冒険後の話


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ところ変わってレストラン。場所は商店街から少し離れたところにあり、人通りも少なく、落ち着いた雰囲気のあるレストランだ。
セティア達はそんなレストランの中で……またも目立っていた。否。彼らに目立っているという自覚はないのだが……。


「ク、クロくーん? いつまでそうやってるのさ」

「……うるさい」

「セ、セティアちゃん生きてる??」

「~~っっ!! だ、だいじょう……ぶっっ」


なんと、クロイツがセティアを自身の膝の上に乗せ、これでもかというほどぎゅうぎゅうに抱きしめているのだ。
そしてその表情は見たものを卒倒させそうなほど恐ろしく。まるで
般若のような顔で怒りを表していた。


「ほら~! セティアちゃんも色々キャパ超えちゃってるよ!?」

「そ、そんなことないよ……っ」

「セティア悪い。少しだけ我慢してくれ。いつまたあの変態が現れるか分からないからな……。
それと、用心すると言ったのに、嫌な思いをさせて悪かった。今度は絶対に油断しない」


あくまでセティアに語りかける時は甘く。けれどそれ以外の時は殺意がダダ漏れている状態だ。
そんなクロイツは当然レストラン内で注目されていた。……まぁ声をかけるような命知らずはいなかったが。
クロイツの殺気を目の前で浴びているシェイドは、完全に怯えていた。まるでその殺気が自分に向けられているような錯覚がしたからだ。まぁそれはそうだろう。
なにせ先程まで向けられていたものとは比べ物にならないほどに恐ろしいのだ。
普段クロイツは不愛想だが、人当たりがよく怒鳴りつけるなどということはシェイド以外には滅多にしない。
だが今回のライラスの言動では、殺意を向ける程に怒りを覚えていたのだ。そんな殺意を眼前で浴びていればいくら龍族のシェイドといえど怯えずにはいられなかった。

一方セティアはというと。シェイドよりも近くで殺気を感じているのだが、クロイツの腕
の中にいるという事実で完全に茹で上がり、幸せで胸と思考がいっぱいになっていた。
まぁセティアの場合、殺気以上に愛を感じていたから当然なのだが。


クククククロにだだっ抱きしめられてる~~っ!?!?
しかもこんな人前で……っ!
ううう! 恥ずかしいけど幸せ……。クロを近くで感じられるし……。それにクロ……すっごくいい匂い……って! ダメダメ!! クロに気づかれたら絶対ドン引きされちゃうっ!!
で、でも気づかれないように嗅ぐくらいなら……ゆ、許される……かな!?

と。1 人でクロイツへの感情を爆発させていた。


「ねぇ~! クロ君そろそろ落ち着いてよぉ~! お顔が怖いよぉ~!」

「……すまない。ちょっと感情的になりすぎた。……だが、思い出すだけで腹が立つんだ。
人の気持ちを勝手に否定したり比べたりするのは好きじゃねぇが、だからってあんな……
相手が誰でも良い奴に、俺のセティアへの気持ちを下に見られたのが我慢ならなくて……ッ!」


ギリッ、と。クロイツはライラスの言動を思い出したのか、力強く歯を食いしばる。
そんな本心に、セティアは勿論。怯えていたシェイドまでも嬉しい気持ちになった。


「ん~まぁそうだよねぇ。クロ君の気持ちが軽く見られるのは、僕も嫌だね。
僕は誰よりも近くで 2 人のことを見てきたから余計に、ね。2 人がお互いを誰よりも愛しているのを知ってるし、それが不変だってことも理解しているよ」

「……セティアのこととなると、心が狭くなる自覚はある。だが……だがそれでも俺は……!」

「そ、そんなことないよ! クロはいつも優しくて、みんなクロのこと大好きだよ!! ア、アタシも優しくてかっこいいクロの事……っっ」

「セティア……ありがとう。俺もだよ」

「ふふ、お 2 人さんラブラブだねぇ~! 熱々で僕火傷しちゃいそうっ!」

「あう……っ! は、恥ずかしいよシェイド君……!」

「なはは。ごめんごめん! でも嬉しくってさ。旅してた頃は結構ハラハラしてたしね?
いやまぁどうみてもラブラブだったけど……クロ君が鈍感すぎて本当に……ね! どうなることかと思ったよ!!」
「あの頃は……シェイド君にいっぱい励ましてもらって……すっごく嬉しかったよ。その
……心配かけてごめんね。でも、いっぱい言葉をくれてありがとう!」

