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キーンコーンカーンコーンー…
チャイムの音と同時に教室のドアが開いた。
「今日から新しいクラスかぁ…」
新しい担任の先生が入ってくるも、私は”彼”が同じクラスなことに気づきそれどころではない。
ちらりと見ると、眠そうな目をこすり、だるそうな顔で前を向いている。
「同じクラスだね」
ふと後ろから声をかけられて振り向くと、そばかすの男の子がそこにいた。
「た、忠くん…」
「お、おはよう。そういえばツッキーも同じクラスなんだよ。」
「…そ、そうなんだ。」
ドキッとした気持ちを隠そうと平然を装った。
◇
忠くんとは小さい頃から仲が良い。
親同士が仲が良く、お互いの家を行き来していた。
でも小学校に入ったある日友達に言われた。
「君たち付き合ってるの?」
小さい頃のようにいつも一緒にいたけれど、もうあの頃とは違うんだ…
その日以来、なんとなく気まずくなって一緒に遊ぶことも、一緒に帰ることもなくなった。
気づけば私たちは小学5年生になっていた。
幸い今まで同じクラスになることはなく、たまに親の付き合いで家に行くくらい。
少しだけ会話をしたあとその場から逃げるように過ごした。
自分でも分かっている。すごく嫌な感じだったと。
でも今更どうしていいかもわからず、昔のように話すことはできなくなっていた。
◇
「俺、バレー始めたんだ。」
「そ、、そうなんだ。」
あまりにも当然の会話にビックリし、先ほどと同じ言葉しか出てこない。
「今日もバレー行くんだ。…一緒にいく?」
「ひ、暇だし行こうかな」
ぎこちなく出た言葉すら、昔のように話せているようで嬉しかった。
「じゃあ、放課後集合ね「授業始めるぞー」」
キーンコーンカーンコーンー…
胸の高鳴りを抑えながら、私は席に着いた。
◇
最近、忠くんが放課後いつもどこかへ行っているのは知っていた。
どうやら背の高い”彼”と何かしているようだ。
気づけば私はこっそり後をつけていた。
「ねえ。君、なにしてるの?」
「…」
びっくりして振り返るとそこには”彼”がいた。
…見つかっちゃった。
「ちょっとバレーに興味があって」
「ふーん。」
「…」
「…」
そのあとの妙な沈黙に耐え切れず私はその場を後にした。
「ツッキーどうしたの?」
「別に」
「…りかちゃん??」
ふと後ろから呼ばれた気がしたが、私は振り返ることなく走り去った。
◇
「やっと終わったー!!」
急いで帰る準備をして、忠くんのところへ向かう。
隣にはもちろん”彼”もいる。
「ツッキー、今日はどんな練習かな?」
「さあ」
「俺、サーブの練習したいな」
そんな話を聞きながら気づけば体育館についていた。
「じゃありかちゃんまたね」
「うん。忠くんあとでね」
そそくさと歩きだす”彼”の背中を私はただ見つめるだけだった。
バイバイと手を振る忠くんに手を振り返し、私は体育館の隅へ移動した。
「かっこいいな」
ぼそりと呟いてみた声は届くことなく宙に舞う。
どうしたら仲良くなれるかな。話してみたいな。
そんなことばかり考えて、気づけば練習も終わりの時間。
「今日こそ何か話してみるぞ!」
そう意気込んでみたものの、突然話しかけることもできなくて、ただただ2人の話を聞いていた。
「ツッキー今日もすごくかっこよかった!俺もツッキーみたいにかっこいいスパイク打ちたい!ねえ、ツッキーあの時…!!」
「山口うるさい」
キッと睨む彼は”月島くん”と言うらしい。
ふと見るとだんだんと青ざめていく忠くん。
私は思わず声を出して笑った。
「アハハ。ほんと2人は仲良しだね」
「そうでしょ。俺ツッキーに憧れてバレー始めたんだ」
そんな会話をする私たちを興味もなく見下ろす月島くん。
「じゃあ僕こっちだから」
「うん、またねツッキー」
「またね、月島くん」
