4.黒猫
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彼の視線に気付いたケイナがおもむろにテキストから顔を引き上げた。
どうしたのかと問われたので、「あんたがクラスにいるのって変な感じ」と再び問題を片付けるべくプリントへシャープペンシルを走らせる。彼女がジュースを飲む気配がした。音楽室の鍵を返却しに行った際、もう人も少ないし校内を歩いてもいいと職員室の教師に許可を得られたとのことだった。そっか、と自分もストローに口をつける。果物の甘さが喉を通過して落ちていった。なじんだ味なのに、目の前の彼女が飲んでいると思うと別の液体のようにも思える。
最後の一問、ラスボス応用。式を細かく紙の上に仕上げていく。千切の集中を黙ってケイナは見守った。何度か消しゴムで修正して、テキスト上の似たような問題からヒントを拾いあげて導き出した答えを、力強く書く。あとは机に閉まって明日提出するだけ。「ねぇ、千切くん」と静かに呼ばれた気がして彼女に目をくれた。
「ここって、流れ星が見れるの?」
どこで拾ってきたかもしれない地元の情報。千切は一瞬考え込んだ。
「大体は夏だけど、たしか今の時期も見れるんだっけか」
如何せん高いビル群よりも緑が多い場所なもので。その時期の高台にある展望台には期間限定の星の群れを拝むべく観光客やら地元民が押し寄せる。人込みは苦手なぶんあまり近づいたことがないが。
「朝のニュースで流れてて、私の住んでるところじゃ見れる機会がないからすごいと思って――」
姉が東京に住んでいることから向こうに行ったことはあるので、理解は容易い。街自体が発光している分、夜景のほうが見ごたえがある場所だ。ケイナがジュースを飲み干すのを追うように千切もパックを空にした。どこか透明な表情をしている彼女をうながし、席をたった。
「この後よるところあるけど、一緒にくるか」という千切のゆるい誘いに、どこにとは追及せずケイナは頷いた。その前に買いたいものがあるとコンビニに向かう。学校から一番近いそこは午前と夕方に同校の制服で店内が埋め尽くされるのは見慣れた光景で、かくいう千切も帰りに好物を買うためによく寄っていた場所でもある。あくまで部活に行っていた時のことなので今ではめっぽう回数は減ってしまっているが。
脇目もふらず和菓子コーナーの茶色に艶めくまあるいものを手にとり、そのままレジへ直行した。スマホのバーコード決算ですばやく支払いを済ませ、袋も断って店内を見渡す。一緒に入店しすぐさま別行動と離れた彼女の姿を探した。案の定店内は羅実の生徒でごったがえしている。
そんな中数人の男子生徒が目に入ったのは偶然だった。棚の向こう側を見て口角を引き上げている。違和感。笑顔、というにはそこに健全さがないような。彼等の目線の先を追えば、スナック菓子が陳列された棚を眺める踊り子の背中があった。男子生徒達が聞こえない声量でなにか話こんでいたかと思えば、次にグループのリーダーなのか一人の男子が内一人に顎で彼女を指す。従うようにその男子生徒が動いた。千切の真っ赤な絹糸の中に隠れる脳が信号を鳴らす。よろしくない空気を察して即座にこちらも動く。
「それ買うの?」
彼女と男子生徒との距離、あと一歩というところで間に割って入った。男子に背を向け、彼女から見えないよう壁になる。ケイナは首を横にふって否定した。彼女に悟られないよう肩越しに男子をねめつけると彼は一瞬怯んで舌打ちをひとつ。さっと千切から離れ、連れ達と共に店から退いていった。消えろカス。声に出さずに毒づいた。