真っ直ぐに追いかけろ!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「りかお隣に挨拶に行くわよ。」
お母さんに連れられてお隣さんに挨拶へ向かう。
ピンポーン
「はい」
インターホンから聞こえてきたのは冷たい男の人の声。
「すみません。今日から隣に越してきました鈴木です。ご挨拶に来ました」
お母さんがそう言うと、今行きます。と声が聞こえた。
ガチャ
「こんばんは。」
「こんばんは、話はおばあ様から聞いてますよ」
出てきたのは先ほどの声の主ではなく優しそうな女の人だった。
「こんばんはりかちゃん。うちにも同い年の子がいるから仲良くしてね」
「こちらこそ…よ、よろしくお願いします。」
「何か困ったことがあればいつでも言ってくださいね」
「こちらの生活に慣れるまで迷惑をかけるかもしれませんが…よろしくお願いします。」
そう言ってお母さんは手土産を渡している。
優しく微笑むその女性にもう一度お辞儀をして、家へ戻ろうとする。
ふと、玄関先にいた金髪の男の子と目が合った。
「あら、蛍。こちらお隣に越してきた鈴木さん。りかちゃんは蛍と同い年だから仲良くしてあげてね」
「どうも」
冷たい声の主だ…そう思ってビクッとする。
「…よろしくね」
「そうだ蛍!明日学校までの道、案内してあげたら?」
「あら~助かるわ。蛍くんお願いしてもいいかしら?」
なんて親同士は勝手に話を進めている。
「…いいですよ」
「なんかごめんなさい」
じゃあ。と言って蛍くんは先に家へ入って行った。
「じゃぁりかちゃん、明日から学校楽しんでね」
「失礼します」
そう言って私たちも家へと戻った。
◇
「りかー!ご飯よ〜」
お母さんが呼ぶ声で目を覚ます。
ガバッ
慌ててベッドから降りて制服に着替える
「あらあら、りかちゃん。おはよう」
「おはよう、おばあちゃん」
「食べたら蛍くんと一緒に行ってね。心配だから…」
「もぉ私も16だよ?心配しなくても大丈夫!」
背を向けて料理をしていたお母さんの手が止まり、こちらを向く。
「お願い。今日だけでも心配だから。知らない土地だし何かあってからじゃ遅いの」
不安そうなお母さんの顔を見て、わかった。と返事をしてご飯を食べる。
「じゃあいってきまーす」
「気をつけてね」
「いってらっしゃいりかちゃん」
2人に見送られ玄関のドアを開ける。
「さてと」
緊張しながら隣の月島くんの家へと向かった。
ガチャ
インターホンを押そうと手をかけたところでドアが開いた。
「おはよう、、ございます」
「どうも」
「えっと、よろしくお願いします」
「はぁ。行くよ」
ため息をつかれたことにやっぱり迷惑だよね。と下を向く。
「ま、まって!」
…気づけば彼はもう先を歩いていた。
「遅刻するよ?」
今度は大きなため息が聞こえた。
慌てて走って蛍くんを追いかける。
「ごめんなさい」
「ねえ君さ、なんで謝ってばかりなの」
「だ、だってめんどくさいんだろうなって…」
「…まあ面倒だけど、どうせ同じ学校だしそこまで気にしてないから」
顔を見上げれば眠そうに目を細め、あくびをする彼。
「フフッ、ありがとう」
優しいんだね。と心の中でつぶやいて、彼の隣を歩いた。
◇
あっという間に1日が終わった。
キーンコーンカーンコーン
「お母さん心配するし、帰りも蛍くんと一緒に帰ろうかな」
そう思って教室を出て4組へと向かった。
「け、蛍くんいますか…」
恐る恐る近くにいた人に声をかける。
「ツッキー!えーっとだれ?」
そばかすの男の子が蛍くんを呼んでくれた。
「あ、1組の鈴木りかです」
「ツッキー、1組の「山口うるさい」」
言いかけた言葉を遮って、蛍くんはもう目の前に来ていた。
「なに?」
「えっと、その…帰りも一緒に帰ってほしくて。お母さんが心配してて…」
「…はぁ」
「…」
「鈴木さんは部活ないの?俺らバレー部でこの後部活あるから…よかったら一緒に行く?」
蛍くんにため息をつかれ、下を向く私にそばかすくんが優しく話してくれる。
