14.二人の最後
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「マジ化物だったわ」
視界は闇も怯える黒、黒、そして黒。辛うじて機能している聴覚が、不名誉な敬称を鉄の冷たさから伝えてきた。反論は、もう声にすらならない。敵の想像した鉄の処女の中で、体から少しずつ温度が抜けていくのがわかる。手足の感覚が雪解けのように少しずつなくなっていく。手負いの中、ちょめ助からもらった血に助けられながらも、あの融合体となったノアの双子に敵わなかった。意識ももう長く保つことはできないだろう。
アレンたちを先に行かせてよかった。きっと彼らは先に進めたはず。その手助けができてよかった。
『そんなトコで何やってんのよ、アレイスター』
――だれだ……?
ひらりと、花弁が心の奥底で落ちた。真っ赤な華の、気配。
『ホント何やらせても駄目な男ね』
うそだ。きっと幻聴だ。死に間際の願望かなにかが形をなしているのか。聞き間違えるはずはない。かつて自分の世界の中心にいてくれた彼女の声を。
いまにも命の灯が消えそうな自分に対して、皮肉をこめて叱咤してくる彼女にクロウリーはといかけた。
――私を迎えに来たであるか……?
かろうじて鉄の処女からでている左腕に、だれかが触れた気がした。
つめたかった。それ以上に、あたたかかった。
『……バカ言ってんじゃないわ』
死後の世界の楽園に、自分の居場所はない。そう彼女はいった。進化したアクマの体内から生まれた自我の結晶。それが彼女だった。葬られた後にかえる場所なんてない。あの世にも、この世にですら。
『あの子たちと一緒にいたいんでしょう? アレイスター』
走馬灯にも似た記憶が、古びたレコードのように目の裏で動き出す。
かつての我が家であった件の孤城での一夜が明け、村長と村人へすべてを打ち明けたのだが、かえってきたのは称賛と真逆のものだった。
「アクマを退治しただと!? そんなバカな話信じられるものか!」
険のある顔と言葉で攻撃してくるゲオルグに、クロウリーはなにもいえなかった。村長の後ろで村人たちも同じく刺々しいまなこを投げつけてくる。
「どっちにしろワシらにとっちゃ化物だ! 出て行け! 二度とここへは戻ってくるな!」
どんなに話しても信じてもらえなかった。これも外界とのつながりを拒絶して、自分とエリアーデだけの世界にひたっていた自分への罰だ。
もっと村人たちによりそっていればよかった。自分と祖父は間違うことなき人間だ、それをもっと話していれば。できることはたくさんあったはずなのに、すべて逃げてきた代償だ。
弁解も、させてもらえない。
ラビが視界の端で、彼の隣にたっている咲耶に耳打ちをした。なにを聞いたのか、彼女の目が見開いてラビを凝視する。なにやら悪戯っぽい表情をしている彼とは反対に咲耶は眉端を下げつつ小さくため息をはいた。
彼女は村人たちに、否、正しくは彼らの頭上に人差し指をすっと小さく指す。途端、彼らの真上に、ちいさな水の球体があらわれた。クロウリーはおもわず目を見開くが、下にいる村人たちはそれに気付いていない。
それはむくりむくりと音もなく面積を増して、ついには密集する村人たちのそれを超えてしまった。
「化物!!」
「去れ!」
「去れ!」
「去れ!」
「化物共!!」
ゲオルグの最後の罵声が、合図となった。咲耶の持ち上がった指が、くいっと下げられた途端、村人達の頭上の水が彼らの上に落ちてきた。それこそバケツをひっくり返したなんて表現がかわいいものに思えるほどの水量を頭からかぶせられ、彼らから悲鳴が上がる。
その様子を呆然と見つめるクロウリーに反し、ラビは大爆笑、アレンにいたってはとても満足気な表情をしている。
その事象を発生させたであろう咲耶は一仕事終えたようにゆるく瞼をとじた。
少年二人はそれぞれクロウリーの肩に手をおいた。
「自己紹介がまだでしたね。僕はアレン・ウォーカーっていいます」
「俺ラビね。あとで合流するブックマンてじじぃの跡継ぎなんさ」
「咲耶です。藤島 咲耶」
思えば三人の名前をきちんと聞けていなかったことに気付いた。
「それにしてもすっきりしたさぁ! ナイス咲耶」
「ラビがやれって言ったんでしょ。無駄に力使わせないで……」
「めちゃくちゃ言われたんだから、あのくらいやっても罰あたんねぇって」
「クロウリーの事は僕らがちゃんと分かってますから。だから一緒に行こう」
あの時掴んでくれた手の温度を、今でもよく覚えている。
後に合流したリナリーとブックマンも、温かく自分を迎えてくれて、涙がでるほど嬉しかった。世界から許されたような気がしていた。
『このまま天国なんて行ったら、またひとりになっちゃうわよ――はじめて、他人を守りたいと思ったんでしょ?』
あの城で一緒に生きていきたかった。けれど、それはもう叶わない。彼の孤独と愛は、私だけのものだと思っていたのに。彼は光を知ってしまった。だから、死した私にできることはただひとつ。
『あんたは、あの子達と一緒に行きなさい』
――地獄の果てまでも、一緒に。
「エリアーデ……」
君を愛せてよかった。
「ありがとう」
あの子たちのために生きていく自分を、どうか見ていておくれ。
――一緒に行こう! クロウリー!
――ああ……今……行くである
彼は、ふたたび光のほうへ手の伸ばす。今度は自分から彼らの腕を掴みに行こう。
信念を決意を、きみたちに捧ぐために。
2025/4/2.
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