7.眩暈
夢小説設定
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「私、何かしちゃったのかしら――」
なるほど、彼女の様子が変だったのは、やはり彼が関係していた。
あの日、偶然千切くんを見かけたんだけど、避けられて、それから一度も彼は音楽室にこない。
一通り聞いて、友人は足に肘をのせ、そのまま頬杖をつく。
「あの日私服だったし、ケイナって思わなかったんじゃないの……」
「目が、合ったのは確かなんだけど、」
「それまでは普通だったんだよね」
ケイナはゆっくり頷いた。友人は考え込むように唸る。
ついこないだ流れ星を一緒に見た話をケイナから聞いたばかりだった。それからのこの展開、なにがどうなっているのだろう。
「異性の仲良い子を避ける理由――①自分でも気付かないうちに相手の地雷を踏んだ、②彼女、またはいい感じの女ができたから他の女と距離をとった、もしくは」
友人の最後の憶測に、ケイナは目を見開いた。
「③後ろめたいことがある」
「うしろめたい、こと……」
「まぁこれってうちらのただの想像でしかないけどさ。ってか連絡とってみたら?」
「連絡先、知らない」
「は?」と友人は素っ頓狂な声をあげた。
「なんで?」
「いつも彼が会いに来てくれていたから」
「まじ……」
いつも直接会って話していたから、連絡手段の必要性を感じなかった、と。
友人はベンチの背もたれによりかかった。
「別によくない? うちらもうすぐ東京帰るしこのままバイバイしちゃっても」
「どうして――?」
「だって、もう物理的に会えなくなるんだよ。いいじゃん。期間限定のおともだちができたーくらいに思っておけば」
友人を見ていたケイナの視線が、浮遊するように前方へ移った。何かを視界に入れているわけではない。多分彼女の瞳の中には、ここにいないはずのだれかが居座っている。
「今どう思った?」
彼女の内側を暴くように、友人は切り込んだ。
「あたしが言ったことに対して瞬間的に思ったことが、ケイナの本音だと思う」
友人は、続けた。グレーなんて選ばせてやらない。白黒を、つけさせる。
「ケイナはどうしたい? ゙ちぎりくん゙とどうなりたいの」
「わた、しは」
はたから見てもわかるくらい彼女は動揺している。ああもう、全身で言っているじゃないか。
――彼に、会いたいって。
「一つ気付いたことあってさ。ちぎりくんのこと話す時のケイナ、将来の夢語る時とおんなじ顔してるんだよね」
「それって、」
「なんて言ったらいいかな……、こう――幸せそうだった」
「――しあわせ?」
「とっくにあんたっていう世界の中に、間違いなく入っちゃってるんだね……ちぎりくん。そうやって相手のことで悩むのは、その人との繋がりを大事に思ってるからだよ」
だってどうでもいいやつのことで悩むわけなくない。
付け足して、友人は空を仰いだ。
「それにしてもちぎりくんすごいわ。こんな短期間で人一人の気持ちをこれだけ動かすとか、あんたが言ってたとおりいい人なんだろうね」
人としても。男子としても。
はじめてケイナから彼の話を聞いた時に感じた心配は杞憂でしかなかった。彼女を見ていればわかる。
自分の知らないところでこの亜麻色の髪の友は、縁もゆかりもなかったこの土地で運命じみた絆をつないだのだと。
少しだけ声を濡らして、ケイナは小さく「ありがとう」を伝えた。
乾いた草木の匂いが、鼻の奥をくすぐった。
2025/5/5.
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