14.二人の最後
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人は死ぬものだ。人で在る限りな。
かつていやというほどその身と心に切りつけられた真実を、ノアの亡骸にぽつりとのこす。
死闘だった。いままで戦ったどんな敵よりも強かった。
髪紐は攻撃をうけた際に燃えつき、神田の烏羽色の長い髪は冴えた空気にちらばってなびいている。団服はぼろぼろで、さらされた上半身は電撃の熱で皮膚が焼けただれていた。これもすぐに回復してしまう自身の体質を思えば、痛覚はあれどそれは一瞬でなんの意味もなさないと、怪我をすることを厭わなくなったのはもう随分昔のことだ。蓋をした記憶の裏側で、幼い少年が歯を見せて咲っている。こんな時に思いだすなんて。
出口まであと少しというところで神田は地面に膝をついた。荒い息遣い、視界がぶれる。惜しげもなく命を削った。そうしなければ勝てなかったと思うとこんな時ですら苛立ってしまう。朦朧とする意識の中、背後で雷鳴がとどろいた。
「うそだろっ……あの野郎!」
最後の力を一滴のこらず体からしぼりとるように。ノアの『怒り』に動かされたスキンは巨大な一撃を放ってきた。
後ろにはこの部屋ゆいいつの出口。壊されるわけにはいかない。神田は鞘から壊れかけた愛刀を抜いた。
「三幻式!!」
自身の身体も、握りしめた相棒もすでに限界を超えていた。それでも、むかえ撃つ。
神田の胸の梵字がどくりと脈を打った。
「俺の命を吸い高まれ六幻!!」
双方極限まで放出した力がぶつかりあった。黄金の電撃を刀で受け止める。重く激しい衝動が腕をつたって襲いかかってきた。二人の男の雄叫びがあがった。どくんと電撃の力が増したのを感じて、神田はことさら押されそうになる足に力をこめた。
「くっ……!」
あれだけの傷を負わせたのに、奴のどこにそんな力が残っているというのか。
「……イノセンスは、許さ、ない…………許さない……」
刀が、砕け散る音がした。破片が花びらのように神田の視界で舞う。直後には黄金の光があたりで弾けとんだ。
人の形をかろうじて保っているスキンの目に、歪な岩の上で力なく動かない長髪の男が目に入った。おもわず、悪魔のような高笑いがでた。ほらみろ、我の『怒り』は偽りの神の力に屈しはしない。それを証明してやった。刹那、スキンの足元を一閃の光がはしった。背後を見れば、地面に散らばる鉛色の破片を光が拾っていく。
「なんだ……!? 光が……砕けたイノセンスの刃を繋いでいく!」
「――命を吸う、三幻式だ……」
岩の上で朽ち果てているはずの亡骸がしゃべった気がした。
「俺の刀はまだ、死んでねぇぞ…………!」
主の声に応えるように、光がひとつとなって彼の元へ翔けていく。力が尽き果てかける状況でも神田が離さなかった柄の先にイノセンスの破片達がつながって、一刀の形を成した。
何が起こったのか理解が追いつかなった。次の瞬間には死んだはずの黒色の男が刀を振り下ろしていた。スキンの瞳孔が開く。斬られた、のか。不思議と痛みはなかった。
「これで本当に終わりだ」
最後まであがいてやると、スキンは鼻で嗤う。
「言っただろ……ノアは不死、だ……まだ、終わってたまるかよぉ……」
後は、家族に託す。そう言葉にはせずスキンの固い肢体は砂のように崩れて散っていった。最後までいけ好かない奴だった。
「うるせぇよ、終わっとけ……」
再び刀が砕け散る。もう立てる力が残っていない。背後で出口が崩壊する気配がした。
――みんなを泣かせちゃだめだよ?
「……無茶、言うな」
頭の中の声に軽く反論する。どうしてこんな時に彼女の最後の言葉を思い出すのか。
「コムイの奴に頭……下げね……とな、」
自分の声が遠い。皮肉に口角を上げたのは、最後のプライドだった。
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