短編(FFX)
ナマエ
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────……きっと、あなたは怒るよね。
「……えーっと…?私、寝てたと思ったんだけどなぁ…。」
目を覚ますとなぜか外にいて、木に寄りかかっていた。どこか見覚えのある場所…。
…マカラーニャの森だ。ベベルから出てきてすぐの場所。クリスタルで出来た木々に違いはあれど間違いないはず…。
「ティーダ?ユウナ?みんなー?」
仲間の名前を呼んでも返事はない…。それどころか人一人いない…。空を見上げれば夕暮れ時で少しずつ星々が煌めき始めてる。
丸一日寝ていたのか…。寝る前に見た星空を思い出していた。
「…このまま夜になってここにいるのは良くないなぁ……一か八か、ベベルの方に行ってみますか…。」
こっそりと辺りを見渡しながらベベルの方へと足を進めた。僧兵に見つかったら面倒だけど、いざとなったら逃げれば良い。
「───なんて思ったけど…。なんか、違う……?」
ベベルに入り、街を歩いて数人の僧兵と出会ったけど、何も言われない。むしろ『暗くなるから早く家に帰りなさい。』とか言われる始末…。
「わけ、わかんない…。」
「おい。」
不意に後ろから声を掛けられた。
振り返ると少し伸びた髪を一つにまとめた、不機嫌そうな男の子。
「え…っと、私?」
「アンタ以外に誰がいるんだ。」
「えー…っと、いないねえ。」
「はあ……。来い。」
男の子に声を掛けられて、辺りを見渡しても私以外にいないね、なんて笑って言ったら盛大なため息を吐かれた後、いきなり手を引っ張られて歩き始めた。
「えっ!ち、ちょっと…!」
「……ベベルでも、ロクでもない奴はいるからな。」
男の子の言葉に、後ろを向くとなんとなく嫌な雰囲気の2人組の男の人が後をついてきている。
「…あの人たち、つけてくるね…。」
「アンタ、呑気だな…。」
「こう見えて色々考えてるよー?……例えば…こうしたら着いて来られなくなるかなー、とか!」
後ろを振り向いて手をかざした。
「ブリザガ!」
「なっ!街中で魔法を使うなよ!」
「大丈夫!そのうち溶けるから!それより今のうちに逃げちゃえー!」
「うわっ…!おい!」
ブリザガで巨大な氷の壁を作って通せんぼ。
男の人たちは慌ててたけど、その隙に男の子の手を引っ張って走り出した。
「…っ、この辺まで来れば、大丈夫かな…っ?」
「はぁ…はぁっ…!」
ふたりで建物に背中を預けて息を整えていると、男の子と目が合った。
「アンタ…っ、無茶苦茶だな…っ…。」
「戦略的、って言って欲しいなぁ…。」
「────ぷっ…。アンタ、面白い女だな…!」
「ふふっ…キミもね!」
ふたりで笑った。
「さて、と…。助けてくれてありがとう。じゃあ、私行くから。」
「家に帰るのか?送ってやろうか?」
「あー…。私、ベベルに住んでる人間じゃないから。」
『なら宿か?』と聞かれて、それも違うと答えると男の子が訝しむ表情で私を見た。
「ならどこに行くんだよ。」
「やー…。まあ、うん。」
「…なんだ、アンタも独りか。なら、来いよ。」
そう言った男の子は少し悲しそうな、寂しそうな顔をしてまた私の手を引っ張って歩き始めた。
なんとなく、声を掛けられなくて黙ってついて行ったその先には寺院のような建物が建っている。
外に小さな男の子がいてこちらを見ると笑顔で駆け寄って来た。
「アー兄!おかえり!」
「ただいま。僧様は?」
「中にいるよ!…そのお姉ちゃん、だれー?」
『あとで教えてやるよ。』そう言って中へと連れて行かれる。中はジョゼ寺院やキーリカの寺院とあまり変わっていない……、と思ったけど『シン』を倒した歴代の大召喚士の聖像がひとつ無かった…。
「…ブラスカさんの聖像が、無い…?」
「…?誰だ?ブラスカって。」
「え…。」
男の子の言葉に身体が固まった。
…ブラスカさんの聖像以外は何度も見たことがある。見間違いなんかじゃない…。聖像が三体…。でもブラスカさんのはない…。
「ねえ…、この聖像の…大召喚士の名前、言える…?」
「奥から、ガンドフ様、オハランド様、ヨンクン様だろ?………アンタ、『シン』の毒気に当てられたのか…?」
「………わか、んない…。」
ガンドフ、オハランド、ヨンクン…。
ルールーやワッカ、ユウナが教えてくれた歴代の大召喚士の名前と一致してる。………私は…何かが原因で過去のスピラに…いる…?
