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永遠
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「あー面倒なこった……」
江戸の町をダラダラと歩きながら沖田は独り呟いた。
それはほんの三十分前のこと。
いつものように沖田は、仕事をさぼって縁側で昼寝をしていた。すると、またいつものように土方が怒鳴った。
「総悟!仕事しろ仕事ォ!」
「なんです土方さん、俺の安眠を奪わねェでくれますかィ」
沖田はアイマスクをずり上げ、寝転がったまま薄目で土方を見上げながら言った。
そんな沖田を見下ろしながら、土方は沖田の体を片足で転がした。
「昼寝してる暇があったら見回りにでもいってこい」
そう、彼は追い出されたのだ。
特に抵抗もせず素直に出てきたものの、もちろん真面目に仕事をする気などなかった。パトロールのふりをして町をぶらぶら歩いているだけだ。
そうしていると、団子屋の前に出た。ちょうど小腹がすいていた沖田は、店前の長いすに腰かけた。
「おっちゃん、みたらし三本ね」
店の主人は、愛想よく返事をすると、すぐにお茶と団子を運んできた。
沖田は、冷えた茶を一気に飲み干すと、少しだけ体の熱がひいて頭が冴えた気がした。
全く、こんな蒸し暑い日に外を出歩くなんて考えただけでも気が滅入るというのに、よくこんな仕事を自分に押し付けたものだ。一体どうしたら土方を抹殺できるのだろうか。そんな物騒なことを考えながら沖田は団子を口に運んだ。
「お隣、いいですか?」
沖田が声の方を見ると、女性が一人立っていた。どうやら相席をしたいらしい。ちょうど午後の甘味処が混む時間帯で他に席がなかったからだ。
「かまいやせんよ」
沖田がそういうと、彼女は少し微笑んで沖田の右隣に腰かけた。
整った顔立ちで髪の長い若い女性。沖田よりも年上のようだった。どこかで見たような気がする。沖田はそう思ったが、すぐに気のせいだろうと思いなおした。
沖田は団子を食べ終わった後も、そのまま座って町をぼんやり眺めていた。
いい天気だ。日差しはきついがほどよく風は吹いていて、縁側の日陰で昼寝をするには最高の気候だ。
やはり帰って昼寝がしたい。沖田はそう考えると、再び土方への恨みがじわじわと込み上げてきた。ああホントにあの野郎…
『どうしたら土方を抹殺できるのかしら……』
すぐそばで物騒な言葉が聞こえた。
「……?」
沖田は、一瞬自分の心の声が漏れたのかと思った。しかし、声の主は右隣のようだった。視線を隣にやると、彼女は何事も無いように団子を口に運んでいる。
「おねーさん、今なんて言いやした?」
沖田がそう尋ねると、彼女は団子を持つ手を止め、はっとしたように沖田の方を見た。
「え?……あ、もしかして心の声漏れてました?気にしないで下さい、独り言です」
そうにこやかに返された。彼女の爽やかな笑顔が逆に不自然だった。
まさか、この人わざとだろうか。俺の着ている隊服が見えない訳じゃないだろうに。沖田は涼しげな表情の彼女を見ながらそう思った。真選組の隊士の前で副長の抹殺の話なんて、普通なら怒り出すだろう。
そう、普通なら。
沖田は、彼女に向って笑顔を返した。
「おねーさん、少しお話しやせんかィ?」
「?」
――――――――――――――――――――――――――――――
「総悟、お前遅かったじゃねぇか。そんなに真面目に仕事してたのか?あ?」
夜八時頃、屯所に帰ってきた沖田に、またもや土方はご立腹のようだった。
全くいつも機嫌の悪い野郎だ。沖田は、土方の小言を聞きながら心の中で舌打ちをした。
「いやーすいやせん。ちと相談にのってたら遅くなっちまいやした」
「相談てなんだよ?」
「こっちの話でさぁ」
ご機嫌な表情の沖田に、土方は訝しげな顔をした。気味が悪いとでも言いたげだ。