ヘッドフォンをつけ始めた彼に果たして私の声は聞こえていたのかわからない。それでも話せたことが嬉しかった。
道中、忠くんが嬉しそうに語る月島くんの話を私は夢中で聞いていた。
◇
放課後、バレーボールの練習へ一緒に行くのが日課になったある日。
「君、いつも見てるだけでバレーやらないの?」
不意に月島くんに話しかけられ言葉を失っている私をよそに
「確かにりかちゃんもやってみようよ!」
なんてニコニコな忠くん。
「私は…運動神経悪いし、見てるのが好きなんだ」と答えてみるも
「ふーん」とこれまた興味のない返事。
なんで聞いたんだよ。と心の中でため息が出たことは秘密。
「じゃあ、あとでね」なんていつものように手を振る忠くんに手を振り返し、いつものように隅へ移動した。
◇
いつもの帰り道、3人で並んで歩く。ただそれだけだけど、私はすごく嬉しい。
「俺今日のスパイクすごくいい感じだった。」
「そうみたいだね」
月島くんが少し笑った気がした。
「2人ともどんどんうまくなるよね」
「そ、そうかな~」と照れる忠くんをよそに
「べつにそんなことない」と横を向く月島くん。
ちょっぴり耳が赤いのは夕日のせいかな?なんて私は微笑んだ。
「なに笑ってんの?」
ハッとして見上げると、こちらを睨む月島くんがいた。
「アハハ…ハハ…ッ」
自分でも顔が引きつっているのがわかる。
「じゃあ僕こっちだから」
そういいながら不敵に笑う彼の顔をその日は忘れられなかった。
◇
「おはよー」
そう友達に挨拶して席に向かう。
「ねえ」
そう呼ばれて振り向くと月島くんがいた。
「おはよう月島くん」
「おはよ。ちょっと昼休み付き合ってくれない?」
なんだろう。と思いながら首をかしげると
「バレーの練習」
そう言って月島くんは席に戻っていった。
◇
キーンコーンカーンコーンー…
「お昼休みだー!」
給食を食べ終わったあと、何かを忘れていることに気づく。
「ほら行くよ」
そう言われてポイっとボールを渡された。
後ろからトコトコついていく。
背が高いなー。歩くのはそんなに早くないんだな。なんて背中を見つめる。
着いたのは校舎裏だった。
「体育館じゃないの?」
はぁ。と月島くんは大きなため息をした。
「昼休みは体育館開いてないんだよ」
そんなことも知らないの?と言いたげな顔だ。
「そ、そうだったね!」知ってるよなんて顔をすればまた大きなため息が聞こえた。
「ボール上げて。」
そう言われてボールを持っていたことを思い出した。
「私、バレーできないよ?」
「知ってる。ただボール上げるだけだから」
知ってるって失礼じゃない?なんて思ったけれど言われた通りボールを上げた。
「高めにくれる?」
そう注文までつけられてふと疑問に思った。
「忠くんにお願いすればいいんじゃないの?」
キッとこちらを睨む月島くん。なんか変なこと言ったかな…私は首をかしげた。
「こんなかっこ悪いとこ山口には見られたくない」
驚いた。
"俺ツッキーに憧れてバレー始めたんだ"
月島くんにとって”山口にがっかりされないでいる”ってことが思ってたより大事なことなんだって。
”2人ともどんどんうまくなるね”って言ったことが
”かっこいいツッキー”って証明になったのかな。なんて考えていてつい声に出していた。
「だからあんなに照れてたのか~」
放った言葉は今度は月島くんにも届いていたようで…
「たまに練習つきあってよね」
そう言い不敵に笑う彼がそこにはいた。
◇
週に2回ほど、お昼休みの練習をするようになって1か月。
「ほら行くよ」
「はーい。あ、トイレ行きたいからちょっと待ってて蛍くん」
すっかり仲良くなった(と思っている)私は”ツッキー”と呼んでみたが、
「その呼び方やめてくれる?」
そう言いすごい顔で睨みつける月島くんにもう一度”ツッキー”と呼ぶ度胸もなく…
忠くんは呼んでいいのかーい。と心の中でツッコミを入れて…
