10.僕らの希望
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顔を伏せるバクさんの胸倉を掴み、壁に叩きつけた。
「開けて下さい、バクさん!! ここを開けて下さい!!」
「ダメだ」
「ウォーカー落ち着け!」
「フォーを見殺しにする気ですか!!!」
頑なに首を縦に振らない彼に僕の声はさらに荒れてしまう。李佳とウォンさんが僕を静止しようとする。
僕とは対照的に、トーンを一定とした口調でバクさんは語り出す。
「キミは……エクソシストは我ら唯一の希望なのだ。エクソシストひとり死ぬことが……どれだけこの戦争に影響することだと思っている?」
この顔、知ってる。コムイさんもよくしてた。部下の死が苦しくて、胸が張り裂けそうになってもその組織の長として本音に蓋をする。心を殺す時の顔だ。
「フォーは仕方ない。彼女のことを想うならウォーカー、今は耐えて前に進むんだ」
「そんな」と蝋花さんが目に涙を溜め、悲痛の表情を浮かべる。何も語らないシィフも顔を伏せていた。
冷静で至極当然な支部長としての決断。それでも、僕は騙されない。
「……ホントは腹ワタ煮えくり返ってるんじゃないですか」
涙とジンマシンで、ひどい顔。素直じゃないったら。
慌てて否定するバクさんに少しだけ頬が緩んで、すぐに引き締め直した。固く閉じられた岩石の壁に、存在する右手を当てる。
「バクさんの気持ちはよく分かりました。あなたがここを開けられないなら、僕が開けます。それなら文句はないでしょ!!」
右腕に力を込めた瞬間、僕の身体は地面に突っ伏していた。
「大アリだ馬鹿者!!」というバクさんのゴーサインと共にウォンさんと李佳が僕を取り押さえたのだ。
「バクさんだってホントはフォーを助けたいんでしょ!! その証拠にジンマシンだっていっぱい」
「ジンマシンはほっとけ!!」
図星だとでもいうような彼は、それでも僕に食って掛かってきた。
「キミの体はダークマターの攻撃で分子に分解されかかっているんだぞ? 戦うどころか僕が殴るだけでもキミの体は崩壊してしまうかもしれないんだっ。そんなキミを行かせるバカがどこにいる!! 命令を聞けエクソシスト!!!」
僕はポーカーが得意。生きるために幼い頃からイカサマの腕を磨いてきた。相手を負かすためなら、どんな手を使ってでも勝つ。それが卑怯な手だったとしても。
触れてはいけない彼の、ブラックボックスの扉をこじ開ける。
「リナリーを盗撮していたことコムイさんにバラしますよ」
ぼそりと呟いたそれは思った以上にバクさんにダメージを与えられたようだった。口をぱくぱくさせて何も反論できない様子。僕は絶対に退かないことを彼に断言する。
「はじめて会った時、あなたは僕に戦場に戻る気があるかと聞いた。僕は≪YES≫と答えたはずです」
「それはキミがエクソシストとして戦えるようになったらの話だ! 左腕が復活していない今のキミはただの人間なんだぞ」
「ちがう!!」
断言できる。ただの人間。そうあれたら良かったのかもしれない。さっきのアクマを見た時の高揚感、自分でも恐ろしいくらいに細胞が息を吹き返した。望んで仕方なかったものが目の前にいるという現実に。
「僕はもう人間じゃない……エクソシストです。戦場に戻らせてください、アクマの元に……それから」
声が、鮮明に聞こえる。
「――僕の帰りを待っている人がいるんです。近くにいなくても、ずっと夢の中で寄り添っていてくれた……。彼女に」
――会いたい。
強烈な閃光が僕を食らう。身体に、元あったはずの力が戻ってくる予感がした。壁の前に立ち、振り向かずに言った。
「行きます。ありがとうバクさん」
何かを諦めたように目を伏せた彼は「封神」とか細い声で呟いた。音をたてて開いた壁の中へ僕はすべりこむ。心配をかけて、ごめんなさい。もう僕は大丈夫。時間の流れに生かされるのではなく、自分の意志で生きていきたいから。
唸れ心臓。謳え戦士の誓い。
沸き立つ力は、神からの花束だ。
友たちの名を呼ぶ。
「リナリー」
彼女の優しい笑みを想う。初日に見た夢の中で君は泣いていた。誰かのためにいつも胸を痛める彼女をぎゅっと抱きしめるため。
「ラビ」
ちょっとだけいじわる。それでも温かな彼の笑みを想う。見えないしがらみの糸に捕らわれながら歩いてきた彼の掌に、再会の拳を入れ込むため。
「クロウリー」
泣き虫な彼の柔い笑みを想う。踏み込んだ外の世界で必死に息をする彼の手を取り、引っ張っていくため。
脳裏を過るたくさんの人の姿。最後に闇色の空間の中で、彼女は云った。
――待ってるよ。あなたの帰りを、ずっと待ってる
アクマと人への愛を噛みしめて、名前のない水面の月を踏んで
僕はきみたちに会いにいく。
