3.孤城の吸血鬼 Ⅱ
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「すごい豪邸……」
滑るように城の中に入って、はじめに出たのは感嘆だった。
広々としたエントランスに、黒いシャンデリア。所々年季が入っていて、何世紀も前からあったのかと推測できる。明かりもなく、仄暗い。こんな空間で、彼は生活しているのだろうか。ずっと昔から、今日まで。――たった一人で?
目を凝らし、一階の部屋数だけでも即座に確認して、二人へ振り返った。
「ねぇ、二手に分かれない?」
自分と、二人で。そう提案すると彼等は眼を見開いた。即座にアレンが首を横に降る。
「危険ですよ」
彼の言うことは最もだった。先ほど交戦して、垣間見たクロウリーの戦闘力。三人がかりで深手も負わせられなった。個々で戦えば彼を抑えるどころか、こちらの命がどうなるかの杞憂のほうが先行する。ただ優先すべき点はそこではない。連れ去られた村人の生死の安否を考えれば、タイムショートカットを第一に重要視すべきだ。
「外から見た窓枠の数からして、相当な部屋数があると思う。三人纏まって行動ってなると守備はいいとしても、村人を見つけるまで時間はかかりそうだし。ね?」
無意識にしても言い聞かせれば、アレンは言葉に詰まったようだった。少し間を置いて、本当に大丈夫なのかと確認されたので、もちろんと返答する。自分たちのやり取りを見て、ラビが肩を竦めて、再度念押しをしてきた。
「何かあったらゴーレムで連絡してさ」
「了解」
不安気な顔色が拭えない様子のアレンを見ないようにして、別の進路を探すべく彼女は踵を返すのだった。
彼女と別れ、二人は二階へと続く階段を一歩一歩と上っていく。ブーツが鳴らす足音が、高い天井へ吸い込まれては、分散していった。
「まったく、なんでエクソシストが吸血鬼退治なんかやってるんさー」
成り行きもいいところである。自分達の体力も戦闘の知恵も、こんなことへ使うためにあるのではないのに。明らかな契約外労働だ。
そんなラビの不服そうな声色に反応することもなく、アレンは気懸かりといった面持ちを拭えないままでいた。
「咲耶さん、本当に一人で大丈夫なのかな」
「何、妙に気に掛けるじゃん」
「心配じゃないんですか?」
アレンが眉を潜めてラビを見遣る。彼はその視線も気に留めることもなく、飄々と答えた。
「平気だと思うぜ。あの感じ、多分相当戦闘慣れしてんだろ」
周囲の状況を即座に分析して、次の行動を瞬時に判別する洞察力をこの目で見てしまったから。何かしらの事態も対応できるだろうと踏んでいる。答え終えると、ラビは空を跳ねるような歩調でアレンの横へ並ぶ。
「なぁアレン」
「何ですか?」
「咲耶、どう思う?」
「どうって?」
「なんでも、思ったこと。感想ないん?」
「どういう意味合いでとったらいいんですかそれは」
腹の底が読めない新緑を溶かしたようなたれ目。相変わらず何を考えているのか分からない。仕方なく彼女を思い起こし、思考を巡らせた。
「なんというか、雰囲気のある人だなって……」
言語化するのがなんとも難しいが、これが第一印象。黒目に黒髪の東洋人。なのにあの切れ目の鉄仮面とも、ツインテールの彼女ともまったく違う。
「それにしても……師匠は一体何をしにここへ? よく考えると吸血鬼退治をさせるためにあんな伝言残すなんて、ちょっと変ですよ」
先刻、否、この村の吸血鬼伝説を聞いた時から、違和感ばかりだった。自分たちが来ることを予測していたような発言。そしてこの城の中で何をしていたのか。いくつか考察してみても、どれもしっくりこない。ふと、隣から何かが倒れるような音がした。反射的に横を見れば、ラビが床で寝息を立てている。次の瞬間には煙霧が立ち込め体から力が抜けて、アレンも床に倒れこんでしまった。
鼻孔に触れる、甘ったるい芳香。確かに嗅いだ事のあるそれを、思い出す前に二人の体が浮遊した。
「…………花?」
蜘蛛の糸のようなものに体が捕らえられたのは二の次に、アレンの意識を持っていったのは目の前で開花した巨大な植物。三枚の花弁には毒々しい模様があって花というには少し、グロテスク。
「食人花か!」
花の柱頭から触手がいくつも現れた。当たりを見渡すと、広い部屋中に数えきれないほど同種の花で埋め尽くされている。アレンは即座にイノセンスを発動させ、襲い来るそれらに攻撃をしかけた。
「起きてください!! ラビ起きて!!」
離れた場所で自分と同じ糸に捕獲され、未だ眠るラビ。
銃型に変貌させた左腕で、乱射が如く花達を撃つ。体に纏わりつく糸は動けば動くほど巻ついて、殊更身動きが取りづらくなっていった。少し唸って、やっとのことラビが目覚めたその時。
「こらそこの人間共ー!!」
壁に開いた穴から、一人の人間が姿を現した。
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滑るように城の中に入って、はじめに出たのは感嘆だった。
広々としたエントランスに、黒いシャンデリア。所々年季が入っていて、何世紀も前からあったのかと推測できる。明かりもなく、仄暗い。こんな空間で、彼は生活しているのだろうか。ずっと昔から、今日まで。――たった一人で?