「いやいや! 気にしないでよ。2 人は僕の大事な友達なんだし、当然のことをしたまでだよ~!」


そう言いつつも、シェイドはどこか自慢げで。鼻高々に過去のことを語り始めた。


「そもそも 2 人に初めて会った時から、僕は直感していたよ! なんてったってクロ君もセティアちゃんも、お互いを見るときの目が他とは全然違ったからね!」

「そ、それは……! あ、あの時は好きとかまだ自覚なんて全然……!!
懐かしいなって思って……! 助けてくれた恩人でもあったし……!クロの旅について行ったのも、懐かしくて優しいクロから離れたくなくて……。ちゃんと自分の事も思い出さなくちゃって思ってたから……」

「うんうん。セティアちゃんは優しくて真面目でいい子だもんね。だから僕も放っておけなくて 2 人の旅に同行したんだから!」

「……いやお前男がいるのは嫌だって叫んでただろ……」

「だって相手がこんなモフモフで可愛いクロ君なんて思わなかったし~!一目見た瞬間! クロ君となら仲良くできそうって感じてたよ~?」

「俺はまっったく感じなかったがな……」

「ひっどぉ~い! 僕はこんなにも大好きなのにぃ~!」

「そりゃどうも」

「も~! クロ君のいけず~!」


そう言い、シェイドはわざとらしく頬を膨らませる。だがその口元はニヤケており、クロイツは呆れて溜息を吐く。


「まぁクロ君は鈍感だからねぇ~。セティアちゃんなんて自分の恋心にすぐ自覚したのに!」

「あう……そ、それはだって……!! クロはアタシが苦しんでいるときも優しくしてくれて……もっと頑張らなきゃって落ち込んでいるときも、アタシは十分頑張ってるって励ましてくれたから……!!」

「うんうん分かるよ。クロ君は僕が見てもセティアちゃんにめちゃめちゃ優しかったからね。
僕にも少しくらい分けてほしかったけど!!」

「お前の言動と行動でどうやって優しくできるんだよ……」

「えぇ~!? こんな献身的な僕に優しくしないとかクロ君ひっどぉ~い!!」

「初めて会った時の印象が最悪な上、女を見るとすぐどっかにフラッと行く常に騒がしい奴に優しくなんて無理だっつーの……」

「う~だって可愛い女の子がたっくさん居たんだもん・・ まぁ今はウェンディちゃん一筋だけどっ!」


ふふんっ! と、シェイドは誇らしげに腰に手を当てる。そのことにクロイツは呆れつつも内心少し感動していた。
絶対に一人に絞ることがないと思っていたバカ王子が身を固め
たのだ。


「ウェンディちゃん優しくてカッコよくて可愛いもんね!」

「分かってくれる~!? そうなの! だから僕は生涯をかけてウェンディちゃんを愛して守るって決めたんだ~!」

「シェイド君……。えへへ、なんだか嬉しいなぁ。アタシのことをずっと応援してくれてたシェイド君が、大好きなウェンディちゃんと両想いになれて!」

「まぁまだまだツンツンなんだけど! そこがいいんだよねぇ~!」


大好きなウェンディのことを思い出し、更にニヤけが止まらなくなるシェイド。
しかし、しばらくして自分の目的を思い出し、コホンッ! と咳払いをする。


「っと。脱線しちゃってた! 今はセティアちゃんとクロ君の話だった!」

「別に語ってくれなくても構わないが……」

「そんなこと言わずにさ! あ、そうそう! そういえばロドリゲス事件!!
あの時は死ぬほど怖い思いしたけど、セティアちゃんの気持ちがめちゃめちゃ分かりやすい事件でもあったよねぇ~」

