と驚く顔を見ながら笑う。

「仕事熱心だなぁ」

「クザンさんがちゃんと仕事してくれないからじゃないですか」

間髪をいれずに突っ込む彼女との仕事にもだいぶ慣れた。

「まぁそう言いなさんな。ほら、早くお昼食べてこないと、食堂が混んじまうよ。」

というと再び書類に目を落とす。

と、仕事を熱心にしているように見せているが、名無しさんが食堂へ行ったのを見計らって逃亡する。これが日課となっていた。

いつもならそのことを忘れて食堂へ行く天然な名無しさんだが、今日は違った。

「いえ、クザンさんお先にどうぞ」

と笑顔を向けられる。
あらら、さすがに名無しさんちゃんもわかってきたか。
と思ったが、その後の言葉でそうでないと気付いた。

「今日はお腹空いてないので…」

目を丸くして名無しさんの方を見る。
本当に天然だなぁ、と思うのと同時に名無しさんの体調を心配する。

「なんだぁ、熱でもあんじゃねぇの？」

名無しさんに近づき、ヒナの額に手を当てる。が、対して熱くはない。

「だ、大丈夫ですよ！あ、あの、ほら、はやく、食堂行かないと…」

いつまで経ってもクザンに触れられると顔を赤くする名無しさんを見ていると、楽しい。口角が釣り上がるのを自覚する。

「わかったよ。…あぁ、さっきから全然休んでないみたいだから、ちょっとは休みなさいよ」

そう言って執務室を出て、食堂へ向かった。

(このまま散歩に行けるは行けるが、名無しさんちゃんの身体が心配だし、やめときますか)