「…おい、顔色が悪いぞ?」
「あ……ごめん…。」
「俺の部屋で良ければ寝て良いから。」
「おや…?どうしたんだい?」
「あ、僧様…。」
心配そうに私の顔を覗く年配の僧官に男の子が代わりに説明をしてくれている。
「…そうか。『シン』の毒気か…。少し休ませてやりなさい。」
「はい。…歩けるか?」
「う、ん…。大丈夫…。」
優しく手を握られてベッドのある部屋へ連れて行かれた。『今、水を持って来てやるから寝てろ。』と半ば無理矢理に寝かされた。
「…全然理解できない…。どういう事…?タイムスリップしてる…ってこと…?」
「水、持って来たぞ。飲めるか?」
「ん…ありがとう。」
お盆に水の入った水差しと木製のコップを乗せて男の子が戻ってきて、起き上がるのを補助してくれた。頭は混乱してるけど正直そこまで弱ってはない…。でも、男の子の優しい気遣いは純粋に嬉しかった。
コップに水を注いで手渡してくれたのを、ゆっくりと口をつけた。
「ありがとう。…ごめんね、助けてくれたのにキミの名前、知らないままだ。私、ナマエっていうの。」
「そうだったな。俺の名前はアーロンだ。」
口に含んだ水を吹き出しはしなかったけど、変なところに入ってむせた。驚いた男の子……アーロンくんが背中を叩いてくれた。
「ごほっ!ごほっ!!」
「お、おい!大丈夫か!?」
「けほっ…!だ、大丈夫…。えと、アーロン…くん?」
「………なんで、笑いながら言うんだよ…。」
「ご、ごめん…。私の知り合いと同じ名前だったから…。」
そういうとなんだか不機嫌な顔になったアーロンくん。………よくよく見ると、私の知ってるアーロンの若い頃に似てる気もする…。
「アーロンくん…は、何歳なの?」
「俺か?俺は13だ。アンタは?」
「私は17だよ。」
「……もっと年上に見えた…。」
「…………もう一回言ってみなさい…?」
にこーっと笑ってアーロンくんのほっぺをむにーっと摘んで左右に引っ張った。
「ご、ごへんなはい…っ…!」
「…分かればよろしい。」
ほっぺをさするアーロンくんのおでこをつん、っと突いた。それと同時に部屋の扉が控えめに開いて先程の小さな男の子が覗いていた。
「…アー兄…。」
「…ああ、ルチ。どうした?」
「そのお姉ちゃん、アー兄のカノジョ?」
男の子……ルチくんの言葉にアーロンくんは顔を真っ赤にしてわたわたと慌て始めた。
「なっ…!!ルチ!お前何を言うんだよ…っ!」
「だって『あとで教えてやる』っていったから。」
「言ったけど!そういう意味じゃない!」
顔を真っ赤にするアーロンくんと、ぽかんとしてるルチくんが対極過ぎて面白くて笑ってしまった。
私の声に彼はジロリ…と睨んできた。
やはりその顔は私の知っている若い頃のアーロンにそっくりで………この子はアーロンの幼い頃だとなぜか確信が持てた。
「ふーん…?まあ、別にカノジョのひとりやふたりいたっていいんじゃない?アー兄モテるんだし。あ、それから僧様がお姉ちゃんも一緒に晩ごはん食べなさいだって。」