「じゃあなんて呼んだらいいの?」と聞いてみた。
「さあ」なんて言うから困った。
ツッキーはダメだし、どうしよう。
別に呼び方を変える必要なんてない。だけど仲良くなった証に特別な呼び方をさせてもらいたかった。
「じゃあ…蛍くん?」
恐る恐る見上げると「好きにすれば」なんて言われて私は開いた口を閉じ忘れていた。
てっきりダメだと睨まれるのを覚悟していたのに予想外だ。
「ふっ…なんて顔してるの」
蛍くんの笑顔を初めてみたことと、今の自分がマヌケな顔をしていることに気づき顔が熱くなるのを感じた。
「なっ、女の子にそんなこと言わないのー!!」
照れ隠しで発した言葉も「はいはい」なんて返してくれて、私の声が届いたことにまた顔は熱くなった。
◇
いつもの帰り道、忠くんからふと言われた。
「2人でお昼休みなにしてるの?」
下を向き泣きだしそうな小さな声の忠くん。
「僕が気づかないと思ってたの?」
「そんなこと…」言おうとした言葉が出てこなくて、蛍くんを見上げる。
「はぁ、そんなんじゃない」蛍くんはそれだけ言うと歩き始めた。
「じゃあなんで言ってくれないの?」
少しケンカ腰なその声に私は驚いた。
「蛍くんはね…」そう言いかけて言葉を遮られた。
「かっこ悪いところ山口には見せられないだろッ」
そう大きな声で言う蛍くんは唇を噛みしめていた。
「…」
「…」
「こんな無駄なケンカ続けちゃだめだよ」
そう言うと2人はびっくりした顔でこっちを見ていた。
「蛍くんはただ”かっこいいツッキー”でいようとしてるだけ。でもそれを隠す必要ってないと思う。”一生懸命”ってかっこいいと思うよ」
それのどこがかっこいいって言うんだ。とでも言いたげな顔をされたけど
「大切な友達が誤解したままは嫌だよ。」
そう言うとはぁ。とまた、ため息が聞こえた。
「山口のスパイクがかっこよかったから、負けたくないんだ」
それを聞いた忠くんは目をキラキラ輝かせ太陽のように笑った。
「アハハ!なーんだ。そっか。じゃあ俺も負けたくないから明日から練習する」
何も言わないけれど蛍くんも嬉しそうに微笑んでいた。
◇
忠くんも一緒にお昼練習するようになってどれくらいが経っただろう。
気づけば季節は秋になっていた。
私もすっかりバレーにハマり、バレーボール入門1が愛読書になっていた。
「りかちゃんってさ、そんなにバレーが好きなのにいっつも見てるだけだよね。前も言ったけどプレーしないの?」
「うん、しない。見てるのが好き。でも最近はただ見てるだけじゃなくてルールとかもっと詳しく知りたいの。」
「じゃあ中学はマネージャーかな?」
「どうだろうね」
いつものように会話に入ることなく「ふーん」としか言わない蛍くんをよそに、私たちは盛り上がっていた。
「俺、中学いったら絶対レギュラーになるんだ」
そう言う忠くんはまぶしいくらいに輝いて少しうらやましい。
「ツッキーは?」
「さぁ。まぁバレーは続けると思うけど。」
そう言うと「僕こっちだから」といつものように背を向けて歩いていってしまった。
「なんか蛍くんってもったいないよね。身長も実力もあるのに、やる気がない。」
「うーん。そう…かな。」
歯切れの悪い返事をする忠くんを不思議に思いながらも私たちは家路についた。
◇
「蛍くん、バレー好きだよね?」
「まあ普通」
昼休み、いつものように練習をしている姿はどこか“本気″ではない気がして聞いてみた。
「なんでそんなにやる気ないの?」
は?とこちらを睨んでから、何その質問。と言う蛍くん
「もっと本気でやったら蛍くんはあっという間にレギュラーになれるでしょ」
バレースクールでもレギュラーでないのが不思議で聞いてみたが、この質問はまずかったらしい。
「たかがバレーになんでそんなに本気になる必要があるの?っていうかなんでプレーもしない君にそんなこと言われないといけないの。」
いつもより饒舌な蛍くんは
