間抜け
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真っ白のロードバイクは、茹だるような暑さと、人の熱気と、歓声と、そして風を切り裂いて進んでいく。
「本当に、天使みたい」
その呟きはザーッというシャワーに掻き消された。
.
.
.
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「今年、チャリ部は二位だったんだねーっ」「
でもすごいよねー、うちなんか地方大会落ちだったし」
新学期に入り、校舎も生徒の声で賑わうようになった。夏休み前に部活動を引退していた者、勝ち進んでIHに出場していた者…それぞれにとって今年の夏は一際心に残るものだったのだろう。
「あの子は今日も休みなんだね」
「ああ…出席日数足りてるのかなぁ」
「さあ?」
全然来てないし実は転校してるんじゃなーいッ、と言って笑い声が更に大きくなる。その時、ガラリと音がして教室前方の扉が開いた。
「おはよう、みんな。今日から新学期だ。言うまでもなくみんなは受験生でここからが正念場と言っても過言ではない。気合をいれてほしい。さあ、始業式に行こうか」
はーい、と生徒達は返事をし、ダルいねー、あー受験やめてぇなーなどと言いながらだらだらと教室を出る。賑やかな声が消えて、教室は再び静けさで満ちた。
.
.
.
.
まだ残暑が残るこの季節に屋上に出る人間なんていないだろう、と思っていたがどうやら先客がいたようだ。
「真依」
「品行方正で有名なアンタが始業式に出席しないなんて珍しいわね、東堂」
細く伸びた腕をひらりと挙げる。相変わらずだ。
「はははっ、そういう時もあって良いだろう?」と一蹴したが真依は相変わらず疑い深い目で俺を見る。
「私みたいな人間は出席しなくても注意で済むけれど、アンタみたいな人間がしたら周りも動揺するんだから、」
もっと考えてやりなさいよ。と小さな声で呟かれた。
「どうも忠告をありがとう、真依。」
どすん、と隣に腰掛ける。ちょうど良い影で日差しが遮られて気持ちいい。
「お前はこの夏何をしていたんだ?」
俯く彼女に尋ねる。尖った顎を膝に乗せて、「別にィ」と答えた。小さな顔に不釣り合いな大きなぶどう色の目は行き場を無くしたように動いている。
まだ蝉はひっきりなしに鳴いていて、その音が耳に染みて煩い。早く秋になってほしいな、と心の中で思う。
「IH、テレビで観たよ。惜しかったね」
「そうか。ありがとう。でも悔いはもう無い。良いレースだった」
「そっか」
あの時、全員が全身全霊を尽くしたのだ。最後、脚がもう悲鳴を上げていても必死にペダルを回した。それでも俺たちはーーーー勝てなかったが。
「私、あの時真波が天使に見えたの」
「天使?」
真依の横顔を見つめる。
「うん。青い髪が夏風に靡いて真っ白いロードバイクで風を切っていく姿が、空から降りてきた天使みたいだった」
真波山岳。箱学史上初、一年生でIHに出場した男。そして俺と同じクライマー。
そういえばアイツ…
「お前に会いたがってたぞ」
「えー、困るなぁ」
ははっと乾いた声で笑う。その次に、物憂げな眼になって真依はこう言った。
「でもあの日…心底思ったんだよ。ああ、真波と私は絶対に交わらないんだな…って」
「本当に、天使みたい」
その呟きはザーッというシャワーに掻き消された。
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「今年、チャリ部は二位だったんだねーっ」「
でもすごいよねー、うちなんか地方大会落ちだったし」
新学期に入り、校舎も生徒の声で賑わうようになった。夏休み前に部活動を引退していた者、勝ち進んでIHに出場していた者…それぞれにとって今年の夏は一際心に残るものだったのだろう。
「あの子は今日も休みなんだね」
「ああ…出席日数足りてるのかなぁ」
「さあ?」
全然来てないし実は転校してるんじゃなーいッ、と言って笑い声が更に大きくなる。その時、ガラリと音がして教室前方の扉が開いた。
「おはよう、みんな。今日から新学期だ。言うまでもなくみんなは受験生でここからが正念場と言っても過言ではない。気合をいれてほしい。さあ、始業式に行こうか」
はーい、と生徒達は返事をし、ダルいねー、あー受験やめてぇなーなどと言いながらだらだらと教室を出る。賑やかな声が消えて、教室は再び静けさで満ちた。
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まだ残暑が残るこの季節に屋上に出る人間なんていないだろう、と思っていたがどうやら先客がいたようだ。
「真依」
「品行方正で有名なアンタが始業式に出席しないなんて珍しいわね、東堂」
細く伸びた腕をひらりと挙げる。相変わらずだ。
「はははっ、そういう時もあって良いだろう?」と一蹴したが真依は相変わらず疑い深い目で俺を見る。
「私みたいな人間は出席しなくても注意で済むけれど、アンタみたいな人間がしたら周りも動揺するんだから、」
もっと考えてやりなさいよ。と小さな声で呟かれた。
「どうも忠告をありがとう、真依。」
どすん、と隣に腰掛ける。ちょうど良い影で日差しが遮られて気持ちいい。
「お前はこの夏何をしていたんだ?」
俯く彼女に尋ねる。尖った顎を膝に乗せて、「別にィ」と答えた。小さな顔に不釣り合いな大きなぶどう色の目は行き場を無くしたように動いている。
まだ蝉はひっきりなしに鳴いていて、その音が耳に染みて煩い。早く秋になってほしいな、と心の中で思う。
「IH、テレビで観たよ。惜しかったね」
「そうか。ありがとう。でも悔いはもう無い。良いレースだった」
「そっか」
あの時、全員が全身全霊を尽くしたのだ。最後、脚がもう悲鳴を上げていても必死にペダルを回した。それでも俺たちはーーーー勝てなかったが。
「私、あの時真波が天使に見えたの」
「天使?」
真依の横顔を見つめる。
「うん。青い髪が夏風に靡いて真っ白いロードバイクで風を切っていく姿が、空から降りてきた天使みたいだった」
真波山岳。箱学史上初、一年生でIHに出場した男。そして俺と同じクライマー。
そういえばアイツ…
「お前に会いたがってたぞ」
「えー、困るなぁ」
ははっと乾いた声で笑う。その次に、物憂げな眼になって真依はこう言った。
「でもあの日…心底思ったんだよ。ああ、真波と私は絶対に交わらないんだな…って」
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