5.星屑の愛歌
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あと少しというところで学校に着くころ、はたと思い起こしたことがある。
自分は、あの学校の裏門を知らない。彼から指定された時に聞いておくべきだった。
自己反省はするもののそこまで内心慌てふためいていないのは、『裏』というからには正門の反対側と考えていいのだろうと想定できたからで。
気がつけば学校の正門前まで来ていた。時間帯と住宅が少し離れた場所にあることも相まって、あたりは薄暗い。等間隔で道沿いからのびた街頭の光の膜だけが、たよりなく周辺を明るくしていた。
校内を囲うフェンスに沿って、先をゆく。これをたどっていけば裏門とやらに着けるはずだと思った。案の定、ある程度歩いた先に正門より小さめな門が見えてきた。スマホの電源をつけ、時間を確認する。約束の十一時半、ちょうどだった。
そこに人影があることを認めた。彼の短い髪の紅は、暗闇の中ですら燃えている。
「こんばんは」
「よう」
フェンスに預けていた背をしなやかにうねらせ、彼はしゃんと立った。
正直、千切の中でケイナの挨拶の仕方が、いまだ慣れないものがあった。
「おはよう」はまだわかる。昼に「こんにちわ」、夕方に「こんばんは」、同級生たちがクラスメイトや友人に会うたびに使わないような言い方をしてくるのだ。
現にそんな言葉を使ってくる同級生に出会ったことがない。
本人の口から聞いたことはないが「ご機嫌よう」なんて昨今では廃れつつあるような言い回しも、彼女だったら許されてしまえそうな気さえする。
自分が同じものを使うことがとてもではないけれどむずがゆくて、毎度軽く自己流で返答していた。
彼女の日頃の言葉使いや仕草を見ていると、荒い言動をすることに気が引けてしまう。本人はとくに気にしていないのだろうが。
私服、新鮮。彼を見つめながらケイナは思う。制服姿ばかりみていたからか。
薄い色合いのジーンズにスニーカー。厚手の黒いパーカーの理由は、夜だとまだ少し肌寒いからだろうか。
「千切君、どうしてここを集合場所にしたの?」
思っていたことを尋ねた。ここからどこか空のよく見える場所に移動でもするのだろうか。そう勝手に想定して、ヒールのないパンプスを履いてきた。
彼の返答は想定と異なっていた。
「学校で見るから」
え、と声が出てしまう間も与えられず、千切は門に手をかけ勢いをつけて飛び、上に跨がった。呆然とその様子を見ていたケイナに、彼は早くと急かすよう手を伸ばした。
彼が学校を選んだのは、ここが山手に近い場所にあり街も離れているため、夜空もよく見えるだろうと如才なく踏んだのが理由らしい。
聞くところによると、今日の下校間際に準備はすでに済ませていたとのことだった。
別校舎の一階端にある科学準備室の窓の鍵を、こっそり開けていたらしい。
よくばれなかったと思う。警備員も扉の施錠は確認すれど、校舎内すべての窓については毎回施錠チェックとなれば、いくら時間があったところで足りないのは見てとれる。
二人は忍ぶように窓から中に入り、そのまま部屋を抜けて次には階段を目指した。
夜の校舎というものにはじめてきたが、こんなにも暗く薄気味悪いものなのか。
昼間生徒たちの無邪気な笑い声で満たされる校内の姿とは、まったくもって別物に思える。室内の景色は同じはずなのに。
登りきった階段の先に見慣れた緑色の扉をくぐって、屋上につく。
風がやわいけれど荒くて、少しだけ肌寒い。カーディガンを着てきてよかった。
二人、空を見上げる。おもわず、同時に感嘆がもれた。
天上透ける夜の海に、数多の星がきらめいてた。
流星が見れる時間には、まだ少し早かった。
とりあえずと、共に屋上の柵に背中を預けて座る。
寒さをしのぐように片腕をさすっているケイナを見て、千切がパーカーのこれまた大き目なポケットから、なにかを取りだし彼女に渡した。缶のホットカフェオレだった。
まごついている様子のケイナに「カフェオレ嫌いだったか……?」と尋ねると、「お金」と斜め上な心配をしてきたので「こないだの差し入れの礼」と突っぱねた。
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