7.雪の喪失、海の声
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目的地付近に到着して始めに目にしたのは、地獄絵図のあと残りだった。
「これは……」
ヘッドフォンに手を当て、マリが絶句した。視覚が機能していない彼の耳にすら、その惨憺たる光景が音となって伝わる。
連なっていたと思われる山々は抉られ、無残に崩壊した瓦礫の山は恐らくすべて民家だったもの。少し離れた場所におざなりな仮設住宅が頼りなく設置されており、そこらにあぶれた人々は軽傷者から重傷者まで地面に並べられ、医者らしき数人が世話しなく彼等の処置に走り回っていた。
「……犠牲が、出てしまったようだね」
一際声色を低くしたティエドールの視線の先を三人は見遣る。木を十字にして地面に突き立てただけの、簡易的な墓。目視で数えるのは困難だった。生暖かい風が、低く唸っている。
憶測するに、アクマの襲撃にあった。土地が破壊され、何の罪もない人々が犠牲になった。四人はそれ以上言葉を発することはなく、目と鼻の先にある港街へと足先を進めた。
先程の光景から顔色を変え、辿り着いた港は男達の威勢の良い声で活気づいていた。国内で最も栄えている貿易港と言われるだけのことはあり、大型の貨物船がいくつも停船し、アジア人以外の船乗りやら外商と思わしき人の姿も多く見られる。潮の香りが少しだけ鼻に痛い。
「……海」
いつもの彼女の声色と少し違った気がして、神田は咲耶を見遣る。青々とした地上の空を、彼女は一心に見つめていた。引き寄せられるように船着き場に近づき、地面に膝をついて海面を見つめる。不可思議な行動に、神田も咲耶の横に片膝を立てて海を覗き込んだ。水面に映る二人分の顔が、ゆらりゆらりと波の揺れに便乗して歪曲した。水面と横の彼女の顔を交互に見てみる。彼女の行動の意味を知っているティエドールとマリは、その光景を唯見守っていた。
「おい」
声をかけても、咲耶は水面を見つめるばかりで瞬きすらしていなかった。神田は眉を顰める。
「おい、なんなんだよ」
「神田」と苛立つ弟弟子をマリが穏やかに抑えた。
「…………数人のエクソシスト。ここから江戸へ向かって、途中で敵と交戦した。誰かのイノセンスの力が船を生かして、そのまま先へ進んでる」
語りながら立ち上がる彼女。地平線の向こう側を見据えているように感じた。
「何を言ってやがる……」
地面に座ったまま咲耶を見上げて神田が抗議する。汽車の中でのことといい、何の前触れもなく彼女はおかしなことを云う。
突然肩に手を乗せられ、振り向けばティエドールが微笑んでいた。
「咲耶の水と対話する能力だよ。海の声を聞いているんだ」
神田はらしくもなく目を丸くした。咲耶のイノセンスについては少なからずしか知らなかった。本当に寄生型の適合者は、癖のある奴が多い。あの生意気で大嫌いな砂糖菓子のような甘やかな精神の、どうやったって好きになれない後輩も同様に。
明朝、一足先に旅立った仲間たちと同じく、ここから江戸へ向かう事が決定した。マリに促され、一先ず近隣の宿へ移動すべく賑わう港を後にしたのだった。
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「これは……」
ヘッドフォンに手を当て、マリが絶句した。視覚が機能していない彼の耳にすら、その惨憺たる光景が音となって伝わる。
連なっていたと思われる山々は抉られ、無残に崩壊した瓦礫の山は恐らくすべて民家だったもの。少し離れた場所におざなりな仮設住宅が頼りなく設置されており、そこらにあぶれた人々は軽傷者から重傷者まで地面に並べられ、医者らしき数人が世話しなく彼等の処置に走り回っていた。
「……犠牲が、出てしまったようだね」
一際声色を低くしたティエドールの視線の先を三人は見遣る。木を十字にして地面に突き立てただけの、簡易的な墓。目視で数えるのは困難だった。生暖かい風が、低く唸っている。
憶測するに、アクマの襲撃にあった。土地が破壊され、何の罪もない人々が犠牲になった。四人はそれ以上言葉を発することはなく、目と鼻の先にある港街へと足先を進めた。
先程の光景から顔色を変え、辿り着いた港は男達の威勢の良い声で活気づいていた。国内で最も栄えている貿易港と言われるだけのことはあり、大型の貨物船がいくつも停船し、アジア人以外の船乗りやら外商と思わしき人の姿も多く見られる。潮の香りが少しだけ鼻に痛い。
「……海」
いつもの彼女の声色と少し違った気がして、神田は咲耶を見遣る。青々とした地上の空を、彼女は一心に見つめていた。引き寄せられるように船着き場に近づき、地面に膝をついて海面を見つめる。不可思議な行動に、神田も咲耶の横に片膝を立てて海を覗き込んだ。水面に映る二人分の顔が、ゆらりゆらりと波の揺れに便乗して歪曲した。水面と横の彼女の顔を交互に見てみる。彼女の行動の意味を知っているティエドールとマリは、その光景を唯見守っていた。
「おい」
声をかけても、咲耶は水面を見つめるばかりで瞬きすらしていなかった。神田は眉を顰める。
「おい、なんなんだよ」
「神田」と苛立つ弟弟子をマリが穏やかに抑えた。
「…………数人のエクソシスト。ここから江戸へ向かって、途中で敵と交戦した。誰かのイノセンスの力が船を生かして、そのまま先へ進んでる」
語りながら立ち上がる彼女。地平線の向こう側を見据えているように感じた。
「何を言ってやがる……」
地面に座ったまま咲耶を見上げて神田が抗議する。汽車の中でのことといい、何の前触れもなく彼女はおかしなことを云う。
突然肩に手を乗せられ、振り向けばティエドールが微笑んでいた。
「咲耶の水と対話する能力だよ。海の声を聞いているんだ」
神田はらしくもなく目を丸くした。咲耶のイノセンスについては少なからずしか知らなかった。本当に寄生型の適合者は、癖のある奴が多い。あの生意気で大嫌いな砂糖菓子のような甘やかな精神の、どうやったって好きになれない後輩も同様に。
明朝、一足先に旅立った仲間たちと同じく、ここから江戸へ向かう事が決定した。マリに促され、一先ず近隣の宿へ移動すべく賑わう港を後にしたのだった。
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