ルチくんが先程の僧官からの言伝を伝え終わると部屋を出ていくその背中にアーロンくんは『俺は僧兵になるんだから彼女とか要らないんだ!!』と叫んでいた。
「…へぇー…。アーロンくん、モテるんだ?」
「アンタまでなんだよ…。さっさと晩飯、食いに行くぞ…。」
「ふふっ…はーい。」
ベッドから降りて、みんなで食事をする食堂へとアーロンくんに案内されながら向かった。
そこにはアーロンくんとルチくん以外にも6人ほどの子どもが食事をしていた。アーロンくんに『飯、持ってくるから座ってて。』と言われて大人しく椅子に座っていると、隣に座っていた女の子に話しかけられた。
「…あんた、誰?」
「えっと…。ナマエって言います…。」
正直、誰と聞かれても『未来から来ました』なんて言えば確実に頭のおかしい人認定されるだけだし…。
もし何か聞かれたら『シン』の毒気にあてられたと言い訳しよう…。
「セポネ、この人『シン』の毒気にあたってるから、あまり聞いてやるな。」
「アーロン…。」
「ほら、これアンタの分。」
「あ…。ありがとう。」
女の子…セポネちゃんと話しているとアーロンくんが食事を持ってきてくれたのを受け取った。
私の向かいに座ったアーロンくんが食べ始めたのを見て私も手を合わせて食べようとした。
「いただきます。」
「……なんだ、それ。」
「え?食事の前の…挨拶?食事を作ってくれた人、お野菜を作ってくれた人、食材となった家畜への感謝。…色んな感謝と命を『いただきます』って意味。食べ終わったら『ご馳走様でした』って言うの…。」
いつも当たり前に言っていた事を聞かれて、正直なんて答えていいか戸惑った。だけど、アーロンくんは匙を置いて私を見よう見まねで手を合わせて『いただきます』と言った。
それを見て嬉しくなり笑顔でアーロンくんを見ていたら照れたのか『さっさと食べろよ』と怒られてしまった。
***
「「ごちそうさまでした。」」
食べ終わり一緒に手を合わせた。
食器はそのままで行こうとしたアーロンくんに『片付けないの?』と聞いたら『孤児院の人が片付けてくれる』との事…。世界が違うとこうも色々と違うものなのか…。
食べ終わった食器を持ち調理場へと向かった。
そこには数人の女性がいて、その内のひとりの女性が私に気が付いて慌てて来た。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。お礼…じゃないですが、食器洗いをお手伝いしたいのですが…。」
「あらあら!ここで働き始めて初めて言われた言葉ばかりだよ!その気持ちと言葉だけでも充分さ!こちらこそありがとう!」
ふくよかな女性がにこにこと食器を受け取り手をぎゅっと握って『さあさ!ここは大丈夫だよ!自分のお部屋にお戻り。』と言われてしまった…。
お節介過ぎたかな…。
「女将さん、洗い物用の水瓶が空になったよ。井戸から汲んでこなきゃ。」
「そうだね…。今日は男手が少ないから小さい桶で何回か往復しようかね。」
あ、これなら役に立てるかも…?
