短編(FFX)
ナマエ
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「───、───。」
懐かしい歌が聞こえる。
その歌は、このスピラでは聞きなれない。
異世界の歌……。
その歌を口遊む者のそばに行けば、楽しそうに何かをしている。
「……随分と機嫌が良さそうだな。ナマエ。」
「あ!アーロン!」
声を掛ければ、振り向きこちらに笑顔を向けてくる。
その手の中には、色とりどりの紙があった。
「その紙はなんだ?」
「あ、これ?さっきシドさんがね、『今日は一段と星が綺麗に見れる日だぞ!』って教えてくれたの。それで、なんだか七夕みたいだなって思って。シドさんにお願いして、余ってる紙を貰ったの!ほら……こうしたら、短冊みたいでしょ?」
笑顔で話し続けるナマエが見せてきたのは、糸がくくりつけられた紙。それを一枚一枚、扇状に広げて差し出してきた。
「はい!アーロン、選んで!」
「……何故だ。」
「何故だ、じゃなくて!七夕なんだから、願い事書かなきゃ!」
「要らん。大体そんな紙切れに願いを書くだけで願いが叶うのならば、このスピラに生きる全ての人間が『シン』の消滅を願う。そんなもの───」
そこまで口にして、止めた。
「……そんなのわかってるよ。違う世界の私だって、『シン』がいない方がいいってわかってるよ……。だけど、そんな言い方……しなくてもいいじゃない……っ。」
俯き、顔を見せないナマエ。
その肩に触れようとしたが、伸ばした腕は肩を掴むことが出来ずに宙を切った。
「……ごめん……。」
「待て……っ!」
ナマエは顔を上げずにそのまま走り去った。
……正直、呑気な考えだと思った。
願い。それが叶うのであれば……ブラスカもジェクトも……。今までの召喚士もガードたちも、命を無駄に散らすことなどなかったのだから───
***
「……なにも、あんな言い方しなくたっていいじゃない……っ。」
情けなく溢れ出てくる涙を雑に拭った。
決して、アーロンやスピラで生きている人たちのことを軽んじた訳じゃない。
ただ、少しでも希望を持って欲しかった。
私たちが究極召喚なしで『シン』を倒して、もう怯えなくていい。
そんな“普通”の幸せを願ってほしかった……。
「おーい!嬢ちゃん!」
「───っ……。」
シドさんに声を掛けられた。
慌てて涙の跡を拭って出来る限り普通の笑顔で振り返れば、シドさんの手には私が切った短冊が握られている。
「嬢ちゃんが言ってた……タナバタ?ってやつをよ、他の連中に言ったら面白そうだって言ってな。嬢ちゃん、ヒマしてんならアイツらにやり方を教えてやってくんねえか?」
「……ただの紙に、願いを書いても叶いませんよ……。」
「あん?嬢ちゃんどうした?」
シドさんが私の顔を覗き込むように見てくる……。
……シドさんは、なにも悪くないのに……。
私、シドさんに八つ当たりをしてる……。
最低だ……。
「……まあ、なにがあったか知んねえけどよ。紙に願いを書いて叶うんだったら、この世の中バケモンだらけになっちまうぜ?」
「……え?」
「大金持ちになりたい、女を侍らせたい。食うことに困らない生活が欲しい。人間の欲なんざ山のようにある。そんなモンが叶っちまったら、人生つまんねえだろ?」
『だからささやかでも、今が楽しいって思える方が良いってもんだ。そうだろ?』
シドさんはそう言って、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。
「んじゃ、そのシケた面をなんとかしてから、食堂に行ってやってくれや。嬢ちゃんが、アイツらに教えてくれてやってる間に、タケ?だかに似た植物探しといてやっからよ!頼んだぜ!」
髪をぐしゃぐしゃにして、シドさんは豪快に笑って去っていった。
───パチンッ!