「いいの?えっと…」
「あ、俺は山口忠。よろしくね」
「じゃあ鞄とってくるね!山口くんも蛍くんも待ってて!!」
そう言って自分の教室へと急いで戻る。
「なっ何勝手に決めてるの?」
「まあまあツッキー。あの子転入生でしょ?まだ帰り道がわからないなら一緒に帰ったほうがいいでしょ」
「…はぁ。そうだね。」
「ツッキーやさしい」
キッ
「お待たせしました~」
少し汗をかきながら教室を覗くと、蛍くんが山口くんを鋭く睨んでいた。
◇
山口くんの隣を歩く。
「鈴木さんはバレー見たことある?」
「ないです…」
「ははっそっか。じゃあ今日は初めてのバレー観戦か~。でも試合はないからつまらないかも」
にこにこと話す山口くんに緊張もほぐれていく。
ちらりと蛍くんを見ると、不機嫌そうにただ前を向いているだけだ。
「じゃあ俺たち着替えてくるから、ここで待っててね」
そう言われて気づけば体育館前に来ていた。
◇
体育館の二階に上がり練習を見る。
バシッと痛そうな音が響いている。
「蛍くんはどこかなっと。」
きょろきょろと探せば金髪の男の子はすぐに見つかった。
いつもと違い真剣な顔の蛍くんにドキッとする。
「汗を拭く姿まで絵になるなぁ」
いつも無表情の彼だからか、どんな表情も新鮮で目が離せない。
「あのぉ~」
下から綺麗な先輩に呼ばれた。
「そっちに上がったボールとってくれないかな?」
横をみれば何個もボールが落ちていた。
気づかなかった…ぼそりとつぶやいて下へとボールを投げる。
「気づかなくてすみません」
「ううん、ありがとうね」
あまりの美しさに倒れそうになるのを堪え、蛍くんへと視線を戻した。
◇
「おつかれしたー!!」
練習が終わったのを確認して下へ降りる。
「蛍くんお疲れ様」
そう言って飲み物を渡す。
「どうも」
目も合わせず受け取ると背を向けて歩き出してしまった。
「着替えてくるからね」
そう言うと山口くんは月島くんの後を追う。
ぽつんと残された私はふぅとため息をついて体育館を後にした。
「お待たせ~」
手を振りながら山口くんがこっちへ歩いてくる。
「いえいえ。こちらこそ一緒に帰ってくれてありがとう。」
ちらりと蛍くんを見るも疲れているからか機嫌が悪そうだ。
「バレーどうだった?」
「う、うん!バシってすごく痛そうだけどみんなすごくかっこよかった!!」
満面の笑みでそう言えば沈黙が流れる。
あれ?と2人の顔を見れば少し赤くなっている。
「へへ、なんか照れるねツッキー」
「…べつに」
相変わらず不愛想な蛍くんに少し意地悪してみたくなる。
「蛍くんかっこよくてずっと目で追っちゃったよ」
なんてじーっと目をみて言えば、さすがの蛍くんも隠し切れなくなったのか横を向く。
耳まで真っ赤だ。
「だよね!ツッキーは昔からかっこいいんだよ」
そう言って小さい頃の話をしてくれる山口くんは誇らしげだ。
「アハハッ。2人とも仲良しだね」
「あ、じゃあ俺こっちだから」
またね。と手を振って山口くんと分かれる。
「…」
「…」
隣を歩く蛍くんは終始無言だ。
そっと顔を見上げれば月明りに照らされた綺麗な横顔が見えた。
「け、蛍くん。今日はありがとうね。明日からはもう一人で大丈夫だから…」
「ふーん。もう道覚えたの?」
「う、うん。たぶん大丈夫!」
「そう」
「…」
「あのさ、別に遠慮とか要らないからね」
バッと顔をあげれば睨んだ蛍くんと目が合った。
「なに?」
「いや、優しいなって」
「は?」
先ほどよりも眉間にしわを寄せた顔で私を見下ろす。
「あ、えっと。山口くんも言ってたけど蛍くんて優しいね」
「はぁ。きみってよく分からないよね」
「ん?」
口元を抑え横を向いた蛍くんの耳はほんのり赤かった。
◇
-月島Side-
なんだか山口が鈴木さんと仲良くなっている。
はぁ疲れた。
よくそんなに話すことあるなと思いながら2人の会話を聞いていた。
「蛍くんかっこよくてずっと目で追っちゃったよ」
突然”かっこいい”と言われびっくりするも、僕を上目遣いで見る姿に思わずドキッとする。