「げ……アイツの名前は出さないでくれよ……」

「クロ君ってばあの時似合わないこと言ってて……ぷぷっ! 最高に可愛かったよねぇ~!」

「ぶん殴るぞ」

「ごめんって!! でもセティアちゃんだって思ってたはずだもん~! ね、セティアちゃん?」

「えっ!? えっとその……ちょ、ちょっとだけ! ちょっとだけ思っちゃったけど!」

「セティア……。クソ、全部アイツのせいだ……」


セティアにまで可愛いと言われ、クロイツはロドリゲスに怒りを覚える。だがそんなクロ
イツなどお構いなしに、シェイドは更に話を続けた。


「クロ君ってばセティアちゃんをお姫様抱っこして!
あの時セティアちゃんすっごく真っ赤になって喜んでたのにぜーんぜん気づかないんだもんねぇ」

「も、もうシェイド君ってば! そんなことばらさなくていいよぉ!」

「あはは。……まぁその後僕は 1 人取り残されてあのオカマさんから逃げたわけだけどね……」

「そ、それは……ごめんね」

「いやいや! セティアちゃんはまっったく悪くないよ!! 悪いのは僕を置き去りにしたクロ君だから!!」

「逃げられたんだからいいだろ別に」

「も~!! そんなこと言うと! 僕はちゃあんと覚えているんだからねっ!
クロ君がその後ショタクロ君になったことを!!!!」

「げ……」

「!! アタシも覚えてる!! あの時のクロ、すっごく可愛かったなぁ。また見たい!!」

「分かる~!! ねぇねぇクロ君。またミニクロくんに変身してよ~」

「しばらくは嫌だ」

「ちぇ~! クロ君のケチ~!!」


シェイドは唇を尖らせて抗議するが、すぐに元に戻り、話を続けた。


「ま、でもまさかあのオカマさんがセティアちゃんすら狙うなんて思わなかったよねぇ」

「そうだな……」

「まっ! そのおかげで茹で上がった可愛いセティアちゃんが見られたんだけど~! あんなにセティアちゃんを庇ってお姫様抱っこして……。
いやまぁあの時はセティアちゃんが茹で上がりすぎて熱出しちゃうんじゃないかって思ったけど!
それはさておき! どー見てもラブラブなカップルだったのに、クロ君ってばまっったく気づかないし、無自覚でアレやってるんだもんねぇ~。
僕が助け舟までだしたのに、まさか体調不良だって言われるとは思
わなかったけど!!」

「それは……今思えばセティアに不誠実だったとは……思うが……」

「そ、そんなことないよ! クロは純粋にアタシを守ろうとしていただけで、下心があったアタシとは全然……っ!?」


はっ、と。セティアは自分の発言に、しまったと両手で口を塞ぐ。


アタシのバカバカバカ~!! なんで下心があるなんて言っちゃうの!?
うぅ~!絶対クロに引かれたよぉ~!!


しかし、セティアの思いとは裏腹に、クロイツは優しい笑みを浮かべてセティアの頭を撫でる。
そんなクロイツにまたも真っ赤になるセティア。


「うう……っ!」

「ひゅ~ひゅ~! ラブラブだねぇ。まぁ旅の途中も何度かやってたけど、クロ君は全くの無自覚でセティアちゃんをもっともっと夢中にさせてたもんねぇ~」

「も、もうシェイド君ってば! 確かに夢中になっちゃってたけど! 口に出されると恥ずかしいよぉ!」

「あはは。ごめんごめん! でも嬉しくってさ~!
例えばクロ君。今日もセティアちゃんの手を繋いでたけど、結婚前もよくやってたよねぇ~。でもセティアちゃんが赤面してもぜ
ーんぜん気づかないし!!」

「それは……悪い……」

「『俺がセティアを守る!』ってあんなに言ってセティアちゃんをトキメかせているのに、まるで気づかないし!!」

「う……」

「僕が青春だな~とか言っても何言ってんだって感じでまっったく気づかないし! もうクロ君にどうやったら伝わるのか僕謎だったよ!?」

「……面目ない」


シェイドの猛攻に、クロイツは何も言い返すことができずに反省する。
あの時の自分は確かに鈍感だった。わざと気づかないようにしていたわけではないのに、セティアのことを誰よりも見ているつもりだったのに、全くと言っていいほど気づけなかったのだ。
振り返ってみて、いかに自分が鈍かったかを思い知らされ、悔しいクロイツなのだった。


