5.星屑の愛歌
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その夜、身支度を整えたケイナは意を決するように、自分の部屋のドアを少しだけ開けた。隙間から廊下をのぞけば時間も時間なためか人影はなく、間遠に設置された天井の電灯がわびしく光っている。別の部屋から宿泊客の声すら漏れてこない。静かだ、とても。
日付が変わるにはまだほんの少し早い、そんな現在時刻。本来なら自分達未成年はとっくに寝ているころだ。
そんな時間帯に、自分史上大人に顔向けできないようなことをしようとしている。はじめにあったのは後ろめたさと、自分含め周りに対する罪悪感。けれどそれを上回ってしまった好奇心。
朱色の絨毯がしきつめられた廊下を、音を立てないようすり足ぎみに歩き、するりとエレベーターに乗り込んだ。急いで『閉』ボタンを押す。
表示灯が自分の部屋の階から一階ずつ降りていくの眺めるケイナの心境は、正直気が気ではなかった。外に出るにはロビー横を通らなければならない。もし、万が一そこに先生がいたら……、間違いなく大目玉をくらうこととなる。怒られるくらいならまだいい、まさか"あなた"が? と失望に歪む担任の顔が空想の中でゆれた。
ぽーん、と軽快な音をたてて自分を乗せるかごが一階についた。開いた扉から少しだけ身を乗りだし当たりを見遣る。ソファのならんだ広いロビーには、誰もいない。フロントには、裏にいるのか従業員の姿もなかった。
今だ。音もなくすべるように、ホテルを出た。
黒猫に会ったあの日、千切から提案された流れ星を一緒に見るという約束は、いよいよ本日決行されることとなった。
流星群が現れる時間帯を調べたところ、夜は夜でも深夜の限られた一時間程度だった。
はじめ千切から誘われたときは、てっきり街の展望台か、星を見れる穴場のスポットでもあるのかと思っていた。
――夜、十一時半過ぎ。学校の裏門で。
彼から矢継ぎ早に指定されたそれを、暗号じみている、と感じたのはここだけの話である。
学校の裏門、なぜそこに? と尋ねる間もなかった。
ちなみにこのことを話しているのは、一番仲のいい友人一人だけである。
夜にないしょで宿泊中のホテルから抜けだすという生徒としてあるまじき行為をしなければならないことに対して、はじめ止められると思ったが、「行っといでよ。先生と他の子たちには見つかんなよ」と意外にもあっさりとした返答をもらえたのには驚いた。「反対しない?」と尋ねれば、「反対してほしい?」と逆に問われた。
「ケイナってさ、レールから外れた違反行為ってしたこともなければしようと思ったこともないよね。校則とかいい例。制服着崩したり髪染めたりとか、友達からそそのかされてもそういうのに便乗したことってないじゃん? けどさ、そのちぎりくんからの誘いをはなから断るっていう選択肢が頭になかったっていうのは、自分が危ない橋渡ってでもその人との約束を選びたかったってことでしょ」
言葉が継げなかった。すべて見透かされていたようで。
帰ったら、彼女に話を聞いてもらいたい。これから見るであろう光景が、どんな美しいものだったか。深紅の花のような彼が、どれだけ素敵なひとかを。
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