7.雪の喪失、海の声
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宿に到着後、各自用意してもらった部屋にて各々明日の準備を整えていた。その最中、咲耶の部屋の扉がノックされる。マリあたりかと思い扉を開ければ、近隣に派遣されていた探索部隊だと名乗る男性が立っていた。
「こちら室長より預かってまいりました。新しく改良した団服とのことです」
そう言いながら彼が差し出した大きめの袋を受け取る。
「ありがとうございます。すごい、デザインですね」
三人分、自分と元帥以外の男性二人分の団服が入っていた。袋の中身をまじまじと覗きみる咲耶を彼はにこやかに見てその場を去っていった。
団服は後ほど渡しに行くとして、コムイへの定期連絡を入れるために咲耶は電話機が設置されている一階へ移動した。これが日本上陸前の最後の連絡となるはず。これから先のことを連想しながら電話機の前に辿り着き、ゴーレムを繋ぐ。コールが鳴ってまもなく、電話が繋がった。
『やぁ、咲耶ちゃん。ティエドール部隊と無事合流できたようだね』
「コムイさん」
久しく耳にしていなかった声が聞こえる。つい数週間前、本部で会って話したというのに、それが遠い昔のように感じた。
「クロス元帥の居場所が日本だと分かって、彼の部隊は江戸へ向かったんだ。君たちもそこへ向かうってことかい?」
「はい。元帥の適合者探しに私達も同行します」
先程海が話してくれたのは、彼等の事だったのかと腑に落ちた。『無事を祈るよ』とコムイが細い声を出す。その時、背後から唐突に声が飛んできた。
「コムイ。船は教団で用意できるのか」
「神田……」
振り向けば黒髪長身の男が立っていた。咲耶の持つ受話器に向かって平坦に問いかける。
『神田くん? その付近の港に協力者の団体があるから、そこに手配してもらえるように頼んでおくよ』
長年教団に所属してきた神田にとって、基本の移動は汽車や馬車なのだ。船旅となると正直勝手が違う。
『そこから江戸まで深夜問わず移動したとして、どんなに早くても五日、長くて十日ほどかかる。けど今の君達なら時間の短縮可能。そうだよね咲耶ちゃん?』
「は!? 私ですか?」
突然話をふられた。何やら聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。通話の向こう側で恐らく絵に書いたような笑みを浮かべているであろうコムイが想像できて、反対に咲耶の表情が険しくなっていった。
「あれをしろと……言うんですか?」
否定を願って絞った問いかけは、いとも簡単に肯定されてしまう。二人の間で繰り広げられる会話の内容の意図が汲み取れず、神田は顔をしかめた。咲耶は諦めたように力なく肩を落とした。
「神田。私は移動に労力のほとんどを使うから、上陸してからのアクマ討伐はよろしく」
「は!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる彼に、反論はあえて聞かないふりをした。そこでもう一つ確認しなければならないと思っていた事について、咲耶がコムイに言及した。
「コムイさん。この辺りで何があったんですか?」
咲耶の問いに神田も思わず口を噤んで電話の向こうに耳を傾けた。
「村が崩壊していました。アクマの襲撃でしょうか」
『……』
電話超しの沈黙が電波不良でないのは分かっている。しばらくして、重い空気を乗せてコムイが語りだした。
『ス―マン・ダーク。教団への謀反によるイノセンスの暴走。咎落ち後そこら近隣の村を破壊のち死没。先日のエクソシストや探索部隊達の殉職についても、彼が裏で敵に情報を流していたのが原因だ』
目の前が真っ暗になりかけた。内部の人間、それも神の使途による裏切り行為。反逆の後に待っていた多大なる犠牲の結果があれだったのだ。
『幸か不幸か、クロス部隊がそこに居合わせた。アレンくんが……、ス―マンの暴走を止めようとしたんだ。彼がいなかったら、もっと甚大な被害が出ていたかもしれない』
「その後どうなった」
『イノセンスを最大限解放して、村人とス―マンの命と救おうとしたんだよ。限界まで力を使い切った時、遭遇したノアの手によって左腕を破壊された。辛うじて一命を取り留めた彼は、今アジア支部が保護している』
嗚呼、彼は人のために動いたのだ。教団にとって敵となってしまった仲間のために、命をかけた。奥歯を痛いほど噛みしめて、鉄の味が口内に広がる。横で「くだらねぇ」と冷淡に神田が言ったのが聞こえた。彼女はそれ以上なにも言えなかった。