冷静になれ。
彼女はきっと深い意味などなく言っている。
”みんな”かっこいいって言ってたじゃないか。
今も山口と僕の小さいころの話を楽しそうにしている。
「別に面白いことないだろ」
ぼそりとつぶやいて山口と分かれた。
てくてく…
歩幅の小さい彼女に合わせて歩く。
明日からは1人で大丈夫と言う彼女に意地悪っぽく道は覚えたのかと聞いたが
「う、うん。たぶん大丈夫!」
見え透いた嘘…。
「あのさ、別に遠慮とか要らないからね」
驚いた顔の君をつい睨んでしまう。
「いや、優しいなって」
睨んでいるのに優しいって…全く意味がわからない。
「はぁ。きみってよく分からないよね」
真っ直ぐな瞳で”優しい”と言ってくれた彼女に少しだけ胸は高鳴った。
◇
「いってきまーす」
今日は寝坊もせずに起きれたぞ!と勢いよく玄関のドアを開ければ、蛍くんがいた。
「えっと、おはよう?」
「フッ。朝から元気だね」
「うっ。今日は寝坊しなかったから嬉しくてつい…」
「ふーん。ほら、行くよ」
そそくさと歩き出す蛍くんの横に私も並んで歩いた。
…ー
迷ってもいいように今日は昨日より早く家を出たのに、蛍くんいつからいたんだろ。
「あのー。今日は早いんですね」
「ちょっとだけ朝練するから」
「そ、そうなの?じゃあなんで家の前で待っててくれ「待ってない」」
「ちょうど僕も家を出たら君が出てきただけ。待ってないから」
口調こそ強いもののその優しさに嬉しくなる。
「ありがとう」
「は?だから待って「知ってる。蛍くんが優しいってこと」」
今度は私が言葉を遮り話す。
「ありがとね」
何かをぼそっとつぶやいた蛍くんは少しだけ微笑んでいた。
◇
「さてと。今日は真っ直ぐ帰ろう!」
荷物を鞄に詰めて帰る準備をする。
「鈴木さーん!!」
呼ばれた方を振り向く。
「えっと、こんにちは」
見覚えのない男の子が目の前にいる。
「俺、日向翔陽。同じクラスなんだけど…」
「ご、ごめんね。まだみんなの顔と名前が憶えられてなくて…」
「ははは。冗談!そんなに落ち込まないで。昨日さバレー見に来てたよね?バレー好きなの?」
キラキラとした目でこっちを見る彼に思わず頷いてしまう。
「じゃあさ、今日も来る?」
「えっと…今日は帰ろうかなって」
「なんで?」
子犬のようにしょんぼりとする日向くん。
「ご、ごめんね。明日は行けると思うから!」
「ほんと?今マネージャー募集中みたいだからバレー好きならやらない?」
大きな瞳を丸くさせて首をかしげる姿は…可愛い。
「考えとくね!また明日」
「うん、明日!」
大きく手を振る日向くんにつられて手を振って、私は教室を出た。
◇
「ただいま〜」
「おかえり、りかちゃん。」
今日はおばあちゃんもキッチンに立って料理をしている。
「すごくいい匂いがする〜!私おばあちゃんのご飯大好き」
「ふふふ。もうすぐできるから先にお風呂してきたら?」
目を細めにっこりと笑うおばあちゃんは可愛い。
「そうする〜!」
パタパタとお風呂へと向かう。
ぽたぽた
ジャー…
…ーちゃぷん
湯船に体を沈めれば勢いよくお湯は溢れ出て、洗い場へと流れた。
「明日、またバレー観れるんだ…」
ふと蛍くんの姿を思い出して赤くなる。
ドキドキ…
心臓の音が浴室に響く。
…ー
ぶくぶくと口元までお風呂につかればすっかりのぼせてしまったようで、私は浴室を出た。
◇
「鈴木さーん。一緒にいこ!」
帰ろうとしていた私は日向くんに見つかってしまい、一緒に体育館へと向かった。
「ちわーす」
「こ、こんにちは」
「来てくれたんだ!」
綺麗な先輩が隣に駆け寄ってくる。
「また上で見ててもいいですか?」
「もちろん。でもこっちで見ててもいいよ?」
並べられた椅子を指さして先輩が言う。
「邪魔にならないですか?その、入部もしてないですし…」
「そんなこと気にしないで。またちょっと手伝ってもらうかもしれないけど。ふふ」
微笑む先輩はやっぱり眩しくて倒れそうになった。
◇
バシッ
今日もボールが左右を飛び交う。
「すごいなぁ」
