テニスバカ【宍戸夢】
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テニスバカとは、まさに彼のためにある言葉だと思う。
どれだけ長い時間隣にいても、彼は私よりテニスを選ぶ。
そして、どれだけ長い時間隣にいても、彼は私よりテニスパートナーを選ぶ。
「本当、テニスバカ!」
今日も、休みだからあのテニスバカこと亮を誘ったのに、あいつはたった一言
『長太郎とフォーメーション練習する』
と短い分でメッセージを送ってきた。
スマホをベッドに投げ捨てて、自分もベッドに身を投げる。
「何で好きになっちゃったのかなー…」
天井を見上げて一人呟く。
小さい頃から彼と共に成長した。
家が隣で、自室の窓を開ければ亮も窓を開けてお喋りもした。
一つ年上の亮。
小学校は離れたけど、中学では亮と同じ所に行きたくて、教師をしてる亮のお父さんに家庭教師をしてもらって氷帝学園中等部に入学した。
入学して1ヶ月…
少しずつ氷帝に慣れてきた頃、ようやく氷帝の仕組みがわかってきた。
一年先輩の、つまり亮と同い年の跡部先輩が、入学式早々『今日から俺様が氷帝学園のキングだ』と言い放つということがあったそう。
でも跡部財閥のお坊っちゃまということもあり、それから学校の設備が新しくなったり綺麗になったりしたらしい。
…確かに入試で初めて氷帝に来たとき、豪華な造りの建物や最新設備が整ってると思ったけど…
今や氷帝テニス部の部員200人を束ねるカリスマ部長にして生徒会長。
おまけにかっこよくてテニスが強いとなると、女の子はみんな跡部先輩のファン、通称“雌猫”と化す。
そんな異様な学園生活を送ること早一年。
私はと言うと……
「亮、一緒に帰ろう!」
「悪ぃ。これから長太郎と打ち合いだ。」
この有り様だ。
今日も一人で歩いて帰る。
亮ともっと一緒にいたくて頑張って同じ学校に入ったのに…
自室の窓を開けても亮の部屋は暗いまま。
「はぁ〜…」
同じ空の下にいるはずなのに、何だか遠い存在に思えてくる。
「やっぱり、前みたいにいつまでも仲良しじゃいられないよね…」
そう一人呟きながら窓を閉めた。
学校が休みの日でも、亮はテニスバッグを持って朝早く出掛ける。
ダブルスパートナーの鳳くんと練習するため。
『亮!どうしたのその髪?!』
長くて綺麗な髪を、亮は短髪にした。
試合に負けてレギュラー落ちしたあと、鳳くんとつるんで練習するようになった。
どうしてもレギュラー復帰したくて、監督である榊先生に土下座までして頼み込んだ。
その過程で髪を切って覚悟を見せたんだと、亮は真剣に話してくれた。
その時の亮の表情を思い出す度、亮は本当にテニスが大好きなんだと思い知らされる。
真剣にテニスに打ち込む亮は凄く格好いいし、生き生きしている。
だけど、それと同時に虚しさも感じるのも事実。
亮にとっては私はただの幼馴染だし、好きの対象じゃない。
「先の見えない片想いって辛いなぁ…」
いっそのこと諦めきれれば楽なのに。
小さい頃から亮を想ってる私の気持ちはそう簡単に諦めきれるものではない。
ベッドに寝転んでそのまま目を閉じた。
夏休みがもうすぐ始まろうとしているある日の日曜日。
今日はテニスの関東大会の初戦。
相手は青春学園という、私も聞いたことがあるテニスの名門校だった。
亮の応援に行くために制服を着て会場まで出掛ける。
途中であまり見掛けない制服の人達が同じ方向を向いて歩いているのを見ると、私が試合をするわけじゃないのに妙に緊張してきた。
「亮、大丈夫かな?」
ソワソワしながら会場の応援席に腰掛けると、コートには既に氷帝のレギュラー達が榊先生を囲んで真剣な表情をしていた。
そこには亮の姿も…
「亮…」
ポツリと呟いて亮を見つめた。
『ただいまより、青春学園VS氷帝学園の試合を行います。』
そうアナウンスされると、両チームはコートの前に立って礼をした。
最初の試合はD2。
忍足先輩と向日先輩だ。
天才と言われる忍足先輩とアクロバットな向日先輩なら、きっと大丈夫だよね!