「あ~でもあの時は絶対に気づいたと思ったんだけどな~」

「? あの時って?」

「ほら! クロ君が鳥族の……ゼルブーナ君!にめっちゃ貶されてた時、セティアちゃんがクロ君に告白まがいのことしたでしょ?」

「え……? あっ!!」


シェイドに指摘され、すぐさまセティアはある言葉を思い出す。


『クロはかっこいいです! 顔だって見ててドキドキするし……! いつもアタシに気遣ってくれる優しさもかっこいいし、怖い人が襲ってきても守ってくれる強さもかっこいいもん……っ!!
クロに嫉妬して酷いこと言う貴方なんかより、ずっとずっとかっこいいんですから……っ!!』


と。確かに告白まがいのことをしてしまっていた。


あ、あの時は大好きなクロが酷いこと言われて悲しくて悲しくて気が回ってなかったけど……!!
確かにアタシ、クロにかっこいいってたくさん言っちゃってる……!!
うぅ、思い出すと恥ずかしいよぉ~~! でもでも!! あの時はクロが言い返さないから……!!


「セティアちゃん。あの時すっごくクロ君の為に言い返してたもんねぇ。でも、クロ君ったら固まっちゃっただけで、ぜーんぜん気づかないし……。
流石に可愛そうが爆発しそうだったよ!」

「いやほんとそうだな……。あの時の言葉、忘れてたわけじゃないが……
あの頃はセティアの気持ちに気づいてやれなかった……すまない」

「ううん!! 全然!! 寧ろ忘れてほしいような忘れてほしくないような気持ちだから……っ!!」


セティアは過去の自分のセリフを思い出し、恥ずかしさのあまり脳が爆発しそうだった。
まぁいったセリフを撤回するつもりは全くなかったが。


「クロ君も、あの時は告白かと思ったよ、僕!!」

「へっ? あ……っ!!」

『いいか? セティアはなぁ……顔も当然ながら可愛いが、その他も全部全部可愛いんだよッ!! 朝起きてぼーっとしている姿も可愛いし、飯を美味しそうに頬張る姿も可愛いんだよッ!
頑張って歩く姿も、いっつも笑っている顔も可愛いッ! 体形だって小柄だし、つやつやしている髪も可愛いッ! 手先が不器用で、失敗したときに恥じらってくれる照れ顔も可愛んだよッ!!
分かるかッ!? セティアに可愛い所が無限にあることはあっても、醜い姿なんざミリもねぇんだよッ!!!!』


ボフンッ、と。クロイツが言ってくれた言葉を思い出し、セティアは茹で上がる。


うううう! シェイド君ったら今あの言葉を思い出させないでよぉ~!!
確かにあの時は嬉しくて嬉しくて……告白じゃないってわかってても、クロに可愛いって言われてすっごく照れちゃったな……。あの時は妹だって思ってるって思ったけど……
えへへ。今はアタシクロのお嫁さんだもんね!


「告白の意図はなかったが……いやそれが問題だよな……」

「そうだよ! あれだけ可愛い可愛いってぶちぎれておいて、告白じゃありませ~ん、って!! 僕セティアちゃんが可哀そうで言っちゃいそうだったよ!? 言わないけど!!
だって僕が言っちゃったらセティアちゃんの気持ちや決心を無駄にしちゃうからね」

「シェイド君……」

「でもね、あの時のセティアちゃんはすっごく思い詰めてて……どう見ても両想いなのに、報われない気がしちゃってたんだ。見守るって言ったのに、僕あんまり役に立ってないのか
なって不安だったし……」