高く飛んだと思えばボールはあっという間に反対側にいる。
蛍くんどこかな…
キョロキョロと彼を探すとちょうどサーブを打つところだった。
長く伸びた手が振り下ろされる。
バンッ
打ち終わった彼と目が合った。
見ていたことに気づかれ恥ずかしくなり顔を逸らせば、彼がこっちへと歩いてきていた。
「タオルくれる?」
「う、うん」
「ども」
「…」
「僕のこと見てたの?」
意地悪く言う蛍くんの顔を見れない。
「”ずっと目で追ってた?”」
ハッとして顔を上げれば口角をあげた蛍くんがいた。
「なっ今日は見てませーん」
ベーと舌を出して否定するも蛍くんは鼻で笑い満足気だ。
ゴクゴク
ちらりと横目で蛍くんを見る。
ドリンクを飲む姿もかっこいい。
「何見てんの?」
ハッとして見つめていたことに気づき慌てるももう遅い。
「やっぱり目で追ってるんだ」
「だ、だってかっこいいんだもん!」
勢いで気持ちを言葉にすれば拍子抜けした顔の蛍くん。
次第にその顔は赤くなっていく。
「ど、どうだ!?」
負けじと強気で口にした言葉は裏返る。
「あはは、なにそれ」
声を出して笑う蛍くんを初めて見た。
「月島ー。戻ってこーい」
「…ねえ。帰り待ってて」
それだけ言うと、目も合わせないままコートへ去って行った。
◇
練習も終わり着替えに行った蛍くんを待つ。
「あ、鈴木さーん。お疲れ〜!もう暗いし途中まで送るよ」
まだまだ元気いっぱいの日向くんについ笑顔になる。
「ありがとう、でも「この子は僕と帰るから」」
そっと肩に乗せられた手が熱い。
「月島ー!俺は鈴木さんに聞いてるんだぞ」
日向くんの横を通り過ぎて歩き出す。
後ろで何か日向くんが言っているが、もう聞こえない。
「何?日向と帰りたかったの?」
「そんなことないよ…」
「ふーん」
「山口くんは?」
「寄るとこあるからって」
「ふーん」
蛍くんの真似をして言えば睨まれてしまった。
「…」
「ねえねえ、私って蛍くんのこと好きなのかな?」
「は?」
「だって目で追っちゃうし、一緒に帰れるの嬉しいし…」
「そんなの僕に聞かないでくれる?」
「そっか。たしかに…えへへ」
「…」
「蛍くん!私蛍くんのこと好きだと思う。だから好きになってもらえるように頑張る」
「なにそれ」
「な、なんとなく言いたくなって…」
自分でもこんなにストレートに好きだと伝えたことに驚きつつも心は晴れやかだ。
「あっそ。好きにすれば」
冷たく放たれた言葉すら照れ隠しかな、と考える私はポジティブだ。
「明日から楽しみにしててね」
にっこりと笑って目を見れば少しだけ頬を赤く染めた彼がいた。
◇
とにかく蛍くんの視界に入ろうと色々した。
お昼休みに一緒にご飯を食べようと誘いに行ったり、(もちろん断られる)
2日に1回バレー部の見学(お手伝い)に行ったり、
教科書を忘れた日は蛍くんに借りに行ったり。
だが全くと言っていいほど距離は縮まらない。
朝だって一緒に登校できるように家の前にいてもそそくさと先を歩いていく。
「前は隣を歩いていたのに…も、もしかしてしつこくてうんざりしてるんじゃ…」
一度悪い方へ考えを巡らせば、今までの行動が逆効果であったかのように自信を無くす。
…あれから1ヶ月。
好きな気持ちはただただ増すばかりで、以前よりも距離を感じることに不安になっていた。
◇
-月島Side-
好きだと言われた日から彼女は毎日理由をつけて僕に会いに来る。
僕の何を気に入ったのか…
どうせ少ししたら”思っていた人と違った”だの”冷たい人”だの勝手な理由で離れていくに違いない。
…だから初めから期待はしない。
そう思っていても毎日笑顔で話す君に少しだけ期待してしまいそうになる。
朝、玄関を開けて彼女の笑顔が見れると胸は高鳴る。
だが同時に明日には”そこにいない”という現実が頭をよぎり、隣を歩くことなく足を進める。
「まったく僕は何を考えているんだ。期待するな」
自分に言い聞かせるように吐き出した言葉のせいで、彼女の不安など気づきもしなかった。
◇
バレー部に足を運ぶようになって2ヶ月。