そう思ってもう一度調理場に入った。
「あの…。」
「おや、まだいたのかい?」
「水瓶ってこれですか?」
「え?ああ、そうだけど…。なんだい?お嬢ちゃんが水を汲んできてくれるのかい?」
ふたつの水瓶に手をかざして、唱えた。
「ウォータ。」
「!!アンタ、黒魔法が使えるのかい!」
「一応ですけどね。もうちょっと入れます?」
『並々注いでくれるかい?それなら2日は保つよ!』そう言われて水瓶ギリギリまで水を注いだ。途中で『ちなみにその水って飲めるのかい?』と聞かれて『はい』と答えたら飲み水用の水瓶にもと言われたので並々注いでおいた。
「助かったよ!これで腰が痛くならなくて済むよ!」
「お役に立てて良かったです。」
そう言って調理場を出たらアーロンくんが戻って来ていた。どうやら待っていてくれたみたい。
腕を組んで壁にもたれていた。『どうしたの?』と聞けば『僧様がアンタに話があるって。』と言われ、私を呼んでいる僧官の所へ案内された。
にこにこと優しい笑みを浮かべた年配の僧官が迎え入れてくれた。
「お主、名はなんと申す?」
「ナマエと申します…。」
「不躾な質問だが…。お主はどこから来たのかの?」
その言葉に、どう返そうか迷った。
素直に告げるべきなのか…。
だけど、なぜか言うことができなかった。
私は、誤魔化した。
「…申し訳ございません…。その問いにお答えすることができません…。」
「……ほう、
「……その、理由もお答えすることができません……。ですが、私は皆さんに危害を加える気はありません。」
しっかりと、目を見て伝えた。
すると僧官はにこりと微笑んだ。
「ほっほっほ…。すまない、少し意地の悪い質問をしたのう。許しておくれ。」
「い、いえ…。」
「お主の気が済むまでここにいると良い。そこのアーロンはどうやらお主の事が気に入っておるみたいだからの。」
「そ、僧様…っ!!」
僧官の言葉に顔を赤くしたアーロンくんと目が合うと、思いっきり顔を背けられた。……可愛いなぁ…。
「それと、すまないが空いている部屋がなくての。悪いがアーロンと相部屋でも構わんか?」
「え?ええ、私は構いませんが……。」
「いや構えよ!女だろ!」
「え?うん…そうだけど…。」
首を傾げると、僧官が声を上げて笑い始めてアーロンくんに手招きした。
何かを耳打ちすると、アーロンくんは怒って部屋を出ていってしまった…。
「えっ…ちょっと…?」
「ほっほ…!いやはや、大人ぶっておるがまだまだ子供だのぉ…。」
「……はぁ…?」
「ほれほれ、お主も戻ってよいぞ。」
そう言われ、一礼をして部屋を出た。
……確か、こっちだったよね…。アーロンくんのお部屋…。
ひとつの部屋の前、軽くノックをしてドアを開けた。部屋の中に入るとアーロンくんがムスッとした表情でベッドに座っている。
「アーロンくん?」
「……なんだよ。」
「なんか、怒ってる?」
「……怒ってない。」
なんとも説得力のない言葉に笑いそうになってしまったのを隠しながら、その隣に腰掛け……
アーロンくんに抱きついた。
や。これは仕方ないと思うの。
だって可愛い。あのアーロンがこんな可愛い男の子なんだもの。
「なっ?!おい!抱きつくな!」
「んー…もうちょっとだけー…。」
「……っ!アンタ、無駄に力強いな…っ!」
離れようとじたばたしていたアーロンくんは諦めて暴れるのをやめて大人しくなった。
私は抱きかかえたままベッドに倒れた。
「……おい。」
「…ん…。」
「なんでそんなに悲しそうな顔してるんだ。」
「……気のせい、だよ。」
顔を見せないように、布団に顔を押し付けた。
悲しい……のかな。私の知らないアーロン…。
まだ、子どもで…私よりも年下で……。
「……アーロンくんはさ、将来……何になりたいとか、あるの…?」
「なんだよ、突然…。」
「…ちょっと、気になったから。」
そう言うと、少しため息混じりに話してくれた。
15になれば寺院の僧兵隊に入れる、寺院付きの僧兵になればこの孤児院に恩返しが出来るから…と。
「……そういえば、アンタの知り合いに俺と同じ名前の奴がいるんだろ?そいつはどんな奴なんだ?」
「…彼、はね…。昔は寺院を守る僧兵だったんだって。ずっと前に辞めてしまったけど…。」
「今は何をしてるんだ?」
アーロンくんは、興味があるのか私に聞いてきた。
