14.二人の最後
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その時だった。やにわに鼓膜を揺らされた気がして、アレンは後方を向く。
「どうしたである? アレン」
離れた前方を歩いていたクロウリーが彼の異変に気付いて問うた。アレンにつられて咲耶も同じ方向を見やる。
「なんか今うしろから音がしたような……」
「音? どんな?」
「何かが割れるような音です」
続けて問うクロウリーにアレンが返答の最後の言葉を言い終えた刹那、それが発生したのはほぼ同時だった。地面に亀裂がはしり、足場が嫌な音をたててぐらつく。その直後に一同の悲鳴が上がった。
「床が崩れてきたー!!」
たった今来たであろう廊下の向こう側から激しい音を立てて床がもろくも崩れ去っていく。外的損傷を受けたか、はたまたなにかの力が働いているのか。悠長に考えているひまなどあるわけもなく、皆一目散に走りだした。どこまでも続いて果ての見えない廊下にラビがおもわず悪態をつく。
その時、チャオジーが足元をとられ転んでしまった。
「チャオジー! 道化ノ帯!!」
瞬時にアレンが帯でチャオジーの腕をとって救出した。
危機的状況の中、その打破をといち早く行動をおこしたのは、ひやあせを浮かべる泣き虫な吸血鬼だった。いまだ足がうまく動かせないリナリーに、エクソシストでない彼もつれている。めいめいに逃げるより、この方法が確実に皆を救えると判断して、腕にかかえている胡蝶の少女に頼んだ。
「リナリー。私のポケットにちょめ助からもらった血の小瓶があるである。取ってもらえぬか?」
「えっと、これ?」
彼のポケットの中からそれらしきものをリナリーがとりだし、彼は乱暴に歯で蓋をあけ一気に飲み干す。形相が、がらりと変わった。まるで、晴れの空を襲う嵐のようだった。
「突っ切るぞ。捕まっていろガキ共」
音すら跳ねのけるような速度で加速した彼に皆しがみつく。
アクマの血を接種して力を得たクロウリーには、ここにいる全員がもし鍛錬で手合わせした場合、勝てる自信があるかといわれると正直なところ返答に窮する。
「ヒュウ♪ さっすがクロちゃん!」
「おい! 何でお前まで乗ってんだよ!」
「ケチケチすんなレロ!」
「あっ、あそこ見て!」
「廊下の終わりだ!」
扉のないむきだしの出口にクロウリーは抱えた皆ごと飛びこんだ。なんなく勢いをつけて着地し、無常にも男性陣を床に荒く落とす。続いて二人の少女をゆるりと下ろした。
「いてて、乱暴だぜクロちゃーん」
「書庫かな、ここ。本が沢山ある」
思わず咲耶はぐるりと室内を見まわした。部屋というにはあまりに広すぎる。音の反響しそうな天井は英国一の広さをほこる大聖堂のそれよりうず高く、壁一面に見たことのない数の書籍がしきつめられている。冊数を数えるならば複数人でも一日そこらではまず無理ではないかと思った。
「よぉエクソシスト」
一同の背筋に悪寒がかけぬけた。不穏な声色が聞こえてきたであろう、部屋の中央に聳える高いモニュメントの上に皆顔を引き上げる。黒い影が二つ分腰をおとしているのとらえた。
「デビットどぇっす」
「ジャスデロ! ふたり合わせてジャスデビだよ、ヒヒッ!」
顔立ちからして十中八九自分たちと同じ年頃の少年達だろう。
片やウルフカットの短い黒髪に、もう片や独特な話し方の女性に見えなくもない長い金髪。二人ともに奇抜なパンクファッションに身をつつみ、その顔には黒く毒々しいアイメイクがほどこされている。双方手にもった拳銃をお互いに向けるという、なんとも物騒な仕草をとっていた。
額の聖痕からノアの一族に間違いはないだろうが、言動もなにもかも不遜なそれだった。
「じ……じゃす……?」
「またファンキーな奴来たな……」
クロウリーとラビがおもわず困惑を口にする。直接的ではないが主の位にも値する彼等にレロも疑問をなげた。
