12.閉幕ベルはまだ鳴らない
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安全な場所へ移動していた皆と合流すべく、結晶化の解かれたリナリーをラビがおぶって移動する。崩壊を免れた橋の下にて自分達を待っていたであろう彼等の姿が見えた。
その中で見知った高い等身が「久しぶりである」と微笑んでくる。少し見ない内にすっかり戦士の顔だと思いながらクロウリーへ返答した。
その直後、一人の女性が自分へ向かって走ってきた。覚束ない足取りで抱き着かれ、思わず倒れそうになる。
「咲耶ちゃんっ――!」
潤んだ声で名前を呼ばれた。先ほどは戦闘真っ只中だったため、この人のことをあまり気に留めてあげられなかった。首に回された腕と肩口に埋められた頭が小刻みに震えている。肩の団服の布地が、ミランダの涙によって濡れていく感覚。ブラウンの癖のある髪が咲耶の首筋と頬を掠めて擽った。
彼女がここにいるということは、本部で始めて会ったあの日の決意表明を立派に形にできたのだろう。例え適合者であってもイノセンスとの共鳴が、身体と精神にどれだけの傷をつけるか、それこそきっと血の吐くような努力で耐え抜いたのだ。その痛みが容易に想像できる。
いつまでも泣いているミランダの頭をそっと撫でた。涙で顔面をぐちゃぐちゃにしながら彼女は語った。
江戸への船旅で守り切れず目の前で亡くなった船員たちのこと。決死の覚悟で挑んだ戦いだったはずなのに、それでも力及ばなかったこと。後悔が泉のように口から湧きでるミランダに、慰めにもなれない労いの言葉を送った。
彼女が落ち着くのを待って、ようやく嗚咽が聞こえなくなりミランダは咲耶から離れた。涙で腫らした目が咲耶の着ている団服を見て大きく見開く。どうしたのかと声をかければ、「団服がお揃いで嬉しい」と遠慮がちに彼女は微笑した。改めてミランダの団服を見遣れば、確かに自分と同じくライダースーツ型のデザインだった。ほんとだと同意すれば、また一つ嬉しそうに笑ってくれた。
各々が傷を癒し、当たりを警戒等する中。
「ブックマン、ですよね……」
彼がティエドールと話し込んでいたのを観察しつつ、それが終話したところを見計らった。独特のアイメイクが施された小柄な翁の名を口にすると、彼の首が自分へ向けられる。
「改めまして、藤島 咲耶です」と自己紹介しながら片膝を立ててしゃがみ、地面に座る彼と目線を合わせた。
「船で入国したと聞きました。途中の襲撃で船員がたくさん、犠牲になったことも――」
何人かの視線が自分へ向けられるのを感じながら、言葉は止めない。
「さっきの戦闘で見たと思いますが、私は水使いです。海での交戦だったら少なからず戦況を変えられたかもしれない。もっと早く……合流すべきだった。すみませんでした」
深々と頭を下げた。濃く黒いアイシャドウに縁取られた老子の目が、ゆるりと瞬きをする。
「顔を上げよ。居合わせられなかったことにお主が責任を感じることはない。あの状況を打破するには、後にも先にも犠牲は避けられなかったやもしれん」
「――なんでっすかっ、」
会話の中へ唐突に第三者が横入りしてきて、声の主だと思われる男性へ首を捻る。ノアへ一人立ち向かっていった東洋人の男性だった。悔しそうに、痛々しそうに歯を食いしばっていたかと思えば、次の瞬間には咲耶の肩を乱暴に掴み上げる。
「あなたが、っ、あなたがいてくれていたら! アニタ様達は助かったかもしれないっす! 誰も死なずにすんだかもしれない――っ、それなのに!!」
「おいチャオジーやめろ!」
青年が咲耶を力任せに揺さぶるのを、ラビと数人の男性が慌てて彼の腕を掴んで静止した。
水夫の数名生き残ったと聞いている。おそらくこのチャオジーと言う青年はその一人だ。
震えるように肩に食い込む指の深さは、きっと彼の無念と悔しさには敵わない。彼の手にそっと自分の手を添えた。
「ごめんなさい…………」
彼から視線を反らさず呟いた。険しかったチャオジーの表情が次第に悲しさに変化して、咲耶を掴んだ腕をゆっくり離していった。