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「こちら室長より預かってまいりました。新しく改良した団服とのことです」
そう言いながら彼が差し出した大きめの袋を受け取る。
「ありがとうございます。すごい、デザインですね」
三人分、自分と元帥以外の男性二人分の団服が入っていた。袋の中身をまじまじと覗きみる咲耶を彼はにこやかに見てその場を去っていった。
団服は後ほど渡しに行くとして、コムイへの定期連絡を入れるために咲耶は電話機が設置されている一階へ移動した。これが日本上陸前の最後の連絡となるはず。これから先のことを連想しながら電話機の前に辿り着き、ゴーレムを繋ぐ。コールが鳴ってまもなく、電話が繋がった。
『やぁ、咲耶ちゃん。ティエドール部隊と無事合流できたようだね』
「コムイさん」
久しく耳にしていなかった声が聞こえる。つい数週間前、本部で会って話したというのに、それが遠い昔のように感じた。
「クロス元帥の居場所が日本だと分かって、彼の部隊は江戸へ向かったんだ。君たちもそこへ向かうってことかい?」
「はい。元帥の適合者探しに私達も同行します」
先程海が話してくれたのは、彼等の事だったのかと腑に落ちた。『無事を祈るよ』とコムイが細い声を出す。その時、背後から唐突に声が飛んできた。
「コムイ。船は教団で用意できるのか」
「神田……」
振り向けば黒髪長身の男が立っていた。咲耶の持つ受話器に向かって平坦に問いかける。
『神田くん? その付近の港に協力者の団体があるから、そこに手配してもらえるように頼んでおくよ』
長年教団に所属してきた神田にとって、基本の移動は汽車や馬車なのだ。船旅となると正直勝手が違う。
『そこから江戸まで深夜問わず移動したとして、どんなに早くても五日、長くて十日ほどかかる。けど今の君達なら時間の短縮可能。そうだよね咲耶ちゃん?』
「は!? 私ですか?」
突然話をふられた。何やら聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。通話の向こう側で恐らく絵に書いたような笑みを浮かべているであろうコムイが想像できて、反対に咲耶の表情が険しくなっていった。
「あれをしろと……言うんですか?」
否定を願って絞った問いかけは、いとも簡単に肯定されてしまう。二人の間で繰り広げられる会話の内容の意図が汲み取れず、神田は顔をしかめた。咲耶は諦めたように力なく肩を落とした。
「神田。私は移動に労力のほとんどを使うから、上陸してからのアクマ討伐はよろしく」
「は!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる彼に、反論はあえて聞かないふりをした。そこでもう一つ確認しなければならないと思っていた事について、咲耶がコムイに言及した。
「コムイさん。この辺りで何があったんですか?」
咲耶の問いに神田も思わず口を噤んで電話の向こうに耳を傾けた。
「村が崩壊していました。アクマの襲撃でしょうか」
『……』
電話超しの沈黙が電波不良でないのは分かっている。しばらくして、重い空気を乗せてコムイが語りだした。
『ス―マン・ダーク。教団への謀反によるイノセンスの暴走。咎落ち後そこら近隣の村を破壊のち死没。先日のエクソシストや探索部隊達の殉職についても、彼が裏で敵に情報を流していたのが原因だ』
目の前が真っ暗になりかけた。内部の人間、それも神の使途による裏切り行為。反逆の後に待っていた多大なる犠牲の結果があれだったのだ。
『幸か不幸か、クロス部隊がそこに居合わせた。アレンくんが……、ス―マンの暴走を止めようとしたんだ。彼がいなかったら、もっと甚大な被害が出ていたかもしれない』
「その後どうなった」
『イノセンスを最大限解放して、村人とス―マンの命と救おうとしたんだよ。限界まで力を使い切った時、遭遇したノアの手によって左腕を破壊された。辛うじて一命を取り留めた彼は、今アジア支部が保護している』
嗚呼、彼は人のために動いたのだ。教団にとって敵となってしまった仲間のために、命をかけた。奥歯を痛いほど噛みしめて、鉄の味が口内に広がる。横で「くだらねぇ」と冷淡に神田が言ったのが聞こえた。彼女はそれ以上なにも言えなかった。
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