……そう思っていたけど…
「菊丸ビーム!」
「ダンクスマッシュ!」
相手の青学の選手にも、向日先輩のようにアクロバットなテニスをする人がいた。
結果は6-4で氷帝が負けてしまった。
そしていよいよD1。
亮と鳳くんペア…
自然と心臓がドキドキする。
一番緊張してるのは2人なのに。
「亮、頑張って…!」
祈るように亮を見つめると、チラッと亮がこちらを見た気がした。
でも一瞬のことで、すぐに位置についた。
…気のせいだったかな…?
『氷帝!氷帝!氷帝!』
『宍戸く〜ん!鳳く〜ん!』
レギュラー以外の部員や、同じ制服を身に纏ったテニス部のファンたちの掛け声。
私も一緒になって応援出来ればいいのに、それが出来ないでいた。
最初は少し苦戦してた2人だけど、息の合ったダブルスコンビは強かった。
『ゲーム氷帝学園、6-3!』
審判の声が響き渡ると同時に、周りからは歓声が上がった。
「亮…!おめでとう!」
その声は周りの声にかき消されたけど、誰よりも氷帝の1勝を喜んでいる自信があった。
青学との試合は接戦だったけど、結局負けてしまった。
負けたのは悔しいけど、テニスのことはほとんどわからない私でも、どの試合も見応えのあるものだった。
「皆さん、お疲れ様でした!」
帰る準備をしている氷帝レギュラーたちにそう呟いたあと、会場を後にした。
家に帰っても思い出すのは亮のテニスをしてる姿。
「やっぱりカッコよかったな…」
必死にボールを追いかける亮
鳳くんのフォローをする亮
どんなに相手にされなくても、やっぱり私は亮が好きだった。
ピンポーン…
「…?」
まだ家には私しか帰って来てない。
「誰だろ?」
私は階段を降りて玄関に行き、ドアを開けた。
「亮…!」
そこには、さっきまでテニスの試合をしていたはずの亮がいた。
「突然悪ぃ…。今、いいか?」
「良いけど…どうしたの?氷帝の人たちと帰ったんじゃないの?」
「そのはずだったんだけど、俺だけ抜けてきたんだ。」
目線を落としてそう言う亮。
「とりあえず、入って…!」
私は亮を家に入れた。
冷蔵庫から飲み物を出し、亮に差し出す。
「サンキュー…」
さっきからいつもの亮じゃない…
何だか、ソワソワしてる感じ…
「と、とりあえず…大会お疲れ様!」
持ってたグラスを亮のグラスへ向けてカンッと音を鳴らす。
「結果的に負けちまったけどな…」
「でも、亮は勝った!すっごくカッコ良かったよ!」
負ければレギュラー落ちの厳しい世界で、亮は必死に努力してきた。
団体としては負けちゃったけど、接戦だったのは見てた私でもよくわかる。
「そう言ってくれて、ありがとな。」
少しはにかんで私を見る。
「そういえば、私に用があって来たんじゃないの?」
私がそう言うと、亮は背筋を伸ばして私に向き直る。
「あ、あぁ…。…本当は、青学に勝ってから伝えたかったんだけど…」
亮の緊張が私にも伝わってくる。
亮は私に何を言おうとしているの…?