いい加減マネージャーになろうかなと決意して、入部届を記入する。
「鈴木さーん!ついにマネージャーになってくれるんだ!」
「う、うん。いい加減中途半端な状態は自分でもどうかなぁって思って。みんなの力になれるように頑張ります!」
少し照れながらそう言えば”日向”はにこりと笑顔になった。
「あ、今日こそ影山より早く部活行くから、先に行くね」
「うん。今日は日向が先に着きますように!!」
うおぉおぉおー!と大きな声で気合を入れてチャイムと同時に日向は走って行った。
すっかり日向とは仲良くなり距離も縮まった気がする。
初めは怖かった影山くんとも今では練習を手伝うくらいには仲良しだ。
「こんにちはー!」
すっかり慣れた体育館。緊張せずに挨拶もできるようになった。
「今日から正式に入部させていただきました。鈴木りかです。みなさんの力に少しでもなれるように頑張りますので、よろしくお願いします。」
深々と頭を下げれば、よろしくー!とか名前は知ってるぞ!とかクスクス笑い声が聞こえる。
ふと視線を感じてそっちを見れば蛍くんと目が合うもすぐ顔を逸らされてしまった。
「今日からよろしくな」
主将の澤村さんにそう言われ背筋をビシッと伸ばす。
「が、がんばりますっ」
裏返った声にまた笑いがおきた。
◇
練習も終わりかと思えばみな自主練を始める。
ここ最近は影山くんの練習に付き合っている。
「鈴木さん。きょ、今日もいいですか!」
目つきの悪い影山くんは誤解されやすいけど、意外にも優しい。
そして誰よりも熱心で努力家だ。
「もちろん」
「あざーす。じゃあボール投げてくれ…ださい」
「ふふふ」
”スパイカーの打ちやすいトス”を極めるそうで、こうして毎日ボール出しをしている。
「チッ」
狙ったところへボールが落ちないと舌打ちをするのもいつものこと。
初めは怖くてボールを投げるのもビクビクしていたけど、どんなボールでも私に怒ることは一度もなかった。
気づけば1時間を過ぎていた。
「お前らそろそろ帰れよー」
先輩たちは既に着替えを終えて帰るところだ。
「うっす」
「じゃあ私もそろそろ帰ろうかな」
「あざーした」
「おい影山。鈴木さんちゃんと送れよ」
「わーってる」
キッと日向を睨む影山くん。
「か、帰ろっか…」
「おう」
じゃあねーと手を振る日向に手を振り返し私たちは歩き出した。
…ー
「今日もお疲れさま」
買っていた肉まんを半分影山くんに渡す。
「足りないかもしれないけど私も食べたいから半分こね」
「あざす」
あつあつの肉まんを2人で頬張れば笑顔になる。
「明日はね用事があるから練習に付き合えないんだけど…」
「おう、分かった。いつも悪いな」
モグモグ
モグモグ…
「なあ」
「ん?」
「いや、なんでもない」
「そう?」
気づけば分かれ道のところまで来ていた。
「また明日ね」
「おう。またな」
何か言いたげな表情のまま彼は背を向けて歩き出だした。
◇
「じゃあ今日はここまで」
「おつかれしたー!!!」
ピリついた空気はすっかりなくなりストレッチを始める人、自主練の準備をする人で穏やかな雰囲気になる。
「ふぅ」
意外とマネージャー業は体力勝負だなぁとため息がでる。
「ねえ」
久しぶりに聞こえたその声に思わずビクッと肩が跳ね上がる。
「お、お疲れさま…な、なに?」
「今日も王様と練習?」
「今日は予定があって…帰るよ」
「そう。じゃあストレッチ手伝って」
「えっと私帰るよ?」
「少しだけ」
そんな目で見つめられては拒めるはずもない。
コクリと頷き背中を押す。
ドキドキ…
最近は蛍くんの教室へ行くのをやめた。
”嫌われたくない”そう思って、頻繁に話しかけにいくのもためらうようになった。
「い、痛くない?」
「うん、もう少し押してくれる?」
「わかった。痛かったら言ってね」
グッと力を入れて背中を押す。
手だけではなかなか力は入らず上体を乗せるように背中を押す。
「…ねえわざと?」
「え?」
びっくりした顔でいると耳を赤くした蛍くんがこちらを見た。
「胸あたってる…」
