16.ロードの魅せる夢
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「やぁ、こんなところで偶然だねクラウド、咲耶」
無造作な髪に、これまた無精ひげをはやしたその人は、昔から変わらない柔和な笑みを眼鏡の反対側から向けてくる。
クラウド元帥との旅の途中、彼フロワ・ティエドールに会ったのは偶然のことだった。
私が小さく会釈をすれば、頭をふわりと撫でられた。彼のこの大きくてごつごつした手から、日々世の芸術家たちの目を唸らせる絵画が生み出されているのかと思うと、とても不思議だ。
私の隣に立つ師匠がティエドール元帥に尋ねた。
「新しい弟子をとったと聞いた」
「一年僕の元で修行をさせていたんだ。そろそろ入団してもよい頃かと思ってね」
これから本部に連れていくところなんだよ。
そういって、自由奔放な芸術家は横に立つ黒く小さな物体の頭に手をのせた。嫌そうに彼の手を払いのけたそれと、ふいに目線が合う。同じくらいの背丈に、頭の高い位置で結われた鴉色の髪がつやつやとしていた。すらりとした切れ長の目の中に、大きな黒い瞳孔が威圧的に私をとらえていた。
ティエドール元帥は笑顔で紹介してきた。
「彼は神田。仲良くしてやっておくれ」
少し話をするといって元帥二人は酒場へ入っていった。
子供の入店は禁止ではないけれど、単純に酒の匂いとそれに酔わされた大人たちの粗暴な言動は以前出くわしたことがあり、見ていてあまり気持ちいいものではないので、店の外の軒下で待たせてもらうことにした。
今日は生憎の雨。黒く淀んだ空の向こうから、たまりにたまった神様の鬱憤が大粒となって、地上にぶちまかれていく。それを軒下のベンチに座り、ぼんやりと眺めていた。
刹那、首筋に感じた鋭利な冷たさ。
「おいお前」
敵意を言葉と武器にこめて、ティエドール元帥の弟子は黒々と光の流れる刀を私へ向けていた。
彼を一瞥してまた視線を外せば、それが癇に障ったのか押し付けてくる切っ先にまたひとつ力が加わった。
「おい、聞いてんのかよ」
刀の先が皮膚にくいこんで、薄く赤い液体が滲む。
「……力は普段、森の秘密のように奥地に隠して、ここぞという時に露見させる。って教わった……」
「あ?」
「……これは、あなたの対アクマ武器?」
「……六幻だ」
「六幻……」
首に押し付けられる刀を見つめていると、それは首から離れていった。
長い刀身にを手にする彼は、まだ刀に持たれているという表現がしっくりくる。
確かにそこにいるのに、現実感の薄い佇まいをしていた。
「何歳?」
「……十」
「同じ年だ」
「お前、なんで本部から任務に行ってないんだよ」
「……ティエドール元帥?」
神田の表情をそれとなく伺う。無言は肯定と受け取ってよいらしい。
「任務、必ずこなすから、師匠と一緒にいたいってお願いしたの。私のやりたいことは一つ。――強くなって、クラウド元帥を、守りたい。ただそれだけ」
「それじゃあ二つだろ」
「あなたは、なんでそんな好戦的なの」
まだ正式にエクソシストにもなっていないのに。
先程から無遠慮に武器を向けてくるは、イノセンスとシンクロして間もない適合者は、はじめ戸惑って力を無遠慮に使おうとは怖くてできないものなのに。
質問に深い意味はなかったけれど、彼の目が傷付くように翳った。
「――俺はこれで、世界で一番大切な奴を倒した」
神田のまだ声変わりもしていない声帯は、震えることすらない。想像もつかないような覚悟が、そこで彼と一緒に立っているような気がした。
「そいつに報いるためにアクマと戦う、そして……会いたい人が世界のどこかにいる。そいつを必ず見つける。俺のやることは、その一つだけだ」
「――それじゃあ二つだよ」
これが彼、神田との初めての出会いだった。その日から数年に一度、彼の師であるティエドール元帥と本部の外で合流する際たまに神田とも会う機会があり。
今思えば、もっと話を聞いてあげるべきだったと思うけれど、彼は語ることはなかっただろう。
どんなにあがいて、全力で祈りを叫んでも、届いてほしい肝心の場所には永久に届かない。それを彼は知ってしまっていた。
この時の私には、なにかを変える力はなかったから。