「っていうか君にやる気ないとか言われたくない」
そう言っていつもより鋭い目つきでこちらを睨み、終わり。と言って先に教室へ戻って行った。
小さくなっていく後ろ姿を見つめ、後悔ばかりが残っていた。
◇
あれから気まずい日が続いた。
謝ろうとしても、口を開くことさえ許さないような目つきで睨みその場を去っていく。
さすがに忠くんも何かあったんだと気づいて心配してくれた。
「私が余計なことを言ったんだ」
そう伝え、大丈夫自分でなんとかする。と笑って見せた。
しかし現実はそんなに甘くない。
昼の練習は忠くんと蛍くんで行くようになり、声すらかけられなくなった。
「ツッキー、りかちゃんは呼ばないの?」
「…」
最初は忠くんも心配して仲裁に入ろうとしてくれていたが、終始無言で睨む蛍くんに忠くんも諦め始めていた。
ぼーっと外を眺めているとなんだか泣きそうになる。
今ごろ校舎裏で練習してるんだろうなぁ。
高いボールを目掛けて手を振り下ろすその綺麗なフォームに私は釘付けになっていた。
でも今は見ることすら許されない。
一緒に行こうなどと口が裂けても言えない。
”やる気がない”そんなはずがない事は私がよく分かっていた。
放課後だけでなくお昼まで練習をする人がやる気がないわけない。
誰よりもかっこいいバレーを目指してる彼がバレーを好きかどうかなんて明白ではないか。
自分がいかに意味のない質問をしたこと、彼をしっかり見てはいなかったことを思い知った。そして大切な友達を傷つけてしまったことにひどく自分に苛立った。
◇
あれから何日が過ぎただろう。
すっかり”蛍くん”と呼ぶことがなくなり、以前より距離ができた。
同じ空間にいるのにまるで私のことは見えていないかのようだ。
キーンコーンカーンコーンー…
放課後を知らせる鐘がなった。
きっと今日も練習に行くに違いない。その前に…
「た、忠くん!!」
そう大きな声で呼び止めた。
「先行ってる」
そう言う彼はこちらには目もくれず教室を出ていく。
「どうしたの?りかちゃん」
「け、蛍くんのお家教えて!きっ、きっと学校では目も合わせてくれないから…押しかける!」
言い終わると忠くんはポカンとした顔の後、声を出して笑った。
「ハハ。アハハ、アハハ。」
目には涙さえ浮かべている。
「ちょっと笑いすぎ」
ぷぅとほっぺたを膨らませてみるも全く動じない。
「いやーりかちゃんらしいね。ツッキーはさ誤解されやすいと思うんだけど、中途半端なことはしないと思うんだ。だから…」
「うん。わかってる。バレーも一生懸命だよね。私謝りたいんだ。”やる気ない”なんて言ったこと。忠くんは否定も肯定もしなかった。友達ならそんなこと気づいて当たり前なのに…」
「それは違うよ、当たり前かどうかは。でも気づいたってことは友達ってことだよ。」
涙が出るのをグッと堪え、これ住所。と書かれたメモを受け取った。
「練習終わるのはいつもの時間だから」
そう告げて忠くんはいつものように手を振り教室を後にした。
◇
すっかり放課後はまっすぐ家へ帰るのが日常になっていた。
でも今日は謝りに行こう。例え許してもらえなくても…
手にした地図を見ながら知らない道を歩く。ちょっぴり怖いけど、この道も蛍くんが通ってるのかと思ったら嬉しかった。
”月島“はっきりそう書かれた表札の前に来た。
オロオロと戸惑いインターホンに手をかける。
「あら。どちら様?」
そう聞こえて振り向くと優しそうな女性が立っていた。
「は、はじめまして。5年2組の鈴木りかです」
まさか蛍くんのお母さんに会うとは思わず、裏返った声で挨拶をした。
「蛍のお友達ね。まだバレーしてると思うから帰ってくるまで中に入って。」
私は優しいその声に頷くと、家の中へと案内された。
「もう少しで帰ると思うからお茶でも飲んでてね」
そう言われ、出されたお茶を言われるがままに飲み干した。
