17.快楽の異変
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「ティキ・ミックとレロを連れて来ます」
下階に残された咲耶を引き上げようとしたラビは、そう言い放ったアレンに驚愕した。
「はぁっ!? マジで言ってんのか!?」
「ティキ・ミックはもうノアを失ったただの人間です。それにラビだって見てたでしょう」
初めてティキに出会ったあの時、ノアであるはずの彼には人間の友人たちがいた。アレンは何を知らずにティキとの再会を信じている彼等を案じていた。ラビは言葉に詰まる。
「……俺は別に構わない。でも、ノアを助けたことが教団にばれたらお前は……」
彼の根っからの優しさは、時折自滅への階段を躊躇なく駆けあがってしまいそうで、ひやりとする。
その時二人の会話に、ことりと暗い影が滑り込んできた。
「助ける? あの男を殺したんじゃなかったんスか……?」
一定の声のトーンが、彼らしくもないと三人は思った。アレンを見つめるチャオジーの瞳孔が、威圧的に開いている。
「……まだ生きてます」
「あいつはアクマとグルになって俺の仲間をいっぱい殺したんスよ――なのにどうして? 助けるって、…………俺らの想いを裏切るんスか?」
矢継ぎ早に、機械的に並べた言葉に、悲しみと怒りの感情が見てとれる。
「助けるなら、アンタは敵だ」
「チャオジ……ッ」
リナリーが仲裁に入ろうとする。
「奴らと同じ悪魔だ!!」
しかし制御の聞かない怒の感情は、止まることを知らなかった。
「四人とも!! 逃げてえぇぇ!!!」
彼女の声だった。同時に迸る、脳天を貫くような悪寒。アレンは咄嗟にチャオジーを突き飛ばす。瞬間、黒く固い触手のようなもの達が階下から飛び出し、アレンを襲った。
「うああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
冥府の底から命あるものを引き摺りこまんと伸ばされた、死人たちの手のようにも見えた。
劈くような白雪の悲鳴と、まるで蝕むような骨のきしむ音。地獄のような光景に残る三人は動くことも叶わない。触手は階下へアレンを引きずり下ろし、威力を殺さず彼を地面へ叩きつけた。
骨が砕けただろか。朦朧とした意識で、アレンはなんとか短く呼吸を整えようとした。手足の感覚がしびれてうまく戻らず、立つことができない。霞む視界の中、地面に横たわるものに気付いて目を疑った。
「咲耶さっ……、! 咲耶、さんっ……ッ!!」
崩れかけたそこに、力なく投げ出された咲耶の体は、この一瞬の間に何があったのかと思うほど傷だらけになっていた。口元から血を流し、ぼろぼろの団服の間から抉られたような痕が見える。アレンの前にこつりこつりと何かが近付いてきた。
「ノアの力は……破壊したはずだ……、」
黒い鋼の触手を体内から生んでいる主。知らない、こんな死の魔物。
「お前、ティキ・ミックっ、なのか……?」
快楽神の生まれ変わりの名を、誰も知りはしない。
2025/12/28
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