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無造作な髪に、これまた無精ひげをはやしたその人は、昔から変わらない柔和な笑みを眼鏡の反対側から向けてくる。
クラウド元帥との旅の途中、彼フロワ・ティエドールに会ったのは偶然のことだった。
私が小さく会釈をすれば、頭をふわりと撫でられた。彼のこの大きくてごつごつした手から、日々世の芸術家たちの目を唸らせる絵画が生み出されているのかと思うと、とても不思議だ。
私の隣に立つ師匠がティエドール元帥に尋ねた。
「新しい弟子をとったと聞いた」
「一年僕の元で修行をさせていたんだ。そろそろ入団してもよい頃かと思ってね」
これから本部に連れていくところなんだよ。
そういって、自由奔放な芸術家は横に立つ黒く小さな物体の頭に手をのせた。嫌そうに彼の手を払いのけたそれと、ふいに目線が合う。同じくらいの背丈に、頭の高い位置で結われた鴉色の髪がつやつやとしていた。すらりとした切れ長の目の中に、大きな黒い瞳孔が威圧的に私をとらえていた。
ティエドール元帥は笑顔で紹介してきた。
「彼は神田。仲良くしてやっておくれ」
少し話をするといって元帥二人は酒場へ入っていった。
子供の入店は禁止ではないけれど、単純に酒の匂いとそれに酔わされた大人たちの粗暴な言動は以前出くわしたことがあり、見ていてあまり気持ちいいものではないので、店の外の軒下で待たせてもらうことにした。
今日は生憎の雨。黒く淀んだ空の向こうから、たまりにたまった神様の鬱憤が大粒となって、地上にぶちまかれていく。それを軒下のベンチに座り、ぼんやりと眺めていた。
刹那、首筋に感じた鋭利な冷たさ。
「おいお前」
敵意を言葉と武器にこめて、ティエドール元帥の弟子は黒々と光の流れる刀を私へ向けていた。
彼を一瞥してまた視線を外せば、それが癇に障ったのか押し付けてくる切っ先にまたひとつ力が加わった。
「おい、聞いてんのかよ」
刀の先が皮膚にくいこんで、薄く赤い液体が滲む。
「……力は普段、森の秘密のように奥地に隠して、ここぞという時に露見させる。って教わった……」
「あ?」
「……これは、あなたの対アクマ武器?」
「……六幻だ」
「六幻……」
首に押し付けられる刀を見つめていると、それは首から離れていった。
長い刀身にを手にする彼は、まだ刀に持たれているという表現がしっくりくる。
確かにそこにいるのに、現実感の薄い佇まいをしていた。
「何歳?」
「……十」
「同じ年だ」
「お前、なんで本部から任務に行ってないんだよ」
「……ティエドール元帥?」
神田の表情をそれとなく伺う。無言は肯定と受け取ってよいらしい。
「任務、必ずこなすから、師匠と一緒にいたいってお願いしたの。私のやりたいことは一つ。――強くなって、クラウド元帥を、守りたい。ただそれだけ」
「それじゃあ二つだろ」
「あなたは、なんでそんな好戦的なの」
まだ正式にエクソシストにもなっていないのに。
先程から無遠慮に武器を向けてくるは、イノセンスとシンクロして間もない適合者は、はじめ戸惑って力を無遠慮に使おうとは怖くてできないものなのに。
質問に深い意味はなかったけれど、彼の目が傷付くように翳った。
「――俺はこれで、世界で一番大切な奴を倒した」
神田のまだ声変わりもしていない声帯は、震えることすらない。想像もつかないような覚悟が、そこで彼と一緒に立っているような気がした。
「そいつに報いるためにアクマと戦う、そして……会いたい人が世界のどこかにいる。そいつを必ず見つける。俺のやることは、その一つだけだ」
「――それじゃあ二つだよ」
これが彼、神田との初めての出会いだった。その日から数年に一度、彼の師であるティエドール元帥と本部の外で合流する際たまに神田とも会う機会があり。
今思えば、もっと話を聞いてあげるべきだったと思うけれど、彼は語ることはなかっただろう。
どんなにあがいて、全力で祈りを叫んでも、届いてほしい肝心の場所には永久に届かない。それを彼は知ってしまっていた。
この時の私には、なにかを変える力はなかったから。
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