「そんなことないよ! シェイド君のおかげでアタシは勇気づけられたんだから!」

「あはは。ありがとうセティアちゃん。うん。だから、ほんっっとーに嬉しいんだよ、僕は!」

「シェイド君……。うん。心配かけてごめんね。それに、何度も言うけど励ましてくれて本当にありがとうっ!」


セティアの言葉を聞き、シェイドは満足げに笑い、飲み物を口にする。
そしてふと表情を曇らせ、唇を噛んだ。


「……僕ね。もう 2 人には会えないんだって、置いていかれちゃうんだって思ってたんだ。
……すっごく悲しくて……それ以上に何もできない自分が歯がゆかった」

「シェイド君……ごめんね……」

「も~! 謝らないでよっ! 2 人はこうして無事なんだし! それに、もう二度とそんなこと起きないしね!」

「……あぁ、二度とあんな悲劇は繰り返さない」

「うんうん! 最強無敵のクロ君が言うんだもん! 信じてるよ!」
「……ありがとうな」

「えっ!? ク、クロ君がお礼を……!? 僕感動しちゃった~!!」


ガバッ、と。シェイドは感極まった様子で抱き着……こうとしてクロイツがセティアをホールドしていることを思い出し、踏みとどまる。


「今は我慢してあげるけど、今度絶対抱き着くからね!! まっ! そんなわけで!
僕が言わなくてもクロ君はじゅーぶん分かってるだろうけど! セティアちゃんはずーーーーっと君の事を想ってくれてたんだよ。ずーっと君の事を見てて、ずーっとずっとクロ君の事を大好きでいてくれたんだから!
だからこれからはクロ君がたくさんたくさん幸せにしてあげてねっ!」

「あぁ、分かっている」

「ふふんっ! よろしいっ! いやぁ本当に……嬉しくて嬉しくて飛び上がっちゃいそうっ!」

「店内でそんなことするなよ……?」


シェイドとクロイツのやり取りを見て、セティアは少し気恥ずかしくなりながらも、嬉しくて頬が綻ぶ。


「……アタシ、今幸せだよ」

「僕も幸せだよ~! ね、クロ君!」

「あぁ、幸せだ」


そう言い、3 人はお互いを見つめる。


「あっ!!」

だが、すぐさまシェイドが大声を張り上げ、ムードを崩す。


「? なんだ大声出して」

「でも僕まだちょっと根に持ってるからね!」

「何をだよ……」

「クロ君ったら僕が聞くまで結婚するって教えてくれなかったし、これまで全然自分の気持ちに気づいてなかったくせに『俺はこれから先あいつ以外は二度と誰も愛せない。
だからその気持ちに素直になりたいだけだ』ってかっこいい言葉を言ったこと!!」

「いやあれは……」

「まさか忘れてたの!? 酷い!! 僕達親友だって思ってたのにぃ~!!
一番に報告してよ!! クロ君から!! 僕拗ねてたんだからね~!!」

「はぁ……悪かったよ」

「素直!!!! まぁ本当はそんなに拗ねてないんだけどね! めちゃめちゃびっくりはしたけど!
それより嬉しい気持ちが勝っちゃってたからねっ!」

「どっちなんだよ……」

「ふふんっ! まぁこれからもラブラブイチャイチャしつつ、僕のことも忘れないでいてくれたら嬉しいってこと!」

「忘れないよ! シェイド君も大切な人だもんっ!」

「……まぁ、お前みたいなうるさい奴を忘れるほうが難しいな」

「んも~っ! 2 人とも可愛すぎっ!! 最高っ!!」


わいわいと。その後も3人は他愛のない会話をしながら食事を楽しんだ。




────

「なんか2人のラブラブ話してたら僕、なんか急用を思い出しちゃってさ!! もう帰るね~!
あっ! 飛竜を貸してあげるからそれに乗って 2 人で仲良く帰ってね~~!!」


と言われたのがついさっきのことで。クロイツとセティアはシェイドから借りた飛竜で帰宅することになったのだ。
そうして飛竜の上で。クロイツは飛竜の上で胡坐をかいており、セティアはその上で真っ赤になりつつ横抱きにされていた。


