アンタのことなんか…!【海堂夢】
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ドンッ!
『キャ…!』
『あ…!ごめん!大丈夫?!……っ!』
『は、はい…』
『急いでて…。ホント、ごめんね!』
『だ、大丈夫です…!』
『また…君に会えるといいな…』
『え…/////』
『…じゃあ、また!』
「はぁ〜〜いいな〜…」
朝のHR前に、持ってきた少女漫画を読みながら深い溜め息を吐く。
それを見て呆れる友達の名無しさん。
「あんたね〜…。中2にもなって王子様キャラに恋するなんて…。」
「だってー…」
ジト目で名無しさんを見ると、思い出したように名無しさんが言った。
「王子様キャラといえば…テニス部の不二先輩なんてどう?優しくてテニス強くていつもニコやかで…白馬とか似合いそうじゃない?!」
「不二先輩なんてムリムリ…!高嶺の花って感じで、2年の私なんて相手にしてもらえないよ…!」
首をブンブンと振る私に名無しさんは苦笑した。
昔からおとぎ話が好きで、絵本の中に出てくる王子様にときめいていた。
漫画も、優しくて格好いい王子様キャラに恋をして、いつかそんな人と結ばれたい…
そう思い続けて早14年…
現実はそうなかなか上手くいかなかった…。
どこかにいないかな〜…
そう思っていると、いつの間にかHRが始まり、そして終わっていた。
「名無しさん!早くしないと授業遅れるよ!」
次の音楽の授業の為、教科書を持ってみんなが移動する中、私はワンテンポ遅れて準備に取りかかる。
「すぐ行く!」
少し先を走る名無しさんを追いかけて私も急いで教室を出た。
すると……
ドンッ!
「キャ…!」
曲がり角で誰かにぶつかり、その拍子に尻餅をついてしまった。
「いったぁ………ん?」
この光景に既視感を覚えた。
これって…!朝見た少女漫画と同じ展開…!
そう期待してゆっくり上を見上げると…
「気を付けろ。」
目の前の人物は私をギロっと睨み付け、私を起こすことも謝ることもなくスタスタと歩いて言ってしまった。
「何よあいつー!!!」
午前の授業中、ずっとこの調子だった。
そりゃ…前方不注意だったのは私だけど…けど……
「睨むことなくない?!」
私の勢いに圧されることもなく名無しさんはモグモグとお弁当を食べる。
「確かあの人…7組の海堂くんだったかな…?彼もテニス部だったはずだよ!」
冷静な名無しさんに私は溜め息を吐く。
「同じテニス部なら8組の桃城くんとぶつかりたかった…」
「それはどうかと思うけど…。でもさ、第一印象はともかく…出会い方は名無しさんの夢見てた少女漫画そっくりじゃん!」
楽しそうに言う名無しさんに私は詰め寄った。
「誰があんなやつ!全っ然王子様キャラじゃない!」
苦笑しつつも宥める名無しさんのおかげで、とりあえず時間内にお弁当を食べることが出来た。
あれから数日…
何の因果か、私は学校でよく海堂と会うことが増えた。
下駄箱、図書室、職員室前…
最初は私が意識して立ち止まってただけだけど、そのうち海堂も私の事を認識したのか、チラッと見るようになった。
ある日の休日
買い物を済ませて家まで歩いていると、河原の方で人影が見えた。
「…?」
橋の上から人影をよく見ると、足だけ水につけて、その場から長い何かを振っている。
長い何かの先端が水に浸かり、それを振りかざせば水飛沫がキラキラと輝いていた。
「綺麗…」
河原の人影に見とれていると、ふとあることに気がついた。
「あれ、あの緑のバンダナって…」
目を凝らすと、そのバンダナ姿に見覚えがあった。
以前放課後に、テニスコートの横を通りかかった時、海堂がストレッチをしている姿を見掛けたことがある。
「…………」
しばらく海堂を見つめたあと、私は帰路についた。
海堂は休みの度に、あの河原で練習してるみたいだった。
私も何度かその光景を見掛けたけど、不思議と前より気まずさや苦手意識がなくなった。
それは、学校で出会う時も同じだった。
ザーーー…
「うわ!ホントに降ってきたよ…。傘持っておいて良かった…」
昼間は晴れてたのに夕方には雨雲がかかり、次第に強い雨が降ってきた。
委員会の仕事で残った私は、名無しさんとは別で帰ることになった。
お母さんに持たされた折り畳み傘を差して家に帰る。
その道すがら、遠くで誰かが佇んでいる姿を見つけた。
「…!」
その姿を確認したあと、何故か咄嗟に道の角に隠れてしまった。
「海堂…?何やってんだろ…あんなとこで… 」
そっと様子を伺うと、海堂はしゃがんで何かを見つめている。
段ボールに捨てられている猫のようだった。
海堂はその猫の頭を優しく撫でる。
「え……」
そこには、私と最初に出会った時の表情はなく、捨てられた猫に同情しているような、悲しい表情に見えた。
そのあと海堂は、自分の持っていた傘を段ボールの中に入れ、猫が濡れないようにした。
僅かに海堂の口元が緩み、そのまま海堂は歩いていった。
「あれが…海堂…?」
見たこともない光景に戸惑うと同時に、トクン…と心臓が跳ねた。
「あ…!」
私は無意識に海堂を追いかけた。
自分が濡れることも考えず、持っていた傘を海堂の方に寄せた。
「あ?」
急に滴る雨がなくなり海堂は振り返る。
「お前…何のつもりだ?」
ジロリと私を見下ろす海堂に少し怯むけど、今は彼が濡れないようにする方が先決だ。
「風邪…引くでしょ?」
「必要ねぇ。お前こそ濡れんだろ。」
そう言ってスタスタ歩いていってしまう海堂を尚も追いかけた。
海堂の頭に傘を差そうと思ったら、少し腕を伸ばさないと難しい。
ずっとその体制はやっぱり厳しかったか…
でもここで引くわけにはいかない!
