16.ロードの魅せる夢
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視界が見えない力に引っ張られ続けて、ようやく着地点を見つけたようだった。気付けばノアの少女によって創られたであろうチェス盤の床が広がる空間にいた。
≪今見たのは、お前の中に強く残っている記憶の一部だ≫
反響するように、どこか別の世界から届いているような遠い声。
咲耶は焦点を声の方角へ向ける。うっすらと淡い光を放ち、まるで亡霊のように存在感が朧気な肢体がそこに立っていた。
「…………クラウド……元帥」
今の彼女より幾分も年若い。自分と同じ年齢くらいの――。はじめて出会ったあの頃の、師の姿だ。
≪――お前は口に出したことはなかったが、――苦しかっただろう。ずっと≫
「師匠、私は……!」
≪あの時の私にできることは、幼いお前が強く生きていける環境を選んでやることだけだった。だから教団へ連れていった≫
クラウドの一呼吸おいて続けた。
≪……そうしたところで、お前の心が戻ることはないと分かっていた。だた……生きることを諦めさせたくなかった。それがお前を縛りつけることになったとしても――≫
「…………」
≪咲耶、願えば帰ることができる。……お前がなによりも望んだあのころに≫
(――…………おみ…………を……あ……なさい…………――)
脳のもっと奥深い場所で、声が聞こえた。思わず唇をかんで、胸元に手をあてる。
――涙よ。どうか、こんな感情のために出てくるな。
そう意識的に抑圧した、その時だった。目の前の空間が渦を描くようにねじ曲がって、円形に開かれたそこに映像が流れた。
『ラビ、僕です、アレンです! 分かりませんか!?』
『ラビ! お願いやめて! やめてぇぇ!!』
おそらく、現実の世界のものだった。アレンとリナリーの叫びが痛々しく反響する。彼が、太陽色を髪に溶かした皆の兄がアレンに容赦なく攻撃をしかけている。
「どうして……?」
ノアの少女の姿もそこにある。操られているのか。
『咲耶! 咲耶目を覚まして! アレンくんとラビを助けて!!』
箱に閉じ込められた胡蝶の少女が、泣きながら一点に向けて内側から箱を叩く。彼女の目線の先を追えば、細い箱に閉じ込められ、像のように動かない自身の身体がそこにあった。
≪ここにいれば、傷を負うばかりの現実に絶望することはない≫
もう血と破壊に侵された世界に、戻らずにすむ。
彼女の姿を、懐かしむ自分がいたのは事実で。けれど、やはり違和感があるのはそういうことだ。
「…………あなたがいてくれたから、今エクソシストとしての私がここに在る。後悔したことは、……一度だってありません」
師の幻影から、目を逸らさず言った。彼女の目が見開くのを見逃さなかった。
「きっと帰ります……。今は教団にいる、あなたを安心させるために」
心配も苦労もたくさんかけてきた。自分が落ち着ける場所は、いつだって彼女の傍なのだ。幻影はそれを聞くと、ふわりと目を伏せて異空間の闇に消えていった。安堵したように、笑んでいるようにも見えた。
空間の映像に身体ごと目をむける。無意味な痛みしか生まない攻撃が白雪の少年を襲い続けていた。
あの子たちが泣いている。だめだそんなこと。だって、彼等には笑った顔がなによりもよく似合う。
悲しい戦いを包みこむように、咲耶は開かれた空間にそっと手を当てた。
「会いにいくよ。あなたたちのためなら、たとえ世界の裏側へだって」
空間の向こう側へ、体ごとすべりこむ。やるべきことは、もうわかりきっていた。
2025/11/1.
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