途端に全身が熱をもち目を逸らす。
「もういいから」
立ち上がった蛍くんは部室へと歩いて行った。
その場で顔を真っ赤にした私は立ち上がることができなかった。
◇
-月島Side-
最近の彼女は僕を避けている。
「やっぱりな」
いつものことだと思いながらも寂しく感じる。
毎日のように王様と練習しているところを見ると…イライラする。
「今日も王様と練習?」
「今日は予定があって…帰るよ」
「そう。じゃあストレッチ手伝って」
「えっと私帰るよ?」
「少しだけ」
半ば強引に頼めば彼女は頷き背中に手が触れる。
手は熱をもち背中が温かい。
僕を気遣ってか痛くないかと確認するも小さな手では全くストレッチにならない。
「うん、もう少し押してくれる?」
「わかった。痛かったら言ってね」
そう言うとグッと背中に柔らかいものがあたった。
さすがの僕でもこれは冷静ではいられない。
「胸あたってる…」
途端に紅潮する彼女にいたたまれずその場を離れた。
「無防備すぎるでしょ」
声に出せば先ほどの感覚が蘇る。
ため息をつきながら部室への階段を上りバタンと扉を閉めた。
◇
恥ずかしい…
先ほどの事を思い出せば顔は赤くなる。
「帰ろうっと」
鞄を持ち、体育館を出れば今1番会いたくない人がいた。
パチッと目が合いため息が聞こえる。
「ほら、帰るよ」
「う、うん」
まるで何もなかったように冷静な蛍くんに私もほっとする。
隣を歩くのはいつぶりだろう。
嬉しくて自然と笑顔になる。
「なにニヤニヤしてるの」
変なものでも見るような眼差しが私に向けられる。
「べ、別に…ただ蛍くんの隣を歩けるのが嬉しいだけ!!」
真正面からそう言えば驚いた顔の蛍くん。
「そう」
「ん?」
静かな夜風が2人の間を通り抜ける。
沈黙すらも心地よかった。
この穏やかな沈黙が大好きだった。
「ねえ蛍くん。どうやったら私のこと好きになってもらえるかはわからないけど、私はずっと蛍くんのこと好きだよ。」
こーんなに!と両手で大きな円を作れば彼は下を向き立ち止まる。
「け、蛍くん?」
俯いた顔を覗き込むように近づければ、声を出し笑う彼。
「アハハッ。ほんと君はよくわからない。こんな道端でそんなこと言って恥ずかしくないの?」
うっすらと涙を浮かべてお腹を抱えて笑っている。
「な、失礼な…そんなに笑わなくてもいいでしょぉ。だ、誰も聞いてないし恥ずかしくないもん!」
キョロキョロと辺りを確認する私を見て蛍くんはまた笑いだした。
「も、もう笑ってないで帰るよ!!」
蛍くんの袖を掴み引っ張って私たちは家路についた。
◇
-月島Side-
部室からの階段を下りれば彼女がいた。
冷静に…
ふぅ。と呼吸を整え、なるたけ自然に声をかけた。
「ほら、帰るよ」
「う、うん」
やはり先ほどの事を気にしてるよな。
「…」
「…」
特に話すことはない…深く関わらないように。
だが、ちらりと彼女を見ればなぜか笑っている。
「なにニヤニヤしてるの」
「べ、別に…ただ蛍くんの隣を歩けるのが嬉しいだけ!!」
真っ直ぐにそう伝える彼女の顔が月明りに照らされて綺麗だ。
「ねえ蛍くん。どうやったら私のこと好きになってもらえるかはわからないけど、私はずっと蛍くんのこと好きだよ。」
あの日のように僕を真っ直ぐ見つめる瞳。
少し赤くなった頬。
あぁ僕は君に離れてほしくないんだな。
自分の気持ちに気が付いて下を向き笑う。
僕も大概、単純だな。
覗き込んできた君の顔もすごく愛おしい。
「アハハッ。ほんと君はよくわからない。こんな道端でそんなこと言って恥ずかしくないの?」
照れ隠しでそう言っても君は引き下がらない。
「な、失礼な…そんなに笑わなくてもいいでしょぉ。だ、誰も聞いてないし恥ずかしくないもん!」
洋服の裾を引っ張る君の手に触れたいと思ってしまった…
◇
今日も部活へと行く道は日向と影山くんと一緒。
走るなと怒られてから2人は部室前までは走らなくなった。
「おっ。日向~」
「ちーす」
「こんにちは」
ちょうど先輩たちが部室を開けている。
