短編(FFX)
ナマエ
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昔、ある森に近い村。
そこには赤いずきんを被った女の子がいました。
その手にはバスケット。
中にはパンとチーズ、ワインが入っています。
「ナマエ、これを森の奥に住んでいるおばあさんのところへ持って行ってくれるかい?」
「ええ、分かったわ。」
「だけど森には怖くて恐ろしい狼が住み着いている。狼の遠吠えが聞こえたらすぐに引き返して来るんだよ、わかったね?」
「大丈夫よ。じゃあ、父さん。行ってきます。」
赤ずきんの女の子、ナマエは元気に返事をして家を出ました。
森の中は、木々が鬱蒼としています。
けれど空にある太陽は森の中を優しく照らしていました。
「んー!今日も天気がいいなぁ。あ、おばあさんのお家に行く前に、お花摘んでいこう!」
そう言ってナマエは、花がたくさん咲いている開けた場所へとやって来ました。
ここは森の中でナマエが一番好きな場所。
村の人は滅多に来ないのです。
「今日も綺麗に咲いてるね。」
ナマエは笑顔で色とりどりの花を摘み始めます。
そして、可愛らしい花束が出来上がりそれを白いハンカチで包みました。
その時でした。
「………また、来ているのか。」
「あっ!アーロンさん!」
茂みの奥から、狩人の格好をした男がナマエの前に現れました。名前はアーロン。彼は森の中に住み、狩人として森の動物たちを狩り、生活をしています。
ある日、森の奥に住むおばあさんのところへと向かうナマエと出逢い、今では年の離れた友人となり、それからはたまにこの場所に来ては、ふたりで話をするようになりました。
「…今日も、ばあさんの所へ行くのか?」
「はいっ!その前にここでお花を採ってました。」
微笑みながら花の束を抱きかかえるナマエに、アーロンは目を細め見つめていました。
「……今日は森の動物たちも静かだ。様子がおかしい。お前もさっさと用事を済ませて家へ帰れ。」
「…分かりました。あの、アーロンさん。おばあさんのお家の近くまで一緒に来てもらっても…いいですか?」
「構わん。行くぞ。」
アーロンは手短に言うと、帽子を深く被り直しナマエと一緒におばあさんの家の方へと共に進みました。
「……本当に…静か…。鳥の鳴き声も聞こえない…。」
「狼が近くにいるのかもしれん。それか天気が荒れるか…。鳥は風を見ているからな。」
「……なんだか、静か過ぎて…耳が痛いです…。」
ナマエは不安そうに言うと、アーロンの手を握りました。
アーロンはそんなナマエの不安を消すように握られた手を握り返します。
「…俺の傍から離れるな。」
「はい…っ。」
ふたりは手を繋ぎ、足早におばあさんのお家へと向かいます。
***
「おばあさん、また来るからね。」
「えぇ、ありがとう、ナマエ。狼には気を付けて帰るんだよ。」
無事におばあさんのお家に着き、父から預かったバスケットを届けてナマエはおばあさんのお家から出て来ました。
その様子を少し離れたところからアーロンは見つめていました。
「…無事に用事は済んだようだな。帰るぞ。」
「はいっ!アーロンさん、ありがとうございます!」
「礼は要らん。」
用が終わったなら長居は無用、と言わんばかりにアーロンは森の外を目指します。
その時でした。木々の合間から雫がぽつり、と落ちてきました。
「…わ…っ…雨…!」
「…遠くで雷の音が聞こえる…。急げ、土砂降りになるぞ。」
ふたりは土砂降りになる前に、森の外を目指しますが雨はお構いなしに強くなり始めます。
「…敵わんな…。一旦、俺の家へ行くぞ。」
「は、はい…っ!」
アーロンはナマエの手を取り、自分の家がある方へと足を進めます。
彼の家はそこまで遠くなく、すぐに着きました。
アーロンはナマエを招き入れ、暖炉に火を焚べます。
「…本降りになる前に着いて良かったが…服が濡れたな。」