「……っ!よし、行こう…っ!」
両頬を叩いて、自分の“シケた面”に気合いを入れた。
***
「─── ヨオアイシ、ギズンオメダミゾソムアチヤヌ。アチトカッサナ、アイシユミセミウミソムネガシルルニユテヤヌ。」
《───このかみに、じぶんのねがいごとをかきます。かきおわったら、かみについているいとをえだにくくりつけます。》
食堂に行けば飛空挺に乗っているアルベド族の人たちと、リュックがいた。シドさんから話を聞いたリュックが『面白そうだから、あたしも手伝う!』と来てくれたようだった。
アルベド語で話して説明して、紙に書いているのを見ている時にリュックがちょいちょい、と腕を突いてきた。
「ね、ね。ナマエ。この七夕って、お願いゴト書くだけなの?」
「え?えっとね、織姫と彦星っていう働き者のふたりがいたんだけど、そのふたりが結婚したら恋愛に夢中になっちゃって、どちらも働かなくなってしまったの。」
リュックに分かりやすいように、余った短冊に絵を描いて説明をしていると、願い事を書いた短冊を持ったアルベドの子どもたちも一緒に覗き込んできた。
「ふたりを引き離したけど、心が痛んだ神様が『真面目に働くなら、一年に一度だけ、会うことを許そう』って言ってくれて、ふたりは心を入れ替えて働くようになる……ってお話なの。ざっくりとだけどね。」
「なにそれー!カミサマ、意地悪じゃん!」
「ミギカウー!」
《いじわるー!》
「ふふっ……そうだね、意地悪な神様だね……。雨が降ったら、川は渡れないし、織姫も彦星もその日の為に頑張って真面目に働いてきたのに、ね……。」
不意に頭を、彼がよぎった。
一年に一度だけ会えるだけマシじゃない、と思ってしまった自分が嫌になる……。
「……トメネヒャン?」
《……おねえちゃん?》
「……ゾレンメ、ドーッソキヒャッサ。」
《……ごめんね、ぼーっとしちゃった。》
男の子の頭を撫でて笑顔を作っていると、食堂の外が騒がしい。なんだろう?と思っていると、ティーダとワッカが何かを運んでいるのが見えた。
「お!嬢ちゃん!これ、嬢ちゃんが言ってた“タケ”になるか?」
「シドさん?もう見つけてきたんですか!」
ひょこっと顔を覗かせたシドさん。
どうやら、あの後すぐに竹に代わるものを探しに行ってくれたようだった。
「これ、どこに置くか嬢ちゃんが決めてくれ。」
「うーん……そうですね……。甲板に上がるハッチ、の前辺りなんてどうですか?あそこなら外も見えますし。」
「うっし!決まりだな!おい小僧ども!運べ運べ!」
ティーダとワッカがぶつぶつ文句を言いながらも、大きな枝を運んでくれていった。
「ね、ナマエ。ワッカたちにもタンザク、書いてもらおーよ!あとあと!ユウナんと、ルールーにキマリでしょ?それから、おっちゃんにも!」
リュックの無邪気な笑顔と言葉に上手に返事を返すことが出来なかった……。
「そ、だね……。でもアーロンは『要らない』ってきっと言うと思うから……。」
「そーなの?なんで?」
「……さっきね、ここに来る前にアーロンに短冊、渡そうとしたんだけど『要らない』って言われちゃったんだ。」
「えー!!おっちゃん、ヒドイ〜っ!」
リュックは『おっちゃんってホント、ノリ悪いよねっ!!』と言って、頬を膨らましていた。
「……こういうのって、好き嫌いとかあるだろうし……無理に言って困らせちゃうのも良くないから。ね、大丈夫だよ、リュック。」
「ナマエは優しすぎるーっ!」
抱きついてくるリュックの頭を撫でて『それじゃあ。リュックはユウナたちに声を掛けてきてくれる?』とお願いをした。
私は余った短冊とペンを持ち、アルベド族の子どもたちと一緒に、短冊を飾りに向かう。
子どもたちは短冊を手に持ち、走って風に靡かせて遊んだりしている。エボン教やアルベド族にも、こういう風習みたいなものはないみたい。あっても、豊漁祝いくらいだと教えてくれた。
***
広くない飛空挺の中を歩けば、探していた人物を見つけるのは容易だった。
子どもたちに囲まれ、願いを書いた短冊を笹に見立てた枝に括り付けている。
「トメネヒャン、ドルオコユテセ!」
《おねえちゃん、ぼくのもつけて!》
「カサキダラチガモ!」
《わたしがさきだよ!》
「ギュンザンシユテウアナ、ヤッセメ。」
《じゅんばんにつけるから、まってね。》
おそらく急かされているのだろう。
渡される短冊を付けていくが、手の届く範囲は既に他の短冊が取り付けられている。
背伸びをし、やっとで届く場所に付けようとするが、するりと枝先が何度も手の中から逃げていく。
それを取り、枝先に括り付けた。
「あ。……アーロン。」
「これだけでいいのか?」
「トギラン!ドルオコユテセ!」