何してるんだろ私。まさかお家に入れてもらうなんて思ってなかった。
緊張してじんわりと手がしめってきた。
ガチャッ
「ただいま」
聞き慣れたその声にドキッと胸が鳴る。
ドアが開き蛍くんと目が合った。
「な、なんで」
「うちの前でインターホン押そうと悩んでたから…」
あ、お母さんに見られてたのか。
「えーっと…」
謝ろうと口を開いたが
「いいから来て。」
そう言われて手を引かれ2階へと上がった。
◇
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
部屋に入ってからずっとこの調子だ。
先ほど握られた手が熱い。
時計が刻む音だけが聞こえる。
「…」
「…はぁ」
沈黙を破ったのは蛍くんだった。
「で、何してるの」
久しぶりに自分に向けられた声が嬉しくてにやけそうになるのを堪えた。
「謝りに来たの。学校じゃ聞いてくれないと思って」
「そう思うなら諦めればいいんじゃないの」
諦めるって、もう友達に戻れないってこと…?そう思うと涙が出そうになった。
「諦めない。友達ってそんな簡単なものじゃない。だから傷つけてごめんなさい。」
「別に何も傷ついてない」
目すら合わせてくれなくて、また泣きそうになるのを堪えた。
「友達なのに何もわかってなかった。あんなに練習してる人がやる気無いわけない。バレー好きかどうかなんて見てて分かってた。ごめんなさい」
そう言い終えると目からは勝手に涙が溢れた。
「…ごめんなさい」
小さな声でもう一度謝ると蛍くんは驚いた顔でこっちを見ていた。
「泣くほどのこと?」
コクンと頷くとはぁ。とため息が聞こえた。
「僕なんてただのクラスメイトでその程度でしょ」
そう冷たくいう言葉に今度は怒りが込み上げた。
「ただのクラスメイトが昼も夕方も練習に付き合いますかねー!!ほんとなんなの」
泣いていたかと思えば怒り出す私を見て、今度は蛍くんがポカンと口を開けている。
「大事な友達だからに決まってるでしょ!!」
そう告げると今度は声を出して笑われた。
「君はさ、よくそんな恥ずかしいこと言えるよね。アハハ」
涙目になりながら笑う蛍くんを初めて見た。
「そんなに笑わないで!」
と言うものの、もはや声は届いていない
「アハハ、ほんと君ってなんなの」
笑いすぎだって!そう思いながらもつられて私も笑っていた。
◇
ひとしきり笑った後、蛍くんは言った。
「少しは僕のこと知ってくれてるような気がしてた。だから嫌だったんだ。……送るよ」
そう言うと、玄関へ向かった。
「母さん、送ってくる」
「はーい。また来てねりかちゃん。蛍と仲良くしてくれてありがとう。」
そう言われてまた泣きそうになった。
「お邪魔しました」
「ほら行くよ」
私たちは歩き出した。
◇
蛍くんと私の家は歩いて10分ほどの距離のようだ。
忠くんの家のそばと伝えると、そう。と言って歩き出した。
なんだか並んで歩くのは恥ずかしくて少し後ろを歩いた。
「あのさ、僕の隣は歩きたくないってこと?」
急に立ち止まる蛍くんを避けると口角をあげた蛍くんがいた。
「まさか謝っておいて友達じゃなくなったとか?」
勝ち誇った顔の蛍くんに見下ろされ、なんだかムカついた。
「そ、そんなわけないでしょ。友達なんだから並んで歩けるし!」
強がってみたが内心ドキドキだ。
チラッと横を見るとさっきのムカつく顔ではなく、いつもの冷静な彼がいた。
「明日の昼練、また手伝ってよ」
嬉しくなって泣き出すと、まだ泣くの?と嫌な顔をされたが私は気にしない。
「…ズビッ。任せて。とびっきり高くボール上げてあげる」
「そこは普通でいいから」
どこか懐かしいやり取りに私はまたしても涙を流すのだった。
気がつけばもう家の前。
「ぐちゃぐちゃだよ」
そう言われて手渡されたハンカチで涙を拭く。
「洗って返すね。送ってくれてありがとう。」
言い終わる前に彼はくるりともときた道を歩き始めた。