「でも、すぐに乾く程度ですし。アーロンさん、ありがとうございます。」
ナマエはぺこりと頭を下げてお礼を言う。
そんなナマエの姿をアーロンはちらりと見て、濡れている赤ずきんをそっと乾いた布で拭き取ります。
「…拭かんと風邪を引く。」
「ふふっ。大丈夫ですよ。ずきんと、この白いローブ。特製で水を弾くんです。」
ナマエの言う通りに白いフードは雨の雫を弾き、床へと落ちて染みになっていく。
その時だった──────。
アーロンの視点が変わった。
それと同時に、腕が動かせなくなった。
「───…っ!?」
「油断は禁物ですよ。アーロンさん?」
「…っ、ナマエ…お前、なにを…!」
アーロンは腕を動かせないように後ろ手で縄で強く縛られ、ベッドに倒れていた。
それに気付いた時、アーロンを見下ろすナマエがいつものように“にこにこ”と柔らかい笑みを浮かべていた。
────ギシ…。
ベッドに倒れるアーロンを跨ぐようにナマエが、その身体へと座る。
「…っ!…退け…っ。」
「嫌だ…と言ったら?」
「無理矢理にでも退かすまでだ。」
アーロンの鋭い瞳がナマエを睨みつける。
しかしナマエはそんなものを気にもせずに微笑んでいるだけだった。
クスクス笑うナマエを己の身体の上から退かす為、アーロンは身体を捻るがうまくいかずにいた。
「アーロンさん、強がっちゃって…。」
「…ナマエ…っ、お前…一体…。」
「ふふっ…。気がつかないなんて、まだまだですね。」
ナマエはそう言うと、アーロンが深く被った帽子に手をかけた。
「…!!やめろ!!」
アーロンは叫ぶが、既に遅かった。
帽子が無くなり、そこにあったのはふさふさの厚い耳。
「狼さんが、狩人の“フリ”なんてしちゃダメですよ?」
「……っ。」
アーロンは狩人ではなく、狼だった。
ふさふさの耳を隠す為にいつも、どんな時でも帽子は外さなかった。
「………いつからだ…。」
「ん?」
「いつから俺が狼だと気付いていた…?」
「え?初めて会った時からですよ?」
ナマエの言葉にアーロンは目を見開いた。
アーロンは、森の中でおばあさんの家に向かう途中で花を摘んでいるナマエを見て一目惚れをした。
しかし、自分は狼…。このままナマエの前に出てしまえば、きっと彼女を怖がらせてしまう。そう思ったアーロンは、時折森の中を通る行商人から狩人の服を買い、それを纏って狩人のフリをしてナマエに話しかけた。
そうして、やっとの思いでナマエと友人と言える程までに仲良くなれたのだ。
「……それに。」
「…?」
「村にいる狩人って、私だけだから。」
「…っ!?…お前…狩人、なのか…!?」
「そうですよ?…ほら。」
そう言ってナマエは纏っている白いローブの紐を解いて見せる。
その白いローブの内側には、縄や小型のナイフがびっしりと装備されていた。
「今は持ってませんけど、弓とか大型のナイフとか。狩りで使える物は全て使いこなせますよ。」
にこにこと縄を取り出し、アーロンの身体を縛り上げていく。アーロンは完全に身動きが取れなくなってしまった。
「…俺を殺すのか?」
「え?どうして?やだなぁ、殺しませんよ。」
静かにアーロンがナマエに問うと、ナマエは首を傾げながら微笑んだ。
「まあ、“お仕置き”はするかもしれませんけども。」
そう言いながらナマエは、アーロンのふさふさの耳に触れて指先でそっと撫で始めた。
「───っ!!…や、めろ…!触るな…っ!」
「えー?だって“お仕置き”ですし?まあ、私にしたら“ご褒美”なんですけどね。」
“もふもふ〜”と無邪気にアーロンの耳に触れるナマエ。
それに反してアーロンは顔を赤らめて背けた。
「あー、逃げちゃダメですよ。“お仕置き中”です!」
「…くっ…。」
「…じゃあ“お仕置き”しながらの“尋問タイム”といきましょうか。………どうして、私に近づいたんですか?それこそ私は狩人で、あなたを狩る人間。やっぱり殺したかったから?」
