16.ロードの魅せる夢
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「リナリー!! チャオジー!」
「だ、大丈夫だよラビ! 閉じ込められただけみたい……」
「ッス!!」
ロードの能力か。透明な箱に閉じ込められた二人の身を案ずるも、外傷などは新たに出来ていないようで。
「今は閉じ込めるだけにしといてあげるぅ。ね? 遊ぼ? 二人共」
ここで反論をすれば、箱の中の二人に何をされるか。拒否権はないと見た。
ラビと咲耶の緊張感を読み取って、リナリーとチャオジーは申し訳なさそうに二人の名を呼んだ。
ちらり横目でラビを見れば、彼も同じ行動をとっていたのだろう。かちりと視線がはまった。
お互いの考えていることを空気で感じ取って、言葉もなく同意する。
「ノアの一族長子、ロードだっけ?」
「私たちが勝ったら、二人を開放すること……。それがこの話にのる条件」
「いーよぉ」となんとも無邪気な声と共に、ロードの肢体がゆらりと陽炎のように揺れて、二人のエクソシストの身体は黒い闇に飲み込まれていった。
気がつくと咲耶は、先程とは似ても似つかない異空間の中に立っていた。
「この部屋は…………」
部屋と口にして、そうでないことにすぐ気付いた。あまりにも遠く空間の果てがそこにはないのだ。どんなに走っても端の端には到底辿り着くことはできないだろうと、遠い地平線を見ながら考える。
ふと自身の立つ床下に目線を落としてみれば、チェス板のような黒とクリームの色彩が、四角い形をして交互に敷き詰められている。
多少なりとも朧気な光があって、暗くはない。不思議な場所。
「ラビ、どこ……?」
一緒にノアの闇に飲み込まれたはずの彼がいなかった。別の空間に飛ばされたのか。一体どういう能力なんだろう。あのロードというノアの少女の力は。
「ブックマンはここにはいないよぉ」
背後から気配もなく聞こえた声。瞬時に距離をとり攻撃をしかけようとしたが。
「……なん、でっ、……!」
思わず声が引き攣った。はじめて経験した、無の感覚だったから。
水を、攻撃を放てない。振りかざした手が意味もなく空を裂いただけで、無音が耳を悪戯に冷やしただけだった。
床からロードであろう少女の肢体が不気味に生えている。彼女の口端が、三日月のように吊り上がる。伯爵のそれと、瓜二つだと思った。
「ここは僕は造った夢そのものの空間なんだよぉ。君の本体は現実の向こう側にある」
つまり精神だけがここにいる。ということはイノセンスを使うことが不可能ということで。
「君にはここで、君の記憶の中を歩いていってもらうよ。そこから出られたら君の勝ち。簡単でしょぉ? まぁ、――出られればの話だけど」
くすくすとロードの笑う声が遠い。異空間がぐにゃりとねじ曲がって、次第に渦を巻いた。
黒とクリームの床の色が乱雑に混ざって、吐き気が沸いてきた。
咲耶は思わずぎゅっと目を閉じて、無理やり暗闇を造った。
イノセンスを発動できない。戦う術がない。どうする、考えろ。
窮地の中で思考を全力で回転させた。ふと、瞼の外に静けさが落ちた気がした。
恐る恐る、目を開ける。
「…………え?」
熱い、風。ふわりと髪と頬を撫でてきた。
咲耶は辺りを見渡す。木々が生い茂る、森の中だった。
ただ、普通の森でないことにすぐ気付けたのは、足元に感じる感覚。足首まで浸かる程度の水が張って、よく見ると木々の根が剥き出しになっており、その間には魚が顔を覗かせている。頭上を見遣れば、木々の間から熱い日光だろうか、きらきらと光が降り注いていた。
一歩、二歩と水で重みの加わった足を踏み出して、ついに咲耶は走りだした。
この風の匂い、知っている。忘れるわけがない――。
ロードはここを彼女の造った夢だと言った。だから水の声が聞こえないのだ。
走るたびに団服のズボンが派手に濡れる。前へ、もっと前へ、森の出口であろう光の外へ飛び出した。
ぶわりと、一陣の強い風が吹いた。眼前に広がる光景に、咲耶は一瞬言葉を失う。
海だった。蒼々と広がる海。
それ以外の色に毒されず、静かに波を立て、太陽の光を存分にあびて光沢を放っている。
彼女の目から名もなき透明がこぼれて頬を伝い、そのまま海に落ちていった。
震えてしまいそうな唇が、やっと言葉を発した。
「……うんじょーっ、わんが、……宝物」
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