そう思いながら海堂に傘を差す。
「……ったく…。貸せ。」
海堂は私の持つ傘を少し乱暴に取り、私も濡れないように傘に入れてくれた。
相合傘をするには小さすぎる折り畳み傘を海堂は少し私に寄せてくれる。
離れればその分海堂は私に傘を寄せるだろう。
それがわかるから自然と密着する。
「……」
「……」
心臓がドクドクとうるさい…
何でこんなに緊張してるの…?
チラッと海堂を見上げると、海堂の顔が少しだけ赤いように見えた。
「名無しさん…」
「え…!」
最初に出会った時から名乗った記憶はないのに、咄嗟に名前を呼ばれてビックリする。
「さっきの…見てたのか?」
「さっきって…あぁ…猫の…」
「忘れてくれ…」
私に被せるように海堂が言う。
「何で?」
「何でもだ!…人に言いふらすんじゃねぇぞ…」
少しだけ私を睨む。
でも、その睨みすら照れ隠しのように見えて、何だか可愛く思えてきた。
「言いふらしはしないけど…。でも、何で私の名前知ってたの?最初ぶつかった時から今まで名乗ってなかったよね?」
ふと疑問に思うことを聞いてみた。
「っ…!…ど、どうだっていいだろ…」
睨んでた目線が今度は地面を向く。
多分これ以上聞いても答えてくれないんだろうな…
それがわかって引き下がると、また沈黙がやってきた。
何か話さなきゃ…
そう思っていると、海堂が前を向いたままポツリと言った。
「お前の家はどこだ?」
「え…?」
「送る。」
「そしたら海堂が濡れて帰ることになるでしょ?私が送るから、海堂のお家教えて?」
「別に気にすんな。」
「気にするよ!…大会近いんでしょ?風邪引いたら大変だから…」
少しだけ強めに言うと、海堂はそれ以上何も言わず、黙って私の言うことに従った。
「…名無しさん」
そしてまた海堂が私の名前を呼んだ。
「何?」
「ぶつかった時は…悪かった…」
「え…!」
ぶつかった時って…私たちが最初に出会った時…よね…?
まさか謝られるとは思ってもみなくてかなり驚いた。
「あ、あれは私が前方不注意だったから…!私こそ、ごめんね…」
私がそう言うと、フッ…と海堂が笑った気がした。
海堂を家まで送り届けて一人家路に着く。
今日だけで海堂の色んな表情を見た。
いつもの睨んだ顔
寂しそうな顔
ふとした時に見せる口元の緩んだ顔
思い浮かぶのは海堂の表情ばかり…
え、何で…?
「どう考えても好きになってんじゃん!」
昨日の出来事を名無しさんに言ってみた。
「そんなんじゃないよ!…多分…」
否定してみたけど本当にそうなのかもしれないと、自分で薄々気が付いてるのも事実。
「でも、何で海堂、私の名前知ってたんだろ…」
「…知りたい?」
含み笑いを浮かべて名無しさんが言う。
「え、名無しさん知ってんの?!」
私の驚きの反応を見て、名無しさんはニヤリと笑う。
「この間、桃城くんと海堂くんが話してる声が偶然聞こえちゃったんだけどさ…」
『お前、最近4組の女子と会う確率高くねぇか?』
『あ?』
『この間は下駄箱で見掛けたし、昨日は職員室前で見掛けただろ?しかもお互い意識してやんの。…なぁマムシ、何かあんだろ?』
『な、何でもねぇよ…!』
『怪し~な~…。どういう繋がりだよ!』
『テメェには関係ねぇ…』
『あの子の名前、教えてやろっか?』
『人の話聞け!』
『名無しさんって言うんだぜ?』
『関係ねぇっつってんだろ!』
『ま、せいぜい頑張れよマムシ~!』
『おい桃城!!』
「てなことがあったわけよ。まぁ、桃城くんは他クラスの人達とも仲が良いし、私ともたまに話すから名無しさんの名前知ってても不思議じゃないしね~。」
得意気に言う名無しさんは立ち上がってトイレに行ってしまった。
目の前の人物がいなくなると、私は昨日の海堂を思い出して顔が熱くなる。
昨日のことなのに、相合傘で密着させた右側の体も熱くなってきた気がした。
それと同時に心臓も速く脈打つ。
「……好き…?」
テニスコートで朝練をしている男子テニス部の方を教室の窓から見ると、ストレッチをしている海堂が目に入った。
「っ!//////」
目が合ったわけじゃないのに、海堂の姿を見つけただけでこの有り様。
「……好き…」
ドクドクと鳴る心臓の音を確かめながら、ポツリと呟いた。
END
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