3.孤城の吸血鬼 Ⅱ
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ずるり、ずるりと血を啜る歪な音。そこにいる全員の背筋に虫が這いずるような悪寒が走る。アレイスター・クロウリー、本物の吸血鬼。自分達が見上げるくらい背が高い。鋭い目線でさえ、人を殺せてしまいそうな。
変わり果てた仲間の姿に、村人達は悪い夢であれと思った。一人が後退ると、また一人。悲鳴を上げながら、村人は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
各自即座に対アクマ武器を発動させ構えれば、クロウリーが凄まじいスピードで向かってきた。
「どうします?」
「どうしよっか……」
「嚙まれたらリナリーに絶交されるぜ」
おそらく二人にとってそこは一番重要な部分だと思われる。
「とりあえず、彼にとっては大事な食事でも、村人を殺させるわけにはいかない」
アレンが地面に向かって攻撃を放ち、クロウリーの進路を塞いだ。飛び散る瓦礫にさっと彼は後退する。
「水牢」
咲耶が唱えれば、吸血鬼の体を水の鳥籠のようなものが捕らえた。
「この牢は捕われた対象が自力で外に出ることはできない。――ラビ!」
頭上に向かって彼女が仲間らしき人物の名を呼ぶ。クロウリーはその視線の先を辿って即座に首を持ち上げた。月を覆い隠すほど大きな、黒い鉄のような物体。重力に従うように、自分へ向かって落ちてくる。
「どうだ!?」
手ごたえはあった気がする。しかし、クロウリーはその歯だけで槌の先を受け止めていた。ラビのイノセンス。彼には軽量に感じるも、常人では当たり前に持ち上げることは不可能なそれを。
「うそぉ? すげェ歯だなオイ!」
驚愕するラビをクロウリーは槌ごと地面に叩きつける。一瞬隙の出来た吸血鬼の体躯を、地面からアレンの左腕がまるごと掴み上げた。
「捕まえた」
おとなしくしてください。
静かに、けれど鋭い顔色と眼差しでアレンが牽制する。爪の切っ先を彼の首元にあてがい怯むかと思えば、クロウリーは口端を吊り上げ嗤った。
「奇怪な童共だ。私にムダな時間を使わせるとはなあ、お前らも化け物か!」
おどろおどろしく、高らかに言ってのけるクロウリーに「エクソシストです」と怯むことなくアレンは即答した。
「こんばんは。私は忙しいんだ」
放せ。歪な恐怖心を煽るように、クロウリーは嘲笑う。
突如襲った鈍い痛みアレンが絶句した。彼の腕にクロウリーはその鋭い歯で噛み付いた。ラビが驚愕してアレンの名を叫ぶ。咄嗟に攻撃をしかけようと咲耶がクロウリーへ向かおうとした。刹那。
「苦い!!」
なんの前触れもなく苦しみ出したクロウリーに、思わず動きを止めた咲耶。胃の中のものをすべて吐き戻す勢いで悶絶し、森の奥へと消えていった。その場に取り残された三人は顔を見合わせる。咲耶とラビが、少し哀れにアレンへ呟いた。
「……絶交」
「うん……。されるな、アレン」
じんじんと腫れて歯形の残る指に、白髪の少年は項垂れるしかなかった。
「黒の修道士さまがクロウリーめを退散させた!! 今宵勝利は我らにありー!!!」
何やら盛り上がっているゲオルグ率いる村人達の覇気はいいとして。彼、アレンが先ほどから気になっているのはそこではない。
「あの……なーんで皆そんなに離れてるんですか?」
自分と彼等村人との距離間。そこらへんに生えている高い針葉樹の一本分はあるように感じているのは気のせいではない。例えお気になさらずと言われても。
「クロウリーに噛まれたお前が吸血鬼になると思ってるんさ」
「ラビ」
「気にすんなアレン」
慰めてくれるのかと期待した自分が馬鹿だった。
にんにくと杭という対吸血鬼用アイテムを装備する赤い兎の姿に、アレンの堪忍袋の緒が切れて、ついには拗ねてしまった。
「年下いじるのが趣味……?」
「あいつちゃかすの面白いんさ」
性格が良いのか悪いのか。
白い歯を見せて面白可笑しく笑うラビに、咲耶は思わず溜息を漏らす。
「さっさと城に行きますよ!」
「あれ何? 急にやる気満々?」
「村人がひとり連れて行かれたじゃないですか。あの状況じゃ死んだかもわからないし、まだ生きてるなら助けないと。村長さん達はここで待っていてください。城へは僕たちで行ってきます」
