5.孤城の吸血鬼 Ⅳ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「でさ こんな人なんだけど……」
「ああ……その男なら確かにここに来たである」
広間の二階に移動し取り敢えずと濡れた団服を手すり部分にかけて、村長から預かった暴君元帥の似顔絵を見せれば、クロウリーから有力な情報が返ってきた。ラビが希望に目を光らせる。
「おーう!?」
「何しに来たんですこの人?」
「お祖父様の訃報を聞いて来た友人とかで、預かっていたものを返しに来たと」
「預かっていたモノ?」
「花である。食人花の赤ちゃん」
そこでアレンがはっとした。数年前、鬼の監視の元枯らせば自分も亡き者にすると脅され世話させられた植物を思い出した。四十八区あれのことである。
「どうしたの。アレン」
「気にせんで。辛い過去思い出してるだけだから」
咲耶とクロウリーは首を傾げるが、話を続けることにする。
「でも花返しに来たって……そんだけ?」
「他に重要な要件があったわけじゃなかったんですか?」
「おそらくは。ただその花ちょっとおかしくて……」
クロウリーが花を世話している最中、それは突然彼に噛み付き一瞬で枯れてしまった。直後心臓が脈打ち全身が激しい苦痛に襲われたかと思えば、全ての歯が抜け落ちそこから今の鋭い歯が生えてきたという。
「今思えばあの花が君たちの言うイノセンスだったのかもしれない。それ以来私はアクマを襲うようになりエリアーデと……」
彼女の名前を口にしただけで、込み上げてくる涙と切ない想い。クロウリーの目元に薄っすら影が落ちる。
「俺等は今その男を捜してんだ。何か知らないさ?」
「そういえば東国へ行きたいから友人の孫のよしみで金を貸せと」
ここでもか。今現在、彼の借金の総合計金額はいかほどか。アレンは身震いを起こしそうになる。クロウリーはその長い足ですくりと立ち上がった。
「先に……城の外で待っていてくれないか……? 旅支度をしてくるである」
心を決めた目をしている。自分達と共に行く道を選んだ彼に、ラビは「おう」と一言返答した。
「クロウリーさん」
咲耶が彼を呼び止めた。すでに自室へ歩みを進めようとしていたクロウリーが彼女へ振り返る。
「彼女、あなたに惹かれていたと思います。ただ、自分の気持ちに気付けていなかったのかもしれません」
クロウリーが目を見開いた。咲耶の脳裏に過る、薔薇の彼女の憂いを帯びた顔。
「貴方に向ける感情の名前がはっきり分からなくて、だから女である私に、色んな事を聞いてきたんだと思います。ちゃんと答えてあげられませんでしたけど。きっと自分のアクマとしての、伯爵の兵器としての立場がそれを邪魔をしていたのかと」
「……そう思うであるか?」
見開かれた彼の双眸から透明な膜が張られていく。咲耶は肯定を口にした。
彼女は間違いなく恋をしていた。でなければ自分をいつ破壊するかも分からない相手の隣に、長い間一緒にいる選択肢を選ぶはずがない。咲耶は自分の団服の中から、彼女からもらったそれを取り出した。美しい一輪の薔薇。大切に懐に入れていたから、花びらも散っていない。クロウリーの前に立って、それを差し出す。
「あの人からもらったものです。貴方が持ってくれていたら、きっと喜ぶと思います」
咲耶の手から、おずおずとそれを受け取る。薔薇の深紅、愛した彼女の色。透明がクロウリーの瞼から溢れて、ついには頬を伝った。最後の別れというように、彼はその花びらに口づけるのであった。
.
「ああ……その男なら確かにここに来たである」
広間の二階に移動し取り敢えずと濡れた団服を手すり部分にかけて、村長から預かった暴君元帥の似顔絵を見せれば、クロウリーから有力な情報が返ってきた。ラビが希望に目を光らせる。
「おーう!?」
「何しに来たんですこの人?」
「お祖父様の訃報を聞いて来た友人とかで、預かっていたものを返しに来たと」
「預かっていたモノ?」
「花である。食人花の赤ちゃん」
そこでアレンがはっとした。数年前、鬼の監視の元枯らせば自分も亡き者にすると脅され世話させられた植物を思い出した。四十八区あれのことである。
「どうしたの。アレン」
「気にせんで。辛い過去思い出してるだけだから」
咲耶とクロウリーは首を傾げるが、話を続けることにする。
「でも花返しに来たって……そんだけ?」
「他に重要な要件があったわけじゃなかったんですか?」
「おそらくは。ただその花ちょっとおかしくて……」
クロウリーが花を世話している最中、それは突然彼に噛み付き一瞬で枯れてしまった。直後心臓が脈打ち全身が激しい苦痛に襲われたかと思えば、全ての歯が抜け落ちそこから今の鋭い歯が生えてきたという。
「今思えばあの花が君たちの言うイノセンスだったのかもしれない。それ以来私はアクマを襲うようになりエリアーデと……」
彼女の名前を口にしただけで、込み上げてくる涙と切ない想い。クロウリーの目元に薄っすら影が落ちる。
「俺等は今その男を捜してんだ。何か知らないさ?」
「そういえば東国へ行きたいから友人の孫のよしみで金を貸せと」
ここでもか。今現在、彼の借金の総合計金額はいかほどか。アレンは身震いを起こしそうになる。クロウリーはその長い足ですくりと立ち上がった。
「先に……城の外で待っていてくれないか……? 旅支度をしてくるである」
心を決めた目をしている。自分達と共に行く道を選んだ彼に、ラビは「おう」と一言返答した。
「クロウリーさん」
咲耶が彼を呼び止めた。すでに自室へ歩みを進めようとしていたクロウリーが彼女へ振り返る。
「彼女、あなたに惹かれていたと思います。ただ、自分の気持ちに気付けていなかったのかもしれません」
クロウリーが目を見開いた。咲耶の脳裏に過る、薔薇の彼女の憂いを帯びた顔。
「貴方に向ける感情の名前がはっきり分からなくて、だから女である私に、色んな事を聞いてきたんだと思います。ちゃんと答えてあげられませんでしたけど。きっと自分のアクマとしての、伯爵の兵器としての立場がそれを邪魔をしていたのかと」
「……そう思うであるか?」
見開かれた彼の双眸から透明な膜が張られていく。咲耶は肯定を口にした。
彼女は間違いなく恋をしていた。でなければ自分をいつ破壊するかも分からない相手の隣に、長い間一緒にいる選択肢を選ぶはずがない。咲耶は自分の団服の中から、彼女からもらったそれを取り出した。美しい一輪の薔薇。大切に懐に入れていたから、花びらも散っていない。クロウリーの前に立って、それを差し出す。
「あの人からもらったものです。貴方が持ってくれていたら、きっと喜ぶと思います」
咲耶の手から、おずおずとそれを受け取る。薔薇の深紅、愛した彼女の色。透明がクロウリーの瞼から溢れて、ついには頬を伝った。最後の別れというように、彼はその花びらに口づけるのであった。
.