「…あんたは何も知らなくていいんでさァ」
土方に聞こえないほどの声で呟くと、沖田は、もう寝ると言って部屋に戻って行った。
真夜中になり、屯所内は静まり返っていた。どの部屋からも灯りは消え、みな自室で眠りについているようだった。
しかしそんな中、土方はまだひとり働いていた。やっと今日中の仕事が終わるところだ。最後の書類をまとめ、灯りを消すと静かに布団に入った。
それでも目が冴えて中々寝付けないので、土方は、暗闇の中で今日一日のことを考えていた。
全く、総悟には困ったものだ。完全に俺をなめてやがる。今日も仕事に追われた日だった。でも、やっと眠れる。
そう思いながら、一息ついて目を閉じた時だった。
……土方……死ね…………土方……
どこからか声が聞こえた。普通なら怖がるところだが、土方はこの状況に覚えがあった。
きっとあれだ。また総悟が外で藁人形を片手に呪いの儀式を開いているのだ。俺を抹殺するための。
土方はそう思い、呆れつつもその儀式を中止しようと、布団から身を起こそうとした。
「!?」
だが、体が重い。上手く動かない。
暗闇の中に、女の影が浮かび上がった。布団越しに土方の体の上に乗っている。暗くてよく見えないが明らかにおかしい。こんな時間に、土方の部屋に人がいるわけがなかった。
「なんなんだ、ホントに呪いか……!?」
さすがにこの状況には、土方も恐怖を覚えた。
するとその女は、土方の首に両手を伸ばしてきた。凄い力で土方の首を締め上げ、すぐに呼吸が出来なくなる。
「……やめっ……く」
このままではまずい。とっさにそう思い、土方は何とか枕元に置いていた刀を手繰り寄せた。それで女の体を一気に突き放す。女は、衝撃で畳の上に倒れこんだ。
「い……ったぁ……」
お化けの類にしては間抜けな声だった。
すかさず土方は立ち上がり、部屋の灯りを付けた。
「………お前」
「……」
そこに倒れていたのは、昨日お礼に来たと見せかけて喧嘩を売りに来たあの女だった。
「………チッ」
土方を睨みながら舌打ちなんかしている。
「どういうつもりだ……。警察で殺人未遂たァ、いい度胸じゃねーか…」
土方は立ち上がって彼女に近づいた。怒りと呆れで手が震えている。
「未遂、のはずじゃなかったけどね」
彼女は土方から目線を外しながら呟いた。こんな状況でもまるで悪びれていない。
すると、突然障子が開いた。
「総悟か!?」
そこには沖田が立っていた。白装束に身を包み、手には藁人形と五寸釘が握られている。
「て、やっぱり儀式じゃねぇか!」
沖田につかみかかろうと近づく土方を押しのけて女は言った。
「ちょっと総悟!敗しちゃったわよ!」
「だから、ちゃんと寝るまでもう少し待てって言ったじゃねぇですかィ。伊織のせいでさァ」
総悟。伊織。そう呼び合う二人。
「………お前ら、随分仲良しじゃねぇか……」
つまりはグルか。そう察した土方の眉間のしわは増すばかりだった。土方が二人をどうしてやろうかと考えていると、あることに気が付いた。
「なんかお前ら酒くせ……」
沖田は平気そうだが、女の方は顔も若干赤い。
「お前ら飲んでたのかよ!!仕事もしないで……おい総悟……」
今にもキレそうな土方に、女は向き直って言った。
「私は酔ってましぇん!!」
「じゃあちゃんと喋れ」
土方は心身共に疲労を覚えていた。右手で顔を覆い、盛大にため息をつく。もう怒る気力などなかった。
「総悟、もうお前寝ろ。俺は疲れた。続きは明日だ、覚えてろよ」
「あれ、そうですかィ?伊織はどうするんでさァ」
そう言われて、急に静かになった彼女を見ると、畳に横になって寝息を立てていた。
「……こいつ……!」
昨日と一緒だ。騒ぐだけ騒いでこれだ。寝顔は安らかに、そして心なしか笑っている。
「土方さん、しゃあねぇや。どっか部屋で寝かしやしょう」
沖田は、幸せそうに眠る彼女を見下ろしながらそう提案した。