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その中で見知った高い等身が「久しぶりである」と微笑んでくる。少し見ない内にすっかり戦士の顔だと思いながらクロウリーへ返答した。
その直後、一人の女性が自分へ向かって走ってきた。覚束ない足取りで抱き着かれ、思わず倒れそうになる。
「咲耶ちゃんっ――!」
潤んだ声で名前を呼ばれた。先ほどは戦闘真っ只中だったため、この人のことをあまり気に留めてあげられなかった。首に回された腕と肩口に埋められた頭が小刻みに震えている。肩の団服の布地が、ミランダの涙によって濡れていく感覚。ブラウンの癖のある髪が咲耶の首筋と頬を掠めて擽った。
彼女がここにいるということは、本部で始めて会ったあの日の決意表明を立派に形にできたのだろう。例え適合者であってもイノセンスとの共鳴が、身体と精神にどれだけの傷をつけるか、それこそきっと血の吐くような努力で耐え抜いたのだ。その痛みが容易に想像できる。
いつまでも泣いているミランダの頭をそっと撫でた。涙で顔面をぐちゃぐちゃにしながら彼女は語った。
江戸への船旅で守り切れず目の前で亡くなった船員たちのこと。決死の覚悟で挑んだ戦いだったはずなのに、それでも力及ばなかったこと。後悔が泉のように口から湧きでるミランダに、慰めにもなれない労いの言葉を送った。
彼女が落ち着くのを待って、ようやく嗚咽が聞こえなくなりミランダは咲耶から離れた。涙で腫らした目が咲耶の着ている団服を見て大きく見開く。どうしたのかと声をかければ、「団服がお揃いで嬉しい」と遠慮がちに彼女は微笑した。改めてミランダの団服を見遣れば、確かに自分と同じくライダースーツ型のデザインだった。ほんとだと同意すれば、また一つ嬉しそうに笑ってくれた。
各々が傷を癒し、当たりを警戒等する中。
「ブックマン、ですよね……」
彼がティエドールと話し込んでいたのを観察しつつ、それが終話したところを見計らった。独特のアイメイクが施された小柄な翁の名を口にすると、彼の首が自分へ向けられる。
「改めまして、藤島 咲耶です」と自己紹介しながら片膝を立ててしゃがみ、地面に座る彼と目線を合わせた。
「船で入国したと聞きました。途中の襲撃で船員がたくさん、犠牲になったことも――」
何人かの視線が自分へ向けられるのを感じながら、言葉は止めない。
「さっきの戦闘で見たと思いますが、私は水使いです。海での交戦だったら少なからず戦況を変えられたかもしれない。もっと早く……合流すべきだった。すみませんでした」
深々と頭を下げた。濃く黒いアイシャドウに縁取られた老子の目が、ゆるりと瞬きをする。
「顔を上げよ。居合わせられなかったことにお主が責任を感じることはない。あの状況を打破するには、後にも先にも犠牲は避けられなかったやもしれん」
「――なんでっすかっ、」
会話の中へ唐突に第三者が横入りしてきて、声の主だと思われる男性へ首を捻る。ノアへ一人立ち向かっていった東洋人の男性だった。悔しそうに、痛々しそうに歯を食いしばっていたかと思えば、次の瞬間には咲耶の肩を乱暴に掴み上げる。
「あなたが、っ、あなたがいてくれていたら! アニタ様達は助かったかもしれないっす! 誰も死なずにすんだかもしれない――っ、それなのに!!」
「おいチャオジーやめろ!」
青年が咲耶を力任せに揺さぶるのを、ラビと数人の男性が慌てて彼の腕を掴んで静止した。
水夫の数名生き残ったと聞いている。おそらくこのチャオジーと言う青年はその一人だ。
震えるように肩に食い込む指の深さは、きっと彼の無念と悔しさには敵わない。彼の手にそっと自分の手を添えた。
「ごめんなさい…………」
彼から視線を反らさず呟いた。険しかったチャオジーの表情が次第に悲しさに変化して、咲耶を掴んだ腕をゆっくり離していった。
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