「りかちゃーん、今日さ清水休みだからちょっと大変かもしれないけどいつでも手伝うから言ってね」
「わ、わかりました!頑張ります!」
みんなが着替えてる間に少し準備してようかな…
倉庫から支柱を運ぼうと持ち上げてみるもびくともしない。
「せーのっ」
ぐっと力を入れて持ち上げるもあまりの重さに倒れそうになる。
「きゃっ」
「ってぇ、大丈夫か?」
私の腰と支柱を支えてくれたのは影山くんだった。
「あ、ありがとう」
「これは俺が運ぶから鈴木さんはネット運んでくれ…ださい」
「う、うん」
棚の上の方に置かれたネットへ手を伸ばす。
「あとちょっと…」
するりと頭の上を長い腕が伸びる。
「わりぃ届かなかったか」
振り向くと心臓の音が聞こえそうな距離に影山くんがいた。
「ち、ちかいよ」
真っ赤になる私を見て影山くんは一歩後ろへ下がる。
「お、おう。えーっと先行ってるな」
「う、うん。」
思わずのその場に座り込む。
「ドキドキしたぁ。」
…ってドキドキしている場合ではない。
顔を両手でぱちんと叩き、ネットを持ってコートへ戻る。
ネットを張ったあとはスコアボードを出したり、ゼッケンやボールを準備したり、ドリンクを作ったりと大忙しだ。
あっという間に練習も終わり。
「鈴木さん、今日も自主練付き合ってくれないか…ですか」
「わかった。ちょっと飲み物買いたいから少し待ってて」
そう言って体育館前の自動販売機へ駆け出す。
倉庫での出来事を思い出して顔が赤くなる。
「影山くんも男の子だもんね…手大きかったな」
ガチャン
買った飲み物を取り出して急いで影山くんのところへ戻った。
◇
-月島Side-
「今日は俺の勝ちだ」
王様と日向は今日もうるさい。
練習終わってまだそんな体力あるなんてバカじゃないの?
ため息をついて帰る準備をする。
「影山、見てたぞ。お前も隅に置けないなぁ」
「なんですか田中さん」
「鈴木さんの腰抱いてただろ」
ひゅーとからかう田中さんの声がした。
「いやあれは別にそういうんじゃ」
「隠さなくてもいいんだぞ。倒れてくる支柱から女子を助けるなんてかっこいいじゃねえか!」
「…うす」
ふーん。
”腰を抱いた”
…ー
「おっ鈴木さん。今日も影山の自主練付き合うのか?てか、コート準備してくれてありがとうな」
「へへっ。ほとんど影山くんがやってくれたんです。支柱も重くて持てなくて助けてもらっちゃって…影山くんの手大きいんですよ!」
「ハハハ。そっか!まあ怪我がなくてよかったぜ」
…ー
聞きたくもない会話が耳障りだ。
相変わらず無防備すぎるでしょ。
”影山くんの手大きいんですよ!”
…ー
「ツッキー。ツッキーてば!どうしたの怖い顔して?」
何度も僕を呼ぶ山口の声は全く耳に届いていなかった。
「別になんでもない」
「帰らないの?」
「少し練習していく」
そう返事をしてコートへ戻る。
チッ
王様と練習する彼女が視界に入り苛立つ。
「蛍くん?」
気づけばタオルを持った彼女がそばにいた。
「体調悪いの?ドリンクいる?」
不安そうに僕を見る彼女からは石鹸の香りがした。
「大丈夫だから」
僕を誘うようなその香りについ手を伸ばした。
「ドリンクもらうよ」
「えっと…他にも何かいる?」
受け取ったドリンクには口をつけず、彼女を見ていたことに気づいた。
「じゃあ肩貸して」
「ふぇっ」
彼女の肩に頭をのせて目を閉じる。
…ー
「どうも」
横を見れば耳まで真っ赤にした彼女の顔が近くにあった。
ふっ。さっきまでの黒い感情はもう消えていた。
◇
さっきの”あれ”は何だったんだろう。
珍しく自主練をする蛍くんを見ていたけど調子が悪そうで、蛍くんに駆け寄れば彼の頭が肩にのった。
ほんのりと汗のにおいがしたけれど嫌な気はしなくて
こんなに近くに蛍くんがいると意識したころには動けくなっていた。
今も心臓はうるさい。
「ど、どういうこと?」
混乱した気持ちをどうにか落ち着けて影山くんの練習に戻った。
「大丈夫か?顔真っ赤だけど」
「なんでもない!全然大丈夫だから!」
「…じゃ今日も頼む」