2024/11/11
「開けて下さい、バクさん!! ここを開けて下さい!!」
「ダメだ」
「ウォーカー落ち着け!」
「フォーを見殺しにする気ですか!!!」
頑なに首を縦に振らない彼に僕の声はさらに荒れてしまう。李佳とウォンさんが僕を静止しようとする。
僕とは対照的に、トーンを一定とした口調でバクさんは語り出す。
「キミは……エクソシストは我ら唯一の希望なのだ。エクソシストひとり死ぬことが……どれだけこの戦争に影響することだと思っている?」
この顔、知ってる。コムイさんもよくしてた。部下の死が苦しくて、胸が張り裂けそうになってもその組織の長として本音に蓋をする。心を殺す時の顔だ。
「フォーは仕方ない。彼女のことを想うならウォーカー、今は耐えて前に進むんだ」
「そんな」と蝋花さんが目に涙を溜め、悲痛の表情を浮かべる。何も語らないシィフも顔を伏せていた。
冷静で至極当然な支部長としての決断。それでも、僕は騙されない。
「……ホントは腹ワタ煮えくり返ってるんじゃないですか」
涙とジンマシンで、ひどい顔。素直じゃないったら。
慌てて否定するバクさんに少しだけ頬が緩んで、すぐに引き締め直した。固く閉じられた岩石の壁に、存在する右手を当てる。
「バクさんの気持ちはよく分かりました。あなたがここを開けられないなら、僕が開けます。それなら文句はないでしょ!!」
右腕に力を込めた瞬間、僕の身体は地面に突っ伏していた。
「大アリだ馬鹿者!!」というバクさんのゴーサインと共にウォンさんと李佳が僕を取り押さえたのだ。
「バクさんだってホントはフォーを助けたいんでしょ!! その証拠にジンマシンだっていっぱい」
「ジンマシンはほっとけ!!」
図星だとでもいうような彼は、それでも僕に食って掛かってきた。
「キミの体はダークマターの攻撃で分子に分解されかかっているんだぞ? 戦うどころか僕が殴るだけでもキミの体は崩壊してしまうかもしれないんだっ。そんなキミを行かせるバカがどこにいる!! 命令を聞けエクソシスト!!!」
僕はポーカーが得意。生きるために幼い頃からイカサマの腕を磨いてきた。相手を負かすためなら、どんな手を使ってでも勝つ。それが卑怯な手だったとしても。
触れてはいけない彼の、ブラックボックスの扉をこじ開ける。
「リナリーを盗撮していたことコムイさんにバラしますよ」
ぼそりと呟いたそれは思った以上にバクさんにダメージを与えられたようだった。口をぱくぱくさせて何も反論できない様子。僕は絶対に退かないことを彼に断言する。
「はじめて会った時、あなたは僕に戦場に戻る気があるかと聞いた。僕は≪YES≫と答えたはずです」
「それはキミがエクソシストとして戦えるようになったらの話だ! 左腕が復活していない今のキミはただの人間なんだぞ」
「ちがう!!」
断言できる。ただの人間。そうあれたら良かったのかもしれない。さっきのアクマを見た時の高揚感、自分でも恐ろしいくらいに細胞が息を吹き返した。望んで仕方なかったものが目の前にいるという現実に。
「僕はもう人間じゃない……エクソシストです。戦場に戻らせてください、アクマの元に……それから」
声が、鮮明に聞こえる。
「――僕の帰りを待っている人がいるんです。近くにいなくても、ずっと夢の中で寄り添っていてくれた……。彼女に」
――会いたい。
強烈な閃光が僕を食らう。身体に、元あったはずの力が戻ってくる予感がした。壁の前に立ち、振り向かずに言った。
「行きます。ありがとうバクさん」
何かを諦めたように目を伏せた彼は「封神」とか細い声で呟いた。音をたてて開いた壁の中へ僕はすべりこむ。心配をかけて、ごめんなさい。もう僕は大丈夫。時間の流れに生かされるのではなく、自分の意志で生きていきたいから。
唸れ心臓。謳え戦士の誓い。
沸き立つ力は、神からの花束だ。
友たちの名を呼ぶ。
「リナリー」
彼女の優しい笑みを想う。初日に見た夢の中で君は泣いていた。誰かのためにいつも胸を痛める彼女をぎゅっと抱きしめるため。
「ラビ」
ちょっとだけいじわる。それでも温かな彼の笑みを想う。見えないしがらみの糸に捕らわれながら歩いてきた彼の掌に、再会の拳を入れ込むため。
「クロウリー」
泣き虫な彼の柔い笑みを想う。踏み込んだ外の世界で必死に息をする彼の手を取り、引っ張っていくため。
脳裏を過るたくさんの人の姿。最後に闇色の空間の中で、彼女は云った。
――待ってるよ。あなたの帰りを、ずっと待ってる
アクマと人への愛を噛みしめて、名前のない水面の月を踏んで
僕はきみたちに会いにいく。
2024/11/11
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