6.遠ざかる背中
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どうしてこうも午後からの授業というものは、時間が長く感じるんだろう。午前中はあっという間だというのに。
「今日は天気がいいな」なんて現実逃避していたら、思わずあくびが出たので開いた大口を手で覆った。
今は絶賛四限目、英語の授業中。先生が黒板にチョークを走らせていく音がいやに教室内に響いていた。
前回の復習と、その応用ポイントを説明しているみたいだけど、正直さっぱりわからない。いかん苦手教科だ。
真面目に聞く気もなくて、持ったシャーペンを指の上で遊ばせる。黒板の板書はあとでゆっくりやろう。
今日は授業が終わったら速攻家に帰って先日買ったばかりのゲームを早く進めたい。昨日も夜中までやっていたから、寝坊しかけて母親に叩き起こされた。明日は休日、余裕でオールの未来しか見えない。帰りにコンビニでお供のジュースやらポテチやら買いこもう、うん。
そんな事を考えていると、先生から名前を呼ばれた。思わず小さく体が跳ねる。
「早く読みなさい」とうながされ、反射的に立ち上がる。
読む? どこを? やばい聞いてなかった。教科書をぱらぱら捲りながら冷や汗をかいてしまう。
「三十二頁。上から六行目」隣から小さくて、単調な指定箇所があがる。
え、と一瞬うろたえたけれど、言われた箇所をとりあえず読み上げれば、「よろしい。次、前田」と先生が新たに指名したので着席する。
ちらりと隣を見て「さんきゅ」と礼を述べれば「ん」と短く反応が返ってきた。
先日席替えをしてから隣になったものの、あまり話したことがなかったので、驚いた。
スピードスター。韋駄天。赤豹。全部こいつを敬称する言葉だ。
千切豹馬。九州でも強豪と言われているうちの学校のサッカー部エース、だった男、らしい。
一年の時クラスが別だったから詳しくは知らないけど、試合中に怪我をしてから部活にあまり顔を出してないとかなんとか。
おとなしい性格なのかあまり自分から話さないし、クラスメイトも積極的にこいつと話そうとするやつはいない。
俺も席替えで隣になった時によろしくな、と挨拶をしただけでそれ以来ちゃんとした会話という会話をしたことがなかった。
ふと一年の時のこいつを思い出してみる。といっても廊下ですれ違ったくらいだったが、その頃の千切は友達に囲まれて快活に笑っていた。
だからこそ今とのギャップに驚いている。こいつこんな話さないというか、人寄せつけないタイプだったけって。人格を潜めてしまうほどのなにかがあったのか。
見た目の華やかさだけは変わらずで、本人は知らないだろうけど女子からの人気は密かにあるのだ。
千切が机の中からスマホを取り出した。画面がちかちか光っている。タップして、スマホを見つめる千切の顔に、悲し気な影が落ちた。その画面が見えてしまったのは、意図的でもなんでもない。なんのことはない、スケジュールアプリの通知のようだった。
≪明日 16時 病院≫
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