17.快楽の異変
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ラビの攻撃をその身に受け、遺骸にも近しい姿となったロードは、不気味な笑い声を残し灰となって消えた。そこでリナリーが重要なことをふと思いだし、アレンに問う。塔の上にある最後の出口の扉はたしか彼女、ロードの能力で創られたものだ。一同すっぽりと頭から抜けており、ラビが慌てて扉の無事を確認すべく、槌を発動させて大穴の空いた天井へと昇っていった。崩れた箇所から小さな瓦礫が落ちてくる。唸るような地響きが足元を小刻みに揺らし、四人は思わずふらついた。ここも、もうすぐ消滅する。残してきた二人の顔を、思い出してしまった。そこに頭上からラビの声が落ちてくる。
「まだあったぞー! 引き上げっから四人とも柄に掴まれっ――あっと、リナリーとチャオジーは怪我してっから、アレン二人担いで上がれるか?」
リナリーなら抱えられるだろうと自分が引き受けようとしたが、アレンの様子からしてそれを申し出る隙を与えてはくれなかった。成人男性であるチャオジーとリナリーをまとめて軽々と抱き上げる彼の顔は、涼しいほかない。その細腕と体躯の中はほぼ筋肉で、脂肪が居座る空間など皆無なのだろう。上に昇っていく三人を見送り、ラビの合図を再び待つ。そういえばと、咲耶は柱の一点を凝視した。上に行く直後、アレンが腑に落ちないといった表情で『彼』をひそかに見つめていたのだ。
少し警戒しながら、柱に背を預けて座り込む快楽の男に近付いてみる。意識を失っているようで、ぴくりとも動かない。彼の側で泣きながら伯爵の名を呼んでいたレロが「クソエクソシスト! 近付くなレロ!」と睨みあげてきた。
額の聖痕が、消えている。灰を溶かして底にまで浸透させたような肌の色が、ただのオークルへ落ち着いていた。ティキ・ミック。臨界点を突破したアレンの新たなる神の力、退魔ノ剣によって彼の中のノアは葬られたらしい。ノアとしての彼は死んだ。今ここにいるのは、闇神の力をなくした、ただの人間だ。これから彼はどうなるのだろう。先ほどのアレンの様子だと、彼を一緒に出口へ連れ出して助ける選択をするかもしれない。もしそうなれば、賛同すべきなのだろうか。教団に属する者としての自分か、一人の人間としての自分の意志か。
「え……?」
考え込んでいる最中、呆けた声が意図せず出てしまった。つい今しがたそこにいたはずのティキの姿が、消えていた。反射的に当たりを見渡す。いない、どこにも。
瞬間、ドンっと腹部から衝動が伝わった。首が本能に従って、背後にひねられた。
「…………なん、……でっ、!」
咲耶は目を見開いた。温度も、音も、感情すらそこにはない。残酷なまでの無の眼で自分を見下ろすティキの姿があった。自身の腹部を、恐る恐る見下ろす。彼の手が、咲耶の脇腹をつらぬいていた。濃厚な赤が、溢れんばかりに放たれて、団服を汚していく。状況を理解して、呼吸が荒くなる。喉が、やけどしたように熱い。鋭く体中を走っていく、痛み。ひきつる声帯を、無理やり開いた。
「――げて、――ッ」
ごぽりと音を立てて、口から血が吐き出る。
お構いなしに天井を突き破るよう、息を吸い込んだ。
「四人とも!! 逃げてえぇぇ!!!」
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