光【リョーマ夢】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
杏菜がリョーマとの子どもを産むことに決めてから数日が経ったある日、杏菜は大切な部員にだけは本当のことを話そうと青学のテニスコートに行った。
「杏菜!!!」
最初に杏菜の姿を見たのは菊丸だった。
その声に部員全員が杏菜を見て嬉しそうな顔をした。
「杏菜!みんな心配してたんだぞ。急に学校を辞めただなんて…」
大石が心配そうに言うと、他の部員も口々に言った。
「海堂なんて、急にライバルがいなくなって寂しそうだったんだよ?」
「なっ…!俺は別に…!!」
「あはは!ご心配をかけてすみませんでした。…今日はみなさんにお話があって…」
チラッと手塚を見ると、手塚は腕組みをして頷いた。
「竜崎先生から、桃城が話があるからその時間を作るようにと言われている。ここでは何だから部室へ行こう。」
手塚の指示でみんなが部室へ移動した。
リョーマは少し俯き加減で部室へ歩いた。
「大事な練習時間を取ってしまってすみません。…でもこれだけはどうしても先輩たちに伝えたくて…」
「いったい何があったんだい?」
河村が聞くと、杏菜は意を決して全てを話した。
「実は私、お腹に子どもがいるんです。」
『えっ!?』
みんな一斉に声を上げた。
普段真顔で何があっても動じない手塚ですら驚いた顔をした。
「つ、つまり…妊娠ってことかい?//////」
顔を赤くして大石が聞く。
「…はい。」
杏菜が頷くと、乾が眼鏡を押し上げて言った。
「なるほど、相手は越前か。」
その言葉にみんながリョーマを見る。
リョーマは流石に罪悪感があるのか、俯いたままだった。
「越前テメェ…!自分が何したかわかってんのか!?」
海堂がリョーマに掴みかかると、大石が止めに入る。
「止めろ海堂!俺たちがどうこう言うことじゃないだろう!」
大石の言葉に海堂が鎮まる。
すると今まで黙っていた不二が言った。
「杏菜は産む気なんだね?」
「はい。」
コクンと頷くとみんなは更に驚く。
「マジで!?」
菊丸は目を更に丸くする。
「はい…。私の両親とリョーマのご両親と相談をして産むことに決めました。」
そう語る杏菜の話を静かに聞く。
「良いことではないが、既に双方のご両親が納得しているのなら何も言うまい。」
硬い口調で手塚が言うと、杏菜は頭を下げた。
「僕たちで良ければ協力するよ。男の僕たちじゃあまり役に立たないかもしれないけど…」
不二が言うと、みんなは頷いた。
「ありがとうございます!」
杏菜はみんなの心遣いが嬉しくてより一層頑張ろうと思えた。
それから数ヵ月、少しずつお腹が目立つようになり、杏菜に母親としての自覚も出始めていた。
ある日、不二、河村、海堂が杏菜の家に遊びに来ていた。
「突然押し掛けてごめんね。」
不二が言うと、杏菜はみんなが来てくれたことの嬉しさでパッと笑顔になった。
「不二先輩!それに皆さんも!」
するとリョーマがすかさず杏菜の体を労るように横に立った。
「杏菜先輩、体大丈夫っスか?」
「うん、大丈夫。ありがとうリョーマ!」
ニッコリと笑って杏菜が答えた。
「皆さん揃ってどうしたんですか?」
客室にみんなを通すなり杏菜が聞いた。
すると河村が代表するように杏菜に大きな紙袋を渡した。
「これ、杏菜にと思って…」
差し出された紙袋の中身を見て杏菜は驚いた。
「俺の妹が赤ちゃんの時に着ていたやつらしいから、一応持ってきたんだ。」
照れながら河村が説明するのは、赤ちゃんが着る可愛い服だった。
それに続いて海堂も…
「まだ男か女かわからねぇんだろ…。俺の弟の分も持ってきた…」
普段見せることのない海堂の気遣いに杏菜は何だか嬉しくて微笑む。
「あ、あとこれは赤ちゃんの名前が書いてある本。参考にしてみて。」
不二が紙袋の中身の本を取り出して説明した。
「うわあ!皆さん、ありがとうございます!」
袋を大事そうに抱えて杏菜が笑った。
それからというもの、周りの目がありあまり外には出歩けない杏菜のために、レギュラー陣はよく杏菜の家にやってきて一日の出来事を話してくれた。
そこには必ずリョーマがいて、どんどん大きくなる杏菜のお腹を気遣いながら傍にいた。
そして季節は流れ、中学を卒業した手塚、不二、乾、河村、大石、菊丸の3年生。
新しくが学年が変わった海堂、リョーマ。
同時にあともう少しで出産予定日を控える杏菜は、少しずつ出産に対しての不安が大きくなってきた。
「ッ…!」
「杏菜先輩!大丈夫っスか!?」
リョーマと家で過ごしている時にでさえやってくるつわり。
順調に出産に向けて進んでいるということはわかってはいるが、やはりなかなか耐えられるものじゃない。