「まかせて!」
今は集中しなくっちゃ。手にしたボールを高く上げた。
◇
「おし。いい感じだ」
そうつぶやいた影山くんは満足げに微笑んでいる。
「帰るか」
「うん。お疲れさま」
タオルとドリンクを渡して片付け始める。
「支柱は持たないでよね」
ネットを外したところで後ろから声をかけられた。
振り向かなくても分かる。この声は…
「じゃあ蛍くん持ってね」
「はいはい」
「ふふ。ありがとう」
2人で倉庫へ向かうと視線を感じた。
「鈴木さん。今日も送るから待っててくれるか」
「えっと…」
「今日は僕が送るから王様は先帰れば」
「な、蛍くんそんな言い方しなくても」
「なんでテメェにそんなこと言われなきゃいけねえんだコラァ」
「ちょっと影山くんも落ち着いて」
とっさに影山くんの腕をつかみ制止する。
チッ
「はぁ。僕着替えてくるから」
支柱を片付けて横を通り過ぎる蛍くんは苛立っているように見えた。
「…もう大丈夫だから離してくれ」
影山くんの腕をまだ掴んでいたことに気づきバッと手を放す。
「ご、ごめんね。」
「じゃあまた明日な」
そう言って影山くんも体育館を後にした。
◇
-月島Side-
「なんでテメェにそんなこと言われなきゃいけねえんだコラァ」
「ちょっと影山くんも落ち着いて」
とっさに王様の方を振り向き腕を掴む君。
チッ
彼女の手が王様に触れたことに苛立ちその場を離れる。
着替えを終えると王様が入れ違いに部室へと入ってきた。
「…」
「…」
「彼女は僕のだから」
「は?」
「好きにならないでよね」
「なんでお前に…」
王様の言葉を聞き終える前に僕は部室を出た。
◇
「肩痛ーい」
ずっと上に向かって手を伸ばしボールを上げていたせいか腕や肩が筋肉痛だ。
くるくると肩を回していると蛍くんが来た。
「何してるの」
「えーちょっと肩が凝りまして」
「ふーん」
「誰かマッサージしてくれないかなぁ」
「…」
「…ちょっと黙んないでよ」
「ふーん」
「こら!」
ドンと蛍くんにタックルをするもびくともしない。
それどころか私を見下ろし勝ち誇った顔をしている。
「よわっ。まさかそれで勝ったつもり?」
「キー!負けないもん」
腕を掴みグッと下へ引っ張れば蛍くんの顔は目の前だ。
ゴツン
頭突きをすればさすがの蛍くんも…
おでこをつけたまま蛍くんを見ればどアップの彼に赤面する。
「ふっ。自分からしておいて照れてんの」
息のかかる距離で声が聞こえる。
「僕のこと目で追いかけるんじゃないの」
「ちょっと今はむ~り~」
離れようと胸元を押すもびくともしない。
それどころか私の頬に手を添えてニヤリと怪しげな笑みを浮かべる蛍くんにビクリとする。
「…王様が君のこと好きなの気づいてる?」
「ふぇ!!?何言ってるの?そんなわけな「僕も君が好きだよ」」
離れた手、頬が温かい。
思いもしなかった言葉を理解しようと下を向く。
「…」
「…」
「…私も蛍くんが好きだよ」
目を見て伝えれば、すっと誰かが横を通った。
「聞こえた王様」
「あ゛ぁ?」
「…」
「そういうことだから」
影山くんはそそくさと行ってしまった。
「け、蛍くん。まさかわざと言わせたの?」
「君は僕以外、追わなくていいの」
「ははーん。蛍くんやきもちですな。言ったでしょ、私はずっと蛍くんのこと好きだよ」
「…やっぱり敵わないな」
すっと出された手に自分の手を重ね、私たちは歩き出した。
◇
気づけば家の前についていた。
つないでいた手は離れる。
「じゃ、じゃあまた明日ね」
「うん、じゃあ」
そっけない返事が少し寂しい…
「蛍くん!!」
思ったより大きな声で彼を呼んでしまった。
「なに?」
「だ、大好きだょ」
恥ずかしくて語尾が小さくなるも彼には聞こえたようだ。
こちらに向かって近づいてくる。
ぎゅ
何が起こってるんだろう…
大きな手が優しく背中を包み込む。
「僕もだよ」
耳元でささやかれ恥ずかしくなるも嬉しくてぎゅっと抱きしめる。
穏やかな風が吹き抜け空を見上げれば、月明りに照らされた彼が笑っていた。
Fin
1/1ページ
