9.船は行く
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出航予定時刻より前に一行が船着き場へ移動すると、コムイの言っていた協力者らしき人物達が待ち構えていた。ティエドールが彼等と話し込んでいる内に、三人は並ぶ船の見定めを始める。彼等の団体がいくつか船を所有していたそうで、この中から選んでいいとのことだった。
「選べと言われても船の知識はほとんどないんだがな……」
「動けばどれも一緒だろ」
船着き場を歩きながら一艘一艘眺めつつマリと神田がぼやく。
「できることなら鉄筋より木製。可能な限り小ぶりで、なおかつ風の抵抗をダイレクトに受けづらい作りのもの。あ、あれがいい」
他のものに比べて一回り小さな一艘が咲耶の目に留まる。すかさず船の上に移動した彼女を男二人も追うと、彼女は真新しい手すりをすべるように触れていた。
「大切にされてるみたい」
船の上部を見渡し、神田があることに気付いた。
「おい待て。この船、舵がねぇぞ」
本来船にあるはずの作動部がない。大きなマストがあるだけのなんとも無機質で簡素な作りとなっていた。咲耶は二人に振り返る。
「それなら平気。だって必要ないから」
「咲耶、どういう意味だ?」
問うてくるマリに、彼女は当たり前のように答えた。
「この船は私が江戸まで連れていく」
江戸到着までの食料や船旅に必要物資を船内に詰めてもらえるとのことだった。協力者より同行するとの申し出は一同丁重に断った。危険な旅となるのは想像に容易い。積み荷を甲板へ運ぶ彼等の様子を神田は離れたところから眺めていた。コツッと軽い靴音が鳴ったかと思えば咲耶がそこに立っていた。彼女の目線は自分と同じく協力者達へと向いている。
「船乗りに男が多い理由を知ってる?」
「あ?」
視線を彼等から外すことはなく彼女は神田へ問いかけた。
「船の神様が女の人なんだって。だから同性が乗るのを嫌がる」
感想は、なんとも嫉妬深い。はぁ、と咲耶はため息を吐いた。
「私男に生まれたかったなぁ」
神田はくだらないとばかりに揶揄した。
彼は知らないのだ。女というのは、生きる上での弊害が多すぎる。
「速度が速度なので船酔いの心配はないと思いますが、その代わりどこかにしっかり捕まっていてください」
咲耶の言葉に軽く了承の意を唱えたティエドールは早速とばかりに船室の中に入っていく。彼女は盲目の男へ視線を滑らせた。
「マリ。きつかったら、言ってほしい……」
「ありがとう。大丈夫だ」
聴覚が敏感なマリにとって長時間波や風の音を聞くのは彼の体調にどんな影響を及ぼすのかわからない。ふわりと笑んで頭を撫でてきた彼に少しだけ反応に困ってしまう。彼もティエドールに続いて中へ消えていった。
船の先端へ移動し咲耶は遠く地平線を見る。ふわりと膨らむようなやわい朝の潮風。頬を撫でる髪を軽く払い目を瞑る。深く吸い込んで肺に潮の空気を取り込んだ。
「……行ってきます」
風よ。言霊を運べ。
敬愛なる我が師の元へ。
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「選べと言われても船の知識はほとんどないんだがな……」
「動けばどれも一緒だろ」
船着き場を歩きながら一艘一艘眺めつつマリと神田がぼやく。
「できることなら鉄筋より木製。可能な限り小ぶりで、なおかつ風の抵抗をダイレクトに受けづらい作りのもの。あ、あれがいい」
他のものに比べて一回り小さな一艘が咲耶の目に留まる。すかさず船の上に移動した彼女を男二人も追うと、彼女は真新しい手すりをすべるように触れていた。
「大切にされてるみたい」
船の上部を見渡し、神田があることに気付いた。
「おい待て。この船、舵がねぇぞ」
本来船にあるはずの作動部がない。大きなマストがあるだけのなんとも無機質で簡素な作りとなっていた。咲耶は二人に振り返る。
「それなら平気。だって必要ないから」
「咲耶、どういう意味だ?」
問うてくるマリに、彼女は当たり前のように答えた。
「この船は私が江戸まで連れていく」
江戸到着までの食料や船旅に必要物資を船内に詰めてもらえるとのことだった。協力者より同行するとの申し出は一同丁重に断った。危険な旅となるのは想像に容易い。積み荷を甲板へ運ぶ彼等の様子を神田は離れたところから眺めていた。コツッと軽い靴音が鳴ったかと思えば咲耶がそこに立っていた。彼女の目線は自分と同じく協力者達へと向いている。
「船乗りに男が多い理由を知ってる?」
「あ?」
視線を彼等から外すことはなく彼女は神田へ問いかけた。
「船の神様が女の人なんだって。だから同性が乗るのを嫌がる」
感想は、なんとも嫉妬深い。はぁ、と咲耶はため息を吐いた。
「私男に生まれたかったなぁ」
神田はくだらないとばかりに揶揄した。
彼は知らないのだ。女というのは、生きる上での弊害が多すぎる。
「速度が速度なので船酔いの心配はないと思いますが、その代わりどこかにしっかり捕まっていてください」
咲耶の言葉に軽く了承の意を唱えたティエドールは早速とばかりに船室の中に入っていく。彼女は盲目の男へ視線を滑らせた。
「マリ。きつかったら、言ってほしい……」
「ありがとう。大丈夫だ」
聴覚が敏感なマリにとって長時間波や風の音を聞くのは彼の体調にどんな影響を及ぼすのかわからない。ふわりと笑んで頭を撫でてきた彼に少しだけ反応に困ってしまう。彼もティエドールに続いて中へ消えていった。
船の先端へ移動し咲耶は遠く地平線を見る。ふわりと膨らむようなやわい朝の潮風。頬を撫でる髪を軽く払い目を瞑る。深く吸い込んで肺に潮の空気を取り込んだ。
「……行ってきます」
風よ。言霊を運べ。
敬愛なる我が師の元へ。
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