2.孤城の吸血鬼Ⅰ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「んで?」
「何?」
ラビの疑問に、咲耶もこれまた疑問で返答した。先ほどの建物近くに戻ってきて、外に設置されていたベンチにラビとアレンが腰を落とす。彼等の視界から外れない近距離で、村の様子を眺めるように彼女がゆったりと付近をうろついていた。
「さっきの話の続きだけど」
「あぁ、そうだったね」
開いた膝の上に肘を立て頬杖をつくラビが、上目遣いで見つめてくる。彼の隣でアレンも姿勢良く彼女を注視していた。
咲耶は二人の向かい側に等間隔で連なっている低い高さの柵へ、浅く腰を預けた。
「私は寄生型の適合者。アレン、貴方と一緒で体の中にイノセンスがある。その左腕みたいに」
咲耶はアレンの手袋に包まれた腕に目線を固定させた。先ほどの彼等の発動。ラビは槌の形状した明らかな装備型、そして彼、アレンの腕。変貌したそれはまるで、鬼神が罪人を裁くような猛々しさだった。
「えっと、一体どこに?」
アレンは思わず咲耶の肢体を上から下へ順に見る。彼女の体からは、特別該当しそうな変わった部位はなかった。
「寄生型は知ってのとおり、体の一部分を武器化して戦うことがほとんどなんだけど。私の場合、ちょっと変わっててね」
そう言って彼女は自分のこめかみに人差し指を突き立てた。
「脳神経に寄生してる」
「脳神経?」
アレンが反復するように口にして、ラビも目を丸くしていた。
「私は物心ついた頃から、水と話すことができた」
どこからか膨らむように風が吹いて、空気中から帯状の水が現れた。彼女がふわりと宙に指先を預ければ、まるで生き物のように指の間をすり抜ける。じゃれつくように、踊るように咲耶の周りを舞う。次に彼女が手首をひねるようにして手の平を開けば、小さな水の球体が回転しながら形成された。
「私の武器は水。速度に水量、水圧に温度。その他自在に操れる」
風が三人の髪を荒々しく揺らした。
「なるほどな。酸素の中にも水はあるから、発動場所は選ばないわけさ」
「そう。ちなみにさっきアクマを破壊した攻撃は"涙の縁を断ち切る水"」
「だから、『涙縁』か……」
納得した様子のラビに、咲耶は頷いた。
「二人共、覚悟して」
咲耶が手の平を閉じれば、宙を舞っていた水は消え風も止んだ。
「この吸血鬼騒ぎ、原因はアクマのようでそうでないような……。クロス元帥の動向といい、何か引っかかる。まるで私達にとって重要かつ大きな目的が、城の中にあるみたいに」
不可思議な憶測と予感を感じているのは、おそらく彼等も同じ。「完全同意」と頷いたラビに「どうも」と返した。
満月が嫌に不気味で、完璧な夜だった。
.
「何?」
ラビの疑問に、咲耶もこれまた疑問で返答した。先ほどの建物近くに戻ってきて、外に設置されていたベンチにラビとアレンが腰を落とす。彼等の視界から外れない近距離で、村の様子を眺めるように彼女がゆったりと付近をうろついていた。
「さっきの話の続きだけど」
「あぁ、そうだったね」
開いた膝の上に肘を立て頬杖をつくラビが、上目遣いで見つめてくる。彼の隣でアレンも姿勢良く彼女を注視していた。
咲耶は二人の向かい側に等間隔で連なっている低い高さの柵へ、浅く腰を預けた。
「私は寄生型の適合者。アレン、貴方と一緒で体の中にイノセンスがある。その左腕みたいに」
咲耶はアレンの手袋に包まれた腕に目線を固定させた。先ほどの彼等の発動。ラビは槌の形状した明らかな装備型、そして彼、アレンの腕。変貌したそれはまるで、鬼神が罪人を裁くような猛々しさだった。
「えっと、一体どこに?」
アレンは思わず咲耶の肢体を上から下へ順に見る。彼女の体からは、特別該当しそうな変わった部位はなかった。
「寄生型は知ってのとおり、体の一部分を武器化して戦うことがほとんどなんだけど。私の場合、ちょっと変わっててね」
そう言って彼女は自分のこめかみに人差し指を突き立てた。
「脳神経に寄生してる」
「脳神経?」
アレンが反復するように口にして、ラビも目を丸くしていた。
「私は物心ついた頃から、水と話すことができた」
どこからか膨らむように風が吹いて、空気中から帯状の水が現れた。彼女がふわりと宙に指先を預ければ、まるで生き物のように指の間をすり抜ける。じゃれつくように、踊るように咲耶の周りを舞う。次に彼女が手首をひねるようにして手の平を開けば、小さな水の球体が回転しながら形成された。
「私の武器は水。速度に水量、水圧に温度。その他自在に操れる」
風が三人の髪を荒々しく揺らした。
「なるほどな。酸素の中にも水はあるから、発動場所は選ばないわけさ」
「そう。ちなみにさっきアクマを破壊した攻撃は"涙の縁を断ち切る水"」
「だから、『涙縁』か……」
納得した様子のラビに、咲耶は頷いた。
「二人共、覚悟して」
咲耶が手の平を閉じれば、宙を舞っていた水は消え風も止んだ。
「この吸血鬼騒ぎ、原因はアクマのようでそうでないような……。クロス元帥の動向といい、何か引っかかる。まるで私達にとって重要かつ大きな目的が、城の中にあるみたいに」
不可思議な憶測と予感を感じているのは、おそらく彼等も同じ。「完全同意」と頷いたラビに「どうも」と返した。
満月が嫌に不気味で、完璧な夜だった。
.
3/3ページ