目を凝らし、一階の部屋数だけでも即座に確認して、二人へ振り返った。
「ねぇ、二手に分かれない?」
自分と、二人で。そう提案すると彼等は眼を見開いた。即座にアレンが首を横に降る。
「危険ですよ」
彼の言うことは最もだった。先ほど交戦して、垣間見たクロウリーの戦闘力。三人がかりで深手も負わせられなった。個々で戦えば彼を抑えるどころか、こちらの命がどうなるかの杞憂のほうが先行する。ただ優先すべき点はそこではない。連れ去られた村人の生死の安否を考えれば、タイムショートカットを第一に重要視すべきだ。
「外から見た窓枠の数からして、相当な部屋数があると思う。三人纏まって行動ってなると守備はいいとしても、村人を見つけるまで時間はかかりそうだし。ね?」
無意識にしても言い聞かせれば、アレンは言葉に詰まったようだった。少し間を置いて、本当に大丈夫なのかと確認されたので、もちろんと返答する。自分たちのやり取りを見て、ラビが肩を竦めて、再度念押しをしてきた。
「何かあったらゴーレムで連絡してさ」
「了解」
不安気な顔色が拭えない様子のアレンを見ないようにして、別の進路を探すべく彼女は踵を返すのだった。
彼女と別れ、二人は二階へと続く階段を一歩一歩と上っていく。ブーツが鳴らす足音が、高い天井へ吸い込まれては、分散していった。
「まったく、なんでエクソシストが吸血鬼退治なんかやってるんさー」
成り行きもいいところである。自分達の体力も戦闘の知恵も、こんなことへ使うためにあるのではないのに。明らかな契約外労働だ。
そんなラビの不服そうな声色に反応することもなく、アレンは気懸かりといった面持ちを拭えないままでいた。
「咲耶さん、本当に一人で大丈夫なのかな」
「何、妙に気に掛けるじゃん」
「心配じゃないんですか?」
アレンが眉を潜めてラビを見遣る。彼はその視線も気に留めることもなく、飄々と答えた。
「平気だと思うぜ。あの感じ、多分相当戦闘慣れしてんだろ」
周囲の状況を即座に分析して、次の行動を瞬時に判別する洞察力をこの目で見てしまったから。何かしらの事態も対応できるだろうと踏んでいる。答え終えると、ラビは空を跳ねるような歩調でアレンの横へ並ぶ。
「なぁアレン」
「何ですか?」
「咲耶、どう思う?」
「どうって?」
「なんでも、思ったこと。感想ないん?」
「どういう意味合いでとったらいいんですかそれは」
腹の底が読めない新緑を溶かしたようなたれ目。相変わらず何を考えているのか分からない。仕方なく彼女を思い起こし、思考を巡らせた。
「なんというか、雰囲気のある人だなって……」
言語化するのがなんとも難しいが、これが第一印象。黒目に黒髪の東洋人。なのにあの切れ目の鉄仮面とも、ツインテールの彼女ともまったく違う。
「それにしても……師匠は一体何をしにここへ? よく考えると吸血鬼退治をさせるためにあんな伝言残すなんて、ちょっと変ですよ」
先刻、否、この村の吸血鬼伝説を聞いた時から、違和感ばかりだった。自分たちが来ることを予測していたような発言。そしてこの城の中で何をしていたのか。いくつか考察してみても、どれもしっくりこない。ふと、隣から何かが倒れるような音がした。反射的に横を見れば、ラビが床で寝息を立てている。次の瞬間には煙霧が立ち込め体から力が抜けて、アレンも床に倒れこんでしまった。
鼻孔に触れる、甘ったるい芳香。確かに嗅いだ事のあるそれを、思い出す前に二人の体が浮遊した。
「…………花?」
蜘蛛の糸のようなものに体が捕らえられたのは二の次に、アレンの意識を持っていったのは目の前で開花した巨大な植物。三枚の花弁には毒々しい模様があって花というには少し、グロテスク。
「食人花か!」
花の柱頭から触手がいくつも現れた。当たりを見渡すと、広い部屋中に数えきれないほど同種の花で埋め尽くされている。アレンは即座にイノセンスを発動させ、襲い来るそれらに攻撃をしかけた。
「起きてください!! ラビ起きて!!」
離れた場所で自分と同じ糸に捕獲され、未だ眠るラビ。
銃型に変貌させた左腕で、乱射が如く花達を撃つ。体に纏わりつく糸は動けば動くほど巻ついて、殊更身動きが取りづらくなっていった。少し唸って、やっとのことラビが目覚めたその時。
「こらそこの人間共ー!!」
壁に開いた穴から、一人の人間が姿を現した。
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