《おじさん!ぼくのもつけて!》
「……『ぼくのもつけて』だって。」
子どもから手渡されたそれを別の枝先へと括り付ける。自分のものが飾られて満足したのだろうか、子どもが飛びついてきた。
「ワニダソフ!」
《ありがとう!》
「……。」
「『ありがとう』って言ってるの。」
「……そうか。」
そう口にし、見上げてくる子どもの頭を軽く撫でていると、違う子どもたちが『自分も』と短冊を渡してくる。
「……ま、待て。そう慌てるな。」
***
子どもたちに短冊を付けて欲しいとせがまれるアーロンをすぐそばで見ていたティーダとワッカ、そしてナマエの三人。
ワッカは普段からは想像つかないアーロンの行動に、少しばかり目を丸くし、驚いた表情をしていた。
「……今日のアーロンさん、チビたちに人気だな。」
「ああ見えて、面倒見がいいからね。」
「ああ見えて、面倒見がいいからな。」
ティーダとナマエの声が重なり、互いに顔を見合わせて笑った。まるで最近あった出来事のように、互いの思い出を口にする。
「アーロンさ、怒ると怖いクセに、オレがちょっと泣きそうになったら慌てるんだぜ?」
「私はよく一緒に遊んでくれたの覚えてるなあ。かくれんぼして、中々私を見つけられないアーロンが、慌て始めたのがちょっと面白くて……。見つかったあとはなんか理不尽に怒られた。」
「あとアレだ。ブリッツボールの自主練してる時に、アーロン、出来ないのにオレの練習に付き合ってくれたんだ。……ボールは全然違うところに飛んでったけど。」
「全っ然、想像つかねえ……。」
「……好き勝手なことを言うな。」
上から降ってきた言葉にナマエは上を見上げた。
子どもたちから渡された短冊を付け終えたのか、解放されたアーロンがナマエの後ろに立っていた。
「じ、じゃあ!オレたち、運び終わったから戻るわ!じゃっ!!」
「あっ…!ティーダ!ワッカ!ありがとう!」
逃げるように足早に立ち去るふたりに、ナマエは声を掛けた。それを見送ったあと、アーロンの方へと身体を向けた。
「アーロンもありがとう。私の身長だと上の方は届かなかったから。助かっちゃった。」
「……いや。」
先程のことなど無かったかのように、笑顔をアーロンへと向けるナマエ。真っ直ぐに向けられる笑みにアーロンは目を逸らした。それに気がついたナマエは首を傾げ、アーロンの顔を覗き込む。
「……?どうしたの?」
「……お前は、何も言わないのか。」
「何も言わないって?」
「……さっき、泣いていただろう。」
アーロンの言葉にナマエは、『ああ…。』と返して、指先で頬を軽く掻きながら苦笑し、枝先に吊るされた短冊を見上げた。
「……さっきはごめんね。私、無神経なこと言ったから……。私は“余所者”なのに、この世界のことを理解した気でいた。……アーロンや、スピラのみんながずっと苦しい思いや悲しい思いをしているのを分かったフリして……。ごめんなさい。」
謝るナマエの横顔をアーロンは見つめ、そして同じように短冊を見上げた。
「“余所者”だからこそ感じることもあれば、“余所者”でも同じ思いは抱くだろうさ。……さっきはすまなかった。過去の幻影を見て、少しばかり気を滅入らされた。」
「ううん……。同じ立場だったら、私も同じこと言ってたと思うから……。」
アーロンの言葉に首を振り『お互い様だね』とナマエは笑った。
“何がお互い様なのだろうか”
アーロンは心の中で、その言葉を吐いた。
己の苛立ちをぶつけた。ただ純粋にこの世界の平和を願っている目の前の少女に。
己が死人であると理解し、それでも愛を伝えてきた愛しい少女に、幼稚な怒りを。
「───アルベド族のね。」
「?」
ナマエが、短冊を見上げたまま話し始める。
その表情は穏やかで、とても楽しそうだった。
「アルベド族の子どもたちと一緒に、短冊に願い事を書いてたの……子どもってすごいなって思うの。ほら、見て?」
ナマエが背伸びをしながら指をさした短冊に目を向ければ、アーロンには読めない、独自の文字───アルベド語で書かれたものがあった。
「『またお魚がたっくさん食べられますように』
『大きくなったらブリッツボールの選手になれますように』
『リュック姉ちゃんともっと遊びたい!』
……楽しいことだけ書いてるの。もしかしたら、本当は『シン』がいなくなりますようにって書きたかったかも知れない。でも、書かないで自分の好きなこととか書いてるの。……未来は、明るいんだよ。」
ナマエはひとつひとつ、子どもたちが書いた願い事を言葉にして、アーロンに伝える。
目を細め、穏やかな顔をしている。
“そんな紙切れに願いを───”
先程、ナマエに吐き捨てた己の言葉が胸に刺さった。
「───私、部屋に戻るね。」
