短編(FFX)
ナマエ
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「……でーきた!」
出来上がった“それ”を、子どもを抱き上げるように、腕を上へと伸ばした。
毎日コツコツと作り続けて、今日やっと完成した。
我ながらかなり良い出来だと自分を褒めたい。
「……見せたら、どんな反応するのかな?」
自分の手の中にあるそれを見つめながら、ひとりの人物を思い浮かべた。……多分、微妙な顔をするんだろうな。そう思ったら少しだけ面白かった。
***
「……なんだそれは…。」
「ん?小っちゃいアーロン作ったの。どう?可愛いでしょ?」
「………。」
数日後のある日───
久しぶりにナマエの大学がある地方へやって来たアーロンとふたりでお茶をする流れになった。ナマエが注文した紅茶とケーキが運ばれ、バッグの中から自分で作った“小さなアーロン”を取り出して、ケーキと紅茶のポットと一緒に写真を撮っている。
大学の同期の子にそれは、【ぬい活】というものだと教えてもらった。
家でも写真を撮ったりしている。
夕飯を少し豪華にした時や、良い天気の日には日光浴をしている風に撮ってみたり…。
なんだかんだで、結構楽しんでいる。
そのナマエの様子に、アーロンは少しだけ微妙な表情で、コーヒーのカップに口をつけた。
「んー…。もうちょっと、こうかな?」
「……何をしている…。」
「小っちゃいアーロンとショートケーキを一緒に撮ってるんだよ?」
「……それは見ていれば分かる…。」
アーロンは言いかけた言葉を飲み込んだ。
何故、自分のぬいぐるみを作ったのか。
しかも、こちらの姿ではなく、スピラの方の姿なのかと…。
「ね、上手に出来てるでしょ?頑張って作ったの。し・か・も!なんと、こちらのちびアーロンさんは、お着替え機能付きです!今はまだ、スピラにいた頃の赤い服だけど、色々服作って着せたいの。アーロンはどんな服がいい?」
そう言って、ぬいぐるみが着ている服を少しだけ捲る。
「やめんか。」
「大丈夫だよ、ちゃんと肌着も着せて……あいたっ!」
アーロンがナマエの額を、指先で弾いた。
ぱちんっ、と乾いた小さな音がオープンテラスに響き、ナマエは痛む自分の額を手で隠した。
「なんでデコピンするのっ!」
「俺にセクハラをするな。」
「わ…。アーロンの口から横文字が出てきた…。」
「お前な…。俺をなんだと思っているんだ…。」
「えへへー。」
アーロンの呆れ顔にナマエは笑った。
思った通りの想像していた表情で、なんだか嬉しかった。
「それにね、この子がいればアーロンと会えなくても、ちょびっとだけ寂しさが紛らわせるかなーって…。」
ほんの少しだけ、寂しさを滲ませた笑顔でナマエは、自分の手の中に収まるアーロンのぬいぐるみの頬を指先で、ふにふにとつついた。
アーロンは社会人で、ナマエは大学生。
大学を卒業したら、元いた街へと戻る予定ではいる。
しかし、卒業まであと数年。
ナマエはアーロンの予定に合わせている為、中々会えない日々が続いている寂しさを口には出せずに我慢をしていた。わがままを言えばアーロンを困らせてしまう、と。
「だから、アーロンも、このちびアーロンもどっちも大事で大切。」
「……すまん。」
「ち、違うの!アーロンに謝って欲しいとかじゃないの!…私が、我慢したら良いだけの話だから!」
慌てて笑いながら、そう言葉にするナマエの手をアーロンは掴んだ。
不意にされたその行動がアーロンらしくなくてナマエは一瞬、戸惑った。
「我慢する必要はない。全て俺に言え。俺は軽い気持ちで、お前と付き合っている訳ではない。」
「…っ、アーロン…。」
「それともなんだ。俺では頼りないか?」
「そ、そんなことない!!」
「じゃあ、きちんと言葉にしろ。………お前はどうしたい?」
アーロンの言葉も、自分と手を包むその手も、眼差しも優しかった。
しかしナマエは、まだ心に絡まる鎖を解けきれておらず、口にして良いのか迷っているようだった。意を決したように、ナマエは口を開いた。
「…アーロンと、もっと一緒にいたい…。色んなところに、行きたい…。アーロンがいなくなっちゃってからの時間を埋める…とかそういう訳じゃないけど…。もっと、アーロンのこと、知りたい…。」
やっと自分の本心を、本音を出したナマエにアーロンは微笑んだ。
「ああ。行こう。お前が、望むところなら何処へでも。……やっと、本音が言えたな。ナマエ。」
「っ、アーロンが言わせたんだよ…!……迷惑かけたくないのに…。」
「俺はお前に言われた事で、迷惑だと一度も思った事はないがな?寧ろ、言われなさすぎて男として見られてはないのではと思ったほどだ。」
「う…。」
意地悪く言えば、少しだけしょげた表情になるナマエにアーロンは、優しくその髪に触れた。
「さあ、それを食べたら行こうか。ナマエ、お前の望むままに。」
テーブルの上には、少し緩くなった紅茶とケーキ。
そして、そんなふたりを見つめる小さな伝説の男がいた。
fin.
(おまけ/若干のホラー要素有)
↓
おまけ(セリフのみ)
「あ。そういえばね、この小っちゃいアーロンを作り終わった日から、家の中で変なことがあるの。」
「………なに?」
「小物がね、置いたはずのない所にあったりとか、小さいけど色々。」
「……侵入者か?」
「ううん。お金とかは無くなってないよ。ただね、夜中になるとこの子、動くの。」
「…………は?」
「たまに寝たふりして見てるとね、ちまちまーって動いてて可愛いの。もしかしたら、中にスピラのアーロンがいたりして………なーんてね!」
「今すぐ燃やすぞ。」
「わっ!アーロン!ジッポで燃やそうとしないで!!別に悪いことしてないから!って!小っちゃいアーロンの頭を鷲掴みにしないでーっ!」
『………………。』
(続く…?)
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後書き(08.04.30)
FF25周年で、発売されるアーロンぬいを見て思いつきで書きました。
久しぶりの短編更新です。
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