「わぁ~! 風が気持ちいいね、クロ!」

「あぁ、そうだな」

「でもシェイド君、お夕飯も食べていければよかったのにね。急用じゃ仕方ないけど……」

「あれは……いや、なんでもない」

「?? そう?」


あれはどう聞いても嘘だろう、とは、流石のクロイツも言えなかった。
シェイドは下手だったが、おそらく自分達に気を使ったのだろうということが想像できたからだ。


「それよりその……悪かった」

「へっ!? 何が!?」

「シェイドに言われて気づいた。昔の俺はセティアの気持ちに気づけずに、たくさん傷つけてしまっていた。だから、すまない」

「ううん! 謝らないで!! アタシが気づかれないように隠してたんだもん!
クロが謝ることなんて全然ないよ!」

「だが……」

「あの頃は……アタシも怖かったの。クロにアタシの恋心が気づかれて、もし関係が変わっちゃったら……。
そうしたらアタシ、立ち直れなかった」

「そんなこと……」

「うん。クロならそんなことないって、アタシも思いたかったし、シェイド君もそう言ってくれてたんだ。
……だけど、アタシは臆病で、クロへの恋心を隠しちゃってた」

「セティア……」

「でもねアタシ、今幸せだよ、クロ。大好きなクロと一緒に居られて、夫婦になれて……。記憶を取り戻すこともできたし、ウェンディちゃんを救うこともできた。いっぱいっぱい辛くて怖かったし、助けられなかった命もたくさんあったけど……全部、クロと歩んできた道だから。
だからアタシ、乗り越えられたんだよ」


そう言って、セティアは頬を綻ばせる。そんなセティアにつられるようにクロイツも笑い、
セティアの目を見たまま語りだした。


「セティア。前にも言ったが……これから先、俺はセティアにずっとそばに居てほしいと思ってる」

「っ!」

「……本当は、ずっとそう思っていたんだ。あまりにも近すぎて…、俺が気づかなかっただけで」

「クロ……」

「俺はセティアを愛しているし、幸せになってほしい。セティアが同じ気持ちでいてくれるなら、何倍にもして返したいって、、俺が幸せに出来たらって思ったんだ」


クロイツはそう言って、セティアの頭を優しく撫でる。そのことにセティアは嬉しくて俯いてしまう。


嬉しい…嬉しいよお…クロの気持ちが…言葉が嬉しすぎて…っ
それにまた頭撫でられちゃった……! クロ、アタシが落ち込んでいるときとかいっぱい撫でてくれるし、落ち着くんだよね……。
クロの手は大きくてあったかくて大好きだなぁ。
頑張ろうって思えるし、まだまだやるぞって気持ちになれる。
えへへ、嬉しいな。
やっぱり照れちゃうけど、嬉しいものは嬉しいよね!


セティアは内心の喜びを隠しきれず、俯きながらもにやけてしまう。そんなセティアに気づき、クロイツも嬉しくなり優しい眼差しで見つめる。


『これからはクロ君がたくさんたくさん幸せにしてあげてねっ!』


ふと。クロイツはシェイドの言葉が脳裏によぎる。言われなくてもそうするつもりだが、
この言葉は絶対に忘れないようにしよう、と。クロイツは固く自身に誓った。


ぎゅうっ、と。クロイツはセティアを強く抱きしめる。
そのことに驚いたセティアはクロイツの方を赤くなりながらも見つめた。
その姿が愛おしくて。
絶対に自分が幸せにしたいと思い、クロイツはそっ、と。優しくセティアに口づけをした。


「~~~~っ!? ククククロ!?!?」

「必ず幸せにする」

「あう……! ア、アタシも……っ! アタシもクロを幸せにする……ねっ!」

「あぁ、ありがとうセティア」


そう言って、クロイツは再びセティアに口づけをする。そのことにセティアは満身創痍状態になりつつも、嬉しそうに頬を綻ばせた。


うう……。まだまだ全然クロのキスは慣れそうにないけど……! いっぱい優しい愛をくれるのは嬉しくて……アタシからも返したい。
アタシはクロみたいに笑顔を返したりキスしたり
するのは恥ずかしくて全然できないけど……言葉なら、頑張れば少しは言えるし、これからも頑張ってたくさん伝えていきたいな。
……ほ、本当はアタシも行動で示すべきなんだろうけど
……!!
もう少しクロに慣れるまで待っててほしいな……っっ!


「アタシ、頑張るから……! だから、もうちょっと待っててね、クロ……!」

「ゆっくりでいいよ。セティアにはセティアのペースがあるんだから。俺がしたくてしていることを、セティアがすべて返すことはない。
セティアが返したいって思えたことを無理なく返してくれたら嬉しい」

「あう……」


自身の心を覗かれたような返答に、セティアは更に顔を赤くする。まぁクロイツは大体セティアの気持ちを汲み取ってくれるのだが。
そして、そんなセティアを愛おし気にクロイツは見やり、強く抱きしめた。
そんなやり取りにツン、と。セティアは嬉しさで涙が出そうになるのを堪えながら、クロイツとの甘い空の旅を堪能した


制作者《閃琥》様
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