「ジャスデビたま? あれ? 仕事は?」
「「だまれ」」
ある意味地雷をふまれ、二人のノアの闘争心に火がついた。
「オレら今ムシャクシャしてしょうがねーんだわ。――アレン・ウォーカー!」
指名にも聞こえるように名前を呼ばれ、白雪の少年が反応する。二人のノアの銃口が彼にむけられた。
「テメェにゃ何の恨みもねぇが」
「クロスに溜まったジャスデビの怨み辛み、弟子のお前に払ってもらうよ!」
銃弾が雨のようにアレンの狙い撃ち、彼は即座に反応してそれらを回避した。
リナリーと咲耶がおもわず叫んだ。
「アレンくん!」
「アレン!」
「ちょっ、師匠が何て言いました!?」
彼等の気配を両側に察してアレンは身構える。一つの脳を共有するような連動で二人のノアはアレンを挟みうちにした。デビットが冷淡な笑みで吐き捨てた。
「師匠のツケは弟子が払えってんだよ!」
装填 青ボム
青色の光を放った二人の攻撃がアレンに命中した。
「アレンさん!」
「銃の威力が変わった!?」
「銃じゃねぇよ弾が変わったんだ」
ラビの当てつけの推測を叩き割るようにデビットがかぶせた。
ふと、アレンの様子に反応する。思ったほど攻撃の効果を受けていないようだった。
「……キミ達、師匠を追ってるノアですか? 僕にウサ晴らしに来るってことは元気みたいですねあの人」
師に対してなにか含んだ物言いのような。
次の攻撃の隙もあたえず道化ノ帯をくりだし、お返しとばかりにノアの少年二人を投げるよう本棚へ叩きつけた。
「何? あいつらお前狙い?」
「どうやら……それより気をつけてください。あのふたりの撃ち出すモノ……ただの弾丸じゃありません」
身体を撃ちぬくだけならまだ理解がおいつく。しかし、撃たれたアレンの腕の具合から不可思議な能力があるとみてとれた。傷口が凍っている。
青い弾丸。撃った対象を凍らせる能力か。
「やべぇ、なんか楽しくなってきた」
「ヒヒッ! 暴れるの久しぶりだね」
本棚に打ち付けられたデビットとジャスデロが、特に外傷を負った様子もなく身体を起こした。
エクソシスト達を一睨すると、その中の一人にノア達の焦点が合う。二人は目線すら合わせず言葉を交わしあった。
「……ジャスデロ」
「ヒッ! 髪黒くて長い、みょーにつやっぽい奴、あいつだね!」
事前にもらっていた情報はこれだけだったが、該当を見分けるにはわりと十分だった。瞬時に二人は目標の人物目がけて地を蹴る。
先刻攻撃を受けたとは思えぬ俊敏さで、咲耶はだしぬけに反応が遅れた。
「っ!…………がはっ!! ぁっ……、」
ジャスデロが咲耶の後ろにまわり羽交い締めにして、続いてデビットが突っ込んでいった衝動をそのままに拳を思いきり咲耶のみぞおちへ打ち込んだ。
あまりの衝撃に呼吸がひきつり、彼女はそのまま意識を手放した。
「咲耶さん!」
「何するのよ!」
チャオジーとリナリーが反射的に抗議した。ぐったりと動かなくなった咲耶をジャスデロが透明なシャボン玉の球体のようなものに入れ、ふわりと浮いたそれは重力に反するよう高く天井へ上っていく。
「あの女先に殺すと、あいつが後からうるせぇんだよ」
天井に浮かばされた咲耶を眺めながらデビットがいった。
その真意を読みとれず、困惑する敵の表情なんざ知ったことじゃない。
自分達の仕事の管轄外なのであの女は正直どうでもいい。興味があるのはあの憎きクズ元帥の弟子とやらだ。
デビットは銃口を自身の頭部に向け、該当の人物の闘争心を煽るように舌をだした。
案の定、白髪の少年からいままで見たことのないほどの殺気が晒されている。
煽りが効いたのか、はたまた今しがたの蛮行のせいか。
「オレらのウサ晴らしになってもらうぜ。弟~子♪」
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