19.みんなが帰ってきたら
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自身の指先ほどにも満たない小さな鉛の猛攻に、ティキは為す術もなく咆哮を轟かせた。その様子にリナリーとラビが息を呑む。
「い、一方的……」
「俺らがどんなに攻撃してもびくともしなかったティキがあんな銃弾で……」
自分達だって全力だった。それでも最大限の力で降り下ろした皆の切っ先は、あの快楽の魔物の皮膚に届きすらしなかった。現実というものは、神の使途達にすら時に冷たくて。
「ちょっとへこむな」とラビは細く溜息をついた。
「オレらは、まだまだ弱い」
チャオジー以外のエクソシスト四人の胸をちくりと突いた。どんなに鍛錬を重ねたところで、実戦をつんで強くなったとしても上には上がいる。
その時、足場の地雷が暴発したように音を立てて崩れ、一同思わず足をとられた。
地の揺れる音が轟き渡り、一面が脆く破壊されていく。
「そろそろかっ」
「崩壊の時間――ッ」
ラビとチャオジーの額に冷や汗が浮かぶ。リナリーの手をとりアレンが叫んだ。
「師匠ー!!」
「時間か、急がないと間に合わねぇな」
そんなクロス師弟の一方通行なやりとりを聞いた直後、咲耶の足場が一瞬で崩れた。あまりに唐突で、反応も声すら発せず体が下にのまれそうになったその時。
「咲耶さん!!」
手を誰かが掴んできて、足場をなくした空中にぶら下がった。咲耶は反射的に上を見る。
「アレン……、」
「――っ、手ッ、離さないで、ください。すぐっ、引き上げますから、」
人間一人の体重を満身創痍な体で、なおかつ腕一本で支える彼は苦しそうに、それでも咲ってみせた。
ふと彼に捕まれた掌から生温かい感触が伝わって、ぎょっとする。
真っ赤な血が、アレンの腕を伝って咲耶の手を濡らしていた。
想像していた以上の重症に、彼女は首を横にふった。
「怪我……なん、で、だめ、離してっ……!」
「いやだ!」
「このままじゃ二人とも!」
「あなたも帰るんだっ! ホームっに、――いっしょ、にっ……!」
彼の声帯よりもっと奥、心臓の底から湧き出るようなその言葉に、こちらまで喉がつまった。
今できる事。いまじぶんに、できる、こと。
声には出さずに胸の内側で反復してひねりだした答えに、彼女はすっと目を閉じた。自分の手を掴んでいるアレンの手にそっと自分のそれを重ねた。
「――咲耶、さん?」と彼が意図を汲み取る前に、彼女はアレンの手を自身の手から外した。
驚愕と絶望に腕を再び伸ばしてくる彼から、重力が下へ下へと咲耶の体を引きはがしていく。
彼のわずかな体力を、ここで削ぐわけにはいかない。残りの三人だっている。彼等、彼女を守れるのはもうこの子だけ。
――それより先行した思い。この白くてひたむきな男の子を、生かさなければと。
「…………ごめんね」と小さく呟いた。光の道を進んでいくであろう白雪の妖精に、どうか届かないようにと、秘めやかに願った。
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