確かに、こりゃ起きそうもない。土方はそう思い、仕方ないので空いている部屋に彼女を引きずっていくことにした。
江戸の町をダラダラと歩きながら沖田は独り呟いた。
それはほんの三十分前のこと。
いつものように沖田は、仕事をさぼって縁側で昼寝をしていた。すると、またいつものように土方が怒鳴った。
「総悟!仕事しろ仕事ォ!」
「なんです土方さん、俺の安眠を奪わねェでくれますかィ」
沖田はアイマスクをずり上げ、寝転がったまま薄目で土方を見上げながら言った。
そんな沖田を見下ろしながら、土方は沖田の体を片足で転がした。
「昼寝してる暇があったら見回りにでもいってこい」
そう、彼は追い出されたのだ。
特に抵抗もせず素直に出てきたものの、もちろん真面目に仕事をする気などなかった。パトロールのふりをして町をぶらぶら歩いているだけだ。
そうしていると、団子屋の前に出た。ちょうど小腹がすいていた沖田は、店前の長いすに腰かけた。
「おっちゃん、みたらし三本ね」
店の主人は、愛想よく返事をすると、すぐにお茶と団子を運んできた。
沖田は、冷えた茶を一気に飲み干すと、少しだけ体の熱がひいて頭が冴えた気がした。
全く、こんな蒸し暑い日に外を出歩くなんて考えただけでも気が滅入るというのに、よくこんな仕事を自分に押し付けたものだ。一体どうしたら土方を抹殺できるのだろうか。そんな物騒なことを考えながら沖田は団子を口に運んだ。
「お隣、いいですか?」
沖田が声の方を見ると、女性が一人立っていた。どうやら相席をしたいらしい。ちょうど午後の甘味処が混む時間帯で他に席がなかったからだ。
「かまいやせんよ」
沖田がそういうと、彼女は少し微笑んで沖田の右隣に腰かけた。
整った顔立ちで髪の長い若い女性。沖田よりも年上のようだった。どこかで見たような気がする。沖田はそう思ったが、すぐに気のせいだろうと思いなおした。
沖田は団子を食べ終わった後も、そのまま座って町をぼんやり眺めていた。
いい天気だ。日差しはきついがほどよく風は吹いていて、縁側の日陰で昼寝をするには最高の気候だ。
やはり帰って昼寝がしたい。沖田はそう考えると、再び土方への恨みがじわじわと込み上げてきた。ああホントにあの野郎…
『どうしたら土方を抹殺できるのかしら……』
すぐそばで物騒な言葉が聞こえた。
「……?」
沖田は、一瞬自分の心の声が漏れたのかと思った。しかし、声の主は右隣のようだった。視線を隣にやると、彼女は何事も無いように団子を口に運んでいる。
「おねーさん、今なんて言いやした?」
沖田がそう尋ねると、彼女は団子を持つ手を止め、はっとしたように沖田の方を見た。
「え?……あ、もしかして心の声漏れてました?気にしないで下さい、独り言です」
そうにこやかに返された。彼女の爽やかな笑顔が逆に不自然だった。
まさか、この人わざとだろうか。俺の着ている隊服が見えない訳じゃないだろうに。沖田は涼しげな表情の彼女を見ながらそう思った。真選組の隊士の前で副長の抹殺の話なんて、普通なら怒り出すだろう。
そう、普通なら。
沖田は、彼女に向って笑顔を返した。
「おねーさん、少しお話しやせんかィ?」
「?」
――――――――――――――――――――――――――――――
「総悟、お前遅かったじゃねぇか。そんなに真面目に仕事してたのか?あ?」
夜八時頃、屯所に帰ってきた沖田に、またもや土方はご立腹のようだった。
全くいつも機嫌の悪い野郎だ。沖田は、土方の小言を聞きながら心の中で舌打ちをした。
「いやーすいやせん。ちと相談にのってたら遅くなっちまいやした」
「相談てなんだよ?」
「こっちの話でさぁ」
ご機嫌な表情の沖田に、土方は訝しげな顔をした。気味が悪いとでも言いたげだ。
「…あんたは何も知らなくていいんでさァ」
土方に聞こえないほどの声で呟くと、沖田は、もう寝ると言って部屋に戻って行った。
真夜中になり、屯所内は静まり返っていた。どの部屋からも灯りは消え、みな自室で眠りについているようだった。