「また明日ね」
背を向けたまま手をあげた彼に声は届いていた。
◇
「りかちゃーん、おはよう!」
そう呼ばれて振り返ると忠くんがいた。
珍しく一緒に登校することになんだか少し照れくさい。
「き、昨日はどうだった?仲直りできた?」
きっと一晩中気にかけてくれていたんだろう。うっすらとクマができている。
「うん、忠くんのおかげで仲直りできたよ。ありがとう。それと…またお昼の練習に参加することになりましたー!!!」
「やったー!!」
ハイタッチを求める忠くんにつられてハイタッチ。
それを見ていた周りの子に「お前ら仲いいよな」なんて言われたが
はっきりと答えた。
「うん、仲良し。親友だもん」
そうだ。あの時からずっと忠くんは大事な友達。恥ずかしがることなんてない。
「忠くん、小さいときはその…」
「分かってるよ。からかわれてちょっとドキッとしたよね。でも一緒に遊ばなくなったのは悲しかったなぁ」
そう
「ごめんね。ずーっと忠くんは大事な友達」
うん。と嬉しそうに頷く忠くんと一緒に教室へ向かった。
◇
キーンコーンカーンコーンー…
気づけば窓から見える景色は白へと変わっていた。
「そろそろ昼練もきついねー」
「りかちゃん鼻が真っ赤だよ」
手袋もせずに投げるボールも氷のように冷たい。
空を見上げると白い光の粒が降ってきた。
「雪だー!!」
はしゃぐ私たちを横目にさむっ。と体を丸める蛍くん。
「雪なんかで喜ぶなんて、ふっ」
そう見下ろす蛍くんをキッと睨み、
「教室まで競争~」と私と忠くんは走り出した。
◇
毎日のように雪が降り、昼の練習はやめることになった。
風邪をひいてはバレーどころではない。
最近の私たちはバレーボール入門”2”を読んでいる。
「練習できないときは知識をつけましょう」
そうマネージャーぽいでしょ。なんて私が言えば「はいはい」と言いながらも本に目を向ける。
「そういえば今日はバレースクールも休みなんだよね~」
「じゃあ放課後は自主練?」
「俺んちはできる場所がない…ツッキーの家行ってもいい?」
「まあいいけど」
「私もボール拾いする!」
「え。りかちゃんボールあげてくれないのぉ?」
なんてふざけているとチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーンー…
私は本を閉じ、自分の席に戻った。
◇
放課後、蛍くん家へ行く。2度目の訪問だ。
この間は1人で通った道も今日は3人。
「ただいま」
「「お邪魔します」」
「あら、いらっしゃい」
「今日バレー休みだからうちでやることにした」
「あら、明光も帰って来てるわよ」
そう言うお母さんの向こう側に男の人が立っていた。
「忠〜大きくなったなぁ。あ、君は初めまして。
兄の明光です」
「初めまして。蛍くんと同じクラスの鈴木りかです」
似てないな〜なんて思いながら挨拶していると横から蛍くんが嬉しそうに話す
「
こんなに目を輝かせ嬉しそうに話す蛍くんを初めて見た。
「お兄さんのこと大好きなんだね」
そう
「こら、蛍。女の子に舌打ちしないの」
はいはいと返事こそしているがこちらを睨んだままだ。
「まぁまぁツッキー。練習しようよ」
そう言って荷物を置き、みんなで庭へ出るのだった。
◇
ボール出しもそこそこに寒くなった私は家へ入った。
お兄さんが2人にアドバイスをしながら練習している光景になんだか胸が熱くなった。
「小さい頃から変わらないの」
後ろから声をかけられてドキッとしたが、その優しい声はゆっくりと隣にきた。
「蛍は感情をあまり出さない子だから傷つけていないかしら?」
ごめんなさいね。なんて言葉も続けて言われた私はつい大きな声で
「ぜんぜーん大丈夫です。むしろ私が傷つけて…この間仲直りしました!ごめんなさい」
そっと顔をあげるとびっくりした顔の蛍くんのお母さん。
「ふふふ。女の子は元気で素直で可愛いわね。」