自然と私の心臓がバクバクする。
「俺、名無しさんが好きだ!」
「っ!////////」
あまりにもストレートに伝えられてビックリするけど…亮らしいっちゃあ亮らしい…
「え…亮は私に興味ないのかと…」
「最初はよくわかんなかったんだけどよ…」
なぜ私に好意を抱いたのか、亮が戸惑いながら説明してくれた。
〜鳳side〜
宍戸さんと練習するため、待ち合わせ場所のテニスコートに向かう途中で、偶然にも同じ方向に向かう宍戸さんを見掛け、一緒に向かうことにした。
その途中宍戸さんのケータイが鳴り、ポケットからケータイを取り出した。
どうやらメッセージみたいだ。
悪いとは思いつつ、チラッと宍戸さんのケータイを盗み見る。
『今日遊びに行かない?』
そう書いてあった。
『長太郎とフォーメーション練習する』
それだけ送って、宍戸さんはケータイを無造作にポケットに入れた。
「名無しさんさんですか?」
「…まぁ、そんなとこ。」
短くそう答えて宍戸さんはそれ以上何も言わなかった。
二人でベンチに座って休憩していると、宍戸さんがふとケータイを取り出した。
表情が少し、寂しそうに見えた気がした。
「宍戸さんは、名無しさんさんのこと好きなんですね。」
「なっ…!」
あまりにも突飛すぎた俺の発言に、宍戸さんは狼狽える。
「んなわけねーだろ!…だいたい、何でそうなるんだよ!」
「宍戸さんを見てたらわかりますよ。朝、名無しさんさんからメッセージが来た時、宍戸さん、目が優しかったですよ。」
「気のせいだよ!」
「じゃあ、何でさっきは寂しそうな顔をしたんですか?誘いを断ったあと、名無しさんさんからの返信がなかったからじゃないですか?」
「おまっ…見たのか?!」
「それについては謝ります!…でも、今のままの宍戸さんは見ていられません。…クラスで寂しそうにしてる名無しさんさんも…」
「…………」
珍しく引かない俺に、宍戸さんはどう返して良いのかわからない様子だ。
「2ヵ月近く宍戸さんの近くにいたらわかります。これでも、ダブルスパートナーですから。」
ここまで言って宍戸さんは観念したように大きく溜め息を吐いた。
「正直、この気持ちが好きなのかどうかわかんねぇ。ガキの頃から一緒にいたし。ただ、あいつが話しかけてきたり、メッセージ送ったりして嬉しい気持ちになるなら、長太郎の言う通り、好きなんだと思うぜ。」
「それなら、気持ちを伝えるべきです。彼女もそれを待ってると思いますよ。」
すると宍戸さんは首を横に振った。
「いや…まだだ。関東大会で、青学に勝つまでは…。けじめをつけてからだ…!」
「けじめって…」
宍戸さんらしいな…
宍戸さんがそう言うなら、俺も全力で宍戸さんのダブルスパートナーとして頑張らなきゃ!
俺たちはそれからも練習を続けた。
〜名無しさんside〜
試合には勝ったけど、青学には負けたことで私に気持ちを伝えるのは止めようとした亮に、鳳くんが背中を押したらしい。
亮は、テニスバカだけどとっても不器用だ。
言われないと自分の気持ちに気付かない鈍感だ。
だけど、そんなのもうわかりきっている。
それだけ亮を見てきたから…
「亮とずっと一緒にいたかった…。昔みたいにたくさんお話しして、遊びたかった…。好きって…伝えたかった…。」
嬉しさと同時に涙が込み上げてきて、亮の前なのに大粒の涙をポロポロと溢す。
きっと、みっともないって亮は思ってるんだろうな…
そう考えていると、亮は私を抱き締めた。
「こういう時、どうしていいのかわかんねぇけど…。好きなやつが自分のことで泣いてたら、こうするべきなんだろうな。」
亮の声は落ち着いていて、とても心地が良い。
優しく頭を撫でながら更に続ける。
「名無しさんが今日応援に来てくれた時、名無しさんの、頑張れ。って声が聞こえた気がしたんだ。」
「え…?」
確かに亮がコートに立つ時、私は亮を想いながら、頑張って。と呟いた。
亮がこちらを見た気がしたけど、一瞬のことだったし、気のせいだと思ってた。
「あれだけデカイ声援がある中で、名無しさんの声が聞こえるわけねぇのにな…。なんか、そんな気がしたんだ…」
あ……
亮にちゃんと届いてたんだ…
「そっか…」
私は亮の腕に手を回して、ギュッと抱きついた。
「(今度鳳くんにお礼言わなきゃ。)」
そう思いながら更に強く亮に抱きついた。
END