彼の顔を見て、頬にかかる前髪を指ではらうと少しくすぐったかったのか、顔を動かした。
「今はね、召喚士のガードをしてる。…これから『シン』と戦うの…。」
「…アンタもか…?」
「そう、だね。私も戦う…。」
「…死ぬなよ。」
その言葉に、一瞬息が止まった。
「……頑張るよ。」
「頑張る、じゃなくてさ。俺、アンタともっと話がしてみたいんだ。……なんでか分かんないけど。」
「そんな風に言ってもらえるなんて嬉しいな…。」
ぎこちなく笑うと、背中に手を回され優しくとんとん…と、叩かれた。まるで、小さな子をあやすように……。
「約束だぞ。『シン』を倒したら、またここに来てくれよ。」
「……うん、約束…。」
守れない約束を交わす。
ふと、私がこのまま…ここにいればアーロンは……死なない道を選ぶ事ができるのではないか…そう、考えた。
だけど、すぐにそんな考えをした自分を恥じた。
彼は…。アーロンは、そんな事を望む人ではない…。これは、私のエゴだ。アーロンに生きていて欲しい…。私の、わがまま…。
彼と交わる道は無くても、彼が生きている世界があるだけで、それだけでいい……。そう思った私の勝手な願い事……。
「…おい。なんで泣いてんだよ…。」
「泣いてなんかないよ……っ。」
「…はいはい、泣き虫はみんなそう言うんだよ。」
「…っ…!」
アーロンくんに、頭を抱えられる形で抱きしめられた。胸に当たる耳に、とくとく……と、静かに聞こえる心音に胸を締め付けられる。
「……ね。」
「なんだ?」
「一回で良いから、名前…呼んで…?」
「なんだよ、それ。──────…ナマエ。」
まだ幼さが残る声で名前を呼ばれる…。
忘れないように、心に刻み込んで、目を閉じた。
「──────……。」
閉じた目を開いた。見慣れた天井。
窓からは月明かりが明るく室内を照らしていた。
「……夢…?」
自分で呟いた言葉に確信は持てなかった。
さっきまで感じていた温もりが、まだ私の身体を包み込んでいるような気がした。
ベッドから降りて部屋を出た。
静かな飛空艇の中、まるで私ひとりだけみたいな感覚になる…。
「────綺麗…。」
甲板に行く途中、大きな窓から見える月を見て言葉が溢れ出た。
満月が太陽のように大地を照らしている。
窓に近付き、ガラスに身体を寄せた。
ひんやりとする冷たさにこれが夢ではないと実感する。
「…眠れないのか?」
後ろから、声を掛けられた。
低くて、けれども優しい声色。
…けど振り返ることが出来なかった…。
「…ううん、寝たよ。目が覚めちゃっただけ。」
「そうか。」
そう言って、当たり前のように私の隣に立って月を眺める。
「なぜ、泣きそうな顔をしている。」
「え…。…やだなぁ、してないよー?」
「……泣き虫はみんな、そう言うんだ。」
静かに肩を抱かれた。
抱き寄せるとかじゃなくて、今、ここにいるって確認してするような抱き方で……。
「──お前に伝え忘れていたことがある。俺のことは気にするな。元々死んでいる身だ。お前が気に病むことではない。」
「……っ、そんな言い方…しないでよ…。」
「事実だ。だから……ナマエ、お前は前を見ろ。俯かずに胸を張って、生きろ。」
「……注文、多すぎ…っ…。」
必死に抑えていたものが、溢れた。
ひとつ、またひとつ。溢れて床を濡らしていく。
「俺は……お前を失いたくない…。」
「私だって、アーロンが必要だよ…。」
「……ナマエ……。」
肩を抱く手に力が込められる。
だけど、それだけ。
「……ね、アーロン。」
「…なんだ。」
「───ありがとう。」
たくさん言いたい事はあるのに、言葉がうまく出てこなくて…。
それしか言えなかった。
「…もう、寝ろ──────これが最期だ。」
それだけ言うと部屋へ戻っていくその背中を見送ることしかできなかった。
愛しくて、寂しくて…。
名前のつけられない感情に押しつぶされそうになる心がいつまでも痛み続けた。
fin.
──────────────────────
後書き(08.03.18)
結構前に書き始めてはいたのですが、中々まとまらずに放置かましてました…。
本当はもうちょっと(かなり)幼アーロンとイチャイチャ(?)させたかったのですが、力不足で違う方向に…_(:3 」∠)_
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