12.閉幕ベルはまだ鳴らない
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「リナリー!!」
アレンの、悲鳴にも似た叫びだった。そちらを見た時にはリナリーが眠っていたはずの場所に光るペンタクルが地面から浮かび上がり、彼女とアレンの体を吸い込んでいた。
脳が動く前に体が動いた。咄嗟にアレンの腕を掴もうとしたラビへと咲耶は手を伸ばし、次の瞬間には視界が弾かれまっさらになっていた。
万有引力には逆らえず、下へ下へと真っ逆さま。一緒に落ちたのであろう皆の悲鳴を聞きながら、終着地に叩きつけられた。
「ビッ……ビックリしたである~」
「うぉええぇっ」
「ちっ!」
「つっ、潰れるーっ!」
リナリーとアレンを追ってきた順に体が折り重なっていく。ラビの上に落ちたおかげで怪我はなかったが、如何せん上にチャオジー、神田、そしてクロウリーと大柄な男性三人が落ちてきたのでたまったものじゃない。体が圧迫されて三人が退くまで声も上げられなかった。
軽く打った頭を手で抱え、神田は辺りを見渡した。
「なんだこの町は」
「ここ……方舟の中ですよ!!」
「なんでンな所にいんだよ」
「知りませんよ」
そこらかしこに、南の国を連想させるような白亜の建造物が立ち並ぶ。方舟を通って江戸へやってきたアレンが即座に答えたが、そんな小さな会話ですら言い争いの火種になってしまう。
いまだ気絶しているリナリーの体を起こしたラビが声を上げた。
「リナリーの下に変なカボチャがいるさ!!」
彼女の下で伸びている何か。傘の形状の上にカボチャの頭がついたなんともおかしな生き物だった。パチリと目を開けたかと思えば「どけレロクソエクソシスト!」と毒気のある人の言葉を話す。
始めに行動を起こしたのは白雪の道化と黒色剣士だった。片や発動した左腕の爪先を、もう片や鈍色に光る刀の切っ先を、鋭利な二つの武器を向けてカボチャを威嚇する。
「スパンと逝きたくなかったらここから出せオラ」
「出口はどこですか」
「でっ、出口は無いレロ……」
冷や汗をかき傘の体を震わせ、怯えながらもカボチャは言った。一瞬その表情が固まり、彼の口から今までとは違った声色が飛び出す。
皆体が硬直した。江戸で聞かされた、忌々しいその声。
「出航です。エクソシスト諸君」
カボチャの口から、闇の王が風船の姿をして現した。
「お前達はこれよりこの舟と共に黄泉へ渡航いたしまぁース!」
その声が時限ボタンだとでも言うようだった。当たりの建物が爆発したように音を立てて崩れていく。千年伯爵の口端が、殊更愉快に吊り上がった。
「危ないですヨ。引っ越しが済んだ場所から崩壊が始まりましタ」
「どういうつもりだ……っ」
神田が伯爵の形状をした風船を睨みつける。
「この舟はまもなく次元の狭間に吸収されて消滅しまス。あと3時間、それがお前達がこの世界に存在していられる時間でス!」
楽し気な声が、リナリーへと矛先を向けた。
「可愛いお嬢さん。良い仲間を持ちましたネェ。みんながキミと一緒に逝ってくれるかラ淋しくありませんネ」
「伯爵……っ」
最後の置き土産とでもいうように。不吉な言葉を残し伯爵の形状をした仮物の風船は、天高く昇りその姿を消していった。
一軒、もうまた一軒。カウントするにも神経がすり減った頃。
「どこかに外に通じる家があるハズですよ! 僕それで来たんですから!」
「ってもう何十件壊してんさ!!」
唯一、方舟の内部に入ったことのあるアレンの言葉を信じそこらにある家々を皆の力で破壊するが、すべて外れくじだったようで無駄に体力を削がれてしまっていた。
迫りくる空間の破壊音に追われ、息も絶え絶えだった。その瞬間、床が崩れて足場を取られた。崩壊がすぐそこにまで到達している。一同の顔に絶望の色が濃くなった。それを嘲笑うかのように一切の出口はないとカボチャは言った。
刹那――。
「あるよ。出口だけならね」
状況にそぐわない、落ち着いた声色。
希望の天使か、ただの毒か。
2025/1/5.
