猫の本能【菊丸夢】
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「名無しさん!おっはよーん!」
「おはよう、名無しさんちゃん」
「あ、おはよう。周助くん、英二くん。」
朝から元気よく後ろから声を掛けるのは、同じクラスの菊丸英二くん。
その隣を歩くのは同じくクラスメイトの不二周助くん。
二人とは席が近くてよく話す友達……だと思う…多分。
少なくとも、周助くんと話すときは普段通りでいられる。
けど……
「んー?名無しさん?何か顔色悪いよ??大丈夫?」
「…っ!」
時々英二くんは私との距離がとっても近い…!
大きな瞳でじーっと私を心配そうに見つめる。
まるで猫のように…
前に英二くんと二人で帰っていた時、段ボールに入れられた小さな子猫を見つけたことがある。
「可愛い!捨て猫かな?」
「多分そうだろうね…。お前捨てられたのか?可哀想だにゃ…」
子猫を抱き上げて顔を近づける英二くんを見て、ふと思った。
「英二くん、その子猫と何だか似てるね!」
「え?そうかにゃ??」
不思議そうに目を丸くして首を傾げる仕草もそっくり。
まぁ、語尾が時々“にゃ”になってたり人懐っこい性格は本当に猫っぽいんだけど…
それでもテニスをしている時の英二くんは凄くかっこよくて、たまに見せるいつもの人懐っこい笑顔。
多分私は、英二くんのそのギャップに惹かれたんだと思う。
そんな猫っぽい英二くんが未だに私を心配そうに見つめ続けている…
そこで周助くんが助けてくれた。
「英二、名無しさんちゃんが困ってるよ。」
「え?何で?」
それでも英二くんはわからない様子で、見かねた周助くんは溜め息をついて言った。
「そんな近距離で他人に自分の顔を見られたら誰だって困るよ。」
「あ!そっか!へへ…ごめん名無しさん!」
舌をペロッと出して謝りながら英二くんはようやく離れてくれた。
「それより名無しさんちゃんに英二、今日二人って日直でしょう?早く行って日直の仕事やらなくていいの?」
「え……ああああああ忘れてたあああ!!!!!もー!そーいうことは早く言えよ不二ーー!!名無しさん!急ごう!!」
「え…!?」
早口でまくしたてる英二くんは私の腕を引っ張って全速力で走った。
「ちょ…!英二くん……!」
文化部の私とは違い、運動部の英二くんはやっぱり足が速くて、腕を引っ張られているのに足が縺れて転びそうで怖かった…。
その日の放課後、誰もいなくなった教室で私は英二くんと二人で日直の仕事をしていた。
英二くんは日誌を書いて、私は花に水をあげていた。
「でさー!そしたら大石が顔真っ赤にしちゃってー!!」
「本当に大石くんって照れ屋さんだよね!」
他愛のない話をしながら進めていく日直の仕事。
それがとても楽しくて、でも少しだけ緊張する。
…前はこんなことなかったのにな……
楽しそうに笑う英二くんを見つめていると、手元が狂って花瓶に手が触れてしまった。
「あ…!」
パリンッ!ビシャッ!
気がついたときには既に机から花瓶が落ちて、床に破片と水と花が散らばっていた。
「大丈夫!?」
ビックリして英二くんが私の所へ駆け寄った。
「うん、大丈夫!ビックリさせちゃってごめんね!」
散らばった花瓶の破片を拾おうとしゃがんだ。
「俺も手伝うよ!」
英二くんもしゃがんで破片を拾ってくれた。
「ありがとう。」
一つ一つ破片を拾っていくと、ふいに指先がチクッとした。
「…ッ!」
咄嗟に持っていた破片を落としてしまい、その音で英二くんが私を見た。
「名無しさん!怪我してるじゃん!」
少しだけ血が滴る人差し指を英二くんが見た。
「大丈夫だよ!少し切っただけだから…」
「ちょっと貸して!」
「え…?」
英二くんが私の指を手に取り……
「…!///////」
あろうことか英二くんは私の切った指を自分の口元へ持っていき、丁寧に舌で舐め取っている。
時には指を口に含み、英二くんの暖かさが感じられる。
「え…英二くん…!/////」
手を引こうとするけど、英二くんがガシッと私の手を握っているから離れない。
すると英二くんはふと私を見つめた。
「猫は傷口を舐める習性があるんだろ?」
「え…/////」
英二くんの大きな瞳で見つめられて、その中に吸い込まれそうになる。
しばらくの沈黙が続くなか、教室には英二くんの鳴らす水音だけが響いていた。
ドクドクと心臓の音がうるさい…
そしてようやく英二くんが口に含んでいた私の指を離した。
「とりあえず血は止まったけど、ちゃんと水で洗わなきゃね!」
そう言って英二くんはそのまま私の手を引いて立ち上がらせ、手洗い場まで行った。
「これ、大石からもらったやつだけど…」
英二くんはポケットから絆創膏を取り出して、私に差し出した。
「え、いいの?」
「俺がこれ付けるより、女の子の名無しさんの方が似合うと思うし…」
英二くんから受け取った絆創膏を見ると、水玉模様の可愛い柄が入っていた。
「ありがとう、英二くん!」
お礼を言って切れた指に絆創膏を巻き付けた。
「よし!早いとこ終わらせて帰ろ!」
そう言って英二くんは怪我をした手の反対の手を握って教室まで引っ張った。
「あ…英二くん…!」
怪我をした指が少しズキズキして熱い気がしたけど、今は握られている手の方が熱い…
…英二くんは私がドキドキしてるってわかってやってるんだろうか…
可愛い顔に時折見せる男らしい顔。
そうかと思えば猫みたいにいたずら好きな顔に変わる。
そんなコロコロと変わる表情に私は惹かれたのかな…?
そんなことを考えている間に、私はいつの間にか英二くんの手をしっかりと握っていた。
END