10.僕らの希望
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「わー! フォーさんの内からなんか出てきたぁ!!」
「多分……アクマじゃないかな」
「バカ! どー見てもアクマだろっ!」
科学班見習いの三人が慌てふためく。ここは強靭な結界で百年守られていると聞いた。それがどうしてこうも容易く。その時、苦しむフォーのか細い声が聞こえた。
「逃げ……ろ……。こいつはお前を殺しに来たんだ、……今のお前じゃ勝ち目はねぇ……逃げるんだ……」
「そんなことッ!!」
「そんなことはさせないよ」
僕たちのやり取りに第三者の否定が横入りして、僕の胸を何かが貫いた。思わず、倒れこむ。
「しっかりしろウォーカー! なんだこれっ、貫かれてる……!」
僕を受け止めた李佳の目が見開いた。僕の胸に突き刺さる糸状の何か。
「私のダークマターは物質分解能力。その糸があらゆる物質の構造を分子まで分解・吸収して存在を消滅させるよ」
消えてなくなるがいい。ボウヤ。
刹那、全身を駆けめげる激痛に僕は叫びを上げた。身体の奥底、細胞の一つ一つが破壊されていくような感じたことのない苦痛。身体が形状をなくしていく。
「や、だっ……ウォーカーさんっ、消えちゃやだぁー!!」
薄れ行く意識の遠いところから、蝋花さんの叫びが木霊する。
「゙封神゙招喚 我 血ノモトニ許可スル!!」
そこに響くは、まじないのようなバクさんの科白。柱柱の印から一寸の光が派生して、それはアクマへと向かっていった。
「支部長ぉー!」
「フォー! 今のうちだ!!」
「遅せぇよバカバク!!」
フォーがアクマと僕を繋ぐ糸を断ち切った。
「やっと糸が切れた!!」
「早くこっちへ! 今の攻撃程度じゃ数秒動きを止めるくらいしかできん!」
李佳が僕を背負い、皆その場から急いで離れた。支部内に避難を促す警報が駆け抜ける。その間にも僕の体は分解が進んで色素が薄まり、少しの衝撃で粉々になってしまいそうだった。
アクマ侵入という未だかつてない最悪の事態。そしてぐったりとした僕の様子に真っ青な顔をする李佳に、バクさんが状況を分析しながら追い打ちをかけた。
些細な衝撃でも僕の体は分子レベルに崩壊する。
その衝撃的な言葉に李佳の顔色は殊更悪くなる。薄さ数ミリの氷の板を運ぶような緊張感が彼に圧し掛かった。
逃げ惑う団員の中からウォンさんが姿を表し、バクさんと何かやりとりをしてるけど、蝋花さんたちにも僕にも何の話かわからない。
バクさんは息を切らしながら、その背中に背負うフォーに言い放った。彼女も僕と同じく、力なく腕がだらんと投げ出されている。
「フォー、……フォーたのむ! お前が頼りだ」
「はっ……わかってらぁバク……」
フォーを下し通路へと向き直った彼に、李佳が問う。
「し、支部長何する気っスか!?」
「この通路を塞いで奴のいる北地区を隔離する!」
彼の家系に受け継がれし守り神の力を操る能力。印を力技で掘ったのか、彼の手には血が滲んでいる。バクさんがそれを掲げると、地面から黒々とした岩石が生えてきて通路を塞いだ。今一度バクさんが彼女の名を呼ぶ。気のせいだろうか。その声が、少しだけ震えているような気がした。
「フォー!」
「よっしゃ……――ウォーカー」
朦朧とする意識の中、名前を呼ばれて瞼を開ける。一人で立つのもやっとの様子の彼女が、僕に笑いかけていた。
「しっかりしろよ。お前見た目より全然根性あるから大丈夫だよ……っ」
フォーの姿が、僕の姿形に変貌した。
「きっと発動できらぁ。がんばんな」
――なにを、いっているんだ?
今から彼女が何をしようとしているのか、いやでも連想できて。それがどうか当たらないでほしかったのに。
「やめろっ、まさか……っやめろフォー!!」
「エクソシストじゃない一介の守り神じゃあいつは倒せねぇだろうけど。なんとか時間かせぐから」
だから逃げろよ!