アレンの、悲鳴にも似た叫びだった。そちらを見た時にはリナリーが眠っていたはずの場所に光るペンタクルが地面から浮かび上がり、彼女とアレンの体を吸い込んでいた。
脳が動く前に体が動いた。咄嗟にアレンの腕を掴もうとしたラビへと咲耶は手を伸ばし、次の瞬間には視界が弾かれまっさらになっていた。
万有引力には逆らえず、下へ下へと真っ逆さま。一緒に落ちたのであろう皆の悲鳴を聞きながら、終着地に叩きつけられた。
「ビッ……ビックリしたである~」
「うぉええぇっ」
「ちっ!」
「つっ、潰れるーっ!」
リナリーとアレンを追ってきた順に体が折り重なっていく。ラビの上に落ちたおかげで怪我はなかったが、如何せん上にチャオジー、神田、そしてクロウリーと大柄な男性三人が落ちてきたのでたまったものじゃない。体が圧迫されて三人が退くまで声も上げられなかった。
軽く打った頭を手で抱え、神田は辺りを見渡した。
「なんだこの町は」
「ここ……方舟の中ですよ!!」
「なんでンな所にいんだよ」
「知りませんよ」
そこらかしこに、南の国を連想させるような白亜の建造物が立ち並ぶ。方舟を通って江戸へやってきたアレンが即座に答えたが、そんな小さな会話ですら言い争いの火種になってしまう。
いまだ気絶しているリナリーの体を起こしたラビが声を上げた。
「リナリーの下に変なカボチャがいるさ!!」
彼女の下で伸びている何か。傘の形状の上にカボチャの頭がついたなんともおかしな生き物だった。パチリと目を開けたかと思えば「どけレロクソエクソシスト!」と毒気のある人の言葉を話す。
始めに行動を起こしたのは白雪の道化と黒色剣士だった。片や発動した左腕の爪先を、もう片や鈍色に光る刀の切っ先を、鋭利な二つの武器を向けてカボチャを威嚇する。
「スパンと逝きたくなかったらここから出せオラ」
「出口はどこですか」
「でっ、出口は無いレロ……」
冷や汗をかき傘の体を震わせ、怯えながらもカボチャは言った。一瞬その表情が固まり、彼の口から今までとは違った声色が飛び出す。
皆体が硬直した。江戸で聞かされた、忌々しいその声。
「出航です。エクソシスト諸君」
カボチャの口から、闇の王が風船の姿をして現した。
「お前達はこれよりこの舟と共に黄泉へ渡航いたしまぁース!」
その声が時限ボタンだとでも言うようだった。当たりの建物が爆発したように音を立てて崩れていく。千年伯爵の口端が、殊更愉快に吊り上がった。
「危ないですヨ。引っ越しが済んだ場所から崩壊が始まりましタ」
「どういうつもりだ……っ」
神田が伯爵の形状をした風船を睨みつける。
「この舟はまもなく次元の狭間に吸収されて消滅しまス。あと3時間、それがお前達がこの世界に存在していられる時間でス!」
楽し気な声が、リナリーへと矛先を向けた。
「可愛いお嬢さん。良い仲間を持ちましたネェ。みんながキミと一緒に逝ってくれるかラ淋しくありませんネ」
「伯爵……っ」
最後の置き土産とでもいうように。不吉な言葉を残し伯爵の形状をした仮物の風船は、天高く昇りその姿を消していった。
一軒、もうまた一軒。カウントするにも神経がすり減った頃。
「どこかに外に通じる家があるハズですよ! 僕それで来たんですから!」
「ってもう何十件壊してんさ!!」
唯一、方舟の内部に入ったことのあるアレンの言葉を信じそこらにある家々を皆の力で破壊するが、すべて外れくじだったようで無駄に体力を削がれてしまっていた。
迫りくる空間の破壊音に追われ、息も絶え絶えだった。その瞬間、床が崩れて足場を取られた。崩壊がすぐそこにまで到達している。一同の顔に絶望の色が濃くなった。それを嘲笑うかのように一切の出口はないとカボチャは言った。
刹那――。
「あるよ。出口だけならね」
状況にそぐわない、落ち着いた声色。
希望の天使か、ただの毒か。
2025/1/5.
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