1.始まりの朝
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「あの、スカートではないの?」
団服に袖を通している最中、突拍子もなくそんな疑問を投げられた。その出所である彼女へ視線をずらし、少しだけ首を傾げる。
「はい?」
「え、ああああ! ごめんなさい!! 出しゃばるようなこと言ってっ。知っているエクソシストの女の子はスカートだったから、てっきり女性はみんなそうなのかなと思ってしまって……、」
隈の濃い目元が、先ほどから落ち着きなく泳いでいる。折れそうなほど痩せた体躯に、食が細いのだろうかと勝手に憶測を立てた。
彼女はミランダ・ロット―。リーバーと分かれた後、朝食をと足を運んだ食堂で声をかけてきたのが彼女だった。
-----------------
「――あなたが咲耶ちゃん?」
「? はい」
「あぁよかった。コムイ室長から女性のエクソシストが来るって聞いて、間違っていたらどうしようかと思った」
「…………あの」
「え、ぁっ、ごごごごごめんなさい! 自己紹介もなしに突然声かけちゃって私ったら初対面の子に失礼なことをっ、ごめんなさいぃぃ!!!」
-----------------
そういって探索部隊が食事をとるテーブルへ盛大に突っ込んでいき、中々悲惨な事態になったのは言うまでもない。主にテーブルの上と彼女が。なんというかすごく、とても……賑やかな人だと思った。彼女から視線を外し、手袋をはめながらその疑問に答える。
「動きやすいし、こっちのほうが楽……」
昔から男性用の団服を着てきたから、改めて言われると理由はこれしかなく、女性用のデザインは考えたら見たことがない。ミランダが視界の端で納得したような、そうでないような落ち着かない顔をしていた。
「この後すぐに行ってしまうの?」
彼女、年上だと聞いた。背丈がほぼ一緒なせいか、平行した高さで目線がかちりと重なる。
「はい。そのまま任務へ向かうと思います」
そう。と呟くと、何か言いたげに胸の前で合わせた手先を落ち着かなく絡ませていたので、次の言葉を黙って待った。意を決したように、ミランダは息を吸った。
「――私ね、今まで仕事は失敗ばかりで続かなくて、人とはうまく接することができなくて。本当になにやってもダメで、そんな私の事を助けて励ましてくれた子たちがいたの……」
「エクソシストの、女の子」
「そう。それからもう一人、白い髪が綺麗な男の子。勇敢で強くて私なんかとは比べ物にならないくらい素敵な子たち」
彼女の中の過去の時間が巻き戻っているようで、眼球が潤んでいるのがわかる。
「なんの取り柄もない私に自信をくれたわ。未だに自分が好きかって言われるとそうではないけど……。彼等に恩返しがしたくて、エクソシストになるために入団したの」
そこまで語って、はっとしたように慌てたかと思えば「ごめんなさい、会ったばかりの子にこんなこと」と申し訳なさそうなミランダに「いえ」と小さく返した。
「イノセンスの発動は。もう出来ますか?」
「それがまだ完全ではなくて……。けど必ず習得します。だから――」
待っていて。たじろいでいた目の奥に、決心と強さが垣間見えた。言葉になくても、言わんとしようとしたことが汲み取れる。直感が、この人は大丈夫と伝達してきた。彼女も自分たちと同じ聖職者。タイミングはずれるだろうが、近いうちに自分たちと同じ戦地へ赴く。
「向こうで会いましょう」
そう告げるとミランダは目の淵に貯めた涙をそのままに、力強く頷き部屋を出ていった。その背中を見送り、団服のチャックを最後まで上げきった。襟の中に入り込んだ髪をふわりと出す。深く息を吸い、目に鋭さを宿した。
「がんばれ藤島咲耶」
.
団服に袖を通している最中、突拍子もなくそんな疑問を投げられた。その出所である彼女へ視線をずらし、少しだけ首を傾げる。
「はい?」
「え、ああああ! ごめんなさい!! 出しゃばるようなこと言ってっ。知っているエクソシストの女の子はスカートだったから、てっきり女性はみんなそうなのかなと思ってしまって……、」
隈の濃い目元が、先ほどから落ち着きなく泳いでいる。折れそうなほど痩せた体躯に、食が細いのだろうかと勝手に憶測を立てた。
彼女はミランダ・ロット―。リーバーと分かれた後、朝食をと足を運んだ食堂で声をかけてきたのが彼女だった。
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「――あなたが咲耶ちゃん?」
「? はい」
「あぁよかった。コムイ室長から女性のエクソシストが来るって聞いて、間違っていたらどうしようかと思った」
「…………あの」
「え、ぁっ、ごごごごごめんなさい! 自己紹介もなしに突然声かけちゃって私ったら初対面の子に失礼なことをっ、ごめんなさいぃぃ!!!」
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そういって探索部隊が食事をとるテーブルへ盛大に突っ込んでいき、中々悲惨な事態になったのは言うまでもない。主にテーブルの上と彼女が。なんというかすごく、とても……賑やかな人だと思った。彼女から視線を外し、手袋をはめながらその疑問に答える。
「動きやすいし、こっちのほうが楽……」
昔から男性用の団服を着てきたから、改めて言われると理由はこれしかなく、女性用のデザインは考えたら見たことがない。ミランダが視界の端で納得したような、そうでないような落ち着かない顔をしていた。
「この後すぐに行ってしまうの?」
彼女、年上だと聞いた。背丈がほぼ一緒なせいか、平行した高さで目線がかちりと重なる。
「はい。そのまま任務へ向かうと思います」
そう。と呟くと、何か言いたげに胸の前で合わせた手先を落ち着かなく絡ませていたので、次の言葉を黙って待った。意を決したように、ミランダは息を吸った。
「――私ね、今まで仕事は失敗ばかりで続かなくて、人とはうまく接することができなくて。本当になにやってもダメで、そんな私の事を助けて励ましてくれた子たちがいたの……」
「エクソシストの、女の子」
「そう。それからもう一人、白い髪が綺麗な男の子。勇敢で強くて私なんかとは比べ物にならないくらい素敵な子たち」
彼女の中の過去の時間が巻き戻っているようで、眼球が潤んでいるのがわかる。
「なんの取り柄もない私に自信をくれたわ。未だに自分が好きかって言われるとそうではないけど……。彼等に恩返しがしたくて、エクソシストになるために入団したの」
そこまで語って、はっとしたように慌てたかと思えば「ごめんなさい、会ったばかりの子にこんなこと」と申し訳なさそうなミランダに「いえ」と小さく返した。
「イノセンスの発動は。もう出来ますか?」
「それがまだ完全ではなくて……。けど必ず習得します。だから――」
待っていて。たじろいでいた目の奥に、決心と強さが垣間見えた。言葉になくても、言わんとしようとしたことが汲み取れる。直感が、この人は大丈夫と伝達してきた。彼女も自分たちと同じ聖職者。タイミングはずれるだろうが、近いうちに自分たちと同じ戦地へ赴く。
「向こうで会いましょう」
そう告げるとミランダは目の淵に貯めた涙をそのままに、力強く頷き部屋を出ていった。その背中を見送り、団服のチャックを最後まで上げきった。襟の中に入り込んだ髪をふわりと出す。深く息を吸い、目に鋭さを宿した。
「がんばれ藤島咲耶」
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