しかしそんな中、土方はまだひとり働いていた。やっと今日中の仕事が終わるところだ。最後の書類をまとめ、灯りを消すと静かに布団に入った。
それでも目が冴えて中々寝付けないので、土方は、暗闇の中で今日一日のことを考えていた。
全く、総悟には困ったものだ。完全に俺をなめてやがる。今日も仕事に追われた日だった。でも、やっと眠れる。
そう思いながら、一息ついて目を閉じた時だった。
……土方……死ね…………土方……
どこからか声が聞こえた。普通なら怖がるところだが、土方はこの状況に覚えがあった。
きっとあれだ。また総悟が外で藁人形を片手に呪いの儀式を開いているのだ。俺を抹殺するための。
土方はそう思い、呆れつつもその儀式を中止しようと、布団から身を起こそうとした。
「!?」
だが、体が重い。上手く動かない。
暗闇の中に、女の影が浮かび上がった。布団越しに土方の体の上に乗っている。暗くてよく見えないが明らかにおかしい。こんな時間に、土方の部屋に人がいるわけがなかった。
「なんなんだ、ホントに呪いか……!?」
さすがにこの状況には、土方も恐怖を覚えた。
するとその女は、土方の首に両手を伸ばしてきた。凄い力で土方の首を締め上げ、すぐに呼吸が出来なくなる。
「……やめっ……く」
このままではまずい。とっさにそう思い、土方は何とか枕元に置いていた刀を手繰り寄せた。それで女の体を一気に突き放す。女は、衝撃で畳の上に倒れこんだ。
「い……ったぁ……」
お化けの類にしては間抜けな声だった。
すかさず土方は立ち上がり、部屋の灯りを付けた。
「………お前」
「……」
そこに倒れていたのは、昨日お礼に来たと見せかけて喧嘩を売りに来たあの女だった。
「………チッ」
土方を睨みながら舌打ちなんかしている。
「どういうつもりだ……。警察で殺人未遂たァ、いい度胸じゃねーか…」
土方は立ち上がって彼女に近づいた。怒りと呆れで手が震えている。
「未遂、のはずじゃなかったけどね」
彼女は土方から目線を外しながら呟いた。こんな状況でもまるで悪びれていない。
すると、突然障子が開いた。
「総悟か!?」
そこには沖田が立っていた。白装束に身を包み、手には藁人形と五寸釘が握られている。
「て、やっぱり儀式じゃねぇか!」
沖田につかみかかろうと近づく土方を押しのけて女は言った。
「ちょっと総悟!敗しちゃったわよ!」
「だから、ちゃんと寝るまでもう少し待てって言ったじゃねぇですかィ。伊織のせいでさァ」
総悟。伊織。そう呼び合う二人。
「………お前ら、随分仲良しじゃねぇか……」
つまりはグルか。そう察した土方の眉間のしわは増すばかりだった。土方が二人をどうしてやろうかと考えていると、あることに気が付いた。
「なんかお前ら酒くせ……」
沖田は平気そうだが、女の方は顔も若干赤い。
「お前ら飲んでたのかよ!!仕事もしないで……おい総悟……」
今にもキレそうな土方に、女は向き直って言った。
「私は酔ってましぇん!!」
「じゃあちゃんと喋れ」
土方は心身共に疲労を覚えていた。右手で顔を覆い、盛大にため息をつく。もう怒る気力などなかった。
「総悟、もうお前寝ろ。俺は疲れた。続きは明日だ、覚えてろよ」
「あれ、そうですかィ?伊織はどうするんでさァ」
そう言われて、急に静かになった彼女を見ると、畳に横になって寝息を立てていた。
「……こいつ……!」
昨日と一緒だ。騒ぐだけ騒いでこれだ。寝顔は安らかに、そして心なしか笑っている。
「土方さん、しゃあねぇや。どっか部屋で寝かしやしょう」
沖田は、幸せそうに眠る彼女を見下ろしながらそう提案した。
確かに、こりゃ起きそうもない。土方はそう思い、仕方ないので空いている部屋に彼女を引きずっていくことにした。
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