5.孤城の吸血鬼 Ⅳ
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三人が城を出ると東の空から太陽が顔を出しかけて、おどろおどろしかった森にも薄っすら朝の光が滑りこんできた。長い夜がやっと明ける。
「なんか散々な夜だったさぁ」
ラビが背伸びをする。夜通しの戦闘で固くなった全身の筋肉は驚くほど凝り固まっていた。
「でも師匠の手掛かりはつかめました。あれだけの金額を借りてるなら中国大陸まで行けますよ」
必要な情報は手に入った、十分な収集だ。けれど仄かに明るくなってきた空を見上げるアレンの表情は、少々曇っている。一番大切なものを亡くしたクロウリーへ、思いを馳せているのだろう。
「そんな顔すんなって。確かにあんま前向きな方法じゃねぇかもだけど、今のクロちゃんには理由が必要だったと思うぜ」
ラビについて少しだけ分かったことがある。捉えどころのない性格かと思えば、人の仕草や顔のちょっとした変化などによく気付いて、その人にとってほしい言葉をタイミングよく与えるところ。アレンに対してからかう言動があるかと思えば、今みたいに兄のような落ち着きで言い聞かす。他人を、よく見ている。
「楽になるといいね。いつか」
咲耶がラビを追うように付け足して、アレンの顔を覗き込んだ。彼の表情が和らいで、薄く微笑んでくれた。そのいつかが近いうちならいいと、三人は願った直後、後方で爆発音が鳴り響いた。
「城が……っ」
「うそ、……」
炎に包まれる城。予想打にもしていなくて、ラビと咲耶は呆然とした。
「まさか……」
アレンの脳裏に嫌なものが過る。身支度を整えるといった彼。嘘を付くことなんか。
その時、業火の中から黒い長身の影がこちらへ迫ってきた。姿を現したクロウリーは、始めて自分達に笑顔を見せた。
「なんであるか……その顔は。死んだかと思ったであるか?」
もう大丈夫。愛する祖父と、愛する女性と過ごした家。もう二度と帰らないと誓った。すべてを胸の内に閉じ込めて、吸血鬼は外の世界へと足を踏み出した。
「それじゃあ、私はこれで」
一同駅近くまで辿り着き、咲耶は三人へ振り返った。クロウリーは後ほどラビが本部へ連絡を取り、教団へ連れていくかクロス部隊へそのまま合流か指示を仰ぐという。自分は彼等とは別行動で、先を急がなければならない。
「咲耶、本当にありがとうである」
「道中気をつけてな」
「三人も」
クロウリーの表情が出会った時より格段に明るい。先程村長率いる村人達から受けた言葉と視線の冷たさに落ち込んでいるかと思ったが、この二人がついていれば大丈夫だろうと任せることにした。ラビがひらりと大きな手を降る。三人に背を向け、歩みを進めようとした。
「咲耶さん!」
アレンの思ったより大きな声量で呼び止められ、思わず歩調を止めた。振り向けば白髪の少年が自分を視線で固定するかのように見つめている。突然の事に、ラビもクロウリーも驚いてアレンを凝視していた。
「何?」
「あの……、また会えますか?」
何処か歯切れ悪く、彼はそう言った。若干逡巡して、彼女も答える。
「……そのうち、また」
「きっとですよ?」
「うん。きっと」
危険度が段違いな今回の長期任務。もしかしたらその先で合流する可能性があるかもしれない。安堵の表情を浮かべる年下の男の子にまたね、といって彼女は三人と反対の道を歩いていった。
「……へ~」
「…………なんですか?」
「いや? 別にー?」
横から自分の顔を覗き込んでにやついている赤い兎。他人の感情に敏感な彼の気質を過去一面倒臭いと思ってしまった。クロウリーも何故だかにこやかに自分を見つめている。二人の雰囲気からこれ以上は確実に茶化されると踏んだアレンは、いち早く駅のホームへと足早で入っていった。
2024/6/17
「なんか散々な夜だったさぁ」
ラビが背伸びをする。夜通しの戦闘で固くなった全身の筋肉は驚くほど凝り固まっていた。
「でも師匠の手掛かりはつかめました。あれだけの金額を借りてるなら中国大陸まで行けますよ」
必要な情報は手に入った、十分な収集だ。けれど仄かに明るくなってきた空を見上げるアレンの表情は、少々曇っている。一番大切なものを亡くしたクロウリーへ、思いを馳せているのだろう。
「そんな顔すんなって。確かにあんま前向きな方法じゃねぇかもだけど、今のクロちゃんには理由が必要だったと思うぜ」
ラビについて少しだけ分かったことがある。捉えどころのない性格かと思えば、人の仕草や顔のちょっとした変化などによく気付いて、その人にとってほしい言葉をタイミングよく与えるところ。アレンに対してからかう言動があるかと思えば、今みたいに兄のような落ち着きで言い聞かす。他人を、よく見ている。
「楽になるといいね。いつか」
咲耶がラビを追うように付け足して、アレンの顔を覗き込んだ。彼の表情が和らいで、薄く微笑んでくれた。そのいつかが近いうちならいいと、三人は願った直後、後方で爆発音が鳴り響いた。
「城が……っ」
「うそ、……」
炎に包まれる城。予想打にもしていなくて、ラビと咲耶は呆然とした。
「まさか……」
アレンの脳裏に嫌なものが過る。身支度を整えるといった彼。嘘を付くことなんか。
その時、業火の中から黒い長身の影がこちらへ迫ってきた。姿を現したクロウリーは、始めて自分達に笑顔を見せた。
「なんであるか……その顔は。死んだかと思ったであるか?」
もう大丈夫。愛する祖父と、愛する女性と過ごした家。もう二度と帰らないと誓った。すべてを胸の内に閉じ込めて、吸血鬼は外の世界へと足を踏み出した。
「それじゃあ、私はこれで」
一同駅近くまで辿り着き、咲耶は三人へ振り返った。クロウリーは後ほどラビが本部へ連絡を取り、教団へ連れていくかクロス部隊へそのまま合流か指示を仰ぐという。自分は彼等とは別行動で、先を急がなければならない。
「咲耶、本当にありがとうである」
「道中気をつけてな」
「三人も」
クロウリーの表情が出会った時より格段に明るい。先程村長率いる村人達から受けた言葉と視線の冷たさに落ち込んでいるかと思ったが、この二人がついていれば大丈夫だろうと任せることにした。ラビがひらりと大きな手を降る。三人に背を向け、歩みを進めようとした。
「咲耶さん!」
アレンの思ったより大きな声量で呼び止められ、思わず歩調を止めた。振り向けば白髪の少年が自分を視線で固定するかのように見つめている。突然の事に、ラビもクロウリーも驚いてアレンを凝視していた。
「何?」
「あの……、また会えますか?」
何処か歯切れ悪く、彼はそう言った。若干逡巡して、彼女も答える。
「……そのうち、また」
「きっとですよ?」
「うん。きっと」
危険度が段違いな今回の長期任務。もしかしたらその先で合流する可能性があるかもしれない。安堵の表情を浮かべる年下の男の子にまたね、といって彼女は三人と反対の道を歩いていった。
「……へ~」
「…………なんですか?」
「いや? 別にー?」
横から自分の顔を覗き込んでにやついている赤い兎。他人の感情に敏感な彼の気質を過去一面倒臭いと思ってしまった。クロウリーも何故だかにこやかに自分を見つめている。二人の雰囲気からこれ以上は確実に茶化されると踏んだアレンは、いち早く駅のホームへと足早で入っていった。
2024/6/17
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