ゲオルグからの了承の意の中に『化物同士』という不名誉なワードが出てきて、行く前から気分が落ち込むのであった。
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変わり果てた仲間の姿に、村人達は悪い夢であれと思った。一人が後退ると、また一人。悲鳴を上げながら、村人は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
各自即座に対アクマ武器を発動させ構えれば、クロウリーが凄まじいスピードで向かってきた。
「どうします?」
「どうしよっか……」
「嚙まれたらリナリーに絶交されるぜ」
おそらく二人にとってそこは一番重要な部分だと思われる。
「とりあえず、彼にとっては大事な食事でも、村人を殺させるわけにはいかない」
アレンが地面に向かって攻撃を放ち、クロウリーの進路を塞いだ。飛び散る瓦礫にさっと彼は後退する。
「水牢」
咲耶が唱えれば、吸血鬼の体を水の鳥籠のようなものが捕らえた。
「この牢は捕われた対象が自力で外に出ることはできない。――ラビ!」
頭上に向かって彼女が仲間らしき人物の名を呼ぶ。クロウリーはその視線の先を辿って即座に首を持ち上げた。月を覆い隠すほど大きな、黒い鉄のような物体。重力に従うように、自分へ向かって落ちてくる。
「どうだ!?」
手ごたえはあった気がする。しかし、クロウリーはその歯だけで槌の先を受け止めていた。ラビのイノセンス。彼には軽量に感じるも、常人では当たり前に持ち上げることは不可能なそれを。
「うそぉ? すげェ歯だなオイ!」
驚愕するラビをクロウリーは槌ごと地面に叩きつける。一瞬隙の出来た吸血鬼の体躯を、地面からアレンの左腕がまるごと掴み上げた。
「捕まえた」
おとなしくしてください。
静かに、けれど鋭い顔色と眼差しでアレンが牽制する。爪の切っ先を彼の首元にあてがい怯むかと思えば、クロウリーは口端を吊り上げ嗤った。
「奇怪な童共だ。私にムダな時間を使わせるとはなあ、お前らも化け物か!」
おどろおどろしく、高らかに言ってのけるクロウリーに「エクソシストです」と怯むことなくアレンは即答した。
「こんばんは。私は忙しいんだ」
放せ。歪な恐怖心を煽るように、クロウリーは嘲笑う。
突如襲った鈍い痛みアレンが絶句した。彼の腕にクロウリーはその鋭い歯で噛み付いた。ラビが驚愕してアレンの名を叫ぶ。咄嗟に攻撃をしかけようと咲耶がクロウリーへ向かおうとした。刹那。
「苦い!!」
なんの前触れもなく苦しみ出したクロウリーに、思わず動きを止めた咲耶。胃の中のものをすべて吐き戻す勢いで悶絶し、森の奥へと消えていった。その場に取り残された三人は顔を見合わせる。咲耶とラビが、少し哀れにアレンへ呟いた。
「……絶交」
「うん……。されるな、アレン」
じんじんと腫れて歯形の残る指に、白髪の少年は項垂れるしかなかった。
「黒の修道士さまがクロウリーめを退散させた!! 今宵勝利は我らにありー!!!」
何やら盛り上がっているゲオルグ率いる村人達の覇気はいいとして。彼、アレンが先ほどから気になっているのはそこではない。
「あの……なーんで皆そんなに離れてるんですか?」
自分と彼等村人との距離間。そこらへんに生えている高い針葉樹の一本分はあるように感じているのは気のせいではない。例えお気になさらずと言われても。
「クロウリーに噛まれたお前が吸血鬼になると思ってるんさ」
「ラビ」
「気にすんなアレン」
慰めてくれるのかと期待した自分が馬鹿だった。
にんにくと杭という対吸血鬼用アイテムを装備する赤い兎の姿に、アレンの堪忍袋の緒が切れて、ついには拗ねてしまった。
「年下いじるのが趣味……?」
「あいつちゃかすの面白いんさ」
性格が良いのか悪いのか。
白い歯を見せて面白可笑しく笑うラビに、咲耶は思わず溜息を漏らす。
「さっさと城に行きますよ!」
「あれ何? 急にやる気満々?」
「村人がひとり連れて行かれたじゃないですか。あの状況じゃ死んだかもわからないし、まだ生きてるなら助けないと。村長さん達はここで待っていてください。城へは僕たちで行ってきます」
ゲオルグからの了承の意の中に『化物同士』という不名誉なワードが出てきて、行く前から気分が落ち込むのであった。
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