苦しそうにする杏菜を、リョーマはただ見ているだけという歯痒さで自分を責めた。
「俺のせいなのに、杏菜先輩が苦しいときに俺、何もしてあげられないっスね…」
弱気なリョーマに驚きながらも、そう思ってくれるリョーマを愛おしく思った。
「リョーマにその言葉は似合わないよ。もうすぐお父さんなんだから、いつものように強気でいてもらわなきゃ!」
痛みがだんだん治まってきたのか、杏菜は顔色を良くしてそう言った。
「杏菜先輩…。」
杏菜のその言葉にリョーマは笑った。
そして、ついに杏菜の出産日が来た。
前日の夜中から陣痛が始まり、杏菜は急いで産婦人科に行き、分娩室へ入った。
そのことはリョーマの家にも知らされた。
知らせを受けた竜崎も病院へ向かった。
「先輩たちに連絡…」
病院に着いて待合室で待っているリョーマは、珍しくソワソワしている。
とりあえずケータイを取り出してレギュラー陣に連絡しようとした。
すると竜崎が落ち着いた様子で制止した。
「安心せいリョーマ。まだまだ産まれん。みんなには明日の朝連絡しても遅くはなかろう。」
「…そういうものなんスか…?」
「ああ、大丈夫じゃ。それよりリョーマ。お前さんはもうすぐ父親になるんじゃ。それがどういうことか、しっかり考えておけ。」
「父親…」
竜崎に言われてリョーマは『父親』という言葉を頭の中に浮かべた。
陽が登り朝になる。
リョーマはみんなに連絡をすると、すぐにレギュラー陣みんなが駆けつけた。
「オチビ!杏菜は!?」
待合室に来るなり菊丸が慌てて言う。
「まだっス…」
分娩室のライトをみんなが見つめる。
「無事に生まれるといいね…」
ポツリと河村が呟いた。
それから数時間…
オギャア!オギャア!オギャア!
分娩室から赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
『!』
祈るようにして待っていたみんなは一斉に顔を上げた。
すると中から看護婦が出てきた。
「娘さんの年齢だと帝王切開が一般的何ですが、運動をされて骨盤が広がっていたので自然分娩で大丈夫でした。」
「そうですか!」
看護婦の説明に杏菜の母親は泣き崩れる。
すると看護婦がリョーマに言った。
「彼女さん、頑張りましたよ。元気な女の子です。」
「…!」
その言葉を聞いて、みんなはパッと明るい笑顔になった。
「おめでとう、越前。」
「越前がお父さんか。」
大石に続き不二が笑う。
分娩室から杏菜が出てくると、みんなは杏菜を囲んだ。
「杏菜、よく頑張った。」
「お疲れ様。」
珍しく手塚の口許には笑みが浮かんでおり、乾も眼鏡を押し上げて笑っていた。
「先輩…」
杏菜もつられて笑う。
「杏菜先輩。お疲れ様っス。」
「リョーマ…!」
リョーマの姿を見て安心したのか、杏菜の目から涙が零れた。
赤ちゃんは新生児室へ運ばれ、杏菜は自分の病室に戻った。
すぐにでも杏菜の元に行きたがったレギュラー陣だが、産後で疲れているからと竜崎に止められ、その日はみんな病院を後にした。
次の日、新生児室から杏菜の元へ戻った赤ちゃんが、杏菜の隣で寝ていた。
そこに、リョーマを含めたレギュラー陣が顔を出した。
「先輩!」
赤ちゃんを眺めていた杏菜はみんなを見て笑顔になった。
「元気~?」
「英二、杏菜は病気じゃないんだから。」
ニカッと笑って言う菊丸に不二が苦笑した。
「可愛いね~」
河村が赤ちゃんを見つめて呟いた。
「ホントっスね…」
海堂と口許に笑みを浮かべる。
「杏菜先輩、体はどうっスか?」
「リョーマ!大丈夫だよ!…それよりリョーマ、赤ちゃん抱いてみる?」
「え…!」
急なことに驚くリョーマに、杏菜は起き上がって赤ちゃんを抱き上げ、リョーマに差し出した。
「気を付けて。」
「…っス……」
ドキドキしながら赤ちゃんを抱く。
「……」
初めて抱く我が子にリョーマは感動する。
赤ちゃんを見つめるリョーマの顔は、父親そのものだった。
「リョーマ、私、赤ちゃんの名前決めたんだ。」
「本当っスか…!?」
杏菜の言葉にみんなはワクワクする。
「うん。『光』ってどうかな?」
「光…」
「私たちの力でこの子を大切に育てて、未来が明るく光るような人生にしてあげたい。」
赤ちゃんを見つめながらそう言杏菜に、手塚が言った。
「いい名前と由来だな。」
「光…いい名前っスね!」
リョーマも笑って光を見つめた。
「光ちゃんか…。きっと明るい子になるよ。」
大石も杏菜に言うと、みんなは光を見て微笑んだ。
「よし!杏菜の出産祝いと光ちゃんの誕生祝いで、杏菜が退院したら河村すしをご馳走するよ!」
河村の粋な計らいで病室は一気にいつもの部活ムードになり、笑いに包まれた。
それにつられるかのように、リョーマの腕の中で眠っていた光が少し、笑ったような気がした。
END