面と向かって”可愛い”だなんて言われなれてなくて、真っ赤な顔の私に
「あらら。困らせちゃったかしら?ふふふ」
うぐっ…お母さん一枚
気づけば外は暗くなり始めていた。
「そろそろ帰ろうかな」
「そうだね、りかちゃん帰ろっか!」
荷物をまとめ玄関へと向かう。
今日は忠くんがいるから蛍くんとはここでお別れ。
「じゃあまた明日ね「僕も送っていく」」
遮られた言葉に驚きつつも嬉しくなって微笑んだ。
「糖分ほしいからコンビニついでだよ」
ふっと口角をあげたあのムカつく顔だ。
「あっそーですか。お邪魔しました」
半ば蛍くんを押しのけて、お兄さんとお母さんにお礼を言った。
「また来てね」
優しく手を振る2人を見て、蛍くんはなんで意地悪なんだ?と顔を見れば
なに?と言わんばかりに睨まれた。
「なんでもないよ」
そう告げて私たちは歩き出した。
◇
本当にコンビニに来た…ついでかーなんて落ち込んでいたけど、そんな気持ちを知るはずもなく、行くよ。と歩き出してしまった。
慌てて2人を追いかける。
「なにぼーっとしてるの」
「あれ?りかちゃん?」
忠くんは私がいなかったことすら気づいてなかったのか…
もうすぐでお家に着いちゃうなー…そう思いながら歩いていると2人がいない。
「はあ。こっち」
そう呼ばれた方を向くと近くの公園に入っていた。
寒いのに公園でなにするのかな?と首をかしげていると2人は公園の椅子に座り、先ほど買ったものをテーブルへと出していた。
「え…ここで食べるの?」
「ここはね小さい頃、ツッキーとよく来てた公園なんだ!遊んだ後はここに座ってお菓子を食べてまた遊んで…ねっツッキー!」
はぁ。とため息で相槌をしたかと思えば、さっき思い出しただけ。なんて照れくさそうだ。
「ツッキーはいっつもコンビニで2個入りのショートケーキを買って、大好きなお兄さんと1つずつ食べてたんだよね」
”大好き”の一言が余計だったのか、山口うるさいとこれまたお決まりのセリフで睨まれていた。
「ふーん」
今度は私が蛍くんの真似をして興味なさそうな返事をした。
「君も食べる?」
驚いて声の主を見ると、失礼だなと顔に書いてあった。
「別に
友達とか。と小さな声で付け加えられた。
「蛍くんありがとう!!」
「俺にはないの?ツッキー…」
「山口はこれでしょ」
そう言ってしんなりとしてしまったポテトを渡していた。
「さすがツッキー!!」
「うるさい山口」
美味しそうに食べる忠くんを見て私も食べることにした。
「いただきます」
う〜ん美味しい。ほっぺたを抑えながら頬張る私をみて笑われた。
「誰も取らないけど…ククッ」
「アハハ。りかちゃん可愛い」
…今”可愛い”って言われた…?
本人も気づいたようで赤くなっている。
「ご、ごめん」
「な、なんで謝るのー!私は可愛いってこと知ってる!」
冗談のようにしてしまえ!そう思って言ってみたものの気まずさが残った。
そんなことお構いもなく蛍くんはケーキを食べ終えた。
「いいんじゃない?可愛いくらい。僕だって鈴木さんのこと可愛いと思うよ」
まさかのフォローに私は茹でだこだ。
「な、
急いでケーキを頬張るも、ニヤリとした顔でこっちを見る彼を直視できない。
「…帰ろっか」
忠くんも食べ終えてゴミを捨てに行く。
私もー!とゴミを持とうとするが蛍くんに腕を掴まれた。
「僕は大事な人にしかあげたりしない」
何を?とキョトンとしていると、すかさず
「ケーキ」と言われた。
手に持っていたゴミを渡し、捨てに行ってくれる。
大事とは…?
きっと私の気持ちとは違うけど、大事な友達ってことだよね。
そう言い聞かせて2人の後ろを追いかけた。
さわやかな存在感の苺のような、
私の心を包むクリームのような、
その甘酸っぱさは私の初恋そのものだった。
Fin
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