「……ああ。」
手を振り、与えられた部屋へと戻るナマエの後ろ姿を見送った。
甲板へと続くエリアには、アーロンだけがひとり佇んでいる。
アーロンは見上げ、括り付けられた色とりどりの短冊へと目を通していく。
『コーチになって、ビサイド・オーラカを最高のチームにしたい!』
『ワッカ、“優勝”!って宣言してもいいんじゃないッスか?』
『平和になったら、ゆっくりと旅をするのも悪くないわね』
『ルカの街で、もっとゆっくりお店巡りしたい、かな』
『あたし専用の飛空挺欲しい!あと、ルールーみたいになりたい!』
『ロンゾの民が帰る御山を護りたい』
仲間のそれぞれの願い。
そして、目立たない場所にひっそりと一枚の短冊があった。それは、スピラの文字でもアルベド族の文字でもなかった。
その文字を書けるのはひとりだけ───
『私の大切な人の願いが叶いますように』
「……お前は、初めから自分の願いなど書く気は無かったのか。」
日本語で書かれているその短冊を手に取った。
枝先が揺れ、青い葉の香りが鼻を掠める。
その時アーロンの視界の隅に、何も書かれていない短冊とペンが置かれているのに気がついた。
ペンを取り、真新しい短冊を取ろうとしたがその手を止め、日本語で書かれた短冊の裏にペンを滑らせる。
文字を書き終わり、己が書いた文字を見つめ静かに、自嘲した。
要らないと突っぱね、苛立ちを抑えられずぶつけた。
「……俺も、大概だな。」
アーロンはペンを元に戻し、その場を離れていった。
***
「ナマエ!ユウナん!早く早く!」
「リュック、そんなに急がなくても大丈夫だよ。」
短冊を括り付けてから、しばらくは七夕飾りをリュックとユウナ、それからアルベド族の子どもたちと一緒に作っていた。紙だったり、端切れの布でそれっぽい形にしてみたり……思いのほか、みんな楽しんで作ってくれた。
「わあー!いっぱいタンザク、あるよー!」
「ほんとだ…!すごい…っ!」
「はーい、お姉さんたちー。飾りつけするよー?」
箱に入れた手作りの七夕飾りを短冊の邪魔にならないように付けていく。でも、やっぱり高いところは届かない。
「キマリ!上の方に付けてくれる?」
「分かった。」
「ありがとう!……うん、そう!その辺!」
一番身長のあるキマリに高いところをお願いして、私たち三人は手の届く範囲を飾り付けていく。
時折リュックやユウナは目に入る短冊の願い事を読んで楽しそうに話をしている。
「ん〜?コレなんて書いてあるのかな?見たことない文字だ。」
「本当……。ねえ、ナマエ。ナマエは読める?」
リュックとユウナが手にしていたのは私が書いた短冊。……わざと日本語で書いたから。
「それ、私が書いたの。でも、内緒。」
「えー!!ケチー!」
拗ねたリュックが『ズルい!教えなよー!』と絡んでくるのを笑って躱していると、ユウナが首を傾げて私が書いた短冊をまだ見ていた。
「ユウナ?どうしたの?」
「あのね、後ろにも読めない文字でなにか書いてあるの……。ナマエ、これ読める?」
「後ろ?私、後ろには何も書いてないけど───」
ユウナが括り付けていた短冊を枝先から外し、それを私へと手渡してくれた。受け取った自分の短冊を裏返してそこに書かれている文字を読んだ。
そこには私の筆跡ではない文字が書かれていた。
May you always have a future to smile in.
「……っ。」
もう一度読んだ。ゆっくり噛み締めるように……。
自然と指先がその文字をなぞった。
それは、まだ乾ききっていなかったみたいで、インクが少し指について指先が黒く染まり、文字が滲んだ。
……これを書いてから、まだそんなに時間が経っていない。それがわかり、喉が震えた。
「ナマエ、大丈夫……?」
「……だ、いじょうぶ…っ。」
大丈夫、……そう言葉にしたけど目から涙がこぼれ落ちていく。拭っても拭っても、涙は止まらなくて……。
胸が苦しくて、短冊を胸に抱えるようにした。
「……ほんと、不器用なんだから……っ。」
泣いて、笑った。
笑ったけど、涙のせいでぐしゃぐしゃの笑顔で……。
でも、あなたの願いなら。
私は笑わなくちゃ───
fin.
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後書き(08.07.13)
アーロンで七夕ネタのお話でした。
完全に大遅刻です…。すみません…。
書き手は英語が苦手なので、英文はAIに相談して出してもらった文章なので間違ってたらすみません…(一応和訳したので大丈夫かと…)
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