「……………違う…っ。」
ナマエの問いに、アーロンは絞り出すような声で答えた。
「……お前が…、……お前に惚れた。」
「───へ?」
「…このままの姿では、まともに話も出来ん…。だから、狩人の服を着てお前に話しかけたんだ……。」
胸に秘めた想いを、そっと伝えるようにアーロンは言葉を紡いでいく。
一方、ナマエはというと、アーロンの答えが自分が思っていたのと違っていて頬を赤く染めていた。
狩人といっても、ナマエも年頃の娘。
まさかの狼といえど異性から想いを告白されるとは夢にも思っていなかった。
「……………。」
「…おい、惚けるな。縄を解け。」
「……やだ。」
「は?」
「狼が狩人に勝てると思わないでよっ…!」
ナマエはアーロンを縛り上げている縄に力を込めて更に縛り上げた。
「…っ、やめろ、手を離せ…!」
「やだ!」
そう言ってナマエはアーロンに覆い被さった。
赤いずきんから、さらりとこぼれ落ちるナマエの髪がアーロンの頬を掠め撫でていく。そのくすぐったさにアーロンは思わず息を漏らした。
「…っ…。」
「わ、私だってアーロンさんのこと好きだしっ!?この人、狼のくせに狩人のフリしてるの可愛いなとか!村に来るの怖いのに、それでも頑張って人間のフリして村の子供たちと遊んでるのとかそんなの見てたらさ…!…………好きになっちゃうに決まってるじゃん……。」
叫ぶように自分の気持ちを曝け出し、最後の方はどんどん声が小さくなっていくナマエを見てアーロンは目を丸くした。
「…お前が…俺を好きだと………そう言ったのか…?」
「──っ…そうだよ…っ…。」
ナマエは恥ずかしくなり、アーロンに跨ったまま蹲るように、その胸に額を押し当てた。
その頭を撫でたい。愛おしい想いが溢れ出る。
「…ナマエ。縄を解いてくれ。」
「…やだ。襲われるもん…。」
「お前、俺をなんだと思っているんだ…。」
「…狼さん。」
「はあ…。このままではお前を抱きしめることも叶わんのだがな…。」
アーロンがぼやくように言うと、ナマエは身体の隙間に手を入れて、腕の縄をスルスルと解いていった。
縄が解かれ、自身の上に蹲るナマエの頭に触れ、髪を指で梳いていく。その度にふわりと香るナマエの髪の香りがアーロンの鼻を掠めていく。
「……お前は…いつも花の香りがするな…。」
「…今日は…お花摘んでたし…。」
「この前もそうだったな。」
喉を鳴らして笑うアーロンをナマエは少し顔を上げてちらりと見た。いつも見せる無愛想な表情ではなくて、優しい笑みだった。
「ナマエ、お前ともっと話がしたい。雨が止むまでの間でいい…。」
「雨が、上がったら…?」
「村へ帰れ。途中まで送っていく。」
「………やだ。」
「……まったく、我儘な狩人だ。」
ナマエはゆっくりと上体を起こし、ベッドから降りた。
「…今日は…無理。帰る…。」
「何故だ?」
「…まともに…顔見れないからっ…。」
そう言ってナマエは赤いずきんを深く被り、雨が降る森の中に飛び出していった。
「…今日“は”か…。なら、明日は村に迎えに行こう。」
アーロンはそう呟いて、空を見上げた。
雨は止み始め、新緑の葉についた雫が太陽の光を浴びて宝石のように輝き始めていた。
fin.
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後書き(08.03.01)
『童話』の赤ずきんちゃんを元ネタにしてみました。
お恥ずかしながら、私、童話をしっかりと知らないんですよね…。Dズニー作品も碌に観たことない…。
本当はナマエちゃんを、もう少しSっ気強めにするつもりだったんです…。ナマエ×アーロンにしたかったんです。出来ませんでした_(:3 」∠)_
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