僕の姿で笑う彼女が壁の向こうへ消えていく。伸ばした腕も静止も、どうしたって届かない。今の僕は、こんなにも無力。
「バクさんやめさせて下さい! 僕が行きます! 僕が行くからっ、フォー!」
喉がやけるほどの叫びは、閉じた壁に遮られて冷たい地面に食われていった。
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「多分……アクマじゃないかな」
「バカ! どー見てもアクマだろっ!」
科学班見習いの三人が慌てふためく。ここは強靭な結界で百年守られていると聞いた。それがどうしてこうも容易く。その時、苦しむフォーのか細い声が聞こえた。
「逃げ……ろ……。こいつはお前を殺しに来たんだ、……今のお前じゃ勝ち目はねぇ……逃げるんだ……」
「そんなことッ!!」
「そんなことはさせないよ」
僕たちのやり取りに第三者の否定が横入りして、僕の胸を何かが貫いた。思わず、倒れこむ。
「しっかりしろウォーカー! なんだこれっ、貫かれてる……!」
僕を受け止めた李佳の目が見開いた。僕の胸に突き刺さる糸状の何か。
「私のダークマターは物質分解能力。その糸があらゆる物質の構造を分子まで分解・吸収して存在を消滅させるよ」
消えてなくなるがいい。ボウヤ。
刹那、全身を駆けめげる激痛に僕は叫びを上げた。身体の奥底、細胞の一つ一つが破壊されていくような感じたことのない苦痛。身体が形状をなくしていく。
「や、だっ……ウォーカーさんっ、消えちゃやだぁー!!」
薄れ行く意識の遠いところから、蝋花さんの叫びが木霊する。
「゙封神゙招喚 我 血ノモトニ許可スル!!」
そこに響くは、まじないのようなバクさんの科白。柱柱の印から一寸の光が派生して、それはアクマへと向かっていった。
「支部長ぉー!」
「フォー! 今のうちだ!!」
「遅せぇよバカバク!!」
フォーがアクマと僕を繋ぐ糸を断ち切った。
「やっと糸が切れた!!」
「早くこっちへ! 今の攻撃程度じゃ数秒動きを止めるくらいしかできん!」
李佳が僕を背負い、皆その場から急いで離れた。支部内に避難を促す警報が駆け抜ける。その間にも僕の体は分解が進んで色素が薄まり、少しの衝撃で粉々になってしまいそうだった。
アクマ侵入という未だかつてない最悪の事態。そしてぐったりとした僕の様子に真っ青な顔をする李佳に、バクさんが状況を分析しながら追い打ちをかけた。
些細な衝撃でも僕の体は分子レベルに崩壊する。
その衝撃的な言葉に李佳の顔色は殊更悪くなる。薄さ数ミリの氷の板を運ぶような緊張感が彼に圧し掛かった。
逃げ惑う団員の中からウォンさんが姿を表し、バクさんと何かやりとりをしてるけど、蝋花さんたちにも僕にも何の話かわからない。
バクさんは息を切らしながら、その背中に背負うフォーに言い放った。彼女も僕と同じく、力なく腕がだらんと投げ出されている。
「フォー、……フォーたのむ! お前が頼りだ」
「はっ……わかってらぁバク……」
フォーを下し通路へと向き直った彼に、李佳が問う。
「し、支部長何する気っスか!?」
「この通路を塞いで奴のいる北地区を隔離する!」
彼の家系に受け継がれし守り神の力を操る能力。印を力技で掘ったのか、彼の手には血が滲んでいる。バクさんがそれを掲げると、地面から黒々とした岩石が生えてきて通路を塞いだ。今一度バクさんが彼女の名を呼ぶ。気のせいだろうか。その声が、少しだけ震えているような気がした。
「フォー!」
「よっしゃ……――ウォーカー」
朦朧とする意識の中、名前を呼ばれて瞼を開ける。一人で立つのもやっとの様子の彼女が、僕に笑いかけていた。
「しっかりしろよ。お前見た目より全然根性あるから大丈夫だよ……っ」
フォーの姿が、僕の姿形に変貌した。
「きっと発動できらぁ。がんばんな」
――なにを、いっているんだ?
今から彼女が何をしようとしているのか、いやでも連想できて。それがどうか当たらないでほしかったのに。
「やめろっ、まさか……っやめろフォー!!」
「エクソシストじゃない一介の守り神じゃあいつは倒せねぇだろうけど。なんとか時間かせぐから」
だから逃げろよ!
僕の姿で笑う彼女が壁の向こうへ消えていく。伸ばした腕も静止も、どうしたって届かない。今の僕は、こんなにも無力。
「バクさんやめさせて下さい! 僕が行きます! 僕が行くからっ、フォー!」
喉がやけるほどの叫びは、閉じた壁に遮られて冷たい地面に食われていった。
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